B小町Rが始動して二ヶ月ほどが経った。
彼女たちの存在は、苺プロファンやコアなドルオタだけでなく、既に幅広い人へも知名度を獲得しつつある。
全員が他のグループならセンターを張れるルックス、各々の持つキャラクター性、そして伝説のアイドルグループB小町の後継者を名乗る度胸。
これらが大きな話題を呼んだことが大きい。
この機を逃すまいと、この日も新しい企画動画を撮影するため、アクアたちはスタジオで準備をしている。
「いやー順調ね。流石ネットに強い事務所なんて胡散臭い謳い文句を出しているだけはあるわ」
自分たちのチャンネルを見て、まだ一度もライブをやっていないアイドルとは思えない登録者数にかなは満足そうだ。
自身についてのポジティブなコメントを抽出してはニヨニヨと顔を緩めている。
「かなちゃん口悪いよ?実際、苺プロってもう10年もネット関連のビジネスやってる超大手だもんね。一番ノウハウのあるミヤコさんがいなくても手順とかノウハウがまとめられてるのも大きいと思うな」
あかねは配信者部門ができてそこまで時が経っていない頃に加入しているため、大きくなるまでの軌跡もそれなりに知っている。
どれだけミヤコが工夫しているかを見てきていたため、そのありがたみを痛感していた。
これまでゲストとして配信者部門の人たちの配信や動画へお邪魔したことはあっても、自分たちで企画などを考えたことのなかった二人は、今の環境に感謝をしている。
「企画って考えるの大変だよね~。ある程度マニュアル化されているから何とかなってるけど、もし一からってなると無理無理」
ルビーは首を振りながら自分たちの動画再生リストを見る。
そこにはデビューしてから週に最低2回は出している配信や動画がずらりと並んでいた。
ライブなどの本格的な芸能活動が始まってしまえばこのペースで出す事はできないので、今のうちにという気持ちもある。
「こうしてみると結構な種類があるなぁ。ネタ切れにならんようにバランス考えられとるんやね」
ルビーのスマホを覗き込んだみなみも改めて自分たちの出してきた動画を確認する。
『【B小町Rちゃんねる】YouTube始めました』
『【熱狂】箱の中身当てゲームで衝撃の反応!?【B小町Rちゃんねる】』
『【真剣勝負】一番勝負強いのは誰だ!?ポーカーバトル!【B小町Rちゃんねる】』
これら以外にもいくつか企画動画がリリースされている。
特にジャンルに偏りはなく、今後の予定では、もっと色々なことに手を出そうと考えており、皆モチベーションは高い。
「チャンネルの中身を見たら本当に普通のYouTuberやってるよね私たち。マリン、一応確認だけどこのままで大丈夫?」
登録者や再生数などYouTuberとしての数値は優秀だが、目指す方向性はこれでいいのかと少し疑問に感じるフリル。
そのままYouTuberというイメージがついてしまえば、アイドルとして見られなくなるのでは?という心配が内心あった。
「その辺は苺プロに所属している芸能人だってことをアピールする企画を定期的にやる事で、アイドルっていう印象をキープできるんじゃないか?今度C式部とのコラボもあるし、心配いらないと思う。あとこういうのは考えてるけど」
そういってアクアは紙束を質問してきたフリルへと渡した。
何を渡したのか気になった他の四人もスッと近づいて覗き込む。
「『苺プロ芸能人クイズ』……確かに公式素材を使えるのは強いかも」
パソコンで作成された文書を印刷されたそれは企画書だった。
ぱらりと捲れば複数の企画が書かれており、アクアなりにB小町Rのことを考えているのがよくわかる。
そのうちの一つを見て興味を持ったフリルはボソリと呟く。
内容としてはシンプルでこれまで苺プロの芸能人が出たドラマや映画のワンシーンからセリフ当てをするゲームとなっている。
「いや、使えるの?事務所じゃなくて版権先が持ってるんじゃ」
もっとも長いこと芸能活動をやっているかなは、そこに引っ掛かったのでアクアに尋ねる。
折角順調な活動が権利違反で大炎上なんてことになれば目も当てられない。
「その辺は俺が出たことある作品に限るけど、監督とかプロデューサーとか経由で権利者にお願いしたら意外とあっさり許諾くれたぞ。概要欄とかに説明を書いていたらOKらしい」
「行動早過ぎない?」
アクアがこれまで世話になった監督やプロデューサー、スポンサーに連絡してそれなりの数の作品で許可を取った。
アクアだけでなく、他の苺プロに所属するタレントが出演している作品を選んだこともあり、問題としては作りやすい。
そんなアクアにかなは感心したような表情をしている。
「おにいちゃん人脈強いよねぇ。JIFの時もしれっと権利ゲットしてたけど」
「その辺はカントクの教えのおかげだな。コミュ力大事って言われたけどマジで大事だ。お前らもこれは意識しといたほうがいいぞ」
このカントクの言葉があったからこそ、アクアはそれなりに長い間、最前線で活躍を続けてこられたと認識している。
本人に直接今更お礼を言う事はないが、内心では感謝をしていた。
「うぐっ……黒歴史が」
アクアの話にかなは自分の過去を思い出して頭を抱える。
かなもそんな話を五反田からされていた。
アクアに負けたと『それが始まり』で思ってからは気にするようになったものの、以前はそんなこと知ったことかと振る舞っていた嫌な思い出が蘇る。
結果的にかなは一度干されかけて、乱歩の美玲という当たり役が出るまで、ずっと仕事量は下降傾向だった。
「昔のかなちゃん控えめに言っても性格終わってたもんね。今はちょっとだけマイルドになったけど」
「アンタ一応私のファンでしょ!そんなこと思ってたの!?」
突然あかねから放たれた言葉の刃にかなはしょぼくれた状態から復活してツッコミを入れる。
やはりあかねが以前言っていたように、かなには多少強気にコミュニケーションを取るのが有効なのだろう。小気味のいい反応が返ってくる。
二人が戯れあっている間に、他のメンバーも企画を見て各々の反応を示す。
「これ面白そうやね。うちは皆ほど答えられんやろうけど、単純に色々なシーンに出ている先輩の方々を見たいし、視聴者も喜んでくれると思うんよ」
みなみは他のメンバーを見てまず自分の正答率が低くなるだろうなと思いながらも肯定を口にする。
彼女自身はアクアの問題に対しては多少は分かると思うが、あかねやフリルが無双するだろうなと結末を予想していた。
ただそれはそれで絵として面白いだろうと考えての回答だった。
「じゃあ今日撮影予定はこの企画に決定!おにいちゃん準備よろしくね!」
パチンと綺麗にウインクしてアクアに笑顔を向けるルビーのお願いにアクアはため息を吐いた。
「おい、今日はこれじゃない予定……はぁ……倉庫の三番に企画名でセット用意してるから取ってきてくれ。俺は映像の準備するから」
「はーい!ありがとね、おにいちゃん」
「アクアってほんっとうにシスコンよね」
反論する素振りを見せながらもすぐに準備を始めるアクアを見て、かなは心底呆れた視線を向けるのだった。
「そういえばアクアさん、ここに書いてある天の声って誰がやるん?」
一通り準備ができて後少しで撮影というところでみなみが疑問を口にした。アクアもそこを失念しており、こめかみに手を当てて考えた。
「さっきゆらがいたからお願いするか?」
「忙しいんやない?スタジオにおるってことは」
それもそうかとアクアは冷静じゃなかったと自分を落ち着かせる。
そして考えている最中に横から声が掛かった。
「お兄ちゃんがやれば良くない?」
「お前な、アイドルに男は厳禁なんだよ。推しに男の影なんてちらついてみろ、キツイだろ」
「はードルオタらしい思考ね」
アクアの返答にかなは呆れたように返す。
結局テレビに出るようになれば、男と話す機会などいくらでもあるのだが、最初だけでも夢を見せた方がいいというのがアクアの考えだ。
そこにあかねがルビーに助け舟を出す。
「でもアクアくん。私たちって既に過半数はアクアくんと共演したり兄弟だったりの情報がバレてるよね?変に関わらない方が不自然じゃないかな」
「……一理あるか?」
むしろ実兄と不仲なのにブラコン営業しているとルビーが思われる方がまずいのか?と自分の考えが間違っていたのか頭を更に悩ませる。
「そうだよお兄ちゃん。私も配信でお兄ちゃんの話したいよ」
「……ルビーはもう何度も俺の話してるだろ」
まるで兄の話ができない事が辛いと言いたげにうるうるとアクアを見つめるルビーをアクアは冷たい目で見返す。
例えば先日のライブ配信でも
『え?好きなもの?お兄ちゃんだけど』
『かっこいいと思う職業かぁ〜役者さんとお医者さんかなぁ』
『今度お兄ちゃんと一緒にパフェ食べに行くんだ〜』
このようにまるで自重した様子を見せない姿をすぐに思い出す事ができる。
本人曰く『嘘はいやだ』とのことだが、夢を見させる職業でもあるとアクアは思っているのでその点では複雑だ。
実際配信のコメントにもこんなコメントが並んでいる。
・アイドルユニットとは思えない男の存在の頻出率に草
・このユニットにアクアの影が見える
・まぁかなちゃんとあかねちゃんも仲良かったし
・ルビーちゃんお兄ちゃん好き過ぎて会話の8割が兄に絡むの可愛すぎる
・他の子もやっぱりアクアと仲良いのかな
・久々のアクかな期待しちゃう
・もしかしてこのユニットオタクに厳しい?
このように一部杞憂民が湧いており、既に一部のファンと子役時代から仲の良いメンバーがアクアと絡むのを期待する層で紛争が起こりそうな気配があった。
ルビーだけの問題では収まらなくなりつつある。
「なによ『久々のアクかな期待しちゃう』って子役の頃から思ってたけど『アクかな』とか『アクあか』とか誰と誰の掛け合わせがいいとか馬主なの?菊花賞狙える馬産ませたいの?」
「かなちゃんアクアくんの子供産みたいんだ」
「ちち違うわよ!掛け合わせの例えの話!」
横から聞こえるそんな会話をアクアはスルーしながら考え、自分で結論を出すことを諦めた。
自身のスマホを取り出してとある番号をコールする。
『もしもし、どうしたアクア』
「ごめん壱護さん今大丈夫?」
こういう時はこれまでアイドルを育成してきたノウハウの塊である壱護に聞くのがいい。
結局B小町もC式部も彼の手腕が大きいところがあり、B小町Rも小さな枠組みはアクアが設定しているが、おおまかな方針は壱護が考えている。
「というわけなんだけど、壱護さんの意見を教えてほしい」
『そうだな……B小町の頃は男のトラブルとか面倒だから隠させてたけど申告制で男友達どころか彼氏がいようと気にしてなかったな。隠してたやつもいたけど』
「……そうだったのか」
『というかまさにお前の母親がそうだろ』
納得するアクアに壱護は続ける。
『ただ今時はテレビに出たらどうせ男と話すからな。手近なところでファンに耐性を早めにつけさせた方が安全かなって思ってんだよなぁ。変なファンが暴走なんてのもあり触れた話だ。多少ロスにはなっても安全には代えられねぇ』
「……変なファンね」
アクアはドームで起きた事件を思い出す。
アレはどうにもアクアも知らない裏があったらしいが、壱護の言う通りアレを暴徒のようなファンがやる可能性も決してゼロではない。
『最初っからコイツらにはこの男友達はいるって理解して推すのと、推してたら突然公表された男友達だと後者の方が裏切られたって感想になるんだよ。そこのリスクをどう取るかだし、アイくらいとびきりの嘘つきでもなきゃボロが出る。お前の場合は、ルビー、有馬かな、黒川あかねが既に知人なのバレてるんだから下手に隠す方が面倒だろ』
「……ありがとう参考になったよ」
拒否する言い訳もなくなったアクアは電話を終わらせてルビーの提案を受け入れることにする。
今後どうなるかはわからないが、彼女たちの足を引っ張らないようにだけは気をつけようと決めた。
「じゃーん!B小町Rちゃんねるです!今日は〜じゃーん!この企画をやっていくよ〜」
アップのルビーがバッと手を広げてフリップを目立たせる。
『【ガチ対決】苺プロタレント名台詞クイズ』
企画名がバンと拡大された後、B小町Rのメンバーが順番にルールの説明をリレー方式で説明していく。
「ルールは簡単ね。今からこれまで苺プロのタレントが出たテレビ番組の一場面が放送されるわ」
「それの一部が無言にされるから私たちはそれを当てるんだよね」
「フリップに答えを書いて提出だから早押しなどはないわ」
「予想で押すのもありやけど、お手つきはその問題で回答権なくなるから注意やね」
「以上、ルールでした!ちなみに全部公式から許可とったから安心してね」
あとで編集を利かせるとはいえ、みんなスムーズにルール説明ができるのはここ最近の動画撮影や配信で慣れてきたからだろう。
そんな彼女たちの成長にアクアは少し顔が綻んだ。
「ところでこのままだと誰かが司会をやって四人で問題に取り組むことになっちゃうよね。だから今日は助っ人をお呼びしました。よろしくねお兄ちゃん」
「俺、今休業中なんだけど。……本当にナレーションだけなんだろうな」
この辺りはアクアも流石にマネージャーをやっているなんて情報を出すつもりもないので、たまたま暇してたら頼まれたくらいの感覚を演出する。
現場から遠ざかっているとはいえ、練習は欠かしていないおかげか鈍った様子はない。
「本当にアンタって昔っからルビーに弱いわね」
「しょうがないよ。アクアくんシスコンだもん」
「……あかねにすらその認識なのか」
この辺りは事前に二人とアクアが打ち合わせをしておいたポイントだ。
シスコンという属性は、どれだけ格好良くても恋愛対象から外れやすいと思われている。
B小町Rファン達に星野アクアはそこまで有害ではないですよというアピールをするために、あえて口にしてもらっていた。
「学校でも凄いもんなぁフリルちゃん」
「そうね、知り合った頃なんてシスコン過ぎてドン引きされてたから周りから近づかれていなかったし」
反論したいアクアだが、せっかくスムーズに進んでいるのにカットさせるのも忍びない。
任された司会業務を全うすることを決めて自分を押し殺す。
「ここからは俺が司会を務めさせてもらうぞ。さっきは好き勝手言ってくれたな」
「はいはい、いいから早く始めなさいよ」
「ぐっ……。最初は例題な、これは先に言っとくと点にはならないから」
そう言ってアクアはPCを操作して問題の再生を開始する。
現れたのは薄暗い森の中、女性と小さな男の子と女の子が映る映像。
解答席から小さく「あっ」という声がする。
『ようこそおきゃくさん……◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️。どうぞゆっくりしていってください』
すぐさまフリップに書き込む者、そして首を傾げる者とそれなりに結果が分かれる。
「ペンを置いてくれ。じゃあ回答を一斉にこちらへ」
ルビー『かんげいします』
か な『歓迎します』
あかね『かんげいします』
フリル『おまちどうさま』
みなみ『かんげいするわ』
「とりあえず正解は『かんげいします』だが、みなみはともかくフリル、お前やったな?」
「本当に詳細が思い出せなかっただけなんだよね」
「うちはおふざけにも走れてないんよぉ。今のかなさんならこういう言い方かな〜って引っ張られてもうて」
一番微妙な回答をしたとみなみはがっくりしている。
そんな彼女をフォローするわけではないが、少しだけ話を進めるアクア。
「問題が終わったら一応短い感想タイムがあるけど、見てなかったら素直に見てないでいいと思うぞ」
「懐かしいねこれ。まだ先輩が重曹舐める天才子役だった時だよね」
「10秒で泣ける天才子役!!泣き演技凄いってみんな言ってたんだから」
実に懐かしい反応を見せるルビーとかな。
もうアレから10年以上経っていると思えば、時間が流れるのは早いなとアクアは感じた。
「うんうん、凄"かった"なぁかなちゃんの演技」
「アンタわざと過去形にしてるでしょ」
「ふふっ冗談だよ。今でも凄いよね」
ワイワイガヤガヤと正解メンバーが話をする。
それに追従するようにミスしたメンバーは言い訳も込みの話をした。
「見たことあるけどここのセリフより次のマリンの演技が記憶に残ってるのよね」
「ぐふっ」
「せやなぁ。うちもあっちなら答えられたんやけど」
「ウグゥ……アクア、アンタ私に恨みがあってこのチョイスしたでしょ」
「……違うぞ?いや本当に」
かながワーワーと言っているが、長くなり過ぎると後でカットされる部分になるので流して話を進める。
「とりあえず例題はこんな感じだ。次行くぞ」
「あっちょっ……くぅ」
かなはまだ何か言いたげだったが次の問題が流れ始めて、流石に口を閉じる。
その口元は実に悔しそうだった。
「撮影終わり〜!いやー楽しかったね」
これまでアクアの参加した作品からチョイスされた複数の役者たちの名シーンを見ることができて満足した様子のルビー。
『それが始まり』から『転生探偵乱歩』、『精霊乱舞』などジャンルもまちまちだった。
ルビーは兄が出ていた作品は全部網羅しているだけあって正答率も100%を記録しており、表情は笑顔である。
「本当は負けたら罰ゲームとかもあった方がいいのかもしれないけど、流石に私やかなちゃんが有利になっちゃうもんね」
同じく全問正解の古参ファンあかねもニコニコと喜びを顔に出している。
アクアとかな、そして自分の問題が多かったので彼女が間違えるはずもなかった。
今回は以前アイとの関わりをドームまで極力減らすという話があったのでアイの問題はなかったが、それでもやはり強かった。
「ライバーなかったね。許可取れなかった?」
「……まぁ、そんなとこだ」
フリルは自分のお気に入り作品が出なかったことを少し不満そうに確認する。
ただアクアはその質問に少し歯切れの悪い返事をした。
(……問題作る時、久しぶりに『仮面ライバークロノス』の映像見たけど。……俺とヒカルさんってあんなに似てたんだな)
というのも、実のところ権利者には使うかもと許諾自体は取っていた。
問題を作るのに動画を確認していた時、若い頃のヒカルが映っており、アクアとヒカルがかなり似ていると今になって気が付いたのだ。
これまでアクアが幼かったため分からなかったが、14歳となり、それなりに体格や顔つきが大人びた自分とヒカルを比較して、アクアはある可能性に思い至っている。
(少しでもその可能性があるなら視聴者数の稼げる企画では使えないよな)
アクア自身は今回の動画で顔出ししていない。
だがそう遠くないうちに復帰する時、こんな身近な場所に『仮面ライバークロノス』の動画を映さない方がいいと判断した。
今思い返せばヒカルは初めて会った時からアクアへの対応が優しかったと思う。
もし、アクアの予想通りなのだとしたら、それについても理由付けは難しくない。
ただアクアは今の所その事実確認をするつもりもなかった。
アイは何か理由があって一人で子供を産む決意をした事を担当医だった吾郎は知っている。その過程がわからないため、色々な憶測しか今はすることができない。
役者として恩人であるヒカルに対して余計な負の感情を抱きたくないそんな気持ちがアクアにはあった。
「どうかしたのアクア、妙に複雑そうだけど」
「いや、ライバーの許可取れなかったのは俺としても残念だったなって」
「ライバーのアクアさんかっこええもんな。フリルちゃんも言うてたけどうちも見たかったわ」
そう遠くないB小町Rのライブを成功させるため余計な雑念を持たないように決め、アクアは先程まで頭にあった考えを思考の隅へと沈める。
彼女たちの初ライブまで残り二ヶ月ほど。それまでは全力で駆け抜けると心に誓う。
あかねがそんな彼へ何か思うところがあるような視線を向けるが、アクアはそれに気が付く事はなかった。
後日、この動画が公開され、様々な意見がコメント欄に書き込まれた。
殆どが高評価であり、アクアの存在に反発する反応がないわけではなかったが、概ねアクアのシスコン弄りの方が勢力としては大きかった。
早い段階だからこそこのくらいの反発で済んだのか?とアクアは自分の妹の慧眼に感心することになった。