「……凄い格好だなフリル」
「そう?」
もうすぐアクア達が進級し、かな達が卒業する3月。
アクア達六人はドームへと訪れていた。
アクアはフリルの格好を改めて観察する。
『MEMちょ超絶推し‼︎』と書かれたデフォルメMEMちょが描かれているハッピを着て、黄色のバンダナを巻いて、黄色のサイリウムを大量に所持しており、外から非常に目立っているのがわかる。
この辺りは躊躇なくガチ推しと言うだけはあるなとアクアは感心していた。
アイに対するアクアですら、ここまでの格好をしたことはない。
「C式部のライブ生で見るのは初めてね」
「私たちのアイドル活動にも参考になること多いだろうし、しっかり見ないと」
B小町のライブにしか行ったことがなかったかなとあかねの二人は、自分たちの勉強にもなるだろうと本日を楽しみにしていた。
B小町はアイという絶対的なセンターを際立たせるグループである。
彼女達が結成したB小町Rの場合は、少々事情が異なる。
全員が全員強力な強みを持つ彼女達の場合、同じやり方では成功しないとみんなが思っている。
そこで参考する対象に上がったのがC式部だ。
彼女達はゆらが最も人気があるものの、MEMちょを始めタレント揃い。
全員が輝き合う構成であり、B小町Rの目指すあり方に近い。
「いや〜楽しみだよね!私もこれからゆらちゃんとMEMちょのグッズ買いに行くけどフリルちゃんも一緒にまわろ!みなみちゃんも折角だしどう?」
「勿論。今回の新規グッズも買うためにお小遣いは全額持ってきた」
「フリルちゃんその格好でいくん?目立たへん?まぁうちも一緒に行こかな」
みなみはアイドルライブに来るのは初めてで少しドキドキしながらもフリルの心配をする。
既に美少女と言える容姿に育ったフリルがこの目立ち過ぎる格好でウロウロしていれば後々ネタにされそうだと彼女は思っていた。
「いいんじゃない?ドルオタ属性とクール属性を両取りするのは人気も取れるコンテンツだってマリンが身体を張って証明しているし」
「待て、俺のは事故だろ」
当時はまったく芸能界に進む気がなかったアクアとしては不本意な結果だったのだが、フリルはその例からオタバレなど問題ないと思っていた。
「は〜、やっぱドルオタの熱ってヤバいわね。アンタはどうすんの?今回は普通の開場時間に合わせて来たわけだけど」
「俺か?有馬やあかねもだが、もうテレビで露出している組は待機だろうな。もし欲しいグッズがあったら三人にお願いして買って来てもらうしかない」
アクアもグループ五人全員の集合キーホルダーとバッジ、あとは特に親しくしているゆらとMEMちょのヌイはルビーに依頼している。
「私もゆらさんのヌイ買おうかしら」
「え!かなちゃんも買うの?お揃いだね」
アイほどではないにしろ普段から一緒にレッスンを受けることもあるC式部のみんなのこともあかねはしっかり応援している。
メンバー分のグッズくらい購入するつもりだった。
「うぅ、子役やってた二人に比べたら予算的に厳しい……。おにいちゃん、お使いするんだからお小遣いちょうだい!」
「はぁ……とりあえず俺が欲しいグッズだけ買ったらお釣りは好きにしていい。それで我慢しろ」
そう言ってアクアは自身の財布から5枚の万札を取り出してルビーへと渡す。
「いや渡しすぎでしょ!アンタ本当に妹に甘いわね」
アクアの欲しいグッズを全部購入してもせいぜい1〜2万円程度なので過剰にも程がある金額だった。
「あはは、アクアくんらしいよね。お小遣いって名目で渡さないあたりも含めて、可愛いなぁ」
「無駄に稼いでるからな。もう数年もしたら自分でガンガン稼ぐようになるから今だけだ」
「うちらの成功を確信してくれてるんは嬉しいけどちょっと照れくさいなぁ」
みなみは自然なアクアの反応にファンらしく照れくさくなった。他のメンバーも概ね少し顔が赤くなっている。
アクアはB小町Rの成功を疑ったことなどない。
それは芸能界でかなりの期間活躍して来たことによって養われたスター性を見る目がそう判断しているからと言うのもあるが、やはり個々人の魅力を理解しているのが大きいだろう。
「というわけで!私たちが買ってる間おにいちゃん達はおとなしく待っててね!」
「ああ、気を付けて行ってこいよ」
「勿論!というか今回はミヤコさんもついてるから平気平気」
そう言われてここまで黙っていたミヤコは口を開く。
「前回と違って普通にお客さんがいる中でウロウロするなら大人はいた方がいいでしょ?」
「まぁそうだな。ありがとうミヤコさん」
「代わりにアクア達は部屋で大人しくしててね?」
そういってルビー達購入組を連れていくミヤコを見送ったアクアたちは部屋でのんびりと過ごすことにする。
「は〜私とあかねはもうすぐ小学校卒業。時間が経つのは早いわね」
「まぁ卒業とは言ってもお互いエスカレーター式で内部進学するだけだけどね。でもあんまり実感湧かないなぁ」
かなとあかねは今年で小学校が終わる。
六年間過ごしたというのにあまり実感がない様子だ。
「まぁそんなもんだろ。実際卒業して居なくなるやつを認識して初めて実感なんて湧くもんだぞ」
「なに?アンタ経験したことあるみたいな言い方ね。幼稚園すら経験してないのに」
アクアのその言葉にかなは中々鋭い指摘をする。
今世のアクアは一度も卒業なんて経験して居ないのだから当然ではあった。
「長く続いた撮影現場の終わりみたいなもんだ。『転生探偵乱歩』とか良い例だろ」
「あ〜それなら少しイメージできるかも。お世話になった役者さん達とお別れするの寂しかったなぁ」
「懐かしいわねぇ〜私たち作者さんの家招かれたけどめっちゃくちゃ緊張した記憶あるわ」
二人が一緒だった長めの撮影現場の例をアクアは出した。
まだ二人とも第三シーズン撮影時に三年生だったため、覚えているかは怪しかったが二人とも納得したような声を出す。
「有馬が緊張ってだけでも珍しいよな」
「うっさい!……まぁこの例えのお陰で少しだけ気持ちがわかったわ。学校変わる友達と今のうちにもうちょっと話しとこうかしら」
少し憂いを帯びた表情のかな。
学校で過ごす時間が増えた分、友人と言える相手が増えたのは良いことだろう。
アクアは少し変化の寂しさを感じながらも、かなの精神的成長に顔を綻ばせる。
「かなちゃんよくお家で学校のお話してくれるようになったもんね。お姉ちゃんも嬉しいなぁ、おいで?」
かなへと両手を広げて待ち構えるあかねは、菩薩の様な慈愛に満ちた表情をしている。
「出たわね姉モード。普段は対抗してくるくせに突然発作的に出てきて情緒どうなってんのよ」
「まだこうなることあったのか。母性を感じたとかだろうし、前みたいにずっとじゃないだけ良いだろ」
アクアの前でなるのは反動終了後初めてだが、たまに家では甘やかしモードになるらしい。
普段はしっかりライバルをしているだけにアクアは複雑な気持ちなんだろうなと思っている。
「ぎゃあ!捕まった」
「はいよしよし、かなちゃん成長したね〜」
「仲良いなこいつら」
もう同じ家で過ごし始めてから何年も経つのだから、仲が良いのも当然だろう。
話し合いの結果、かなの母が彼女と一緒に暮らすようになるのは今のところ高校生からの予定だ。
つまりあと3年はかなとあかねは同じ家で生活する。
アイドルをやっているうちにさらに仲良くなるかもしれないとバチバチ火花を散らしていた頃からは考えられない関係にアクアは胸がほっこりした。
「たっだいま〜!ってあれ、先輩なんであかねちゃんに捕まってるの?」
「妖怪姉騙りが出たのよ、助けなさいルビー」
時々姉モードになることはB小町Rのメンバーにとっては周知の事実らしい。
アクアは自分の知らないところでみんな仲良くなっているんだなとグループメンバーの交流に感心する。
あかかなの絡みを見て目をバチっと開いたフリルがアクアへ声をかけた。
「ああ、いい。目の保養になる。マリン、ちゃんと最初から動画撮ってくれた?」
「撮るわけないだろ」
「そこは撮っておいてくれたらマリンにとっておきのご褒美をあげたのに」
少し表情を変えてがっかりしている所から見て、よほど最初から見たかったらしい。
確かに可愛い女の子を見るのは精神的にいい、これは吾郎の頃にアクアも言っていた事だ。
フリルも同じように考えているのだろう。
この二人の思考は実のところ近いのかもしれない。
「……ってフリルなんかまた装備増えてないか?」
「そう?」
「今会場限定バッジとかもう付けてるし」
MEMちょグッズに身体一面覆われている姿は実に壮観だ。
「わっフリルちゃんSNSで話題になってるよ!美少女MEMberって!」
「まぁそうなるだろうな」
「わぁ!うちらも映ってますねぇ」
ルビーがスマホで調べてみればあっさりとバズっているフリル達の画像があった。
あくまでフリルがメインだが、ルビーとみなみ、ミヤコさんと全員が姿を収められている。
全員が整った顔立ちをしている事もあり、これはどういう集団なのかと議論が起こっていた。
「まぁいいんじゃないかしら。ヲタ芸赤ちゃんがいい宣伝になったみたいにこれもデビュー後に掘り返されて話題になると思うわよ」
「アレと違って公式じゃないですけどね」
なんとか妖怪から逃げられたかながそんな言葉を発する。
『アイドル』が苺プロ公式サイトにアップされてなお、まだヲタ芸赤ちゃん動画は再生数首位をキープしている。
流石にそのうち抜かれるだろうが、これまで蓄積してきた再生数は偉大だ。
これは公式だからこそであり、あそこまで大きな効果は期待できない。
「まぁキャラ付けだと思われずに本物だと思われるのをメリットと取るかどうかだな」
「アクアくんの場合はクールの方がキャラ付け扱いだもんね……。結果的に上手くいってるけど」
少なくとも本性はドルオタ扱いされるのはほぼ確定だと思っていい。
「ルビー、マリン、私たちお揃いだね」
「まぁ将来的に話題になったらラッキーくらいで放っときましょう」
配信者部門を成功させたミヤコはネットの機微に強い。
彼女が言うのであれば高い確率でうまくいくだろうなとアクアは思っている。
「C式部のみんなは大丈夫かな」
「初のドームライブって言っても今まで散々ライブはやってきたでしょ?そんなに変わるものなの」
アイドル文化に詳しくないかなはそんなことを口にする。
それに対してルビーは答えた。
「違うよ!やっぱりドームって聞いたら特別な感じなの。特にMEMちょはアイドルに関する思い入れが人一倍強いから緊張してるんじゃないかな」
「まっC式部の人たちなら大丈夫だろ。そろそろ時間だし席に行こう」
アクア達はB小町の時にも訪れた関係者席へと向かう。
今回、アクア達はそれぞれ持つペンライトの色を予め決めていた。
アクアは全色持つが、他のメンバーはそれぞれ別の色。
これの理由は単純で普通にやると黄色が目立ち過ぎるからだ。
「あ〜どうしよ。うちも緊張してきた」
「大丈夫!私たちは観客席だしパフォーマンス落ちても何か問題あるってわけじゃないから!今のうちにステージの空気になれてこ!」
「アンタ本当に図太いわね」
ルビーの人のライブすら利用して成長しようという考えにかなは感心する。
ただその実態は一度もライブに出たことがないから本当の緊張を知らないだけだったりもする。
「一曲目『C•C•C!』」
ゆらの曲名アピールが会場へと響き渡る。
LEDの輝きに導かれ、C式部が突入してくる。
ライブがスタートした。
C式部のみんなは今日のパフォーマンスに文句などない絶好調。
細かいトークもしっかりできており、会場の熱気を冷めさせない。
「いや〜私たちもついにドーム!?って最初は思ったけどやっぱ大きいねぇ」
「MEMちょなんて昨日の時点で緊張してたから心配したけど」
「いやー!それは言わないでぇ」
ルビーの言うように緊張はやはりMEMちょが一番していたらしい。
だが、彼女は彼女なりにこの日になるまでに、緊張を程よいプレッシャーへと昇華していたようだ。
パフォーマンスはリハーサルのソレよりずっと良い。
アクアの横で黄色の塊がガサガサと楽しそうに跳ねていることからもその良さが窺える。
最後までみんなパフォーマンスを落とすことなく、アクア達はいいライブを見ることができたと満足することになった。
帰り道の車でみんなはライブの感想を話す。
「あぁ、MEMちょの照れ顔何度見てもよかった。……あの席、特等席すぎる」
「いくつかのフォーメーションで正面向いてくれるもんな」
アイも何度かアクア達の方へ向いてパフォーマンスをしてくれたものだと脳裏に焼きついた記憶を思い出す。
やはりアクアにとって今のところ一番はアイだった。
その点は変わらないものの、彼女達のダンスもしっかりイメージとして植え付けられたあたりが、今日の彼女達のクオリティを物語っている。
「あとMEMちょが私と目が合ってウインクしてくれた。可愛すぎるよね。押し倒したくなっちゃった」
「……それは流石に思い込みだろ!」
フリルが可愛い女の子でなければ、ストーカーか何かだと勘違いされてもおかしくないような言葉にアクアも思わず口を出してしまう。
そんな横でかなとあかねもライブの感想を話し合っていた。
「ゆらさん本当パフォーマンスよかったわね。こないだのドラマ主演も良かったけどアイドルまでしっかりこなしてる」
かなは今日のゆらの動きを頭で反芻していた。
今年、ドラマの主演が当たり、どんどんとテレビの露出を増やして尚、アイドルとしてのパフォーマンスを損なうどころか相乗効果で磨かれているのが伝わってくる。
アイドルとしての細かな立ち振る舞いはもちろんだが、女優業の方も、もし今年も絶好調のアイが居なければ、最優秀女優賞を取っていたのは彼女だっただろうと言われるほどの演技力に成長していた。
アクア達と切磋琢磨することで磨かれたかなが、本気でやっても勝てるか怪しいと演技で思わされるほどで、追いつかれたことに悔しさを感じる。
「ゆらさんが当面の目標って感じかしらね。負けてられないってゆらさんに思わせるくらいになりたいわ」
「そうだよね……私も今日の彼女にはインスピレーション受けたなぁ」
子役として休業し、焦りが全くないわけではないだろう二人も今後の目標に燃えている。
アクアはやる気に溢れている彼女達を見て尋ねる。
「二人ともやる気満々だな」
ゆらのパフォーマンスに触発されている二人へとアクアは声をかける。
フリルのMEMちょ語りもアクア的に聴いていて楽しくはあったのだが、終わる気配がなかったので、話し相手を切り替えた。
放置されたフリルはフリルでライブ映像のデータ、その一部を貰って自分用に動画をいじり回している。
「そりゃやるからにはそうでしょ……って言いたいけどやっぱり上手くいっている実例が見えているのは大きいわよね。もしアイやゆらさんが居なかったら歌やダンスのレッスンなんかで時間使うより演技やらなきゃって焦っちゃってると思うわ」
休止してアイドルをやると決めた後も、かなの中で不安が無かったと言えば嘘になる。
だが練習ではなく、ライブという形で一緒にレッスンを受ける事もあったゆらが、その場に居る全員を魅了する程の良いパフォーマンスをしたというのは、彼女にとって自信と期待を得る事にも繋がっていた。
「私は毎日のレッスンで少しずつアイさんの感覚が磨かれてるって実感できていたけど、今回ゆらさんのパフォーマンスを見て、周りを呑んじゃう演技に違うアプローチもできるかもってワクワクしてる。帰ったら試してみたいかな」
アイの憑依演技については8割方完成となっているあかね。
だが他にも自分が周りを呑むような演技の種類を増やせるかもしれない。
普通のあかねとは違った雰囲気を纏う機会。
あかねはゆらを見てその可能性を感じていた。
「いやーやっぱり今日はみんなが良かったよね〜!ダンスの個々を輝かせ合う動き、そしてメンバーが歌詞ごとに目立つ演出!あれは私たちも参考になると思うし教えてもらわなきゃ!聞くの楽しみだなぁ〜」
「流石に今日はみんな疲れているだろうから後日にしてあげてくれ」
目を輝かせながら自分たちのアイドル人生を想像し、喜びに満ち溢れたルビー。
ドームライブまで到達したC式部のこれまで磨いてきた技術をB小町Rにも活かしたいと貪欲な学びの姿勢を見せつつも、素直に喜びを露わにしている。
「はわぁ、アイドルってほんまに可愛いんやなぁ。うちもあんな感じにできるんやろか」
「寿さんならいける。レッスンも他のみんなより遅れて始めたけど、追いつきたいと諦めずに頑張ってガンガン上達してるしな」
将来を楽しみに思う者も居れば不安に思う者も居る。
だが不安とは言っても諦観ではなく、頑張ろうと起爆剤にできるだけの心の強さが彼女にはあった。
アクアから見ても彼女は自分の魅力を演出するのが上手い。
それは芸能界入りしていない段階から自分の強みを作る為に、エセ関西弁を身に付けて使い熟している辺りからも察しが付いている。
その一点は他の四人にも勝るかもしれないとすら思っている。
「アクアさんが言ってくれるならうちでもやれる気がしてくるから不思議やわ。デビューしてからも応援してな?」
「あっ!ずるいよみなみちゃん!おにいちゃんの最推しは私なんだから!」
ルビーがそんな会話へと割り込んだ。
彼女の強靭な活力は前世で約束したアイドルになったら推してくれるという約束にある。
他の何よりもそのポジションだけは譲りたくないのだ。
結局ドームから家に帰るまで一度も話題が止むことなく続く。
各々が自分の思いを途切れることなく語り合える辺り、今回のライブは皆にとって良い刺激になったようだ。
そして、数週間後。
アクア達の小学校生活、最後の年が始まりを迎えることになる。