様々な話題を呼んだB小町のラストライブ。
そこで公開されたB小町最後の曲『アイドル』はそのクオリティ、話題性がとんでもないメガヒットを呼ぶことになった。
「うわぁ、見なさいよこれ。オリコンランキング1位また『アイドル』よ?とんでもない爆弾残して行ったわねあの人たち」
「もうこれで二ヶ月か?まぁ中毒性あるからリピートする気持ちもわかる」
かなはスマホで表示したオリコンランキングをアクアへと見せてくる。
当初この曲を聴いたアクアは歌詞の内容に衝撃が強すぎて、曲の良し悪しより、本当に大丈夫なのかの心配が実は勝っていた。
ただ時間が経つにつれ、曲自体の良さも分かるようになり、毎日一回は堪能するようになってきている。
「考察勢もすごいらしいよ。この歌詞の解釈をどこまで広げるかって毎日インターネットで話題になっているみたい。どこまでが本当の歌なのかそれとも全て虚構なのか考察するのも面白いよね」
まさに自分も考察勢の一人なため、毎日新解釈がないかを調べているあかねは楽しそうに話に乗る。
「ただの歌なのにそんなに考察する意味ある?まぁネットって陰謀論とか好きだものね」
ただそんなあかねの言葉に対して、かなは軽い感じに返した。
かなのいう通り裏の意図を全く知らなければ、ただ誰もの印象に残る凄い曲でしかない。
アクアたちのようにその裏を考えるなど難しいだろう。
かなのその返事に対してあかねは少し悩んだ様子を見せた後、アクアとルビーへと視線を一瞬送る。
ただ首を振ってからあかねは言葉を答える。
「それはそうかも。ただ作詞もB小町みんなでやったみたいだからどういう意図で作り上げられたか私としては気になるかな」
「そうね、私としては歌詞割にも意図を込めていたのかも気になるところ」
そんなあかねの言葉を聞いて横でコンビニスイーツを黙々と食べていたフリルも口の周りに少しブルーベリーソースをつけたまま会話に入ってきた。
「意図?」
「ニノさんとかイメージとは大きく異なるパートを完全に歌いきってたよね。これまでのニノさんのイメージから離れるような暗いパートを作ったからこそ曲全体の明るい感じが際立ってて良かった。だけどどうしてあのパートをニノさんがやったのかとか気にできるポイントは多い。もう一回ライブしてくれないかな」
「フリルちゃんは意外と論理派だよね。……でもあの曲をライブで歌えるのは一回だけだと思うよ。どんなに頑張ってもあのライブでの歌を超えられないと思う」
CDの売り上げもいいのだが、何より見られているのが最終ライブでの『アイドル』のライブシーンをフルで流す公式動画だ。
特にコメントが流れるタイプのサイトに公開されたものについてはコメント有りにしているとコメントで埋まってライブ映像が一切見えない状態になるくらいに人気がある。
最後の一回と決まっていたからこそ、全力をあの瞬間に込められたのではないかとあかねは考えていた。
「にしても、アイドルって凄いのね。あっ歌のじゃなくて職業の」
「どうしたんだ今更」
みんなで『アイドル』について語っていた最中、かなはどこか悔しそうにそんな言葉を口にした。
アイドル業をメインに据える苺プロで何を言ってるんだという顔をするアクアだが、その様子が気になって問いかける。
「私もそれなりに曲とか歌ってたけどさ結局のところネタ寄りの『ピーマン体操』以外ろくに売れなかったわけじゃない?」
「珍しいな、有馬が自分からあの曲の話をするなんて」
「まぁたまにはね……」
普段のかなであれば名前を聞くだけで、話題にした相手と抗戦状態になる程に拒絶反応の出る例の曲。
あの名前をかなが自分から出すのをアクアは初めて見た程で、その珍しさから彼女が何を考えているか予想しながら話を聞く。
「勿論『アイドル』が特別ヒットしてるのはそうなんだけど、これまでも『サインはB』とかヒットさせてるわけで、私と違って一発屋じゃないわけでしょ?」
B小町の曲はそれなりのヒット曲も多く、復帰した際にはレストランなどで流れることも多かった。
今は『アイドル』一色になっているが、それはこのヒット具合を考えれば仕方がない事だろう。
かなの場合、移籍までにかなりの数、曲を出したものの、結局ピーマン体操以外は赤字もいいところだった。
「結局歌でやっていくにはそれなりの才能がいるのかな〜ってそんな事も知らずに頑張れば何とかなるって努力していたあの時間の虚無っぷりを悲しんでるのよ」
かなは自分がやってきた練習の数々を思い出す。
あれだけ頑張って正直音痴と言われていた歌をそれなりのものにした。
でもどれだけ上手くなっても有馬かなの曲に客など付かなかった。
実のところ一番下手な『ピーマン体操』がぶっちぎりの売れ行きだったのは、かなにとってかなりショックだったのだ。
そんなどこか羨ましそうなかなの様子を見てアクアは思ったことを口にする。
「なぁ、有馬。アイドルやってみないか?」
「……え?は?アンタ今の話聞いてた?私の歌に人を呼ぶ才能はないの」
かなは突然のアクアの提案に目を丸くして少し唖然とした後、言葉の意味を正確に理解してイラっとして聞き返す。
人が感傷に浸っている時くらい邪魔をしないで欲しいという思いから出た言葉だった。
そこにルビーが割り込んでくる。
「ロリ……ううん、かな先輩!私とアイドルやりませんか!」
「この期に及んでロリって言おうとしたことには、この際目を瞑ってあげるけど……。このシスコンが私にアイドルやらせようとしてきたのはアンタの差金ね?妹に頼まれたからってなんでも言うこと聞いてたら性格私みたいに捻じ曲がるわよ?」
ジト目をアクアへと向けながら真犯人を突き止めたと言いたげなかなだが、アクアの答えは違った。
「いや、このアホが元々有馬のこと誘いたがっていたのは知ってたが、今回お前を誘ったのは俺の意思だ」
「アホ!?おにいちゃん酷いよ!罰として人間カイロの刑なんだから」
元から隣を陣取っていたが、完全にひっつき虫になったルビーは本気で酷いと思っているようには見えない。
そんな彼女に呆れたような視線を向けながらも、かなはアクアにその意図を尋ねた。
「……へぇ。どういうつもりかだけ聞いてあげるわ」
あの日、かなの母に対して本気でかなのために必死になったのを見たからこそ、妹のためだけに適当な理由で言わないと知っている。
あの日からアクアの言葉の裏にある優しさをずっと意識してしまっているかなはどんな意見なのかとドキドキしながら尋ねた。
「元々かなり前からルビーのアイドルグループ、そのメンバーとして有馬とあかねは声を掛ける候補にピックアップしてたんだが」
「えぇ!?私も候補だったの!?」
横からあかねがビックリして声を上げる。
かなの話をしていたところに流れ弾が来たのだから驚くのも無理はなかった。
それに対してアクアは頷きながら続きを話していく。
「ああ、だけど二人ともアイドルになりたいって感じじゃなかったから声をこれまでかけなかった」
「そうね、正直私自身アイドルになりたいって思ったことはなかったわ。それで?今更声掛けたのはどうしてよ」
そう、かなが知りたいのはそこだ。
アクアは元々人のバーターになるために演技を始めたような男だ。
だが、今のアクアは様々な経験を通して演技の楽しさに目覚めて真摯に取り組んでいる。
かなが演技に真剣に取り組んでいるのを知っており、黒歴史である音楽路線のことも把握しているアクアがわざわざ言うならば何かしら理由があると考えていた。
「俺もさっきまでは言うつもりなかったよ。ルビーはタイミングを計ってたみたいだけどな」
「あっおにいちゃん内緒だよ内緒」
シーッ!シーッ!と口元に手を当ててジェスチャーするルビーを見てかなはため息を吐く。
「は〜、だから最近妙にソワソワしてたのね」
「いや、だって勿体無いじゃん!あんなに練習して歌上手くなってたのにさ〜。あそこまで上手くなるのが並大抵の努力じゃないって私はわかるから」
かな達を誘おうと決めてからルビーは有馬かなとして出している曲は全て時系列に沿って聞いている。
だからこそ少しずつ上手くなっているのが分かった。
ルビーは自分が散々レッスンを受けて技術を向上させたからこそ、その大変さが分かっている。
彼女自身まだ未デビューなものの、元の歌は音痴と呼ぶのも生温い酷さだったのだから。
活かさないと勿体ないと言いたかったわけだ。
「別に勿体なくなんかないわよ、損切りって言葉知ってる?これ以上追っても得るものがないんだからさっさと諦めた方がいいのよ」
かなは自分の考えを口にする。
自分がこれまで使った時間は無駄になるが、これ以上何もないなら歌など練習したくないという思いが表れていた。
「話が逸れたわね。結局アクアはなんで私にアイドルを勧めてきたわけ?」
「まぁいくつか理由はある。まず一つは新しい演技の方向性を開拓することに繋がるからだ。これはゆらさんを見てて思ったことだけど、アイドルって特殊な仕事だから経験が演技に繋がりやすい」
最近のゆらはアイドル活動も演技もどちらも調子がいい。
アイドルと役者のどちらも本気で取り組むことで自信をつけ、自分なりの輝き方が分かったのが理由だと本人は分析しているらしい。
アクアだって自分の特殊な人生が演技に繋がるのを何度も感じてきた。経験とはそれほど大事な物なのである。
「確かに最近のゆらさん凄いわよね。そこのドルオタもドームで語ってたけど」
「うん、ゆらちゃん今度ついに主演も獲得したらしいからね〜」
「……それは羨ましいわね」
ルビーの言葉を聞いてかなは素直な気持ちを口に出した。
かなは美玲役で評判を戻したとはいえ、もうすぐ小学5年生。子役としては使いづらい年齢が近づいている。
美玲役で一花咲かせてから時間も経って、また少しずつ仕事量は落ち着きを見せていた。
正確には明るい子供の演技はよく来る。ただそれ以外の演技は全くと言っていいほど来なかった。
「二つ目がイメージの一新だ。有馬は天才子役って印象が強いが特に印象に残っているのは……フリル、お前が有馬と言われて思い浮かべるの『10秒で泣ける天才子役』と『天真爛漫な子供』この二つだろ?」
「そうね、私もパッとかなのことをイメージしようとするとその二つが出てくるわ」
アクアはあえてフリルに視線を合わせて尋ねるとそれにフリルは答えてくれた。
あかねだと厄介オタクで贔屓目が入る可能性があり、ルビーも長年見た経験が曇らせる。
この中で唯一かなに対してフラットな視点を持てるとすれば彼女だろう。
「フリルが言うなら世間もそうでしょうね。ただ最近は泣き演技もかなり数を減らしてるわ。ほとんど私に来るのは明るくて天真爛漫な女の子ね」
アクアはそうだろうなと思いながら頷く。
売れてる時は色々な演技に挑戦できるが、この人はこういうキャラクターだ。
そう一度認識されてしまうと同じ役ばかりに固定されがちだ。
たまに刑事物のドラマなどでこの人が出てるから脇役だけど犯人だろうなと思われてしまうような事もあるという。
「結局役者ってイメージで選ばれる事が多い。美玲役が当たったからその系統の仕事が増えているわけだ。これは勿論いいことだが……美玲のような役って子供である必要があるんだよ」
今の有馬かなは子役、つまり子供としてのイメージが強すぎる。
これはアクアやあかねにも言えることだ。
どこかで一度別の印象を与えてリセットしてやらないと大人になっての活躍が難しい。
かなは黒川家に住むようになってからこれまでより演技が良くなったとアクアは思っている。
だが、仕事量は増えていかないのはその辺りが原因だと考えていた。
「なるほどね……アイドルをやることで少なくともそのくらい大きくなったって印象付けるわけ……。アイドルって流石に小学生の子はほとんどいないものね」
勿論アイのような例外もいることにはいるが、小学生がアイドルとして活動することは珍しいので、アクアの言い分はそこまでおかしなものでもない。
どれだけ演技力を身につけても、イメージという名のレッテルは良くも悪くも役者を色眼鏡で見てしまうだろう。
かなは自分の将来を考えて少し悩み、結論を出した。
「納得はしたわ、でもやっぱり無理よ」
「えぇ!?どうして!かな先輩歌上手いし行けるって」
「気楽そうにいうけどね、少なくとも歌を歌う有馬かなに客がついてないのは私が一番よく知ってんのよ」
冷静に事実を淡々と語っていくかな。
関係者の売上を見た後の冷めた視線。
少しでも箱が埋まっているように見せるためにサクラをする関係者。
苺プロに拾われず、美玲役が当たらなければ今も続いただろうあの日々を想像するだけで心労が襲ってくる。
「少なくともここに一人はそんな有馬かなでも好きなファンがいるぞ」
「えっもしかして」
期待を込めてアクアへ視線を向けるかな。
そのアクアがどこか指を差しているのが見えた。
「……って黒川あかねのことかい!」
アクアの指差す先にいたのはあかねである。
確かにかなの1番のファンは誰かと聞かれると彼女だろうとかなは思ったものの私の期待を返してほしいと思う。
「いや、こいつ私が音楽路線にいく事散々揶揄ってたじゃない!こんな面倒くさい厄介オタクですら有馬かなの音楽路線に否定的なのよ?結果は火を見るより明らかね」
昔散々口喧嘩をするたびに音楽のことで揶揄われているかなはそう口にする。
だが、それはあかねのファンとしての一つの側面でしかない。
「でも毎回発売日にCD買ってたぞ?ピーマン体操の時も俺たちまで駆り出して数量限定のCD複数買ってたし」
「……そういえば祭壇作るとか言って部屋に本当に作ってたけどCD何枚もあったわね」
「わぁ!アクアくん変なこと言わないでよ」
顔を真っ赤にしているあかねをこれまでの蓄積された鬱憤を晴らすかのようにあかねを揶揄う。
「あれ全部発売日に買ってたの?ほんと私のこと大好きね〜アンタ、ツンデレって奴?折角だし今日一緒のベッドで寝てあげよっか〜?」
「うぅ〜かなちゃんのイジワル」
満面の笑みであかねのことを揶揄う姿はいつか姉を名乗っていたのも相まって仲の良い姉妹のようだとアクアは思う。
「美少女二人の辱め合い……本当目の保養になる」
「いや、流石に撮ってやるなよ」
「マリンにもあとで送ってあげるね」
そんな二人のやりとりをスマホで撮影していたフリルは笑顔でそんなことを言っていた。
後日本当に送られて来て、アクアは反応に困ることになる。
ひとしきりあかねを揶揄い終わって、これまでの鬱憤を晴らしたところで、かなは改めてアクアへと向き直る。
「あー楽しかった〜。まっ私に厄介オタがいたのは改めて理解したわ。今なら気分がいいから何か後一押しあったらアイドルやる気になるかもよ〜」
本当はそんなつもりなどないが、アクアから面白い話を引き出せないかと思い、かなはそんな言葉を口にする。
今聞いたメリットだけなら正直な話やらない理由はかなにない。
デメリットも勿論いくつか浮かぶが、今の状況を打開するという意味では非常に効果的な提案に思えていた。
だが、それでもやりたくないという気持ちが強い。
それは非常に個人的な気持ちだった。
ただ、ここから流れを変えるのはアクアの次の言葉だった。
「有馬、見返してやりたくないか?」
「は?」
突然そんな事を言うアクアを怪訝そうにかなは見る。
どこからそんな言葉が出てきたんだろうと考えている間にアクアは言葉を続けた。
「有馬は散々努力してトラウマになるくらい歌路線失敗した事を気にしてるのに期待外れって反応だけして放置した奴らをだよ」
アクアは有馬かなという人間が負けず嫌いなのを知っている。
それは過去散々アクアに対する対応から推測できていた。
だから本人なりに負けを認めるまでに葛藤があったのだろうとアクアは思っている。
「アイドルを本気でやって、それで有馬かなはこういう路線もできた。プロデュースの仕方に問題があったって突きつけてやった方がなんか気分良くないか?」
そんな子供のような事を口にするアクアにぽかんとしたかなはその意味を少しずつ理解していき、思わず吹き出した。
「ぷっあははははは、アンタ意外と子供っぽいって言うか昔から熱くなることあるわよね。そっか〜アンタは私が過小評価されてるみたいで悔しいんだ〜」
「うるせぇ」
アクアも本当にかながアイドルをやりたくないだけならこんな言葉を言わなかった。
かながB小町の成功を羨ましそうに、どこか悔しそうにしていたように見えたからこそ、アクアもやる気にさせようとしたわけだ。
「ちなみに……アンタは私がルビーの横にいても霞まないって言い切れる?」
「少なくとも俺はルビーやフリルと並んだって有馬はアイドルでやっていけると思ってる」
アクアは嘘をついているつもりはない。
そもそもそうでないならば、彼女を最初から候補になど入れていなかった。
それを聞いた彼女は自然と笑みを浮かべる。
「シスコンのアンタがそれだけ言うなら……良いわよ、アンタに載せられてあげる」
メリットもしっかりとある。
それでもやりたくないと思っていた理由は単純だ。
もうこれ以上失敗したくなかったから。
アクアのいうトラウマというのは間違っていなかった。
もしもあのまま歌路線で失敗し続け、美玲役もない状態だったらずっと諦観に満ちた人生を送って、どこかで役者を辞めていたかもしれない。
「確かにやられっぱなしってのはつまんないし?まっやるとしても中学から長くて高校までかしらね。そのくらいの間、本気でアイドルやって私を捨ててったやつに後悔させてやろうじゃない!」
かなの決意を込めた言葉にアクアにへばりついていたルビーが飛び跳ねて喜ぶ。
「やたー!やったよフリルちゃん!これで三人目!」
「そうね、ようやくアイドルらしくなってきたかしら」
二人しかいない状態だった彼女たちは新たな仲間を歓迎する。
そんな中、わーきゃーと騒いでいる三人をただ一人、複雑そうにかなを見る目があった。
アクアはそんなあかねを見て彼女に話しかける。
「あかね、悪いな。有馬をアイドルに誘って」
「別にかなちゃんがやりたいならそれで良いと思う……『アイドル』聞いてて思ったの、私はもしかしたらかなちゃんに偶像を押し付けてるんじゃないかって。それでも複雑は複雑だけどね?私のかなちゃんはアイドルなんてしないって」
「厄介オタクここにありだな」
以前のあかねは自分の思うかなと実際のかなに解釈違いを引き起こしてばちばちと火花を散らしていた。
姉に目覚めた時期に解釈違いによる衝突はしなくなったものの、内心は複雑だったらしい。
ファンとして『完璧で究極の有馬かな』なんていう存在しない幻想を見ようとしていたのだと分かってはいる。それでも自分の憧れには憧れのままでいて欲しかったというエゴがあった。
「『アイドル』なんだけどね。あれ、アイさんの歌だよね。それもドーム前くらいの」
「元ネタはアイだろうな。一緒にいる時に話してた彼女のポリシーも入ってたし」
何となく何かを探られているような感覚にアクアは襲われる。
あかねはプロファイリングの天才だ。既に必要な情報が集まってしまったのかもしれないと警戒して無理のない範囲で話そうと内容を絞って会話をした。
だがそんなアクアに苦笑しながらあかねは言葉を送る。
「そんな顔しなくても探ったりしないよ」
「なんの話だよ?」
あかねの洞察力の高さをアクアはよく理解している。
ほぼ確信されていると思いつつもアクアは誤魔化すことにした。
直接聞かれたわけでもないのだからこの答えもおかしくはない。
「ううん、私の考えた設定の話」
あのドームの日以来、一番成長したのはあかねだった。
まるでヒカルと出会った後のアクアのような急成長。
前までも自分が輝くような演技をする時は、アイの演技を重ねがけしていたあかねだったが、そのクオリティが跳ね上がった。
まるで"欠けていたピースが埋まった"ようにアイの解釈があかねの中で深まったのを感じる。
「私もアイドルやろうかな」
「……どういう風の吹き回しだ?」
あかねはアイのガチガチのファンでもある。
だがアクアから見て自分でやりたいと思っていたようには見えなかった上、かなのように過去の自分を超えるためといった理由もない。
『アイドル』に感化されたというわけでもないように見えた。
「覚えてる?私がどうして苺プロに入ったか」
「……懐かしい話だな。有馬を超えるためだったか」
もうあかねが苺プロに入ってから何年も経つ。
アクアと初めて出会った時、ファンとしての声を聞けたからこそ今のアクアがいると言ってもいいのだから忘れるはずもない。
「私はさっきも言ったけどかなちゃんの一ファンとしてはアイドルやるのは反対」
「その割にはCD毎回買ってたけどな」
「もう!またそんなこと言う!出たら買っちゃうけど!でも何というか押し付けってわかってても解釈違いなの!!」
アクアの茶化しにあかねは顔を赤らめて反応する。
文句を言いながらもあかねは言葉を続けた。
「でもきっとかなちゃんはアイドルみたいに輝くお仕事やった方がキッカケを掴めると思うの」
「……そうだろうな、有馬は私を見てって演技をする時が一番輝けるから、その強化にこれほどいい職業もないと思う」
黒川あかねは有馬かなと半年ほど生活を共にして分かったことがある。
彼女はあかねの想像よりずっと寂しがりな女の子だと言うことだ。
おかげで母性が暴走して姉を名乗ったのも良い思い出と言っていい。
それからの彼女は演技力自体は相当に伸びており、支えてくれたり褒めてくれる人がいた方がいいのは分かりやすかった。
有馬かなというアイドルがどの程度素でできるかによるが、ありのままの彼女を出すことができるなら、きっと急成長のきっかけになるとあかねは考えていた。
「そんなかなちゃんを超えるためにはアイさんの演技のクオリティをもっとあげる必要がある。そのためには一度同じ環境を経験しないとダメだと思うんだよね」
「あんたら何ボソボソ二人で話してんの?」
先ほどまでルビーとフリルと一緒にワイワイやっていたかなだが、アクアたちの元へとやってくる。
「折角だから私もルビーちゃんたちとアイドルやろうかな〜って。アイドルでもかなちゃんに負けないから」
「は?いや、アクア何吹き込んだのよ!?」
「どっちかといえばお前のせいだぞ有馬」
そのかながアイドルになることを決めた原因なのに他人事のように言うアクアの言葉を信じて混乱するかな。
「私!?ホントに何の話よ、まさかこの厄介ファンついにグループにまで侵入するためにそんなこと考えたんじゃないでしょうね」
「違うもん!かなちゃんのために入るわけじゃないからね?」
全く関係ないわけではないが、あくまで今回の彼女は自身の成長、そのために入ることを決めたのだ。
かなの言葉は冤罪もいいところだが、日頃の行いが行いだけに信じてもらえるかは怪しいだろう。
「え!?あかねちゃんも入ってくれるの?ヤター!これで四人!これだけいれば最強だよね」
「ついでだしマリンも入る?今なら私たちが優しく指導してあげるけど」
「冗談はよせ」
類稀なる美少女四人を揃えたユニットなのに男を入れるなんて自殺行為にも程がある。
いつもの軽口を流しながらも妹のアイドル仲間が充実してくれることをアクアは喜ぶのだった。