【推しの子】ヤケクソハッピーハーレムルート   作:ただの暇神

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方針転換

(どうする?エキストラは全部切って二人だけの世界って演出、いやヒカルさんがどう思ってたかはまだ分からないけど、少なくともアイはそこまで盲目的じゃない)

 

来週には2度目のJIFが控えているこの時期。

アクアは『15年の嘘』について全く進展が得られないでいた。

B小町Rのメンバーがレッスンを受けている横で、PCに情報を整理していく。

 

(撮影……その辺りはやっぱりカントクか?)

 

アクアはDVD受け取った時のことを思い出す。

『ったく遺伝子ってのは怖いね』と五反田が言っていたのをアクアは何となく覚えていた。

当時は深く追及しなかったが、五反田の反応は気付いていても不思議ではないなと思った。

アクアからすればもし五反田が協力してくれるならこれ程頼もしいこともない。

ルビーと普段から二人で知恵を絞っているのだが、中々いい解決案は出ていない。

 

「アクアくん、考え事?」

「ちょっとな。あかねは……ちょうど練習が終わったところか」

 

アクアが前からの声に顔をあげれば、あかねが心配そうな表情で問いかけていた。

ちょうど練習が終わったらしい。アクアが気付かない程度には集中していたという事だろう。

 

「こないだカミキさんのところ行ったって話してから前より悩み事増えてるよね?もしアクアくんが良かったらお話聞くよ?」

「……いつも思うけどその洞察力はどこから来てるんだよ。俺なんかより余程探偵役似合ってるぞ」

 

タイミングまで合っているその言葉にアクアは一瞬だが思考が止まる。

アクアは『転生探偵乱歩』の主演をした時に思ったことをあかねに伝えると、彼女は当時を思い出し目を輝かせながらとしながら返事をした。

 

「そんな事ないよ。『転生探偵乱歩』はアクアくんの中でも特に怪演だったし。本当に転生の経験でもあるかと思うくらい特有の悩みとか匂わせの表現が凄くて私も参考にさせてもらったから。推理のところも原作らしさに溢れてて、私今でも見返してるよ!!」

「目の前で絶賛されると流石に照れくさいな」

 

付き合いが長いため、たまにこういう思い出話になるのは、幼馴染らしいと言える。

そこから乱歩の思い出話に花を咲かせた後、あかねはとても悩んだ様子を見せ、それから本題を切り出した。

 

「……ところでアクアくんってこの後時間あるかな」

「みなみも早退してるから時間はあるな」

 

最近みなみが熱心にアクアへ演技を教わっており、大体はその予定が入っていた。

ただ、今日はフリルとみなみが二人揃って用事があるらしく、既に帰宅済みでありアクアの予定も空くこととなった。

 

「ちょっと二人でお話ししたいなぁって。私の考えた設定の話を聞いて欲しいんだ。できれば会議室を借りて」

「内密な話か……ルビー、少し待っててくれないか。あかねとちょっと話をしてくる」

 

一緒に帰る予定だったルビーに声を掛ければ、ルビーは少し離れたところから不思議そうに首を傾げている。

 

「え?別にいいけど何の話?」

「今度やる役について相談したいらしい」

「分かった!しばらくかな先輩で遊んでおくね」

 

ニコッとしながらすぐそばでストレッチをしていたかなへと抱きつく。

抱きつかれた彼女は鬱陶しそうに身を捩った。

 

「それを言うなら『かな先輩"と"遊んでおくね』でしょうが!はぁ……仕方がないわね。ママが迎えにくるまでは相手してやるわよ」

「わーい、なんだかんだ優しいよね〜ロリ先輩!」

「うっさい!私より大きいからって調子乗ってんじゃないわよ」

 

かなはこちらに戻ってきた母と暮らし始めて数ヶ月が経過した。

最初は色々戸惑いもあったようだが、何とか上手くやっていけている。

去年度まで家族として過ごしていたあかねは笑顔を浮かべているが、その目は少し寂しそうだった。

 

 

それからアクアとあかねは部屋を出て、二人きりで使用できる会議室の一つを借りる。

以前アクアがニノと話した場所でもあり、鍵もかけられるため秘密の話はしやすい方だ。

 

「それで、設定の話っていうのは」

 

あかねがイマイチ何を話したいのか掴めていないアクアは確認のために問いかける。

 

「えっと……アクアくんのお母さんのお話かな」

「ミヤコさんがどうかしたのか?」

 

あかねの突然切り出した話に、アクアは動揺を表に出すことなく、シームレスに演技モードへ頭を切り替え、目の演技も使って全力で反応を隠す。

あかねはその言葉に少し悩んだ後、大きく雰囲気を変える。

まさに一番星のような気配を纏った彼女はそのまま口を開いた。

 

「ねぇアクア、本当の事を教えて?ママに言わないといけないことがあるよね」

「その演技普通に似ていてびっくりするからやめてくれ……いつから?」

 

声のイントネーションや仕草、実の息子から見てもアイ本人と見紛う演技。

直接的に言わなくても、これだけであかねがアクア達の秘密に気が付いていることくらい分かる。

観念したように肩を竦めるアクアを見て、くすりと笑ったあかねは自分がいつ気が付いたのかを語る。

 

「うーん、昔からミヤコさんがアクア達の母親ってことに違和感は持ってたんだけどね〜間違いないって確信したのはドームライブで『アイドル』を聞いた時かな」

「小学3年生で確信って……。やっぱりあかねは探偵になるべきなんじゃないか?」

「あはは、アクアがそう言うなら本当に向いてるかも。でも私は演技が好きだから……ごめんね?」

 

どうやら似ているといわれたのが嬉しいのかアイの演技をしたまま会話を続けるあかね。

あかねのはずなのに、アイに感じるというのがアクアの脳にズレを呼んでアクアの動揺が完結しない。

流石にいつまでもアクアが機能停止したままでは困るので、あかねは演技を解いて話を続ける。

 

「私の中でアイさんの演技が大きく完成に近づいたのは、『アイドル』の歌詞に特に隠す気もなく、アクアくんとルビーちゃんの名前を入れていた時。アクアくんとルビーちゃんに対する感情のラインをそれまで弟妹のような形で考えていた私の中で、子供かもしれないという発想が初めて生まれた」

 

あかねはアイのファンになってからかなりアイの活動を調べていた。

その知識とアクアとルビーが実子という可能性を考えれば欠けていたピースが次々と埋まっていく。

 

破滅的行動の改善。

アイというアイドルの真の覚醒であるライブに参加していた赤ん坊。

アクアとルビーのアイに対する執着。

アイのアクアとルビーに対する溺愛。

ルビーがアイの事を呼ぶ時に時々する言い淀み。

 

これら単体では小さな情報でも全てが繋がるのであれば、それは大きな答えへ導く大切な要素だ。

そして可能性さえ思い至って冷静になれば、1年の活動休止期間がまさにアクア達の誕生時期と被っていることに気が付いてしまう。

そうなればあっさり確信できた。

 

「今日の会話だけで俺は今後映画やドラマでの犯人役をやるときに困らないな」

 

警察に取り調べを受ける犯人の気分だとアクアは思っていた。

 

「えぇ!?取り調べのつもりじゃなかったんだけどなぁ」

 

アクアの言葉にしょんぼりした様子のあかねを見て、アクアは笑みを浮かべる。

秘密を親しいものに持ち続けるのは大変だった。そんな中で気が付いてからもずっと秘密を守っていてくれた幼馴染の存在はとても心強かった。

 

「ちなみに……父親も分かるのか?」

 

アクアは確認のためにあかねに尋ねるとほとんど淀みなく答えが返ってくる。

 

「カミキさんだよね。去年やった企画の『【ガチ対決】苺プロタレント名台詞クイズ』で『仮面ライバークロノス』の映像入れていなかったのはそれが理由じゃないかな。少しフリルちゃんにライバーはないのかって聞かれた後のアクアくんの反応が気になったから、動画改めて見たけど、カミキさんと今のアクアくん凄い似てるもんね」

「あかねは小説家になったらどうだ」

「それもう犯人の思考だよ……これだけ分かってたら今アクアくんが抱えてる悩み、教えてくれるかな?」

 

くすくすと笑いながら問いかけるあかねに敵わないと思ったアクアは、自分の計画について話すことにした。

 

 

 

「おにいちゃん!私を1時間もほったらかしにしてあかねちゃんと密室で何してたの」

「アホ言ってんじゃねーよ。普通に話し合いだ。ここからはルビーの知恵も借りたいから呼んだんだよ」

 

アクアは自分の計画そのすべてをあかねに話し終えたところで、共同制作者の一人であるルビーを部屋へ呼ぶ。

 

「それにしてもバレたってどういうこと?おにいちゃん詰めが甘いんじゃないかな」

「言っとくけどお前がよく母さんの事人前でママ呼びしそうになるのが原因だからな」

 

そんな二人の戯れ合いを聞きながらもあかねは考え込むような仕草を見せながら考えを言葉にしていく。

 

「アクアくんとしてはその『15年の嘘』を使ってアイさんとカミキさんに当時の自分たちを客観的に見てほしいんだよね?」

 

 

あかねの問いかけにアクアはルビーとの戯れを止めて、答えた。

 

 

「ああ、だから俺とルビーが全力で演技をして、当時の二人を再現して見せたかったんだが……」

 

実際には、やりたいからできるという程簡単なものではなかった。

アクアは山積みの課題を思い出して頭が痛くなる。

 

「確かにカミキさんの言う通りだよね。学芸会みたいな映像になっちゃうと思う。アクアくんとルビーちゃんがしっかり演技しても浮いちゃうんじゃないかな」

「あの指摘はグサって感じだよね。私も想像したらうわって思っちゃったもん」

 

二人からの言葉に、自分の考えの至らなさを指摘されているようでアクアは少し気まずそうに目を逸らす。

精神が肉体に適合しているから仕方がないのだと自分に脳内で言い訳をした。

あかねもアクアの考え自体はとても良いと思っている。

ただヒカルの言う通りプロが見て感情移入しようと思うと途端にハードルが高くなる。

アクアが台本を書くという点も五反田に薫陶を受けているとはいえ、専門職ではない。

台本を見直す担当がいた方がよいだろう。

 

「カントクさんには声掛けた方がいいだろうね。カメラマンさんにコネもあるだろうし。きっと気付いていると思うな~」

「前カントクが気になる事言ってたからその可能性は高いだろうな。とはいえ、そのカメラマンが秘密を知らないといけないのが問題だ」

 

この秘密を守る以上、知っている人間は最小限に越した事はない。

それがこの動きを阻害する原因になっている。

ふと一つ気になったことができたあかねはアクアに尋ねた。

 

「アクアくん達はずっと親子関係が秘密でもいいの?」

 

三人とも互いを大切にしているのが、傍から見ても伝わってくる。ただこのまま秘密のままにしていては、いつまでもこの状況は解消しないだろう。

アクアは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。

当たり前だが、ずっと秘密になどしたいわけではない。ただ安易に公開できるような情報ではないことも確かだった。

 

「私だって本当はママの娘だよ!って大々的に言いたいけど中々ね〜間違いなく大炎上だと思うし。昔ママが休業中に公開しちゃおう!って言ってたけど、今思ったらあの時公開しちゃったほうが楽だったかも」

「あの時は母さんがアイドルを続けるって選択をしたからな。覚悟はもう決まってる」

 

当時未成年のアイドルが妊娠出産隠し子いましたなんてゴシップニュース、多くの人が悪く受け取るに違いない内容だ。

特に実害がないのであれば、アイ本人だってすぐにでも公開したいと思っているだろう。

実際、アイ本人は一度仕事が事件によって空いて違約金などを気にしなくて良いとなった時、親子関係を公表する配信を計画したくらいだ。

壱護が何も指摘しなかったらそのまま公開されていただろう。

 

「それなんだけど……こういうのはどうかな?」

 

あかねは皆が幸せになる方法を考えていた。

勿論アクアが好きな皆を全員アクアに押し付ける方法なんかも考えていたが、そもそもあかねの予想通りにアクアとルビーがアイの子供だとした場合、一生その秘密を隠さないといけないのは幸せとは言えないのではないかと頭を悩ませていた。

あかねだって普通に暴露すれば誹謗中傷が飛び交い、未成年のアイドルながらそのような状態だったとの情報によって評判は地に落ちるのは分かっていたため、頭の片隅に追いやっていた。

しかしここに来てそんな問題を丸ごとひっくりかえせるかもしれない情報がもたらされたのだ。

話を聞いたアクアは目を見開いてあかねを見る。

 

「一理あるな、上手くいくと思う。ただそれだけだと足りない。……それができるならこういうのはどうだ」

「凄いよアクアくん。これなら私の考えていた方法の問題点を綺麗に解消できてる」

 

アクアはあかねの考えたアイディアを良いものだと認めつつ、足りなさそうな部分を補強できそうなアイディアを出した。

 

「二人とも〜私を置いてかないで〜」

 

アクアとあかねのヒートアップする作戦会議を2割くらいの理解で聞いていたルビーは降参を表明した。

 

「メディアと世間は真実を求めないってことだよ」

「???」

 

アクアはそう言ってルビーにあかねと二人で考えた未成年でありながらそのような事をしたアイというアイドルが、一部の例外以外からは聖母のように扱われるだろうシナリオを話す。

 

「なるほど!確かにそれいけるかも!上手くいけば私たちとママの関係も公表できるし、ママのイメージも損なわないどころかアップ!カミキさんだって責められない!二人ともすごい!」

「タイミングや振る舞いが大事だけど……アイならいける」

 

勿論やったことそのものは褒められたことではないのだが、大っぴらに叩けない空気を生み出す事が可能な作戦だった。

上手くいけば叩いたほうが逆に叩かれるくらいの空気まで持っていけるだろう。

 

「ただ問題がいくつかある。まずこの作戦をするならB小町RがドームライブをB小町に匹敵するほど大成功させて、俺が最優秀男優賞候補くらいの地位を固めておく必要がある」

「え?どうして?そりゃ私はママ超えのアイドルを目指してるからドームライブまで待って欲しいけど」

 

アクアの言葉にルビーは不思議そうに言った。

 

「色々小細工はするけどやることはアイのスキャンダル暴露だ。ただこれは俺たちが売れてないと色々問題がある」

「二人ともそんなに売れてなかったら売名って言われちゃいそうだもんね」

「あっそっかぁ」

 

ルビーは指摘されて納得する。

アイに並ぶ前にアイの恩恵をそんなに受けてしまえば、きっとルビーの夢は達成できなくなってしまう。ドーム前にアイと共演しない理由だ。

 

「とにかくそれまでに俺たちは芸能界をのし上がりながら、母さんとヒカルさんについての情報を集める必要がある」

「いいねいいね!なんか秘密作戦って感じで盛り上がるよ〜!」

 

ようやく光明の見えたアクアは分かりやすく元気になっており、ルビーもいつも通りの明るさだ。

そんな様子を見てあかねはほっと息を吐く。

 

「どうだったかな、アクアくん。私は君の役に立てたかな?」

 

あかねは、本質的に自分に自信がないため、少し不安そうにアクアへ問いかける。

 

「あかねがいなかったらこの解決案は出なかった、本当にありがとう」

 

アクアの自然な笑みと言葉にあかねは少し自分の顔が赤くなるのを感じる。

 

(好きな男の子に頼りにされるってこんなに嬉しいんだ)

 

世の恋愛物語が何故あれ程ウケているのかあかねは身をもって理解することになったのだった。

 

 

あかねと別れて帰宅した二人は、早速とばかりに母へ考えている今後の方針を説明する。

残念ながら『15年の嘘』撮影にはその目的を考えると協力できないアイだが、二人から伝えられた方針を聞いて大きな瞳を更に丸々とさせて驚いていた。

 

「うちの子達てんっさい!任せてよ本番はママがバッチリ嘘で彩るから」

 

むしろ『15年の嘘』を直接手伝えないことを歯痒く思っていたアイとしては自分が二人のためにできることがあると分かってテンションが上がっていた。

彼女にとっては自分の子供たちのために動けるだけで幸せなのである。

 

「あかねのおかげだよ。撮影もできて数年後って長期計画になりそうだし。ヒカルさんにも言っとかないと」

 

アクアは予定より撮影が遅くなる事を気にはしているものの、クオリティアップのためには致し方がないと考えている。

ヒカルの言う通り形だけ作っても二人の歪んだ認知を解すには至らない。

演技に精通した彼らすらも揺さぶられるだけの代物である必要がある。

アイから作戦の了承が取れた時点で、アクアのほとんど方針は決まった形だ。

もしアイに反対されれば頓挫するところだったが、本人としてはむしろ嬉しいらしい。

二人と家族だと公言したいという気持ちは以前と変わっていないようだ。

 

「もうずーっと二人のこと公開できないかもって思ってて、お仕事辞めてパーっと公開しちゃったほうがいいかな〜なんて思うこともあったからね〜」

「多分壱護さんが聞いたら絶句するけどな」

 

アイには確認をとったものの事務所の社長である壱護にもその妻であるミヤコにもまだ許可を取っていないアクアはこの後のことを思って遠い目をする。

特に壱護はアイが刺された当時ならばなし崩しに認めただろうが、今の売れっ子マルチタレント状態では中々リスクを背負いたくないかもしれない。

そう不安を見せるアクアに対してアイは胸を軽く叩いて自信があるとポーズを取る。

 

「大丈夫でしょ!アクア達が考えてくれた方法、理に適ってるもん」

「これに関しては俺たちのおかげというかここまで隠し切って俺たちを育てた母さんの努力のおかげだから」

「見ててよママ!ここから私たちママに追いついた!って思われるくらいに頑張るんだから」

 

もしこれでアクアとルビーがろくな人生を歩んでいなかったらこの作戦は上手くいかない。

先程アクアたちが大成する必要があると説明した理由の一つがこれだ。

アクアとルビーが立派に育っていれば育っていただけ作戦の成功率は上がる。

 

「ありがとう二人とも。ママも二人に追いつかれないように走り続けるから」

 

微笑むアイは昔よりずっと大人びていて、母親としての自覚を持った一人の女性となっていた。

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