【推しの子】ヤケクソハッピーハーレムルート   作:ただの暇神

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登山

「いや〜来たよ山!自然の力を感じるよね」

 

視界に映る木々、それに伴う自然の香りを感じてゆらは手を広げながら喜びを露わにする。

 

「悪いな、趣味に同行させてもらって」

「全然気にしてないよ。むしろ同行者が二人もいて新鮮だな〜って感じだし」

「ゆら、普段は一人で登ってるって言ってたもんね。私も折角だから映えスポットで写真撮らなきゃ」

 

この日、アクアはMEMちょと共にゆらの趣味である山登りに同行させてもらっていた。

 

話は少し前に遡る。

壱護と釣りに行った後日。

 

『あれ?アクたんどうしたの?』

『ほんとだ〜、ルビーちゃんの送り迎えかな?』

 

妹を送るため一緒に事務所に来ていたアクアが休憩室でゆっくりしながらタブレットを操作していると、二つの声を掛けられ誰かを確認するために顔を上げる。

C式部で今も絶賛活躍中のMEMちょとゆらの姿が目に入った。

アクアがなかなか反応しないのをいいことにMEMちょが言葉を続ける。

 

『いや〜シスコンだねぇ』

『勝手に納得すんな。……いやルビーに着いてきたのは確かだけど』

『あってるじゃん!もーアクア君恥ずかしがらなくていいのに!よっお兄ちゃん』

 

バシバシとアクアの背中を叩きながらニコニコするゆら。

すっかり彼女はアクアにも砕けた感じとなり、年の離れた友人として扱うようになっていた。

彼女は女優としての仕事が増えて、今ではトップ5には入ると言われる女優として語られているほどだ。

その分忙しさが増しており、そろそろ仕事の兼ね合いを考えて、アイドルを引退するのではと実しやかに囁かれている。

今日はそんなゆらとMEMちょが一緒に行動していたようだ。

MEMちょとゆらは仲がいい。二人の周波数が合うからなのだろうとアクアは考えている。

 

『聞いたよ〜アクたん最近自分探ししてるんでしょ?』

『は?誰がそんなことを』

 

アクア自身が自分探しをするなんて言葉を直接使ったわけではないのだが、一人歩きしている。

 

『社長がね〜、なんかアクア君最近悩んでるっぽいから趣味に連れてってくれないかって』

『壱護さん……』

 

色々言いたいことはあるものの、本気で心配してくれているのだろうと予想できるため、文句も言えないアクアは小さく項垂れる。

そんなアクアを見て社長同様にアクアってかなり年下の子供なんだなと認識を改めた二人は目を合わせて頷き合ってからアクアへ話しかける。

 

『ちなみにアクア君、5月のこの日空いてる?』

『学校もないし大丈夫だと思うけど』

 

少し先の土曜日を指してゆらが尋ねてきた。

アクアは自分の予定を頭で並べそうになるが、休業中のため暇なのを思い出して苦笑した。

 

『実はMEMとこの日一緒に山登りする予定があるんだよね。アクア君もどう?大自然でリフレッシュされるのは』

『……行く』

 

アクアは先日の釣りを思い出していた。

ああいう普段やらない事は自分の感覚を確認するのに有益そうだと分かっている。

それならば拒否する理由もなかった。

 

『それじゃアクア君の連絡先に必要な道具の連絡とか送っとくから当日はよろしくね』

『ばいばーい』

 

そこから特に部屋で何かするでもなく去っていく。

どうやら最初からアクアに会うためにこの部屋に来ていたようだ。

 

「……本当にこの事務所はいい奴が多い」

「どしたのアクたん」

「いや、何でもない」

 

アクアが回想から戻ってきて思わず出た言葉にMEMちょが反応する。

ただ何となく気恥ずかしくなってアクアはその場で誤魔化した。

 

「さて、今日来た山はねぇ〜」

 

ウキウキで登る予定の山について解説するゆら。

見どころや登るときに意識することを伝えていく。

話を聞いているうちにアクアは理解したのだが、どうやらアクアのために一度来た山の中でも景色が良かったり登りやすかったりといった特徴のある物を選定したらしい。

 

「わざわざ選んでくれてありがとう」

「どういたしまして。現場では結構私が助けられてた場面が多いしおあいこって事にしようよ」

 

特に最初の頃は勝手がわからない場面も多く、ゆらは本当によくアクアに助けられた。

尊敬できる役者は?と聞かれた時もアイ、ヒカルと並んで名前を出している程にはゆらの中で高い評価をしている。

この組み合わせなのはある意味運命的なのかもしれない。

 

「あと、初心者は足元にも気をつけてね。この山はそこまで危ないポイントないけど落ちたら危ないから」

「意外と怖いんだな……気を付ける」

 

一通り警告を受けてから三人は山を登り始める。

名所と呼ばれるだけあってそれなりの人が登っているが、アクア達に気付く気配はない。

まだ涼しいのもあってガチガチに変装しているが功を奏している。

 

「どうアクア君」

「まだ登り始めだから何とも言えないけど、山登りって言っても獣道みたいなところを進む訳じゃないんだな」

 

流石にコンクリートで舗装されたりしているわけではないが、木でできた道に沿って歩いているためアクアは少し拍子抜けしていた。

 

「そりゃね!MEMみたいな抜けてる子がそんな道なき道を歩いてたら落ちちゃうし」

「ゆら!?どうして今私を引き合いに出した!」

「ふふっごめんねMEM。その方がわかりやすいと思って」

 

実際、最初ゆらが説明したように舗装されていても登山はミスをすれば怪我じゃ済まないことがあるらしいのであながち間違った説明でもないようだった。

 

「うわっ見て見て〜二人とも!あれめっちゃ綺麗!写真撮ろう!映えるよ!」

 

そう言ってMEMちょが指を向ける先には鮮やかな花が咲いている木が見えた。

かなり広い範囲に咲いているようで、山の一部を彩っている。

ゆらがMEMちょの声にそちらを見てから解説した。

 

「ちょうどいい季節だからツツジだね、ここで一番有名な花かな。でもこれは特に綺麗な色付きみたいだよ」

「へぇ、自然に生えている木でもこんな感じになるんだな」

 

アクアは大自然のそばで育ったが、わざわざ山の中に入るような活動はしていなかった。

そのため、綺麗な花を自分から見にいくのは珍しい。

そんなアクアから見てもMEMちょが示した花は綺麗に見えていた。

 

「はーいゆらちゃん、アクたんこっち向いて〜はいポーズ」

 

MEMちょがスマホを構えてアクア達が木を背景に映る位置へ移動した後、そんなセリフを発する。

その言葉に合わせてアクアとゆらは自身の格好に合わせたポーズを取って写真へと収まった。

変装しているため、顔は分からないはずだが、二人とも自分が撮られるのに慣れている。

撮られるその一瞬だけは、周囲にいた一般観光客も思わず不思議と二人に目を引き寄せられるくらいの存在感を発した辺り流石トップスターと元最優秀子役である。

 

「うわぁ、二人とも眩しい!いや、よくその格好でバッチリ決めてくるねぇ」

「まぁ本職だしな」

「MEMも普通にできるでしょ?」

 

もちろんMEMちょ自身も撮られ慣れているものの、この二人ほどバッチリは無理だなぁと自己分析をした。

顔隠れてる状態でどうやってオーラ出してるんだろうと首を傾げる。

ただ二人はこんな事当然と言いたそうに次へ進もうとするのを見てMEMちょは理解を諦めて二人についていった。

少しずつ上へと登りながら、MEMちょの見つけた撮影ポイントで撮るを繰り返す。

そうこうしている内に今回の目的地へと到着した。

 

「これは凄いな」

 

アクアはそこからの景色に思わず声が出る。

初心者用と聞いていたこともあり、実のところそこまで見晴らしを期待していなかったアクアは良い意味で裏切られたと感じている。

 

「季節もあって色付いているのもいいね。秋も紅葉があるから綺麗だけどツツジの色合いも含めるならこの季節かな」

「ゆら、ここってどのくらいの高さなの?」

 

見渡す限りに山が見えるためあまり高さが分からないMEMちょは詳しい人間へ写真を撮りながら尋ねる。

後で自身のインスタに、ゆらと遊んできたと言って写真を上げるつもりの彼女はこの辺りの解説もコメントに入れたいと思っていた。

 

「えっと確かこのコースだと1200mとかだったかな?一番高いとこなら1600mあるよ」

「えぇ!確かに結構歩いたけどここって東京スカイツリーより高いの!」

「そう聞くと凄いな。俺も正直スカイツリーくらいだと思ってた」

 

想像を超える高さに再度感心する二人。

そんな自然に圧倒されている二人を見てゆらは自分がしてやったりと言いたげに胸を張った。

 

「そう、こういう景色を報酬に山登りするのが登山の楽しさなんだー。私流の楽しみ方だけど、どうだったかな」

「いや、良かった。今日一日使った甲斐はあったなって思えた。今後、演技する時にこの気持ちも使えそうと思うくらいに」

 

アクアは素直な感想を口にする。

ゆらの言うように自然の凄さを感じるのにわざわざ強がる必要もない。

こういう体験も演技の幅を広げるキッカケになりそうだとすぐに結びつけてしまっているのは職業病のようなものだろう。

 

ひとしきりアクアとMEMちょが満足したところでゆらはポンと手を叩いて合図を出す。

 

「さて、流石にここだとちょっと邪魔になっちゃうから少しずれて食事しようよ」

 

そんなゆらの言葉に移動した二人は、彼女の取り出したレジャーシートを見る。

そのシートには、彼女のスマホケースと同じ遊園地のキャラクターが描かれた実に女の子らしい代物だ。

 

「えっこれ可愛いじゃん!」

「でしょ〜。やっぱり単色のシートじゃ味気ないからね」

(……今の子はこれがいいのか?付いていけないんだが)

 

アクアからすれば普通のブルーシートでいいのにこれを他の旅行客達に見られるのが少し恥ずかしい。

だが流石に自分一人だけ地面に座って食べるというのも何なので諦めて参加させてもらうことにした。

 

「私は今日作ってきたよ、こんな感じで」

 

ゆらは小さなお弁当箱を取り出してパカリと開ける。

中には冷凍食品が半数を占めるものの色とりどりなおかずが並んでいてバランスが良さそうだった。

 

「あっ私も作った!最近ママに色々教わってるんだよ〜もう私も今年で大学卒業だし〜?アイドル一本でやるにしても武器って必要だし」

 

そういいながらMEMちょも自分の弁当を広げる。

こちらはゆらに比べて量が多く、手作りらしいものも多い。

まだ若干の不慣れは見えるもののよくできた弁当だなとアクアは思った。

 

「アクたん、そのお弁当誰が作ったの?ミヤコさん?」

「ん?ああ母さんだな」

「えっ!?ミヤコさんそんな上手いの……私だけ冷食多いし」

 

ここでの母さんはアイの意味で使っている。ただ状況が状況だけにミヤコとして受け取ってもらえるだろうと嘘を使わないように返した。

ゆらは見た目だけ見るとあまり料理をするように見えないミヤコより料理ができないと知ってがっくりと首を落とす。

そんな彼女をMEMちょはよしよしと慰めた。

 

 

「そういえばMEMは大学で何教わってるんだ?」

 

弁当が半分ほどなくなったところで、ふとアクアはMEMちょが大学で何を専攻していたのか気になった。

もうすぐ大学卒業と言っていたからこそ、どんな事を学んだのか気になる。

アクアの場合、前世は医大へと進んだ。大学の話というのは自分の気持ちをさらに揺さぶってくれるかもしれないという打算も含まれていた。

そんなアクアの言葉にMEMちょは特に悩む事なく答える。

 

「私は映像学科だよ。ほら、折角さ夢叶って芸能人になって順調に大きくなってドームライブまでしたんだからその後もこの業界でやっていきたいんだよね」

 

少し悔しそうな表情をしながらも覚悟のこもった言葉をMEMちょは続ける。

 

「私が全然才能ない……なんて言うつもりはないんだけどね、やっぱりゆらだけじゃなくて他のみんなと比べてもこれと言って今後やっていける特技がある!とは言えないからせめて別の方面で何かできたらなーって」

 

自分はできてもバラエティくらいであり、それだけでは需要が高くなる自信がない。最悪ニノやきゅんぱんのように裏方でもやっていけたらという気持ちで学んでいたわけだ。

そんな仲間の言葉に感動したのかゆらはMEMちょの方へ熱い視線を送っている。

そんなMEMちょの話に、アクアは一つ昔のことを思い出した。

 

「そういえば前はMEMと一緒にカントクに映像編集とか教わったこともあったな」

「そうそう!アクたん私よりいい感じにやっちゃうから悔しくってさ〜今なら絶対負けないって言い切れるよ?あとマーケティングについても並行して教えてもらってたから今の私はカリスマインフルエンサーとか名乗れちゃうかも!」

 

MEMちょなりにC式部解散後の道筋は考えている。

B小町Rが軌道に乗れば皆別々の道に行く時が来ると思っている彼女は自分が今後やるべき道を考えていた。

そんな彼女にアクアは一つ提案する。

 

「映像ね、YouTuberとかいいんじゃないか?」

「へ?」

「うちって配信者部門もあるし、最近はYouTuberがテレビ出たりアイドルがYouTubeやったりも珍しくないし」

 

そんなアクアの言葉に少し考える素振りを見せるMEMちょ。

確かに折角C式部ちゃんねるで色々ノウハウも溜めたのに、完全に捨ててしまうのも勿体無い。

C式部引退後はマルチタレント兼YouTuberを個性に、他のタレントにない客層を獲得することでバラエティレギュラーを狙う道もあるというのがアクアの意見である。

 

「確かに!うち初期配信者メンバーやぴえヨンさんもいるし土壌はバッチリだよね〜!どうして気付かなかったんだろ……ありがとアクたん!」

「どういたしまして」

 

自分が悩みを解消する前に人の悩みが解決できたようでアクアは少し困惑するも、もしかしたら自分の悩みもこれくらいあっさり解決するかもしれないと少しポジティブな気持ちになれた。

 

帰り道、今日の感想を話し合いながらアクア達は山を降りる。

 

「どう、山登りも悪くないでしょ」

「……ああ。想像の20倍良かった」

「ふふっそれはよかった!アクア君が気に入ったならまたそのうち誘おうかな」

 

これまでのゆらは誰も相手がいないので一人で登っていたのだが、話し相手がいる山登りも悪くないと今回で思った。

 

「予定が合う時だったら参加したいな」

「あっ!私も参加していい?やっぱり写真どれもいいの撮れたからさ。ゆらなら色々な山のこと知ってるよね」

 

MEMちょは降りる前に写真の確認をした時、改めて自然の力を強く感じた。

今後も時々こういった写真を撮りたいと思わせてくれる程度には。

 

「勿論!私から誘おうと思ってたくらいだからありがと。予定決めたら二人には一度連絡するね」

 

二人もできた登山友達にホクホク顔のゆら。

今回の登山については全員が全員満足いく結果が得られたと言っていい。

三人とも特に危なくなることもなく、行きと同じルートを違う角度で眺めながら無事に帰路を完走し、最後まで問題なく山登りを完了した。

 

後日。

 

「あわわわわ、助けてアクた〜ん」

「なんだよMEM」

「はわぁ!突然MEMちょさんが入ってきてどないしたん?」

「あぁ、慌てるMEMちょも可愛い。……けど珍しいね」

 

使用中の札と入っているメンバーの名前が書かれた板が入り口に貼ってあるため、乱入は珍しい。

 

「しっかり全部の写真チェックしてアップしたはずだったのによく見たら一個だけアクたんっぽい髪の男の子映ってる!って匂わせだ!って言われてるんだよぉ」

「……YouTuberもし本当にやるならそこは本当に気をつけろよ?というかゆらも含めて三人で行ったんだから別に名前くらい出して良かったのに」

 

写真さえ隠してもらえればアクアからすれば名前なんて使われても良かった。

同じ事務所なので名前さえ出しておけばボヤも起こさずに済んだだろう。

 

「ほんとぉ?ごめんよアクたん。私もっと勉強するから……」

「でもうちらも気をつけんとあかんな。アクアさんうちらの写真に映ること多そうやし?」

「マリンが映っても炎上しない環境作りとかするのもあり」

 

自分のやらかしに少ししなしなになったMEMちょ。

そんな彼女を見てB小町Rのメンバーは明日は我が身とスキャンダルについて意識を強化することになるのだった。

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