「来たか、早熟。ちゃんと事務所には入ってきただろうな?」
「苺プロはこのためだけに子役部門作ったくらいだよ」
「そりゃ凄いな。あの動画見ても思ったが、あのマネージャー親バカだな?」
「そうかもね」
約束の出演日になり、映画の撮影に来たアクア。
本日の連れ添いはルビーとミヤコであり、アイはいない。約束通りアイはしっかりとアイに合った出番があるのだが、アクアの出演する場面としては離れており、撮影日は異なるためだ。
実は朝こんなやりとりがあった。
『アクアの子役デビュー今日だよね?私も行くね』
(親バカ可愛い)
ふん!と動きやすい服とカメラを手についていくつもり満々のアイ。
意気揚々と社用車に乗り込もうとした時、その肩をガシっと掴まれて動きが止まる。
『お前はB小町としての仕事があるだろクソアイドル!』
『アクアの初演技がぁ〜、ミヤコさんちゃんと撮っててね』
壱護に引っ張って連れていかれる様子はステージとは違う彼女で残された3人はほっこりしていたりしていた。
楽しい思い出から帰ってきて会話を続ける。
「アイがアクアのバーターって気に入られてるわね」
「そこそこ年行ってると若者にくだけた態度を取られるのを喜ぶ傾向にあるから試してみただけ」
「うわっすげー嫌な赤ちゃん」
田舎の医者として培った経験が活かされた瞬間だった。
実際には監督自身まだ前世のアクアより若いのだが、幼児になったことで認識もズレてしまっているようである。
ただ生意気に映りすぎたらどうしようと少しヒヤヒヤもしていたのだが。
スタッフへの挨拶が一通り終わり、アクアはミヤコと別れて子役用の待機部屋へと案内される。
ルビーも先程までミヤコの背中でスヤスヤと眠っていたのだが、部屋に置いていかれると同時に目が覚めたようだ。ミヤコの背中から下ろされたところで元気に兄へと話しかける。
「それでそれで!お兄ちゃんはどんな演技するの」
「なんでルビーがそんな嬉しそうなんだよ」
「えーそりゃ嬉しいよ。お兄ちゃんが有名になったらさーいつかテレビで私たち共演とかあるかもしれないし!マ……お姉ちゃんも含めて三人共演!なんて想像するだけで楽しそう!」
ルビーが大はしゃぎしているのをアクアは暖かい目で見つめていた。
バーターというのはアクアが有名になればなるほど使える手法だ。
ルビーがアイドルできるようになるまで仕事に勤しんでおけば、ルビーを宣伝するのに大いに役立つだろう。
自分のやりたいことが本格的に見つかるまでは挑戦してみても良いと思い始めていた。
将来の選択肢の一つであり、前世医者として勉強していた貯金があるおかげで、もしうまく行かなくても路線変更もそう難しくはない。
「でもお兄ちゃん前は芸能界興味ないって言ってたよね?なんで急に?」
「折角の新しい人生だ。一度もやったことのない道にチャレンジしてみるのも悪くないと思って。ルビーはどう思う?」
「前と変わらないよ!お兄ちゃんかっこいいし天職だと思うもん」
元々考えていたマネージャーはミヤコのように裏方からフォローできるのが効率的にもいいと考えての案だった。
そちらよりもバーターとして直接仕事を引っ張ることのほうが手助けになる可能性が高いと降って湧いた幸運と監督に感謝すらしている。
今回、アイに仕事を持って来られたという成功体験がアクアにプラスのイメージをつけていた。
ただあくまで今の監督は、不気味な子供に興味を惹かれているだけであって、アクアの何かが評価されているわけじゃないとアクアは思っている。
だからこそ今後も役者で活動する道を残すために、今回はうまくやらないとなと心で決意を固めていた。
そんな兄妹の会話に乱入者が現れる。
「うっさいわね。もう少し静かに話せないの」
「ん?」
アクアは少しイラッとした少女の声を聞き周囲を見る。
すると少し赤みがかった髪をした自分たちとそこまで歳の変わらなさそうな少女がいるのに気が付いた。
先程までは確かにいなかったので、今やってきたのかもしれない。
家と変わらぬ声量で話をしていたことが原因か、はたまた彼女の方にストレスが溜まっていた八つ当たりなのか。
なぜ彼女が怒っているのかアクアには判断がつかない。
ただ事前にどんな人がこの現場に参加するかを確認していたアクアは、彼女が誰かを把握している。
彼女の名前は有馬かな。最近話題の天才子役と名高い少女。
キャッチフレーズは10秒で泣ける天才子役であり、先日放送したドラマでも見事な泣きっぷりで、今のアクアではとても真似できないなと正直感心している。
思い出したアクアとは違い、芸能界にアクア以上に興味があるはずのルビーが、頭に手をやりうーんうーんと見覚えのある彼女を何度か思い出そうと知恵を絞っていた。
「えーっと……あれだ!重曹を舐める天才子役!」
「十秒で泣ける天才子役よ!」
アクアにひっついていた妹が何とか絞り出した言葉は、発音こそ近いものの大外れでかなは怒りをあらわにする。
ルビーはあまり子役が好きではなく、それ故に頭に僅かにでも残っている時点で彼女の知名度の表れと言っていいだろう。
ただそんな身内の事情など知ったことではないかなはカンカンだった。
「ほんと私を知らないなんて無知ね!ドラマでの泣きっぷりが凄いって評判なんだから。全くここはプロの現場なのよ?騒ぎ立てて、撮影の邪魔になったらどうするの」
そしてどうやら彼女が怒っているのは撮影全体の邪魔にならないようにということらしい。
その口調はきついが言っていることは間違っていない。
幸いこの待機場所から現場まで声が聞こえることはまずないだろうが、もう少し音量は落としたほうが良かったとアクアは反省する。
それと同時に彼女のとても3歳には思えないプロ意識の高さに最近の三歳児すげーと監督のようなことを考えていた。
彼女自身も怒りながら外に聞こえないボリュームに声を絞るという器用なことをやっている。
「私、この子あんまり好きじゃないのよねー。なんか作り物っぽくて生理的に無理」
「子役に対して厳しすぎるだろ。まだ3歳とかだぞ」
幸いかなには聴こえていなかったらしく再爆発はなかったが、まだアクアたちへの怒りがあるのかツンケンした態度をアクアへ向けていた。
「知ってるわよ。あんたコネの子でしょ?本読みの段階だとあんたもアイドルの子も出番なかったんだからわかるわ!そういうのいけないんだから」
「……そんなにコネっていけないか?有馬さんだって最初貰った端役は事務所が取ってきた仕事だろう」
アクアからすれば監督が聞いた通りなら基本的に誰もが新人役者のポジションからスタートする。
最初はコネがなければ土俵に上がることすら難しい。
一度出て評価されて呼ばれるようになって知名度を上げる。
そのようなレベル上げ作業をするための入門として良いものだと思う。
どんなに良いものでも知られなければ評価されようがないからだ。
「いけないわよ!実力が足りないからコネを使うんだもの。私はちゃんと実力で勝ち取ったから。あのアイドルの子、こないだのドラマだって全然出番なかったじゃない!どーせカットしなきゃいけないくらいヘッタクソな演技をしたんでしょ」
かなの言うことは間違っていないかもしれない。
ある意味あの場では下手くそな演技だったかもしれない。
もう少しアイが自重できていればシーンは増えたかもしれない。
彼女の本質的に目立たずにはいられないため、向いていない役だったことも大きい。
有馬かなの発言につっかかる要素など本来ないとアクアはわかっている。
ただ……アクアは以前から自分の精神が子供に寄っているのを自覚している。
これは肉体に精神が引っ張られるような現象があるのだろう。社会人の頃なら大したことないなと受け流せていたことでも少しのことで感情が揺れ動く。
例えば……推しであり、母を馬鹿にされたように感じた時などはそれが顕著だ。
何が言いたいかといえばだ。
「ねーお兄ちゃん?」
「ああ……あいつに目にもの見せてやるよ」
精神年齢アラサーが子供に大人気なくブチ切れることもあるということだ。
口が悪い子供にお灸を据えてやろうと心の中でアクアは言い訳しつつも荒ぶるのだった。
一度ルビーに対してやらかして反省したのにまたやる辺りも子供らしいかもしれない。
何度か練習をしてついにやってきた本番。アクアは事前に台本を読んでおり、自分の役割を把握している。
アクアとかなの二人は気味の悪い子供達という役だ。
元々はかなだけがやる予定だった場所にアクアの存在を知ってから監督が新しいキャラを追加している。
それを考えればアクアは本来全く演じなくても良い。
この年でこれだけ色々と言葉を話して大人に気を使う子供なんて気味が悪いなんてものじゃない。
ただそれじゃ100点だ。120点にはならない。
それでは今後、絶対コイツを使いたいと、例えばすぐ隣で演技をする天才子役を差し置いて使おうとは思ってもらえない。
「ねぇ監督、ちょっといい?」
「なんだよ早熟。……へぇ、何か面白いことでもあったか」
「いや、この後の本番で演技するならどっちがいいかなって見てくれない?」
現場が休憩に入り、監督の手が空いたのを見てからアクアは一つ相談をしに行く。
先程までよりやる気のある表情を浮かべているアクアを見て監督も嬉しそうにした。
映画を観た人にコイツを使いたいと思わせるだけの何かがなければ、使われ続けることは難しい。
監督の言う通りならバーターを成立させるには、前に事務所で話していた究極の一がある役者になる必要があるとアクアは認識していた。
そのための打てる布石は全て打つ。
休憩が終わり、ついにアクアの撮影が始まる。
セリフの関係上、先に話すのは天才子役有馬かなだ。
「ようこそおきゃくさん……かんげいします。どうぞゆっくりしていってください」
(流石は天才子役。マジでうまいな)
事前に有馬かなの演技を知っていたアクアは彼女が天才と称されるだけの演技力がある事を理解していたつもりだった。
だが間近で見ればその認識すら甘かったと言わざるを得ない。
まだ発展途上でありながらも、しっかりと不気味な子供を演出できる声色と表情を使っている彼女は相当不気味で、普通に同じ土俵でやったら目も当てられないことになる。
「この村に宿は一つしかありません」
だからまずは意識のベースを吾郎に寄せる。
普段のアクアはアレでも少しだけ子供として振る舞っている。
その枷を外してやればより年齢と中身のギャップは酷くなる。
より不気味に演出できるよう、自分の知っている経験から近い物を引き出し、感情を、態度を再現していく。
相手を落ち着かせる柔和な表情を浮かべながら、命のリミットを宣言する冷淡な心情で言葉を紡いでいく。
「一度チェックインしてから村を散策するといいでしょう」
アクアの言葉が終わる頃には、主演の女優は素で恐怖を感じ、自然と一歩後ろに下がっていた。
「カット!OKだ」
監督の声が聞こえたところでアクアは演技を子供用へと切り替える。毎日のように使っている子供としての演技。
もはやこちらが素と言っていいほど馴染んでいた。
「凄いね君。お姉さん鳥肌立っちゃった」
「そうですか?よかった」
アクアに向けて腕を少し見せる女優の腕は確かにざっと鳥肌が立ち、心底怖かったのを示していた。
アイの仕事のためにと思って色々と調べていた甲斐があったものだとアクアは満足感を得ていた。
それだけではなく、自分の演技でこれだけ人に影響を与えられた証拠をわかりやすく見せてもらえたことはアクアにとって自信へと繋がる。
「見た?ミヤコさん!今のお兄ちゃん怖かっこいいよね!」
「えっええ。……ほんと遺伝子って怖いわね」
アイのやる自分に注目を集める演技。それを僅かではあるがアクアが使っていたのをミヤコは理解していた。
嘘を信じさせるカリスマ性。自覚はないもののアクアもそれをしっかりと引き継いでいる。
アクアの初芝居が上手くいき、心地よい満足感に包まれている中、満足できていない人間が一人いた。有馬かなだ。
「良くないわ……監督、取り直して」
「ん?いや問題なかったからな」
「問題大ありよ!今のかなあの子より全然ダメで……うぐっうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
アクアは心からの泣き声を聞いて流石に申し訳ない気持ちになった。精神的年齢差を考えれば当然だろう。
分からせてやるという大人気ない思考はすっかり引っ込んでしまって代わりに申し訳なさが残される。
(またやってしまった……)
自分の堪え性のなさに少し恥ずかしくなるアクアだった。
アクアたちの出番が終わった後も撮影は続く。
同じく出番が終わったかながマネージャー達に宥められている間、監督はアクアに話しかけた。
「早熟。お前俺の意図を汲み取りながら追加で演技するって言ってたけどよ」
「うん、いけるかなと思って。……どうだったかな」
事前に監督には監督が求めているのは多分こうだけどこっちの方が気味悪くない?と演技を2パターンとも見せていた。
もし監督の事前に見せて反応が悪ければ、当初の予定通り素のアクアで挑むつもりだった。
変更後の方がいいと認められたからこそ今回の演技をしたわけだ。
「当初の想定を超えていい絵になった。穏やかに話しているだけなのに死亡宣告されているかのような寒気を感じたぜ。子供がやる態度じゃねーよ臨場感たっぷりだ」
実際に胎内の赤ん坊が助からない話や母体に影響が出るなどの話はしたことがある。
感覚としてはそれのほうが重いとアクアは感じていた。
経験というのは演技をする上で絶対的なアドバンテージ。
経験したことなくとも全てを表現できる超一流もいるが、それでも経験に勝ることはそう多くない。
「役者に大事なものは色々あるが、一番大事なものはなんだと思う?」
「んー……実力とかセンス、あとは経験?」
「そりゃその辺りももちろん大事だ。だが大事なのは結局のところコミュ力だ」
あくまで役者というのも仕事。社会と同じで周りに嫌われたらすぐに仕事などなくなってしまう。
ここまで言われてアクアは気付く。
「あの子にお灸をすえたかったの?」
「そんな偉そうな事は考えちゃいねぇけどよ、こういうのも栄養だ。お前の演技は俺の想像すら超えてきた、いい刺激になったと思うぜ」
「……でも演技そのものはあの子の方が凄かった」
アクアとしては実力負けしている中で、自分の引き出しから最も不気味に見えるシチュエーションを引っ張り出して再現しただけにすぎない。
演技力を上回るシチュエーションの噛み合い。本来ありえない人生経験が生んだ産物が今回の演技だ。
演技をやりたいと思っているわけじゃなかったはずなのに、少し悔しいと感じている自分に少し不思議な感覚をアクアは覚えていた。
「さっきの話の続きだ。お前は俺の意図をしっかり汲み取って普段のお前でも十分不気味なのに、それ以上に不気味な子供を自然とやってみせた。それもこっちにちゃんと相談してからな」
いきなり本番で暴れられても制御が難しいが、事前に見せてもらっているならばイメージを分けて考えやすくてありがたい。
少なくとも監督はそう考えていた。
「勿論前回のアイみたいに想像を超えすぎるのはダメな場面もある。そのあたりを理解した上で、強弱をしっかり演じられる役者は貴重だ。今回は想像を超えてくれた方が嬉しい場面だった」
そこまでいって監督はアクアの頭に手を乗せる。
アクアは気付いていなかったが、隣の天才子役に演技で負けたことを気にして少し顔が寂しそうだった。
それを見ての行動だが、父親のいないアクアにとってそれは悪くなかった。
「正解の絵を汲み取りながらそれを正しく発展させられる役者なんてほとんどいねぇ。お前は100点と120点両方自在に狙える役者になれ」
「……頑張ってみるよ」
アイと将来的にルビーのバーターになるべくアクアは芸能界に足を踏み入れることになった。
だが思ったより楽しいかもしれない。アクアは義務感ではなく楽しさを持って活動できそうなことに喜んだ。
監督とアクアが話している間になんとか泣き止んだかなは今までに感じたことのない敗北感を味わっていた。
(私がこんなコネの子なんかに?そんな……でも私のほうが全然演技ダメで)
頭の中をぐるぐると感情の嵐が駆け巡る。もうコネの子なんて貶すことはできない。それは今までの自分の活動に泥を塗る行為だからだ。
今日、この現場での撮影はもうない。かなが落ち着いたところで撤収となる手筈になっている。
涙はもう流れていない。
10秒で泣ける天才子役と呼ばれる少女で涙を操るのもお手のものだと思っていたが、先ほどの涙は自然と流れたものだった。
そんなかなの元に人が近づく気配がする。
「有馬かな」
「……あんた」
彼女の元へ近づいたのは星野アクア。先ほどかなに敗北感を与えた存在だ。
警戒心を上げて威嚇するように睨みつける。自分のテリトリーを侵されないように。
子供ながらの縄張り意識を感じてアクアは苦笑しそうになるもなんとか真顔を保つ。
「有馬さんの演技、本当に上手かった」
「なにそれ嫌味のつもり?あんたの方がどう考えても良かったでしょ」
「さっきのは知っているシチュエーションが使えただけ。ちょっとしたズルみたいなものだよ。技術とか表現は有馬さんの方が良かった」
アクアは先ほど監督から聞いたコミュ力という話を実践しただけにすぎない。
このまま別れてしまうと有馬かなというこの世代トップの役者と繋がりを作ることができない。
だが、今ならば相手はアクアを過剰に高く見積もって交渉に乗ってくる可能性があると考えたのだ。
「……ふーんそう?」
「ああ、もし良かったらだけど今後の演技の参考にしたい。連絡先を交換しないか」
「え?ええっ!?……ちょっとママに聞いてくるわね」
天使のような可愛らしい子供にそんなことを言われて気にしない女児などほとんどいないだろう。
かなは少し顔を赤くしてからマネージャーをしている母の元へと向かう。
それを見ていたルビーがアクアへと近づいた。
「おにいちゃん?」
「どうしたルビー……なんか怒ってる?」
妹から感じる妙な圧力にアクアはなぜか冷や汗が出てくる。
やはり妹の方が演技が上手いかもしれないとアクアは再認識した。
「ううん別に?今の顔見て他意はないことわかったから。……せんせってもしかしてロリコンだったのかな。だからさりなに優しかったのかも」
「おい!聞こえてるぞ。怒ってんじゃねーか。別に俺はそんなつもりで連絡先を聞いた訳じゃなくてだな」
ルビーの反撃にたじたじになりながらも身の潔白を証明しようとするアクア。
そんな双子のじゃれあいをしている間に親の了承を得たのかスマホを持ってきたかながやってきた。
何やってるんだ?と呆れた視線をアクアに向けつつ、連絡先を素早く交換できる処置をしていた。
「ほら、さっさと交換するわよ。私は忙しいんだから」
「……さっきまで泣いてたくせに。ミヤコさんちょっと俺のスマホ貸して」
「はいはい。本当最近の子ってみんなこうなのかしら」
子供なので使用時間は制限しているが、アクアはミヤコ名義のスマホを一台もらっている。
さっさと連絡先を交換してこの日は解散となった。
天才子役だけあって本当に忙しいらしい。
そしてルビーはかなに対してライバル意識を持つことになる。
「私が芸能界入った頃には消えてないといいですね。仲良くしましょうロリ先輩!」
「ロリ!?ってあんたの方が歳下なんだからロリでしょ!?入れたらいいわね〜。こいつと違ってあんたは厳しいんじゃない?喧しいし」
「なにを!」
「なによ!」
対抗意識むき出しにして喧嘩を売るルビーとそれに煽り返すかな。
ルビーに同年代の知り合いができて良かったなと思うアクアだった。シスコンである。
かなはアクアたちと別れ、次の現場へと移動する。
車の中で先程の台本を見返しながら呟いた。
「星野アクア。覚えたわよ……次は絶対負けない」
自分に敗北感を与えた相手を思い出すかな。
天使のような可愛らしい容姿を持ちながら何かの裁定を下すような視線を向けて、どう見ても子供なのにとても子供ではない何かなのではと想像を掻き立てられる不思議な演技。
とんとん拍子に売れていたかなに与えられた初めての挫折。
アクアはかなの方が演技の表現が上手いと言っていたが、かなとしてはあの不思議な演技をどうにか自分のものにしたいと思った。
向こうは細やかな表現が苦手と言っていたのでまた機会があれば会って教え合うのもいいかもしれない。
『今度あんたのうち行ってもいい?』
自分の空いた予定を確認しながらかなはアクアにそんな連絡を送った。すぐに返信が返ってくる。
かなとしては役者をやってきてようやく現れた同格の男の子。
思わず気にしちゃうのも仕方がないことかもしれない。
ウキウキと返信を確認する。
『ダメ』
「なんでよ!?」
彼らの家には特級の秘密があることを有馬かなはまだ知らない。