【推しの子】ヤケクソハッピーハーレムルート   作:ただの暇神

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ありのままの

「やだやだやだやだやだ!」

「はぁ……。駄々こねるなよ。……撮影日が決まった時には何も言わなかっただろ」

 

目の前でゴロゴロとしながら手足をバタバタとさせ、幼児のように暴れる妹にため息を吐きながらアクアがルビーへ言葉を投げる。

アクアだってこの予定だと知った時は絶望したのだから。

 

「だってこんなに夜遅くなるなんて聞いてなかったもん!これじゃ帰ったら愛瑠ちゃん寝ちゃってるって!」

「そりゃそうだろ。1歳児を何時まで起こしとくつもりだよ」

「うぅ……ごめんね愛瑠ちゃん。誕生会に参加できないお姉ちゃんを許して」

 

そう、本日は愛瑠の誕生日。

そして……ルビーとフリルが参加するバラエティの撮影日だ。

ルビーは最近話題沸騰中のアイドルとはいえ、まだまだ地上波などでは知名度が低い。

未成年者のアクアたちが働ける時間は20時までであり、そのギリギリまで撮影が予定されている。

21時までには寝かせたい事を考えれば誕生会ができるのは19時半くらいまでであり、撮影が早く進まない限りはアクアたちの参加自体がかなり厳しかった。

 

「まだルビーは予定に口出せないからねぇ〜私はこの日1日空けたけど!」

「ママだけズルいよ、愛瑠ちゃん独り占めじゃん」

「いや、かな、あかね、みなみ、C式部のメンバーも参加するらしいぞ」

「うぅ私たちだけどうしてこんな」

 

アイの勝ち誇るようなVサインに、ルビーはぷっくりと頬を膨らませて不満を口にする。

アクアたちがいない分まで愛瑠を楽しませると宣言した三人の頑張りに期待しようとアクアは思っている。

C式部メンバーは年上らしく頼もしそうだったが、たまに赤ちゃんを見てそろそろ自分たちもと意識しているメンバーがいるとか何とか。

なおフリルは一人無言で絶望していた。

 

「とりあえず今なら時間あるから愛瑠のとこ寄って祝っていくぞ。誕生会には参加できなくても当日祝うくらいはできる訳だし」

「確かに!?クヨクヨしてられないよ行くよお兄ちゃん」

「お前な……」

 

バタバタと転がっていたことなどなかったかのように立ち上がったルビーは服装をサッと整える。

あまりの切り替えの早さに半目で自分の妹を見るアクアの視線から逃れるようにルビーは視線を逸らした。

 

「あっ私も一緒に行くね、今日はそのままミヤコさん家にいる予定!」

「よくそんな簡単な変装でバレないよな」

 

サングラスと髪型変更しかしていないアイを見ながらアクアは言う。

国民的人気アイドルがこの軽装具合なのにバレているのをアクアは見たことがなかった。

ちょっとした拍子にバレそうな物なのだが、コレまでもバレていないのだから問題ないのだろう。

 

「ふふっそりゃママは嘘つきだからね。コレはマルチタレント『アイ』じゃなくて『星野アイ』っていう一般人って演技をしながら変装してるの」

「……俺も参考にさせてもらおうかな」

「うんうん、アクアならできるよ!」

 

普段アレだけ視線を集められるのだから視線を逆に逸らす事もできるようになったらしい。

昔は主演しかできなかったアイだが、彼女も成長しているようだ。

日常生活だけでなく、何か演技の幅も広がりそうだなとアクアは期待しながら三人で斎藤家へ向かう。

 

「ねえねえ!ねえ!!」

「「きゃわ〜〜〜〜〜〜〜!!」」

「うっせぇなもうちょっと静かにできねーのかよ朝だぞ」

 

斎藤家につけばハイハイで玄関に迎えに来た愛瑠がアイとルビーを見つけて声を掛ける。

可愛さの暴力を受けた星野家女性陣二人は陥落して揃って声を上げた。

愛瑠がうっかり玄関から落ちたりしないように付き添っていた壱護は親子の絶叫を聞いて耳を塞いで文句を言う。

 

「にい!」

「愛瑠は抱っこ好きだな」

 

そんな女性陣の方ではなく、後から入ってきたアクアを見つけた愛瑠はそちらに近づいてからハイハイを止めて座り、手を広げる。

アクアはアピールする愛瑠の要求を呑んで、家に上がってから彼女を抱き抱えた。

 

「うぐぐ、私はどっちに嫉妬したらいいの……」

「抱っこ強請る愛瑠ちゃんも苦笑しながら抱っこするアクアも嫉妬しながら混乱するルビーもきゃわ〜〜〜〜〜〜〜!ツイートしちゃお〜っと」

 

アクアに抱きつく愛瑠、愛瑠を抱っこするアクア。

どちらも羨ましいとルビーは複雑そうな顔をする。

そんな彼女にアイは更にテンションを上げ、思いついたようにスマホでTwitterを更新した。

 

「あら、三人で来てたの?道理で声が沢山聞こえてくるわけよね」

「ミヤコさん!聞いてよ愛瑠ちゃん私たちじゃなくておにいちゃんに抱っこ要求するんだよ?私たちだって鍛えてるからしっかり抱っこできるのに!」

「まぁアクアが一番世話が上手いからじゃないかしら」

 

アクアは赤ん坊への扱いの知識が豊富で親で子育て二回目のミヤコより詳しい。

ミヤコとしてもいざ愛瑠を預けるとなればアクアが一番良いとは思っていた。

恐らくミヤコを除けば一番愛瑠が懐いているのはアクアだろう。

そんなミヤコの答えにガックリとルビーは肩を落とす。

 

「愛瑠誕生日おめでとう。今日は夜来られないかもしれないからごめんな?」

「こりゃれ?」

「……ありがとう」

 

言葉の意味は分かるものと分からないものがあるため、アクアの言葉を理解できた訳ではない。

ただアクアが申し訳なさそうな顔をしたのに合わせて偶々だろうが頭に手を出してポンポンと叩く。

もしかするとアクアの頭を撫でるミヤコの真似をしているのかもしれない。

そう思えばアクアは自然と顔が緩む。

 

「今日は尊さが多重事故起こしてる!これが私の天上界!ママ撮ったよね!?」

「勿論!みんなのグループに共有するね〜」

 

一瞬で立ち直ったルビーが今度は楽しそうに騒いでおり、アイは流れるように動画を撮影する。

自分が撮られる時にいい角度に調整できるということは、撮影の時もどの角度から撮るのが映えるか本能的に理解していることに他ならない。

完璧で究極のカメラマンがそこにいた。

 

「愛瑠は壱護よりもアクアの方に懐いてるのよね」

「父親の俺に対してよりもな」

 

アクアに対してやや嫉妬の混じった目を向ける壱護にミヤコは苦笑しながら言葉を返す。

 

「単純にあの子時間できたら面倒見てくれてるんだもの。接してる時の対応が貴方より上なんだから仕方がないんじゃない?」

「いや!?そこまでは変わらないだろ……一応家では面倒見てるぞ……見てるよな?」

 

この辺りは子供にしか分からないので本当のところはわからないところだ。

 

アクアたちは撮影場所への移動時間も考えてギリギリまで斎藤家にいる予定にしている。

ソファでリラックスする間もアクアの膝の上を陣取った愛瑠はご機嫌だった。

 

「ん?フリルから連絡?」

 

スマホが振動したため、何とかポケットから取り出してメッセージを確認するとフリルからメッセージが届いたと表示がされている。

 

フリル:今から貴方の家行って良い?愛瑠ちゃんに今のうちにお祝いしないと

 

時間を確認するとまだ余裕があるため許可は出せる。

斎藤家を家として紹介しているアクアとしては今の状態なら来てもらっても構わなかった。

 

「壱護さん今からフリルが来るらしいけどいいよな?」

「おーい愛瑠、パパの方が……ん?そうか、あいつもルビーと同じ番組だったな。愛瑠を祝ってくれる奴が増える分には歓迎するぞ」

 

何とか愛瑠を自分の膝に連れてこようと誘導して無視されていた壱護に確認するとあっさり許可が出たためアクアはフリルに返信をした。

 

アクア:愛瑠を祝ってくれるなら嬉しい。まだ時間に余裕あるから気をつけて来るようにな

 

その直後、『ピンポーン』とチャイムが鳴り響く。

ミヤコも何か来客予定あったかしらと言いながら玄関へ向かう準備をしていた。

アクアはこめかみを押さえながら彼女に来訪者を伝えた。

 

「多分フリルだと思う」

「あら、よく分かったわね。インターホンにあの子が映ってるわ」

「さっき今から家に来るって連絡あったからな。……なんで家の前でそんな連絡するんだよ」

 

アクアは呆れながらもその行動力の高さに感心する。

もしアクアにダメと言われたらどうするつもりだったのか、それともダメだと言われない確信があったのか。

そんなフリルは部屋に入ってきて一目散にアクアの許、というよりその上に乗る愛瑠の元へ駆けつけた。

 

「おはよう、ありがとう許可してくれて」

「タイミングおかしいだろ無駄足になったらどうすんだよ」

「マリンが愛瑠ちゃんの事を祝いたいって話に反対する訳なかったから……本当は確認を忘れててアポ無しでチャイム鳴らしそうになっていた。ごめんなさい」

 

どうやら計算でも何でもなく祝いたい一心での行動だったらしい。

 

「まぁそれだけ純粋に祝いたいと思ってくれるなら愛瑠も嬉しいんじゃないか?」

「ふーちゃ!」

 

フリルのことをしっかり知人と認識している愛瑠の声に目を輝かせて彼女は飛びつく。そのまま負担にならない程度に抱きついて頬擦りを始めた。

 

「いいこでちゅね〜やっぱりミヤコママとお兄ちゃんの教育がしっかりしてるからおとなしいでちゅね〜」

「むぅ!」

「……猫可愛がりもいいとこだろ、アイやルビーもだけどあまり甘やかすのも良くないと思うが」

「いや、マリンも人のこと言えないでしょ」

 

そんなアクアとフリルの会話を聞いてルビーは少し危機感を募らせていた。

 

(えぇ!?フリルちゃん、いくら愛瑠ちゃん可愛がるためとはいえ、なんかおにいちゃんの膝上に抱きつくみたいな格好になっちゃってる!いや、最近おにいちゃんに対しても甘えてる感じじゃない!?あと半年くらいで16歳なんだからお願いだからちょっと待って!)

 

自分に課した16の制約、爆発力を期待してのソレだがその前に掻っ攫われてしまっては意味がない。

0歳から虎視眈々と狙い続けてきた至宝を親友とはいえ取られるわけにはいかないと内なる葛藤を繰り広げている。

 

(なんかアクア最近モテモテ過ぎてないかな。かなちゃんとあかねちゃんどっちがお嫁さんになるかな〜なんて思ってたけど。フリルちゃんやみなみちゃんも本気っぽいんだよね〜)

 

息子周りの恋愛事情を何となく察している母は、最近息子の将来が不安になっていた。

 

(そりゃアクアはカッコイイし頼りになるんだけど……ちょっと女好きというか女たらしというか。ヒカルに似てるから女の子にモテるのは仕方がないけど。それに対してルビーはずっとお兄ちゃんばっかり見てて男っ気ないし……いや、アイドルだからそれでいいのかなぁ?)

 

アイはもしかして自分の教育方針は間違っていたのではないか?と疑いを持ち始めていた。

 

「今更だけどその格好恥ずかしくないのか?」

「マリンなら……いいよ?」

 

愛瑠の頬から頬を離さずアクアの方へ顔を向けて器用に上目遣いを向けるフリルにアクアはため息を吐く。

 

「何をだよ、その顔蕩けさせた頬擦りポーズの話をしてるんだが」

「ちぇっそこは動揺した感じ出して欲しかったな」

「にい!ふーちゃ!」

 

アクアとフリルのやり取りが面白かったのかキャッキャと愛瑠が笑顔を浮かべ、普段表情が硬い二人も子供の笑顔に勝てず、自然な笑みを浮かべる。

 

「……おい、ほんと頼むからスキャンダルは起こすなよ?」

「あの子達周りの恋愛事情はなるようになるしかないわね……もしかしてあの子達が配信でアクアの名前出すのって計算なのかしら」

 

やはりこの年齢の男女関係は扱いが大変で、思春期時代にスキャンダルなく成長したC式部は奇跡だったんだなと思う斎藤夫妻だった。

 

斎藤家から余裕を持って出てテレビ局に来たアクア達。

歩きながらもアクアは妹からの不満を受け止めていた。

 

「もうおにいちゃんが愛瑠ちゃん占領し過ぎて全然構えなかったじゃん!」

「待て、どっちかといえばフリルのせいだろ」

「マリン酷い……」

 

アクアは結局合流してからずっと愛瑠の隣というかアクアの正面を確保していたフリルが原因だとルビーの矛先へ突き出した。

 

「まぁ確かにそうかも。ずっとベッタリしてたもんね」

「ルビーは私が来るより前に沢山可愛がれば良かったんじゃない?」

「そうかもしれないけど!……おにいちゃん見るのに夢中になってたなんて言えないよね」

 

初めての地上波とは思えない気楽なやりとりをする三人。

B小町Rはその知名度に対して地上波の露出がこれまでない変わったグループだ。

逆にそんな状態で今の人気があるほどにポテンシャルを持つグループとも言える。

 

「今回のプロデューサーは俺も直接会った事ない人だから失礼のないようにな」

「えっ珍しいね。なんかいつもお兄ちゃんコネで仕事捩じ込んでるイメージだったのに」

「ヲタ芸赤ちゃんや美少女MEMberは界隈で人気だから話が来ただけだ。二人の自分らしい姿が評価されたんだから誇っていい」

 

アイグッズをいくつか身につけたルビーとMEMちょグッズを鞄にかなり入れてきたらしいフリル。

二人とも自分の推しを隠すつもりもない。

企画の説明にも分かりやすい推しをアピールして欲しいと書かれており、事前に推しアイドルを連絡すれば権利系も全部整えてくれると聞いていた。

そんな話をしながらスタッフ達の許へ向かった三人は改めて挨拶をする事になる。

 

ルビー達を連れて挨拶に回って彼女達を一度楽屋に戻した後、アクア個人も挨拶をして回る。

来年以降の自分に関する営業活動も兼ねていた。

顔見知りから新顔までさまざまだが、久しぶりやテレビでしかアクアを見ていなかった人はその成長に驚きを見せていた。これはマネージャーをしていてもう慣れた光景である。

 

「本日はよろしくお願いします」

「おお、さっきぶりだね。アクア君がB小町Rのマネージャーしてるって噂本当だったんだってビックリしたよ。本当は君にも出演依頼したかったけどまだダメって言われてね。来年はよろしく頼むよ」

 

多少恰幅の良い男はニコニコと挨拶に来たアクアへ反応する。

 

「俺アイドル好きとは言っても苺プロのアイドル専門ですけどいいんですか?」

 

アイドル好きというよりはアイやルビー達に関するアイドルが好きというのがアクアだ。

この番組の趣旨としてそれでいいのかという意味で確認する。

ただプロデューサーはこの発言を引き出すことが目的だったらしい。ニコリとしながら言葉を返す。

 

「いいんだよ、本気でアイドルが好きってことが伝われば。それに、君の勤勉さは鏑木からよく聞いている。アイドルのマネージャーをやった経験から他のアイドルについてもかなり調べたんじゃないかい?」

 

アクアも知人の名前が聞こえて少し観念したような声を出した。

 

「……鏑木さんから聞いていましたか。にわか知識になってしまいますが、もし来年お声掛け頂ければ是非」

「うんうん、物分かりがいい子だね。また来年の9月〜10月辺りの君の予定を何日か空けておいてくれ。その時期に合わせて企画を組むから」

 

流れるように来年の予定の一つを押さえられたアクアはこの人油断ならないなと思わされたのだった。

 

 

番組の撮影が始まり、アクアのようなマネージャーは後ろに下がって見守るしかできない。

ルビーもフリルもやけに自信満々だったなとアクアは思い出して不安を感じていた。

ただ始まるとそんなものは杞憂だったと気付かされる。

 

「フリルちゃん!地上波初って事だけどイチオシは?」

「やっぱMEMちょだよね。デビューした頃からずっと推し。あの反応が可愛いし何ならアイドル卒業後もモテないなら押し倒したいくらい」

「おっおお……。小学生の時にこの写真撮られたくらいには重度のオタクだと思ってたけどこれは凄い」

 

そんな言葉に合わせてスタジオにも1枚の写真が公開される。

ルビー、フリル、みなみ、ミヤコの集団が隠し撮りされたものだが、特にフリルは全身MEMグッズで異彩を放っていた。

 

「今日身につけたグッズもこの時の?」

「いくつかは新しいものもあるよ、このバッジは去年のドームだし、こっちは……」

 

ここから止まらないMEMちょトークがなされたが、実際には半分も公開されないだろうなとアクアは思いながら聞いていた。

ただインパクトとしては使ってもらえるだろうし見せ場は作ったと言っていいだろう。

そしてルビーはといえば、あえてアイではなく違う子の話をしていた。

 

「例えばまだ売り出し中なんですけどこの子とか結構好きで」

「え?その子地下アイドルでしょ?そんなとこまで押さえてるの」

「時間さえあればアイドルは地下だろうとリサーチはしてます!地下だからって偏見持ってたらアイだって最初は地下上がりだし!確かに彼女はまだ地下だけどガッツあるっていうか現状を何とかしようって意思も持ってて……」

 

バラエティだからというよりただ語りたいだけのルビー

目をキラキラと輝かせながら全力で語る姿はファンでなくても思わず魅せられる。

 

「他にもね、こっちは大手の子なんだけど、視線の誘導とかも使ってしっかり自分の見せ場作っててね!やっぱり推し甲斐があるって感じで……」

 

司会の芸能人も思わず押されてしばらくルビーの色々なアイドルについての語りを垂れ流させる。

アクアは今のB小町Rの注目度でこの番組によって紹介されたりしたら後で大変だろうなと他人事に思っていた。

自分の使える尺をフルに使って語れるだけアイドルを語ったルビー。

その後、何とか空気感を戻した司会はやはり似たようなオタトークをする子に話を投げる。

 

「まなちゃんは去年末にアイドルトークでブレイクしたけど……今本気で推してる子はいる?」

「B小町Rの星野ルビーちゃんかな」

 

その言葉に一部参加者の空気が変わる。

なんならルビー達も驚いて目を開いていた。

ただまなはそんなこと知ったことかと語り始めた。

 

「この場にいない子を選ぶべきとは思うんだけど……私の今のイチオシって意味では絶対嘘つけないから。私ね、ルビーちゃんのおかげで人生変わったの」

「人生!?大きく出た話だね、どんなエピソードがあるの?」

 

そう聞いた司会の人へまなは自分が変わるきっかけとなったエピソードを話し始めた。

 

「去年のJIFでね、ルビーちゃん達のステージを見たんだ。私たちの出番が終わった後に時間あるからってスターステージまで」

「わお、ファンの皆驚きますよね、まさかあのB小町R初ライブにまなちゃんが参加してたみたいですよ」

 

まなファンは当時でもグループ中堅レベルの人気はあった。

それを知っているからこそファンを煽るような言葉を付け加える司会は流石プロと言える。

 

「元々YouTubeで配信してるのは追っていたので、可愛いなぁって軽い気持ちで見に行ったんです。そうしたらメンバー五人ともキラッキラに輝いてて、個性の塊なのに皆を魅せていて……特に『サインはB』のルビーちゃんを見た時、思っちゃったんですよね『私もこうなりたい。でも無理だな』って」

 

アクアはその言葉に、アイの下で歪んでしまったかつてのB小町を思い出す。

ただ続いてのまなの言葉はそんなネガティブなイメージを打ち消すのに十分な価値があった。

 

「でも……それでも憧れちゃうほど眩しくて頑張ろうと思えた。今までやってこなかった自分をもっと出せるように、勇気を出して新しいことに挑戦してみようって考えた。変わろうと思えた。その結果が年末の特番……もうなるようになれ!って感じだったなぁ」

「なるほど……そりゃ人生変わったっていう訳だ!新しいアイドルが凄いって思いはアイドルとしても色々な感情を呼ぶんだね。まなちゃんは強いな」

 

感慨深そうに言う司会の芸能人にアクアも同感だった。

後続に追いつかれる追い抜かれるかもしれないという感情はショックも大きいだろう。

それなのにしっかりと立ち上がって飛躍しようとしている。

 

「私が強かったというよりはちょうどメンバーの二人も付き添いで一緒に見てくれて。まだやれる!って言ってもらえてたのが大きいと思ってます。自分一人じゃ折れちゃってたので……二人にはホント感謝してます」

 

最後はてへっとアイドルらしい可愛らしさを見せるまな。

決して諦めかけたようには見えない明るい彼女の姿がカメラには輝いて見えた事だろう。

ルビーやフリルも十分に目立ったが、今回のMVPは間違いなく彼女になるだろうとアクアは思う結果となった。

 

 

「たっだいまー!愛瑠ちゃんまだ起きてるよね」

 

ルビーは斉藤家のリビングの扉を開けて誕生会へと参加する。

かなは二人と遊んでいる愛瑠に構ってもらえなくて拗ねてケーキを食べていたところに現れた乱入者へ状況を説明する。

 

「そりゃ誕生会始まって少ししか経ってないし元気よ、今はあかねの膝の上に嬉しそうに座ってみなみと遊んでいるわ……羨ましい。ってアンタらなんか早くない?」

 

聞いていた時間通りならば、帰ってくるのは誕生会など終わっている頃になるのでは?とかなは首を傾げる。

今の返事を聞いてすぐに愛瑠の許へと向かったフリルをよそに、ルビーは楽しそうに今日の番組であった出来事を説明した。

大人しく全てを聞いたかなは表情をコロコロと変えながら話すルビーを半目で見て言葉を返す。

 

「それでまんまと逃げ帰ってきたわけね」

「違うよ!まなちゃんのエピソードが良くて想定よりずっと早くに撮影終わったおかげで誕生会に間に合っただけ!」

「いや、完敗してんじゃない!アンタ踏み台にされてるわよ」

 

呆れたように言うかな、ただルビーの感想は少し違う。

明るい表情の彼女にアクアも少し不思議に思っていた。

帰り道も口数が少なかったため、アクアもルビーがショックを受けているのかと考えていた。

 

「確かにこの番組だけ見たらまなちゃんは私を使って自分の知名度をあげたように見えると思う」

「というかそうとしか言えないでしょ」

 

淡白に返すかなにルビーは力強く答える。

 

「それでも、私は嬉しかった!私のおかげでアイドルもっと頑張りたいって思えたって言ってもらえて。新しいことに挑戦する勇気を得られたって聞いて!……一人だったら折れそうだったとも言ってたけどそれはそれ!私はあの日のアイみたいに閉塞感を感じている誰かに希望を与える存在になれているんだって」

「……アンタほんっと眩しいわね。まっアンタが良いならいいわよ。ただ折角のチャンスだったけど地上波あまり映れないのは残念ね」

 

目を細めるかな。

この眩しさがきっとそのアイドルも変えたのだろうなと、かなは思う。

かな自身はルビーほど純粋な気持ちになることはもうできない。

この芸能界で彼女の純粋さが守られるのは難しいとかなはよく理解している。

だが、それがいつまでも守られて欲しい、そんな気持ちを持っていた。

 

「アンタが守ってやりなさいよ」

「アイツは守られるだけの弱い女の子じゃないぞ」

「あの純粋さを守れるとしたらアンタだけなのよ。世界の全てがルビーを否定してもアンタが肯定してあげたら、あの子はきっと今のままでいられる」

 

かなはルビーのブラコンは常軌を逸していると思っている。

不健全だと見ていても思うが、今の眩しいルビーのままでいるためにはアクアが必要なのだと理解していた。

 

「そうかよ」

「そうよ。だからアイツを私たちをよく見てなさい。いいわね」

 

初ライブの日、ルビーの笑顔に、言葉に助けられた身としてはあの笑顔が曇るような、変わってしまうようなことが起きないで欲しい。

そう彼女は願うのだった。

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