【推しの子】ヤケクソハッピーハーレムルート   作:ただの暇神

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アイが目覚めてから数日、入院中のアイの元には何人か来客が訪れていた。

壱護もようやく面倒な記者などを巻いてお見舞いに来られるようになっている。

そして今は子供達がアイの様子を見に来ていた。

アイの無事な方の腕にぺったりと抱きついているルビーは少し幼児退行しているらしくバブバブと甘えていた。

それを見てかながドン引きしている中、まるで動揺していないあかねがアイに話しかける。

 

「本当に目が覚めてよかったです」

「あはは、あかねちゃんは大袈裟だなぁ。もう大丈夫。それにありがとね、フライングで救急車手配してたんでしょ?もし何もなかったら怒られてただろうし」

「い、いえ。私が怒られるだけで済むならそれに越したことはないです。あんなに血だらけで、間に合ったのは奇跡だってお医者さんは言っていましたよ」

 

実はアクアが最初に思っていたよりもアイの状態は良くなかった。

全てが噛み合ったからこそ助かったものの、もし何か一つでもピースが欠けていれば怪しかったと言われている。

あかねとかなの話を聞いてアクアは驚いた。

 

「……だからあの時救急車が異常に早かったのか。……なんでアイがそんな話を」

 

アイはアクアの言葉に苦笑する。

夢の中でツクヨミと名乗る変な子供が言っていた事は本当らしいとアイは自分の中にある不思議な記憶が本物だと分かったのだから。

 

「私は現場見られてないからどれくらい悲惨な状態だったかは知らないのよね。ただあのアクアが動揺していた感じ激ヤバだったみたいだし、本当に良かったわ」

 

かなにとってのアクアはドルオタをしている時以外は冷静沈着。

まるで30代の大人のような雰囲気を感じる男の子だ。

そのアクアが年相応の動揺を見せている姿はなかなか印象深い。

 

「かなちゃんも、なんだか人の誘導してくれてたみたいだよね。ありがと」

「べっ別にアイのためにやったわけじゃ……」

 

流石にかなの口の悪さも今日は大人しい。

相手を見て言えるようになったのは進歩と言えるかもしれない。

アクアはこちらも知らなかったので、かなを見て目を見開いていた。

少し固まった後、アクアは自分の中で情報を整理して口を開いた。

 

「あの時あまりにも都合のいい状況が続いたのは気のせいじゃなかったのか。……奇跡じゃなかったんだな。あかね、有馬。二人とも本当にその、ありがとう」

 

アクアはアイのために活動してくれた二人へ改めてお礼を言う。

自分の応急処置が上手くいっただけではかなり危なかったとアクアは思っていた。

それをしっかりアイの怪我に対処できたのは彼女たちの見えないフォローがあってこそだと理解したから。

 

「私にとってもアイさんは大事な人だもん。できることをしようって思うのは当たり前だよ」

「言ったでしょ、アイには世話になってるって。別にあんたのためじゃなくてアイのためなんだからあんたの礼なんていらないわよ」

 

二人も何てことはないと言いたげであり、それをアクアは嬉しく思った。少し照れ臭さを感じて頬を掻いて目線を逸らす。

 

((私の息子(おにいちゃん)がかわいすぎる!))

 

そんなアクアを見て同じ内心をするほどに親子は今日も息ぴったりだ。

 

「そういえばアクア。今日五反田監督のところに行くんだよね?」

「ん?そうだけどどうしたの」

 

今日はお互い時間が空けられるということで、久しぶりに脚本の指導を受けることになっているアクア。

アイの無事とアイの目覚めについてはアクアから連絡していたものの、直接会うのは久しぶりだった。

 

『最近のお前は高いから使い所選ぶんだよ。ったくニョキニョキ伸びやがって』

 

散々安い頃にコキ使って、今も脚本関連の指導の分以上に値引きを受けている男とは思えない発言である。

とはいえ予算の限られた五反田監督が使用頻度が減っただけで今でも使ってくれるのをアクアはありがたく思っていた。

 

「私が刺された直後に話していた映画のことなんだけど」

「ん?……ああ、確かにそんな話してたな。バタバタしすぎて忘れてた」

 

あの時の話をすると血を流すアイを思い出してアクアは気分が悪くなる。

だからあまり考えないようにしていた。

 

「あれさ、やっぱなしで!って監督に言っといて」

「……は?」

 

あの時のアイの言葉をアクアは思い出していく。

確かスケジュールが本決まりになっていたのに自分が死ぬからというニュアンスで謝って欲しいと言われたはずだ。

アイが生き残った今、それが通じるか?とアクアは首を傾げる。

 

「それいくら監督でも怒らないか?」

 

怒るどころか人によっては絶縁モノである。

流石に何の理由もなしにできないだろう。

 

「うん、だからアクアがお願いして欲しいなってダメ?」

「……理由をメモでいいから書いて渡してくれ。一応話だけはするから」

「ありがとアクア!今から書くね、あと監督に渡す手紙も書くからそっちはアクアも見ちゃダメだよ」

 

アイのお願いに弱いアクアはあっさりと屈してダメ元で話をすることに決める。

それを見ていたかなとあかねは呆れた目をアクアへと向ける。

 

(ママの上目遣いマジヤバ!ちょーかわいい!いくらお兄ちゃんでもイチコロだよね。……やっぱりママが一番の強敵なのかな?せんせ普通に最後の方はハマってたもんね)

 

推しと推しの間で悩むルビーは今日も楽しく生きている。

 

アクアが監督の元へ移動する時間となり、子供組はついでにとミヤコが拾ったことで部屋からいなくなる。

先ほどまでの騒がしさから一転して部屋の中は静かだった。

 

「うーん思ったより暇というか寂しいなぁ。前は一人でも平気だったんだけど」

 

一人になった病室は広く、虚しくその声も反響するだけで何の返事も返ってこない。

腕以外は怪我らしい怪我もなく、そう遠くないうちに退院できると言われてはいるものの、やはり家に帰れば双子がいる生活に慣れていたアイにこの入院暮らしは辛いものがあった。

家族のいる賑やかさと楽しさ、そして愛おしさを覚えてしまったが故に孤独を辛く感じている。

そんな時、部屋の扉がノックされた。

特に面会予定は聞いていなかったようなと思いつつも話し相手になってくれればいいと許可を出す。

 

「ん?誰だろ……。はーいどうぞ」

「……アイ」

 

そこにはアイが全く想像していなかった人物がいた。

お忍び用のサングラスを外した彼女の顔を見たアイは確認をする。

 

「え?……っときゅんぱん?」

 

ニノ達初期メンバーではなく、アイと一緒に曲を作ったこともあるきゅんぱん。

アイが歌詞を考えてそれにきゅんぱんが曲を付ける。最後はプロの人にアレンジして貰ったものの、二人の合作なのは間違いない。

メンバーカラーは黄色であり、歌が上手いと評判の女の子だ。

アイとしても今一番B小町の中で仲がいいとしたら彼女だろうと思っており、以前雑誌の質問で回答をしている。

ただ名前を完全に覚えるほどではなく、なんとか思い出すことができたくらいの間柄。

それほどにB小町内のアイに関する人間関係が希薄だったとも言えるかもしれない。

 

「よっ……よかった」

 

アイが元気そうにしているのを見た彼女の目には少しうるむ。

そんな彼女を見た時、アイの心は動いていた。

昔一度学校の友人のように話をして、それからは日常の会話くらいしかしてこなかった相手。

でもあの日の夜は本当に楽しかった。今のアイにはそれがよく理解できる。

 

「わぁ、ふふっ。そんなに私に感情を見せてくるなんてあの時以来だね。また彼氏に振られちゃった?」

 

以前話をした時は彼氏に振られた愚痴で始まり、アイへ期待通りの反応を求めて溜めていたもの全てを吐き出していた。

そんな彼女は今、色眼鏡なしでアイへと話しかけている。

 

「うるさいよ。年下のくせに生意気だよね。アイが生きてて良かったって気持ちを提供しに来たのに」

 

そんな返しにアイはくすくすと笑う。

アイの年相応、いや幼いとも言える笑顔を見てきゅんぱんは目を見開く。

同じ人らしい笑みを浮かべるアイは普段の彼女よりもずっと魅力的にきゅんぱんから見えた。

彼女はライブ後にニノが言っていた言葉を思い出す。

 

「ニノが言ってた通り……本当に変わったんだね、アイ」

 

散々愚痴を言った後、本音をアイはきゅんぱんへと見せてくれていた。

結局あの瞬間だけ、彼女は星野アイという存在の本物の姿を見ていたのだろう。

それを今の彼女は嬉しく思っていた。

 

「そうかな?うん……そうかもね」

 

愛がどんなものかようやく分かったアイはこれまでの自分の感情、それらにある程度整理がついていた。

自分なりの結論を出すことで、今生きる活力が湧いている。

だから素直に自分の変化を認めることができたのだ。

 

「内心が変わったというより前より気持ちを出してくれるというか……普通の女の子って感じがする」

 

きっとアイのことをずっとフィルターを掛けてしか見られていなかったのだと今ようやくきゅんぱんは理解した。

あの日、弱音を吐いて歌詞を作ってくれと言われたら恥ずかしがって理解できないことに悩んでいた彼女が、ようやく人間に見えたそんな気がした。

 

「……私は嘘つきだから。前にそう言ったと思うけど」

「うん」

 

その頃はアイは凄いから、人とは違うからそんな表現をしていると彼女は思っていた。

でも今は彼女が本音で語っているのがわかる。

アイが刺されたら死ぬかもしれない普通の人間なんて当たり前の事実を目の当たりにしてようやく彼女を人間として認識したから。

 

「本当はこんな話するのも怖いんだ〜。本当の私は誰にも好かれるはずなんてなくて完璧をみんなが求めているのに弱くて」

「ごめん……ごめんねアイちゃん。私は……あの後、選択を間違えたんだ」

 

あの時、きっときゅんぱんにはアイを一人にしない。絶対のエースにしないようにできる選択肢があったのだ。

あのアイが持ってきた『作詞ノート』を見て、それを渡そうとする時の不安そうなアイを見て味方になってあげることができたはずだと思ってしまった。

当時まだ幼かった彼女のことを思って申し訳なさが表に出る。

そんな彼女の表情を見てかアイがあの時の話をする。

 

「『嘘つきな私』、あの曲今でも私好きなんだ」

「……私も。たまに口ずさんじゃう。そんなに人気のある曲じゃないんだけどね」

「私が治ったら一緒に歌ってくれる?」

「どうだろう。私そろそろアイドルきついんだよね」

 

二人して笑い合う。あの日と同じように。

特に話をしてきた仲でもないが、それでもこれからは違う。

そんな予感を感じさせるには十分な時間だった。

意外と話題が続き、30分ほど二人で話をしているときゅんぱんのスマホに着信が来る。

 

「壱護さんどうしって時間!ごめんアイ、私そろそろ撮影行かないと」

「急がないと佐藤さん面倒臭いからね〜頑張って」

「社長の名前斉藤だけどね。……またねアイ」

 

最後は笑顔で二人は別れる。こうしてまた病室でアイは一人になる。

でも先ほどまでより気分が良かった。

 

(あの子達だけじゃないんだ。心配、してくれたんだね)

 

自分が産んだ子供達以外にも自分が誰かの中に残っていた。

一度希薄になってしまった関係性でも、しっかりとアイのことを思って涙してくれた。

それがアイにとっては嬉しかった。

 

またしばらくしてコンコンと扉を叩く音がする。

今日は来客が多いなと思いながらアイは返事をした。

 

「はーいどうぞ〜」

「……」

 

がらりと扉が開いて来たのは金髪で長身の女性だった。

ゆったりとした服を着ており、体のラインはよくわからない。

誰だろうとアイが不思議に思ったところで彼女が口を開く。

 

「面と向かって会うのは久しぶりだね、アイ」

「あーなるほどねぇ。ふふっそうだねヒカル」

 

少しハスキーな声を聞いてアイは思わず笑いそうになりながらも答えた。

ここまでガチガチにスキャンダル配慮をしてまで会いに来るなんて思ってもいなかったなとアイは驚いていた。

 

「ふふっどうしたのわざわざお見舞いなんて」

「僕が君を心配したら変かな?」

 

そんなヒカルの言葉に少し嬉しく思うアイだが、前は会うのすら嫌で拒否してたのに気が変わったのかなと不思議にも感じていた。

 

「うーん、はっきり言うね。変!」

「ふふっそうか……。まぁいいよ。僕がしたかったからした。僕の自己満足だ」

 

面と向かって話して分かるのは表情の柔らかさだろう。

以前からそう見せるのは上手かったが、アイならその嘘を見抜くことができる。

今の彼に嘘はない。それがアイの出した結論だった。

 

「でもタイミング悪いよ……朝ならアクアだけじゃなくてルビーもいたのに」

「ルビー?……ああ、もう一人の」

「そっ、本当可愛いんだよ。毎日が楽しそうできっと最高のアイドルになれる子。私みたいな嘘つきじゃなくて、きっと世界中を照らせる子。成長するのが今から楽しみだなぁ」

 

嬉しそうに将来を語るアイを見て彼女の命があることを実感していく。

 

「それは良かった。きっとルビーは君に似て可愛いんだろうね」

「……そっそうかな。そうだよね、遺伝子って本当凄いんだから」

 

アイの心臓がとくりと鳴る。

 

(私"たち"に囚われなくなっていい出会いがあったのかな。あの頃よりいい表情してる。寂しいけど、やっぱりアレで良かったんだよね)

 

以前のヒカルならもっと作り物の言葉を送っただろう。

それを分かっているアイは安堵と僅かな寂しさを感じた。

誰かとの出会いが彼をいい方向に変えている。勿論それ自体は喜ばしいことだ。

いつかヒカルが芸能界の闇に囚われない日が来ることを願っていたのだから。

それが自分ではできなかった事が少しだけ心に引っかかった。

 

アイとヒカルは旧知の中で元とはいえ恋人だった仲だ。

久しぶりの再会とはいえ、相性も良く会話も弾む。

アイの仕事の話、ヒカルの仕事の話、アイの子育ての話、ヒカルの大学の話。話す内容自体は離れていた期間が長くて困らない。

前回電話で話をした時は子供達に会うかどうかが主軸だったのも大きいだろう。

お互いの知らない話を共有して、しばらく会っていない空白を埋めあった。

ただ時間は有限で、終わりも訪れる。

 

「そろそろ時間だ。君と久しぶりに話せて楽しかったよ」

「うん……そうだね、私も楽しかったかな。それにしても本当にあの子達に会わなくていいの?本当見るだけで元気もらえるしめちゃくちゃ可愛いんだよ?アクアとは共演すれば会えるだろうけどルビーは」

 

まずルビーに相応しいメンバーを用意すると意気込んでいる苺プロのメンバー。

既に才能を開花し始めたルビーの輝きは一種の猛毒だ。

アイが長らくメンバーと和解できなかったように、亀裂を作りかねない。

アクアが何か計画をしているらしいとアイは知っているものの、どんな作戦なのかは気にしたことがなかった。

同学年か近い年齢が長く一緒に活動できるが、ただ小学生の時点でメンバーを集めるのは博打だ。

小学生は成長によって顔の変化が大きい時期でもある。見分けるのは難しい。

ルビーがアイドルになるまではいろいろな条件を考慮して中学生後半から高校生近くになると言われている。

その間、彼女が別の仕事をするかはまだ未定だが、テレビにはあまり出るつもりはなかった。

 

「そうだね、彼女がアイドルになるとしたら10年後くらいだろう。その頃には僕も俳優は辞めている予定だから会えないかな」

 

少し寂しそうにヒカルは言った。

その中に気になる言葉があったアイは問い返す。

 

「え!ヒカル役者やめるの!?大学行って他に見つかったとか?」

「芸能事務所でも立ち上げようと思っててね。そうだな……アクアが3年生あたりまでが限界だろうし、あと5年かな」

「アクアが3年生?」

 

ヒカルの言葉に不思議そうにアイは返すが、ヒカルは何でもないよと首を横に振るのだった。

10歳ほどになればある程度顔立ちが親に近づく子供も多い。

もし同じ画面内にアクアとヒカルがいれば、アクアについて邪推をしてしまう人も現れるだろう。

そうなれば苺プロの社長夫妻やアイ、アクアに迷惑がかかる。

まだアイとルビーは髪色が異なることから気づかれる事はないだろうが、アクアの場合は顔立ちがヒカルに似ていた場合は怪しまれても仕方がないと思っていた。

 

(元々そこまで演技に興味があるわけじゃないし、支え方は色々あるからね)

 

最近多少楽しくなったとはいえ、元はそんな自分が好きじゃなかったヒカルにとってそこまで拘るものでもないというのもこの判断をした一因だ。

 

「じゃあ、またね。君が助かって僕も嬉しかったよ」

「そう……なんだ。うん、私も来てくれて嬉しかった」

 

久しぶりの逢瀬は特にドラマチックなこともなく、だが互いに不幸になることなく終わりを迎える。

アイは三度部屋に一人残された。

 

「電話の時も思ったけど元気になってて本当に良かったなぁ。もう変な女の子に捕まっちゃダメだよヒカル」

 

アイが今日の賑やかな来客を振り返れば朝からアクア達が来て、昼にはきゅんぱんが、夕方にはヒカルがそれぞれやって来た。

普段なら同日に会わなさそうな組み合わせと話をしてアイは満足だった。

 

「本当分かっちゃえば世界ってこんなに愛に満ちてたんだな〜って。私は何にも分かってなかった」

 

みんなに好かれるいい子なアイを目指したはずなのに、結局みんなを傷つけてしまったアイ。

そんな自分を思い出し、せっかく明るい気持ちになったのに気持ちが暗くなる。

 

「……ブログ見ようかな」

 

アイがドームライブ前に書いた思いの丈を綴った文章。

きゅんぱんが来たのはこれを見たからではない。彼女は初期メンバーではないため、アクセス資格を持たない。

それでも彼女は今日、ここに来た。

そんな奇跡が起きたからか、アイは誰か自分のようにブログを編集していないか、まだ何かを期待してしまう。

お気に入りから手慣れた手つきで『45510』を入力してブログの編集ページへと移動する。

 

「あれ?」

 

アイの記憶だとそこにはアイが先日書いた非公開記事だけがあるはずだった。

それの上にもう一つ、新しい非公開記事があるのを目にする。

アイがこのブログに訪れるようになってから初めてのことだった。

 

「……怖い……怖いけど見なきゃ」

 

きっとこの記事を書いた人はアイの記事を見ている。

高峯なのか、渡辺なのか、ニノなのか。

彼女達が完璧じゃない彼女を見てしまった時、どんな反応をするのかが怖かった。

震える手を何とか抑えてページを開く。

 

『アイへ』

 

ブログはその文字から始まっていた。

間違いなく彼女宛ての手紙、それを確認してからアイは手紙を読んで行った。

 

―――――――

アイへ

あなたの記事を読んだ。これでもかと思いだけが書き連ねられて驚いたよ。

私も……全部、自分の心を全部書く。

醜くて汚くて、でも隠してない自分勝手な本心を。

だからもし読むのが辛くなったらいつでも辞めていい。

覚悟ができたら下にスクロールして。

―――――――

 

アイにはまだこの文章を誰が書いたか分からない。

分かるほど最近の彼女達と交流がなかったからだ。

きっとここからは剥き出しの思いが、憎悪がある。

 

「……私も前に進まないと」

 

子供達は常に前を進んでいる。

きゅんぱんはアイの認識を変え、関係を更新した。

ヒカルもアイや愛梨の呪縛を解いて新しい自分を目指している。

アイも変わりたい、そう思った。

 

「ふぅ……よし!」

 

気合を入れてスクロールを始める。

そこには彼女の想いが赤裸々に書かれていた。

 

―――――――

ここまで下げたってことは覚悟したんだよね。

初めて会った時、こんな綺麗な子、可愛い子が実在するんだと驚いたよ。

私より少し年下だったけど、それでも仲良くしたいそう本気で思ってた。

アイが保護者の事情で加入が遅れたから三ヶ月、私たちだけで活動始めてさ。

ある程度人気も出たからあなたが入っても負けないぞ!助けてあげるぞ!なんて思い上がったことも考えてた。

でもアイの才能は凄くてさあっという間に一番人気になって。

私のファンもほとんどアイファンになっちゃって。

はっきり言ってめちゃくちゃ嫉妬した。

それはアイも知ってる話だよね。

死んじゃえばいいのにとまで言ったこと一回や二回じゃない。

―――――――

 

「あったなぁ」

 

ここで彼女は誰がこの記事を書いたのか見当がついた。

ドーム後にも言われたが、昔言われた時はもっと辛かったのをアイは今でも覚えている。

アイは一度画面を切り替えてから写真を見る。

アイとアクアとルビーそれにきゅんぱんとありぴゃんにミヤコが写っている。

これは初めてアクア達がライブを見てヲタ芸を披露した時に撮影したものだ。

以前アイがお願いして撮ってもらったもの。

アイは勇気を復活させて続きを読むことにした。

きっとアイが先に進むためには見るべきものだと思うから。

 

―――――――

あれは本心から言ってたよ。

でも身勝手だけど友達だと思っていたい私もいて、私のせいなのに仲直りしたいなんて気持ちもあって。

友達なのに嫉妬しちゃって、友達なのに憧れちゃってずっと苦しくて。

それなのにあなたは気にしてないような目を向けて……。

あなたの方がずっと辛かったに決まっているのに自分のことしか考えてなかった。

―――――――

 

「そんな事思ってたんだ。全然わかんなかったなぁ。……まだ私のこと友達だと思って……くれてたんだ」

 

どこにでもいる普通の女の子、あれだけの対立があってなお、どこかで彼女と仲良くしたいと思っていたアイはそれまでわからなかった彼女の本心を知る。

 

―――――――

ドームの日、アイが刺されたって聞いてしかも良介君が犯人で。こんなの私のせいだって。

アイがレッスン中に何度か体調おかしかったことがあったでしょ?

あれ私も覚えがあって……すぐ悪阻だって気付いた。

私がアイが妊娠しているかもって話をしてから彼はおかしくなってしまった。

私よりアイを推すようになるし、それで余計に私もアイを恨んで。逆恨みだって分かってたのに。

私があなたも彼も狂わせた。……謝って済むことじゃないのは分かってる。本当にごめんなさい。

―――――――

 

「……ニノだったんだ。でも、うん。これはちょっと分かるかも」

 

アイは愛が分からなかった。分かる人を羨ましく思っていた。

そこからもニノの複雑な思いは連ねられている。

長い思いの丈、その最後にはこう書かれていた。

 

―――――――

こんな私でももし許してくれるなら本当に身勝手なのは分かってる。

そんな資格がないのも分かってる。

だけどもしアイが認めてくれるなら

おい、アイのバカ野郎って言わせてほしい。

でも少しだけ時間をください。

もし許してくれるならこのブログに週に一度、お互いの思いを書いてお互いで読んでよく知りたい。

本当はどう思っていたとか、今日はこんなことがあったよとか。

もしダメならこのページのことは削除して忘れて欲しい。

私も都合のいい私のことは忘れて、それでもあなたにこれ以上酷いことはしないと誓うから。

 

PS

こんな古臭いホームページを更新しても普通誰も気が付かないよ。

本当に気付いて欲しかったらもう少し分かりやすいところに書いてほしい。どれだけ面倒臭いの。

 

―――――――

 

「……そんなの記事を書いた時から気持ちは決まっているのに」

 

結局、アイは愛を知らなかったのではなく、理解できていなかっただけで、愛を持っていた。

友愛もその形の一つで、あの頃の思い出を捨てずにいたからこそ、この結果があるのかもしれない。

この日からアイは日課が一つ増えることになる。

その時はスマホを見ながら子供達を見る時に近い幸せな表情を浮かべるのだった。

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