『アイドル』によるオリコンランキング占領が終わらないままアクアたちは四年生に進級した。
「それで、今日はどうだったんだ?」
「なんの話?……あっそういうことかぁ〜おにいちゃん相変わらず回りくどいね!」
アクアの要領を得ない質問の意図を理解したルビーはにやにやする。
まだ理解できていないフリルは首を傾げていた。
「ルビー、マリンはどういうつもりで聞いたの?」
「あの二人はおにいちゃんが誘ったみたいなものじゃない?だから上手くやれてるか気にしてるんだよ!かわいいよね!」
ルビーの解説を聞いてフリルはアクアの方へと向き直り、変わらぬ無表情で面白いものを見たような声でアクアに尋ねた。
「マリン、やっぱりギャップ萌え狙ってる?」
「狙ってねぇ、というか結局どうなんだよ二人は」
最愛の兄のきゃわポイントに満足したルビーは、アクアの欲しかった答えを口にした。
「二人とも順調だよ!かな先輩は元々歌やってただけあって発声いい感じだし!あかねちゃんは歌はまだまだ鍛えないといけないけどダンスはマ……お姉ちゃんのトレースやってただけあってバッチリ!」
「二人とも演技をやっているだけあって笑顔を絶やさず踊ったりするのはお手のものって感じだったね。私も見習わないといけないわ」
ルビーの意見にフリルも自分の意見を添える。
二人とも嘘はないようで、アクアも安心した。
「それならよかった」
「……ここだけ切り取ると思春期の娘を持つ頑固なパパさんみたいね」
「ダメだよフリルちゃん。おにいちゃんはおじさんっぽいって言われるの気にしてるんだから」
「いや、お前が言ってるからなそれ」
妹の発言にショックを受けるものの、二人は問題なさそうだ。
もっとも元からぴえヨンブートダンスで役者用の体力を付けていたおかげもあり、今のところは順調そのものだ。
このあたりは二人の適応力が高いおかげとも言える。
「おーうキッズども〜!遊びに……ってなにしてるの?」
苺プロの一室、アクア、ルビー、フリルの三人で使用中になっていた部屋へ遊びにきたMEMちょ。
彼らが座って何やら話をしている姿を見て気になっているようだ。
「MEMか、有馬とあかねの件について話してたんだよ」
「あ〜二人とも頑張ってたねぇ」
レッスン風景を見ていたMEMちょからすれば、初めて自分が入った時より歌やダンスのクオリティが高くてちょっと凹んだくらいだ。
とはいえ彼女としても先輩アイドルとして負けるわけにはいかないと自分に喝を入れるいい機会にもなったのだが。
「MEMちょ、サインお願いしていい?」
そんな彼女へぺこりと頭を下げながらサインをお願いするフリルはいつも通りのマイペースさを発揮している。
偶然会うたびに増えるサインによってそろそろサイン祭壇3代目ができそうになっているが、まだ熱が収まることはないらしい。
「あっフリルちゃんいいよ〜はい!いやぁ〜私もすっかりイッパシの芸能人って感じですらすらサイン描けるようになったね〜」
「フリルに書いたサインだけでも3桁行ってるだろうしな。よく毎回対応するもんだよな」
すっかり慣れた様子で色紙を受け取り、日付とサインを書き込んでいくMEMちょ。
それを見てアクアも感心していた。
「そりゃそうだよ〜フリルちゃんみたいな可愛い子にお願いされたら嬉しくなっちゃうもん」
「MEMちょ……好き」
MEMちょのファン思いな言葉にフリルは感動のあまり頬を赤らめて喜びが表情に浮かんでいた。
「わっ!フリルちゃんが表情変わっている。演技以外だとレアだよね」
「会心の演技とかでなんとか表情がちょっと変わるくらいだから敗北感凄いな」
フリルは声色だけで感情自体は読みやすいからいいのだが、表情にすら出てしまうくらい感情が動かせないというのは役者として悔しかったりする。
「あれは自分の演技の心持ちでいるからだよ。演技するたびに相手の演技で自分の表情がブレたらダメでしょ?」
「正論だ!?」
プライベートと演技は違うというわけだ。
「それにしてもアクたん達も大きくなってきたねぇ、会った時はこんなだったのに」
「俺が一番身長低いけどな」
小学生の男女平均の例に漏れず、アクアは普段一緒にいるメンバーの中で一番身長が低くなっていた。
しっかり睡眠時間も取れているからいつかは身長が伸びるだろうと思ってはいるものの、前世より低かったらどうしようと少し不安に思っている。
「おにいちゃんは男の子だからしょうがないよ〜でもちっちゃいおにいちゃんもいいよね」
「ルビーも別にそんな高くないだろ。今いる子供組ならフリルが一番高いぞ」
かなとあかねも含めればあかねが一番身長が高くなっている。
それなりに差が生まれ始めており、かなはスタイルを気にしてたまにぐぬぬと唸っている時があるとか。
「私ももうちょーっと身長欲しかったな〜って思うことあるよ〜。今からでも伸びないかなぁ」
「流石に18じゃまず伸びないな。一応MEMの身長は平均くらいだから気にしなくていいと思うが」
アイドルとして身長が必要かと言われたらトップアイドルまでなったアイは151cmと平均より低いくらいだ。
そこまで気にする要素ではないとアクアは思っていた。
「そんなものなのかなぁ」
「そう、ありのままのMEMちょが好きだから気にしないでいい」
悩んでいる様子のMEMちょへ食い気味に答えるフリル。
それを見て少し安心する様子を見せるMEMちょを見てアクアは身近に絶対的なファンがいるのって大事なんだなと改めて思った。
「あっそろそろ時間だ!明日は大学の講義あるし大変なんだよね〜」
「そういやMEMは大学行ったんだったか」
今年からMEMちょは大学へと進学していた。
最近はアイドルですら学歴が必要になる場面もあるくらいだ。
行っておいて損はないと彼女は判断したが、時間をどうしても食ってしまうため、これまでより身動きが取りづらくなりがちだ。
大丈夫なのかと心配そうにアクアが尋ねるとニコニコと彼女は返した。
「ふっふっふ〜大丈夫!私は芸能科だから結構単位の融通とか効くんだ〜。まぁ出席日数はともかくテストとかは凄い大事なんだけど」
「うーん私もやっぱり大学進学とかすることになるのかな〜どうなのおにいちゃん」
そんな自信満々なMEMちょを見てルビーが先の長い心配を始める。
それなりにアクアが勉強を見ているおかげで小学校の範囲は学び終わっているルビー。
ただ元々そこまで興味のない勉強をアクアという人参でドーピングしているだけのため、本人としてはやらなくていいならやりたくないと少し思っていた。
「前も言ったようにクイズ番組とか呼ばれたいならやっといた方がいいとは思うぞ」
「ちなみに私は行く予定。合わなかったらやめるけど」
何事も経験だと考えているフリルは将来的に大学にも通う予定だった。
その頃はまだアイドルメインのマルチタレントだろう彼女はどう時間を作るかなどMEMちょに将来聞くつもりである。
「まっいっか。まだ8年も先の話だし!私は今を全力で生きる!」
「なんかいい感じのこと言って誤魔化したな」
口ではこう言いつつも昔は明日のことも不安だった彼女が未来の心配をしているのはアクアにとって幸せの方が強く、あっさり誤魔化される。
やはり妹には弱い兄だった。
「そういえばマリン、今度の苺プロ公式配信の司会をやるって本当?」
「誰から聞いたんだ?確かにそうだけど」
苺プロ公式配信はアクア達が一年生の頃からしばらくはアイが司会で固定されていた。
だが、彼女は復帰を果たし、今はマルチタレントとして活躍中。
そうなると空いている人間が仕事をやることになる。
「あれ?おにいちゃんが忙しくないなんて珍しいね」
「忙しくないわけじゃなくて他に適した人がいないから、たまたまその日空いてたのもあってねじ込まれたんだよ」
壱護やミヤコはアクアになら年齢以上の無茶振りをしてもいいと思っている節がある。
ミヤコに至っては一歳の頃から仕事をある程度手伝わせていた筋金入り。
信頼関係があるから許されるとはいえ、なかなか攻めた人選だった。
苺プロ公式配信は配信者部門ではなく芸能部門のメンバーが担当になる。
今芸能部門で活動中なのはアイ、アクア、あかね、かな、C式部だ。
この内あかねとかなは年齢的に司会は厳しい。
実年齢的にはアクアの方が幼いがそれはさておかれている。
普段はC式部の誰かかB小町のメンバーが行っていたのだが、B小町は解散してアイは多忙なマルチタレント。C式部のメンバーはちょうど進学やドラマの撮影などが被った結果、アクアにお鉢が回ってきたというわけだ。
「小学生が司会をやるって凄いね」
「あくまでテレビじゃなくて自前の配信だからできることだな」
「おにいちゃんなら大きくなったら冠番組とか持てるだろうし練習だね!」
アクアとしてもいい経験になるとは思っている。
新しい経験をすればするほど、アクアの演技にはプラスになるのだから。
そして時間は流れ、撮影の日が訪れていた。
ライブ配信のため、リテイクは効かない一発勝負。
だが、アクアはこれまで数々の撮影現場や生放送を経験している。
間違いなく役者を始める前より、前世より度胸がついたと胸を張って言えた。
「私から振っておいて今更だけれど大丈夫かしら」
「本当に今更じゃないか?」
もうすぐ配信開始というところで言われてもどうにもならない。
ただ無茶振りはしたものの育ての母の一人としては子供の仕事が心配になってしまったというだけだ。
「今日のゲストは有馬とあかねだ。仲のいいメンバーだから気楽なもんだし心配しなくていいよ」
「本当に昔から大人への気遣いができるのよね。そういうところでルビーからおっさんみたいとか言われちゃうのよ?」
「メンタルへの攻撃はやめてくれ」
ミヤコなりの軽口でアクアの緊張をほぐす。
今のアクアは身体が若く精神も肉体に引っ張られている。
十分若いと自分に言い聞かせていた。
もう少し話したところでミヤコが離れ、カウントダウンが始まる。
かなとあかねもみんな見える位置でスタンバイしていた。
「さて、始まりました《【第七十二回】苺プロ 公式配信》」
・えぇ……
・キター!!!!まじでアクアじゃん
・予想当ててたやついたな
・マジかよついにか
・アイとC式部が全員忙しかったらなるかもと言われていた悲劇が
・苺プロはもっと芸能人増やした方がいいぞ
コメント欄は現れたアクアの姿に喜び半分困惑半分といった様相を呈していた。
小学四年生が所属事務所の配信チャンネルとはいえ司会をやる様は異様というほかない。
「まぁ驚かれるとは思ってたけど。今日は気楽にやらせてもらおうと思います」
・誰だこいつ
・天使の皮を被ったドルオタの皮を被った何か
・誰かかなちゃんかあかねちゃん連れてきて化けの皮剥がしてくれ
司会ということでいつもより丁寧な対応をするアクアの様子にコメント欄も困惑している様子が窺える。
人が真面目にやっているのになんてコメントだとカメラにジトッとした目を向けるアクアだった。
「皆さんの楽しみにしているゲストの登場はこの後の企画なので。今日はいつもの司会への質問コーナーは軽めでサクッといきましょうか」
その言葉にコメントには質問が流れていく。
今苺プロで一番人気なタレントは誰かと言われると『アイドル』が空前絶後の大ヒットをしたアイだが、その前まではアクアが名実ともに一番人気が高い状態だった。
アイも家で『ママの威厳が……』とよく言っていたあたり、アクアの主観だけではなく純然たる事実。
そんなアクアの初司会ということも含めて初めてアイが司会をした時に匹敵する盛り上がりが起きていた。
「嫌いな食べ物?ピーマンだな、アレあると全部がピーマン味になる」
・お子ちゃま!?
・良かったアクアも人の子だったんだね
・嫌いでもピーマン体操踊ってるかなちゃんに謝れ
いつかの動画でピーマン嫌いが世間にバレたかなもついでのように揶揄われている。
アクアの視界の隅ではあんたのせいで私にまで飛び火したじゃない!と言いたそうなかなが映っていた。
「あんたのせいで私が巻き添えじゃない!」
「あっ本当に言ってきた」
「いいのよ、オッケーサインもらったんだから」
ミヤコから折角だしここでわちゃわちゃさせようとゴーサインが出たらしい。
堂々と配信画面に乗り込んでくるかなにアクアは苦笑する。
「アクアくんも苦手だよね〜。私は『ピーマン体操』で克服したけど」
「いいだろ、苦手なものくらいあったって。その方が人間らしい」
「そんなこと言ったら計算っぽくなっちゃうよ?」
こういった気安いやりとりを見てコメント欄はどうやら和んでいるらしい。
先ほどまでのアクアに対して辛辣なコメント欄より優しいというかみんな仲良いことを喜んでいる穏やかなコメント欄へと変わる。
「というか私たちゲストとは聞いたけど何するか知らないのよね」
「愛してるゲームやるか?」
「バッカじゃないの!?」
いつかの時とは違い、小学4年生と5年生でやると洒落にならないので、アクアが冗談だとわかる声色で告げると、かなもそれを分かっていいツッコミを入れる。
「いいよ、やろうアクアくん」
「冗談だぞあかね」
「前に動画でアクアくんがC式部全員やっつけちゃったから私がリベンジしようと思ったのに」
「本人達じゃなくてあかねがやっても仕方がないだろ」
普段しっかりしているのに、珍しくボケをやるあかねなどの姿など貴重な姿も見せつつ配信は進んでいく。
ゲストが来る時間が早かったのもあり、三人での司会進行のような形がメインとなった。
コメント欄もそんなやりとりが心地いいのかもっとやれと勧めている。
そんなコメントの中に一つわかりやすいコメントがあった。
・見続けていたら視力が良くなる。もっとお願い
(これフリルだろ)
天性のコメディエンヌを名乗るだけあって名前は載っていなくても面白さが貫通するコメントであった。
そんな彼女のコメントにいつか一緒の演者側でやりとりするのを色々な人に見てほしいと思うアクアだった。
きっと彼女は人気が出るだろうとアクアは確信していた。
そこからはお互いの仕事で起きた出来事や学校で起きたことを二人と視聴者に話していく。
流石に特定できる情報は誤魔化しているものの、あえて普段話さないような会話もされており、アクア達自身も楽しく会話できて嬉しかった。
「は〜あの撮影裏でそんなことあったのね」
「ああ、監督には世話になってるからこそ、流石に申し訳なかった」
「アイさんもやっちゃったって言ってたもんね」
・こいつら本当に小学生か?
・ピーマンの部分は子供だなと思ったけど他があまりにも成熟してる
・子役って大変なんだろうなって
・小学生に尻拭いされるアイ
実際に撮影現場であったエピソードを話したところで時間もいい具合になっているのを確認する。
アクアのタイムキープは完璧だった。ゲスト二人に配信枠外に出るように伝えてアクアが一人で締める。
「さて、最後に俺たち苺プロに所属する芸能人の今月の予定を一覧で出すことにしようか。カレンダーはこんな感じになっているぞ」
アクアの言葉と共に画面には各タレントの予定が表示される。
すっかり人数も減ってしまった予定表だが、個々の仕事は詰まっており、寂しさは感じられない。
アクアは今月公開開始のドラマにアイとあかねの二人と共演することが記されていたり、バラエティにかなと二人で参加したりと程々に忙しい。
「正直今回は俺が司会ってこともあって情報制限されていたし、公開情報が少なかったと思う。来月は重要告知がある予定になってるから今回はおまけだと思って楽しみにしててほしい」
・三人のやりとり最高だった
・アクアの気休め回
・まだ10歳なってないんだよな、やばすぎ
・新鮮で良かったよまた見たい
箸休めとは言ってもあまり聞けないエピソードトークや幼馴染組の仲の良さががしっかりと見られて視聴者は十分な満足度を得ていたらしい。
基本肯定的なコメントが欄を埋めながら素早く流れていく。
そんな締めを行っているアクアを見ながら先に離脱した二人は会話をしていた。
「タイムキープ完璧よね。流石ってところだけど卒なさすぎでしょ」
「演技ももちろん凄いけどこういうところが、私たちより年下のはずなのに10歳くらい年上?って錯覚させられちゃうこともあるよね」
「大人びすぎなのよ、こっちが子供に見えるから程々にして欲しいわ」
「わたしたちも負けられないね〜かなちゃん」
アイドルをやると決めたとはいえ、まだ彼女達は子役としての活動も続けている。
だからこそ、アクアと同じ世代としてプレッシャーは感じながらも負けたくない、支えたいと認識している。
尊敬しつつも超えたい相手、隣に立ちたい相手など想いはそれぞれ異なれど、相手を尊重できる絆がそこにはあった。