【推しの子】ヤケクソハッピーハーレムルート   作:ただの暇神

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マネージャー

レッスン室で汗を流すB小町Rの五人。

季節は一月に入り、雪も降ることがある季節となっているが、この部屋は十分な熱気がこもっている。

キリがいいところまでしっかり練習をしたところで、事前にB小町R所属メンバー全員の時間をくれと話していた壱護がやってきた。

ミヤコがやってくることはB小町Rのマネージャーをする予定のため珍しくないのだが、壱護は裏方に徹していたことが多く、彼一人で来たということは全員何か話があるのだろうと考える。

簡単に挨拶をした壱護は早速とばかりに本題に入る。

 

「お前らのマネージャーは長い付き合いのあるミヤコ……にお願いする予定だったんだが」

 

嬉しいような困ったような複雑な気持ちを宿した表情の壱護はそこで言葉を切る。

口に鉛でもついているのかと思うほどに続きが出てこない。

 

「どうかしたの?そんな歯切れ悪い感じで」

 

皆の気持ちを代弁したルビーが尋ねる。これまでの壱護は割と反応に困ることもガンガン言っていたような気がするのだがと不思議に思っていた。

今いないミヤコが関係しているようだが、何の話かはまだ誰も把握できていない。

どうやら覚悟は決まったらしく壱護は一息入れて言葉を続けた。

 

「……ミヤコが妊娠した」

 

一瞬、世界の時が止まったような静寂が訪れる。

フリーズするものが多い中、最初に動いたのはルビーだった。

 

「うわぁ!凄い!凄いよ!壱護さんおめでとう!!」

 

ぴょんぴょんと跳ねて喜びを露わにするルビー。

ルビーのそんな空気に当てられて他のメンバーも復帰した。

 

「ルビーの弟か妹ができるわけね。おめでとう社長」

「わあ〜、おめでとうございます。私、身近で妊娠した人見るの初めてだなぁ。少し楽しみかも」

「おめでとう、産まれたら私にも抱っこさせて」

「おめでとうな、うちも楽しみやわ」

 

全員壱護とミヤコの間に子供ができたことを喜ぶ。

暖かい空気がレッスン室を満たしていく。

そんな状態だったが咳払いをして壱護は言葉を続けた。

 

「まぁ悩んだんだけどな。去年くらいしか時間がないと思ってたんだが、思ったより後ろ倒しになっちまった」

 

中学一年生の期間なら誰のマネジメントも必要なかったので、最初はその時期に合わせてミヤコが妊娠できればという思いがあった。

年齢的にもミヤコの場合はボーダーラインと言ったところで、二人が自分の子供を持つには事実上のラストチャンスだっただろう。

ただ結果的には想定よりズレて年末に妊娠という形になってしまう。

 

「……ということはもしかして」

 

あかねは先程までの空気から一転不味いことに思い至ったと言う表情を浮かべる。

他のメンバーはまだ喜びの方に意識が向いてそこに思考が行っていない。

 

「壱護さん、ミヤコさんが妊娠したなら私たちのマネージャーは当面できないですよね?」

 

あかねの確認を込めた言葉に壱護は苦虫を噛み潰したような顔で頷く。

そこで初めて全員が思いの外危機的状況なことに思い至る。

 

「ああ、そうなる。だから今日話に来たんだよ」

 

育児期間を考えてミヤコは良くて1年と少しは離脱することになるだろう。

ミヤコ自身アクア達を育てた実績があるため、そこまで甘い見積もりはしていない。

 

「そこでだ、代わりのマネージャーを用意した。入ってくれ」

「あのねぇ壱護さん?言っとくけどマネージャーってのは芸能人との信頼関係が」

 

ガラリと扉が開かれて入ってきた人物を見て全員が驚きの声を上げる。

 

「B小町R臨時マネージャー星野アクアだ」

「はぁ!?」

 

先ほど壱護へ向けて文句を言うつもりだったかなも思わず声を上げてそちらを凝視する。

 

「まぁ申し訳ない気持ちは強いが、コイツならお前らも文句ないだろ」

 

自分の責任だとわかっているので強くはいえなかったが、考えうる最高の代役を用意したものだと壱護は考えていた。

どうしてアクアが引き受けたのか、それはミヤコの妊娠発覚まで遡る。

B小町Rのデビューも近付いて関係者による打ち合わせが行われようとしていたある日のこと。

アクアは時間を持て余しているのもあり、その手の会議に参加して意見を言うことを許されている。

その日はアクアとミヤコがたまたま一緒に会議室へと向かっていた。

 

『うっ……』

『は?だ、大丈夫かミヤコさん。……いやこれって』

 

突然その場に蹲ってから吐き気を我慢する姿にアクアが心配する。そしてその姿には非常に見覚えがあった。

専門職と言って良い男はすぐさまミヤコに確認する。

 

『ミヤコさん、確認したいんだけど……妊娠してる?』

『妊……娠?』

 

まだ現実が飲み込めない様子のミヤコ。

今年がボーダーラインだと話して壱護と妊活に励んでいた彼女だが、成果が出ず半ば諦めていた。

 

『確かに今月はまだ妊娠検査薬で確認はしていなかったけど』

『これ、多分悪阻だと思う。すぐに確認したほうがいい』

 

アクアは口には出さなかったが、ミヤコはもうすぐ40歳を迎える。

かなりリスクの高い物だ。ただ聞いている限り望んでの妊娠らしく、その辺りは自分たちも把握しているのだろう。

 

『でも会議が』

『流産とかしたくなかったら急いで持っている業務の引き継ぎをした方が良い。ミヤコさんは来年で40歳だし元気な子供を産みたいなら徹底的にケアをしないと』

 

その後アクアがスムーズに今後の対応についても説明する。

ミヤコはぽかんとしながらアクアを見た。

 

『アクア、あなた詳し過ぎないかしら』

 

ミヤコという近しい人物のトラブルに思わず前世の感覚で対応したアクアは目を逸らしながら苦しい言い訳を口にする。

 

『……妊婦について調べたことがあって』

『アンタも思春期ね、お願いだから突然誰か妊娠させたとか言って連れてこないでよ?』

『違……違わないけど』

 

違うと声を大にして反論したいが、多少の辱めは受けるべきだろう。

こうして妊婦について詳しい中学生の指導のもと、ミヤコは自分の妊娠を悟ることになった。

その後はミヤコに安静にするよう伝えてアクアだけ打ち合わせに参加する。

当然ミヤコだけ居ない事に首を傾げた壱護はアクアに尋ねた。

 

『アクア、ミヤコは?』

『それなんだけど……』

 

先程あった出来事を聞いて壱護は目を見開く。

正しく夫婦となって10年以上経つ二人はこれまで忙しくて時間に恵まれていなかった。

 

『マジかよ』

『壱護さん喜んで良いと思うんだけど』

『嬉しいより驚きが強いんだよ』

 

少し時間が経って壱護が落ち着いたところで今後の課題を話し始める。

 

『にしても……どうすっかなマネージャー。ニノにアイと兼任でやらせるか?だけどアイはとびきりに忙しいからな。……C式部にも人を出すし配信部門の管轄は俺が受け持つとしても手が足りねぇ』

 

ミヤコの受け持つ範囲は以前より狭くなったもののかなり広い。

営業などは壱護が全て担っているが、ミヤコの尽力こそが苺プロを支えていたのは間違いなかった。

 

『……俺がやろうか』

『は?アクアが?いくら大人びてるっつってもできるわけ……いや、お前はできるなそういや』

 

暇していたら仕事を時々手伝わされていたアクアは、一通りマネージャーの仕事も把握している。

最近はめっきり減ったものの、短い確認さえあれば十分受け持てると壱護も気が付いた。

何よりB小町R全員と仲が良く、コミュニケーションはミヤコよりさらに円滑になる可能性が高い。

 

『ミヤコが産休明けるくらいまで頼んでもいいか?』

『ミヤコさんは俺の第二の母みたいなものだし、その人の助けになるなら喜んでやる。趣味探しも終わったし』

 

幸い少し前にアクアの自分探しは終わっている。

気に入ったものを今後趣味にはするが、時間を割いてまで自分の感性の再確認をする必要は無くなった。

 

『あれ結局何だったんだ?』

『そこは秘密にさせてくれ』

 

あの時のアクアを冷静に分析すると少し早めの厨二病に近い状態だ。

前世の記憶があって今の自分と折り合いがつけられなくて混乱していた、なんて間違っても人に話せない。

結局上手く誤魔化したまま、アクアはB小町Rのマネージャーになることになった。

 

簡単に経緯を説明されたアイドル組は納得と安堵の表情を浮かべている。

これまでのアクアとしての行動が、マネージャーとしてもやっていけるだろうという信頼を勝ち得ていた。

 

「まっそもそもアンタが皆をアイドルに誘ったようなもんだし?普通責任取るべきとは思ってたから当然よね」

「どんな目線だよ、フォローくらいはする予定だったがここまでやるのは想定外だ」

 

何せマネージャーのフォローはしたことあってもマネージャーはそれまで経験になかった。

だからアクアとしては不安がないわけではない。

 

「でもアクアくん、本当はちょっと嬉しいと思ってるでしょ」

 

ニコニコと言いながら珍しくアクアを揶揄うように言うあかね。

実際のところルビー以外では一番付き合いが長く、プロファイリングの技術があるだけあって彼女の予想は正しい。

内心では彼女達の仕事を間近で見られるということ自体嬉しく思っている自分がいるのをアクアは自覚していた。

 

「まぁ妹の初ライブを特等席で見られるからな」

「出たわねアルティメットシスコン野郎」

 

嘘ではないが、誤魔化せそうな言葉を選ぶアクア。

あかねにしたはずの言葉だったが、何故か別方向からツッコミが入る。

アクアは間違ってもかなにだけは悟らせたくないと思っていた。

 

(絶対にこいつにバレたら面倒なことになる)

 

あかねは察してくれたようでくすくすと控えめに笑うだけで済ませてくれ、アクアはホッとした。

 

「まっアクアがマネージャーならそこまで大きな問題もないだろう。何かあったらコイツを通して聞いてくれ」

 

それだけ言うと妊娠中の妻をフォローすべく壱護は素早くこの場を離脱する。

 

「にしてもアクアさんがマネージャーかぁ。アイさんで目が肥えとるやろうから厳しそうやなぁ。前のダンス指導みたいにうちには甘めにしてくれへん?」

 

取り残されたメンバー達だったが、結果的に馴染みある顔のため、気楽に話し始める。

みなみは以前簡単にダンスを見た時のアクアを思い出して思わずそんなことを言っている。

あの時よりはダンスも歌も良くなったが、グループで一番苦手なことは自覚しているため、指摘祭りを危惧していたのだ。

ただアクアは自分の考えている今後の方針を口にする。

 

「心配するな、壱護さんとも相談したけど、しばらくはパフォーマンスの指示とかはないぞ。最初はYouTube活動だ、歌もダンスも初ライブまで隠す」

「は?なんでよ」

 

歌もダンスも練習してそこらのアイドルよりイケると自信を手に入れていたかな。

イメージ更新のために必要とはいえ、芸能活動を休業していた分を取り返すべく、迅速な行動が必要という焦りがあったため一見消極的なアクアの考えにかなは反発する。

だがアクアにはアクアの考えがあった。

 

「休止前に手に入れたコネを使っていいお披露目場所をゲットしてるからな。それまでに小規模ライブで折角の初ライブを使うのは勿体ない」

 

マネージャーを任された時からいくつか候補はあった。

だが最終的に選んだのは、C式部やぴえヨンといった知名度の高いYouTube動画に参加して知名度だけを大きく上げ、期待感を煽った状態で大舞台でお披露目といったもの。

 

「もうマリンはお披露目の場所は用意してそうだけど、いつ頃なの?」

「8月8日、今年のジャパンアイドルフェスティバルで考えてるけど」

 

ジャパンアイドルフェスティバル、通称JIF。

アイドル達の祭典であり、普通のグループが何年も活動してやっと立てる舞台と言われている。

C式部も出たことはあるが、活動2年目の時期であり、1年目は流石に出ていなかった。

一同は揃って驚きの表情を浮かべている。

そんな中、一人だけ表情を変えなかったフリルがアクアに確認する。

 

「へぇ、そんないい舞台用意してるなんて流石だね。ちなみにステージは?」

「流石にスターステージ。けど初ライブとしてはかなりインパクトあるだろ?」

「まぁね、これだけ大規模ならアイドルファンだらけだし。アイドルファンほど私たちのグループ名も相まって、一体何者なんだってなってくれると思う」

 

JIFにはそのアイドルの実力や知名度によってステージのランクが変わってくる。

とはいえ一番下のスターステージでもその辺の泡沫ライブイベントとは比較にならない膨大な熱気を持っている。

フリルも以前行った現地の様子を思い出して頷いていた。

下手な箱で初ライブをやって消化してしまうよりは、JIFという大舞台でガツンとインパクトを残した方が印象も良くなるだろう。

 

「JIFっておにいちゃんどうやったの!?あそこって応募数すごいって聞くんだけど」

「その辺はコネだな、昔会ったプロデューサーにちょっと頼んだらくれた」

「へぇ!すごい優しいねその人」

 

マネージャーが決まった時、急いで妹達のライブの初舞台に相応しい場所を探していたアクアは、大きなアイドル祭典のプロデューサーや出資者を確認した。

アクアは休止中とはいえ、元々有力なタレント。

人によっては出場資格をくれる人がいるかもしれない。

そう考えて探した結果、JIFの関係者の中に鏑木の名前を見つけたわけだ。

直接出資などをしているわけではないので運が良ければ程度に確認したアクアだったが、鏑木へ借りという形で枠を一つ手に入れられたというわけである。

この辺は芸能活動をした結果、妹を助けたいという部分につながっていたわけで、最初の目的を達成したといえるかもしれない。

 

「つまり私たちは8月までにJIFで見てみたいって思わせるくらいのインパクトを残す必要があるんだね」

「ある程度人がいれば、その人を呼び水に更に人を集められるからな。あの会場は規模通りに人が多い。そして人さえ集められたらお前らならやれる」

 

アクアははっきりいってパフォーマンスを心配などしていない。練習と本番は違うとはいえ、それくらいに彼女達を信じている。

ルビーがあの日宣言した3年でのドームライブ。

他のメンバーも一部不満を漏らしつつも目標として頑張っているらしい。

それを本気で達成するのならばこのくらいの荒技は必要だと考えていた。

 

「……うん、私もやれることは全部やろうかな。アクアくんも自分だけで考えずに私たちを頼ってよ?」

「心配しなくてもあかね達が主役なんだから確認はする」

 

アクアとしても今回は初動でミスしたくないが故に確認前の行動をした結果がこのサプライズなだけで、毎回勝手に動くつもりではない。

 

「とりあえず当面の目標はJIFだ。セットリストとかは俺より他の人に確認したり、ルビー達が自分たちで決めた方がいいだろうから口出ししないけどいいよな?」

「そうだね、でももしお兄ちゃんもリクエストがあったら教えてよ?」

「一旦ルビー達の希望が出揃ってから考えるから心配するな」

 

ライブ関連の話が一区切りしたところで、かなはアクアに目標までの方針をどう考えているか確認する事にした。

 

「それにしても私たちのデビュー日程は決まってるみたいだけど、それ以降の動きはJIFまで簡単には決まってるの?」

「さっき言ったようにメインはYouTubeだな。テレビは最初あえて出ない。ライブが終わってから一気に露出を増やす方向だ」

「まっ確かにテレビ方面は少し前とはいえ私も黒川あかねもいるから後回しでも視聴者層獲得できてるだろうしね」

 

かな達も一応YouTubeの動画に出ていたが、あくまでゲストという形。

自分たちがメインでいたわけではないため、自分たちの視聴者という形で固定客を取れているわけではない。

 

「初動に関してだけど、幸いうちは導線を確保するのは容易だし、公式配信でお披露目があるから最初からそれなりには知られると思う。あとはそれらのコラボで得た視聴者を自分たちのファンにするために、企画とかやっていく感じで行けたらいいな」

 

アクアとしては最高に理想通りの動きをしてもドームという舞台はそれなりに大変だと思っている。

みんなの力は疑っていないが、この世界いいものが必ず売れるとは限らない。

アクアも少しでも可能性を増やす努力は惜しまない事に決めている。

 

「ええな!うちも何か企画とか考えた方がええんやろうか」

「まぁ時間あるうちに他の人の配信とか見てどんな企画があるかを確認した方がいいかもな」

 

初心者でもできる企画だって数多く存在する。

編集などはアクアだけでなく、MEMちょも手伝ってくれる事になっているので彼女達に新しい負荷が加わることはない。

とにかく企画を沢山思いついて彼女達はそれに合わせた立ち回りができるようになることこそが今与えられた仕事だった。

 

「目標も決まったし!じゃあ私たちで今から企画考えよ〜!」

「いきなり企画?キャラ付けから考えた方が良くない?ネットってテレビの企画流用したキャラビジネスなとこあるじゃない?」

 

かなは企画ばかり考える事には否定的なようだ。

今後どういうキャラクターでやっていくのか最初に擦り合わせてキャラ被りを起こさないようにしたいという気持ちもある。

 

「キャラ付け気にし始めたら大変だよ?ずっと配信中やライブ中に演技する事になって人によっては疲れちゃうかも?」

 

実際練習中に踊りながらアイの演技やゆらの演技を被せる練習をしているあかねならともかく、他のメンバーには少し厳しい話だった。

ただキャラが立っていた方が覚えられやすいのも事実。それぞれの主張を出し合って、少し話が煮詰まり出した様子を見せたところでアクアが口を開く。

 

「別にいいだろ、お前らはキャラ付けなんてしなくて。というか下手にキャラ付けすると折角の魅力が減るから素に近い方がいい」

 

素直なアクアの感想を言う。もともと彼女たちに声をかけたのはそのキャラクター性も大きな要素だ。

下手に合わない味付けをされるより今の方が良いと考えている。

そんなアクアの反応に全員が全員嬉しそうな反応を示す。

これまで色々なタイプの芸能人たちを見てきたアクアの太鼓判だ。

全員それだけで自信になるし、もっと輝けるようになりたいと思える不思議な言葉。

結局キャラ付けについてはアクアのおかげで全員基本的にそのままの自分をベースにする事に決定し、残った時間をウケが良さそうな企画を探すのに費やす事になるのだった。

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