【推しの子】ヤケクソハッピーハーレムルート   作:ただの暇神

71 / 167
幼馴染

「どしたの皆。こんなところに集まって」

 

苺プロの事務所共同ブースに集まったルビー、かな、フリル、みなみの四人を見て、そばを通りかかったMEMちょが声を掛ける。

テレビの画面にはネットテレビ局の画面が表示されていた。

 

「MEMちょ。私たちに勇気を与えて欲しい」

「えっ!?ホントになんの話!?今日はもうお仕事終わったし話なら聞くけどさ」

 

推しを見つけて目を輝かせたフリルはMEMちょにこれがどういう集まりなのかを語っていく。

全て聞き終えた彼女は確認のため、問い返す事にした。

 

「えーっとつまり、アクたんとあかねが出る恋愛リアリティーショーを見たいけど見る勇気が出ないって事でいいの?」

「うん。ちなみに同時視聴動画を撮るなんて事も考えてる」

「それ燃えない?具体的には皆が嫉妬して失言する形で」

 

MEMちょは別に鈍い方ではない。

かな達四人がアクアにどんな気持ちを持っているか察している。

ルビーも重度のブラコンを患っており、兄にモーションを掛ける相手に何を喋り始めるか不安要素だ。

 

「だから動画にした。配信と違って没にできるから」

「なるほど、理性は残ってるわけだ。……うーん分かった。私がここで皆の反応撮ってあげるから見てみたら?」

 

少し見るのを躊躇していたメンバーも大人なMEMちょが近くで見ていると少し勇気が出たのか恐る恐るテレビを操作して『今からガチ恋始めます』と番組欄に表示されたのを確認してから再生を選択した。

 

「なんかテンポ感いい音楽だね」

「まぁリアルで楽しそうな恋愛を見せるって建前なんだから暗い感じにはしたくないんじゃない?」

 

軽快なBGMと共に『今からガチ恋始めます』というロゴが表示される。

学校を背景に番組の概要がざっくりと紹介されたところで画面が切り替わり、本編がスタートする。

現れたのは教室とくっつけられた6つの机、そして四人の男女だった。

 

『鷲見ゆきです、よろしくお願いします』

『熊野ノブユキ!よろしく!ダンスが得意です』

『森本ケンゴ、バンドマンやってます』

『……ミミは……えっとその……YouTuberやってます』

 

参加者達が各々自己紹介をするのに合わせて実際にそのキャラにあった背景や、事前に撮影したらしいプロモーション画像が表示される。

芸能界慣れしているからか一人を除いてカメラ前だというのにハキハキと話していた。

初めて見た相手がどんな人か分かりやすい構図となっており、見事な構成と言えるだろう。

 

「あれ?マリン居ない」

「あかねさんもおらんね?どうしたんやろ」

 

フリルとみなみが疑問を口にするようにこの場には四人の参加者しかいない。

今回は六人とキャッチフレーズとして書かれていたように他の視聴者も不思議に思う事だろう。

 

『あれ?あと二人居るって聞いてるんだけど』

 

画面の向こうでも台本なのか本当に不思議に思ったのか、モデルの少女ゆきが口を開く。

 

『確かに?というかさ、あの人が参加するって噂で聞いたけどマジなん?』

『何そのあの人って呼び方。名前呼んじゃいけない人みたいになってるじゃん』

 

くすくすとゆきがノブユキの言葉で笑顔になる。

早速少しだが良い雰囲気を作るメンバーが現れた。

そのタイミングでガラリと扉が開かれる音が響いて金色と黒の影が同時に姿を現した。

 

『遅くなりました。黒川あかねです。もーアクアくんのせいで遅刻しそうだったでしょ!いっつも寝坊してお義母さんに頼まれてるんだからちゃんとしてくれないと!』

『遅れました星野アクアです。何言ってんだよ!俺はギリギリ間に合ったのにお前が途中犬可愛いとか言って見惚れてたからだろ!人のせいにすんじゃねぇ!』

「「「「「いや誰!?」」」」」

 

コッテコテのテンプレ幼馴染のようなトークをした二人に、その場に居た五人全員が突っ込みを入れる。

MEMちょは傍観者に徹するつもりだったのに、知っているはずなのに知らない二人が登場して困惑していた。

 

「何よ、黒川あかねがやってる『彼の幼馴染だから私のよ?』っていうマウントムーブ。番組だからってキャラ作り過ぎでしょ。大体最初に知り合ったのは私なんだけど」

「いや私だよ!何ならママのお腹の中でも隣に住んでた訳で、幼馴染0号と言っても過言じゃないから!」

「過言でしょうが!何寝ぼけたこと言ってんのよ」

 

あかねに対して自分のポジションを奪われたと言いたげなかなだったが、ルビーの過去誰も聞いたことのないとんでも発言にツッコミに回らされるかな。

彼女としては前世からの運命の人と言いたいところを妥協したのにと不満げな表情を浮かべている。おかしな二人に対するショックが残っているのかまだ混乱状態だ。

そんな彼女達など構いもせず。画面の中は動き続ける。

 

『ふわっ本物のアクあかだ!なんか昔テレビで見た印象よりもっと幼馴染って感じ!いいなぁ幼馴染ってちょっと憧れあるんだよね〜』

 

飛び込むように入ってきて深い信頼を感じさせた二人に対してゆきは感嘆の声を上げる。

ゆきは本物のアクアとあかねの直撃世代なので、それも仕方のない事だろう。

芸能界に所属する理想の幼馴染コンビなんて女の子からすれば少しテンションが上がるのも無理はない。

 

『というかお二人さん手なんか繋いじゃって~もうカップル成立って出しとく?』

 

そんなユキに続くようにノブユキの揶揄い交じりの言葉に合わせてアクアとあかねが繋いでいた手に画面がクローズアップされた。

どうやらこの場に入ってきた時から手を繋いでいたらしい。

どんどん繋がれた手が大きくなっていき

 

『カップル成立?』

「ちょっと待ちなさい!何よこの爆速展開。総配信時間10分も行ってないんじゃない!?出来レースなんてちゃちなもんじゃないわよ!?」

 

画面が切り替わって現れた演出とロゴを見てかなは鋭く切り込む。

 

「どうどう。重ちゃん落ち着いて」

 

そんなかなを隣にいたフリルが宥め始めた。最初はツッコミを入れたものの、そこから急に冷静になった彼女は冷静に言葉を紡ぐ。

 

「役者のプロなのに惑わされたらダメだよ。多分二人はキャラ印象を付けるための演技をしてるから」

「は?」

 

淡々としたフリルの言葉。そこで頭が冷えたかなは画面に視線を戻す。

 

『悪いな。折角恋愛リアリティーショーって事だから余裕があるうちにこういう展開も見せときたいと思ってあかねに手伝ってもらって演出したんだ』

『あはは、思ったより楽しかったから私もノリノリだったけどリアルだったかな?』

『役者って凄いな。幼馴染カップルが惚気見せつけるために番組参加したのかと思ったよ』

 

そのタイミングでちょうどネタバラシが行われ、ケンゴも思っていた事を口にする。

『カップル成立?』ロゴが転げ落ちてどこかに消えるどこかコメディーチックな演出が行われた。

怒涛の展開に視聴者も満足できる内容と言えるだろう。

 

「あーそういう事なんやね。うち実は裏で二人がこんな関係なんかなぁってびっくりしてもうたわ」

 

みなみも知らないうちに二人がくっ付いていて番組を利用して暴露したのかと思っていたので、失恋したかと思い胸を痛めていた。

そのせいもあってか静かだったのだが、結果としては失恋回避を喜ぶ。

 

『改めて星野アクアだ。恋愛リアリティーショーで幼馴染展開は普通見られないだろうと思ってあかねに手伝ってもらってやってみた感じだな。これからしばらくよろしく頼む』

『黒川あかねです。アイドルをやらせてもらっています。ちょっとビックリさせちゃったと思うけど、流石にここからは普通にやらせてもらうね?』

 

アクアとあかねの挨拶が終わったところで二人のプロモーション映像が流れる。

役者という面とそのルックスが強調されたアクアのPVとアイドルと役者の両面を綺麗にこなすあかねのPVは短いながらも実に見応えのある要点のまとまった物だった。

 

『今みたいな即興劇って他にもできるの!?良かったらやってみない?』

『ある程度付き合い長い相手とならできるから番組後半になってもゆきが試したかったらな。流石に相手の演技のクオリティーや癖が分からないとズレが生じる』

『私とアクアくんはもう14年も一緒に演技をやってきてるからその辺はバッチリだよ』

『演技じゃなくてもガチ幼馴染じゃん!リアル幼馴染ってすげーな。そのどっちも芸能界でしっかり活躍してるし!』

「……色々言いたいことはあるけど、アクアもあかねも上手い事場の空気を持って行ったわね」

 

二人は自分たちを一度中心とした空気を作り上げるのに成功している。

自分と大差ない芸歴の長さを持つ二人だからこその手腕にかなは感心していた。

 

「マリンの性格上、こういうので目立つのは苦手だから適当に安全圏で過ごすと思ってたけど張り切ってるね」

「そうやねぇ。なんかちょっぴり焦っとるんかな?」

「あっ……アレじゃないかな。私たちが思ったより売れ出してるから休みも長くなったし焦ってるんじゃない?おにいちゃん結構負けず嫌いだから」

(……やっぱりそういうことなんだねおにいちゃん。私も頑張らないと)

 

アクアが以前話した『15年の嘘』を進めるために必要なピース。

アクアとルビーがアイに頼らなくてもいいくらいに売れる必要が計画にはあり、アクアはイレギュラーな番組出演すら貪欲に呑もうとしている。

 

『えっと………その……あ……アクア君……か……かっこいいですよね』

「あーコイツはないわね。配信では結構好戦的でしょ?猫かぶってない?」

「それ私怨入ってるでしょ。引きこもり版重ちゃんって言われてたし」

「おかしいでしょ!?確かにちょーっとだけキャラ被ってるけど。いや、なんか今しおらしいし」

 

かなはアクアに恥ずかしそうにしながらもなんとか声を掛けに行ったミミを見て吐き捨てる。

カメラの近くでMEMちょが思い切り失言したかなを見て配信じゃなくてよかったーと一安心していた。

 

『ミミも可愛いな。声も可愛いしドキッとさせられた』

「は?私に言いなさいよ」

「……やっぱり女好きだよねマリン。これ以上たらし込まれる前に歯止めかけないと」

 

素とそこまで変わらないアクアの言葉に思わず本音が出るかな。

想いを自覚して少しだけ以前よりアクティブになった彼女は前より素直だった。

フリルはアクアが本質的に女の子が好きな事は察しているが、ただでさえ強力なB小町Rが居るのだからこれ以上増えないように願っている。

 

(惜しい、惜しいよかなちゃんの発言可愛いし、フリルちゃんの発言もいじらしい。さっきのかなちゃんの失言がなければなー。って待てよ?ミミちゃんこないだコラボさせてもらったし連絡先あるからちょっと交渉しよっかな)

 

皆の反応を見て可能性を感じてきたMEMちょは問題なくこの動画を公開する方法を頭で考え始める。

そんな中、画面の中のあかねがアクアの側へと動いた。

流れるようにアクアの服の裾を控えめに摘んで、頬をぷくぷくとフグのように膨らむ様にアクアは苦笑を浮かべた。

 

『怒るなら怒れよ……感情表現子供か』

『いや、かわいっ!?黒川さんもっと大人っぽいイメージあったのに君にはこんな感じなんだね』

『あかねは普段冷静だけどたまにこうなるんだよ』

 

ゆきはアクアとあかねについて事前に持っていたイメージを覆され、思わずといった感じで声を出した。

それに対して慣れたように返すアクアの態度は、普段から素の彼女がこんな姿なのだと誤認させる。

 

「うわぁあかねさん流石やなぁ。ほんまにアクアさんの女たらしっぷりに嫉妬してるようにしか見えへんわ」

「いや、アレは素が8割はあるでしょ。流石にあそこまで露骨にはしないけど、あかねはクールな感じ出してる割に実は子供っぽいとこあるから、『アクアくんは幼馴染で相手役の自分を放置して他の女の子褒めるんだ〜』とか思ってたに違いないわ」

「かな先輩の解像度も凄いね。流石実質姉妹だ」

 

あかねと共に過ごした時間はこの中で誰よりも長いかな。

何なら自分の両親より共に過ごしたのだ。

冷静になればそのくらいは見抜ける。

 

(あかねの奴、残りの二割で普段よりわざと甘えに行ってるわね。……まさかマジでアクアのやつを落とすつもりじゃないでしょうね)

 

改めて自分の右手を恨めしそうに見ながら、かなは今ガチの視聴を続けるのだった。

 

 

その頃、アクアとあかねは6月から放送される少し変わったスケジュールのドラマ、その撮影に訪れていた。

今は休憩時間であり、二人は雑談をしている。

 

「今頃アイツらは今ガチ見てるんだろうな。……流石にちょっと恥ずかしさもあるが」

「アクアくんが急にくっつくの秒読み状態な幼馴染やろうって言ってきた時はビックリしたんだからね?」

 

実はあのやりとりはアドリブだ。

アクアが朝思いついてあかねにお願いした結果、実現した演技。

リアリティーを求める視聴者に対して自分たちの属性を活かしつつ非現実的だがあり得そうな展開で場を沸かせた。

あの展開は元からずっと続ける意図があったわけではない。

視聴者にこの先もこういうドキッとするような展開を用意できるかもという期待感や、これからのアクアとあかねは演技なしの純粋な二人だと思わせるための布石である初手の演技。

即興の割には様々な計算の上で成り立っている。

 

「恋愛リアリティーショーは不勉強だったが、本当に台本がないんだな」

「本当びっくりだよね……私あんまり得意じゃない分野だから少し不安かも」

「あかねなら大丈夫だろ。予定通りとはいえ俺との見せ場は結構用意できてたと思うし」

 

アクアとあかねはあくまで素に近い自分を演じながら、距離感の程々近い幼馴染の男女をやるように努めている。

そしていくつか自然に用意したイベントを終了までに消化しようと行動していた。

 

「それにしてもあの嫉妬シーンはちょっと過剰じゃないか?」

「大丈夫だよ、アレくらいなら幼馴染なら普通だから」

 

あかねは自分の本物の感情と演じる自分の感情を上手くコントロールしながら立ち振る舞いを決めている。

昔から鍛えてきた二重演技を使い、『黒川あかね』と『幼馴染ちゃん』に明確な差をつけていた。

あえて『黒川あかね』の感情を『幼馴染ちゃん』として出力する事で、リアルだが可愛らしい嫉妬を表現した。

 

「ほら見てよアクアくん。私たちトレンド入りしてるよ?」

 

そう言いながらあかねはアクアにTwitterのトレンド画面を見せる。

『アクあか』『幼馴染』『ぷくぅぷくぅ』『出来レース』この辺りは関連トレンドだろう。

二人の作戦はうまく行っていると言って良い。

 

「ただあまり距離が近付き過ぎると最後にくっ付かないと不自然な感じになるからな。視聴者をドキドキさせつつも最後は友達着地できるようにやらないとな」

「そうだね……最初は飛ばし過ぎたかもしれないから気を付けないと」

(……うん、私としてもまだ早いかな。私一人が勝つならこれは最大のチャンスだけど……もう私は覚悟を決めてるからね)

 

あかねとしては、ここで可能な限りアクアに、女の子としてしっかり意識をしてもらうのを目標とはしている。

ただそう簡単に受け入れてもらえるとも思っていなかった。

 

「二人ともそろそろ撮影再開しますので戻ってください」

「「はい!」」

 

二人が声を揃って答える。

今回ドラマでのアクアとあかねの関係は恋仲となっている。それもサブキャラではあるもののそれなりに出番が多い人間だ。

ちょうど恋愛リアリティーショーに参加したこともあり、周囲からはこの二人は実際に揃ったらどんな演技をしてくれるか楽しみに思っていた。

 

「アカツキ!君は僕との約束を守らないつもりかい?」

「いや、ソラとした約束ってなんだよ……。一方的な宣言は約束とは言わねぇ」

「昨日言っただろう?いいから行くよ!」

「はいカット!OKです。あかねさんはテンポよく煙に巻くような話ができていそうだ。アクアさんも気怠げながらも彼女を気に掛けてる不器用な男をうまく演じられている。二人とも想像以上ですよ」

 

二人の演技について軽く監督が誉める。

事前にキャラクターのイメージなどを伝えていたが、元々想像していたよりも綺麗にまとまっているからだった。

 

「アレかな?二人で恋リア撮影始まって何か掴んだかな?見させて貰ったけどアクアくん達の立ち回りは見事だし参考にしたいくらい」

「元々新しい演技のキッカケになればと思っていましたけど、早速効果が出たのは嬉しいですね」

 

他の仕事先でもこうして今ガチの話が出てくる程度には、この話題は今ホットだった。

しばらくは現場で聞く話題となることだろう。

アクアは自分なりに覚悟を決めたつもりだったが、少しだけ羞恥を感じる。

監督との会話が終わり、今日分の撮影が終わった二人は解散の準備のために荷物を整理しながら大事なイベントについての話を始めた。

 

「そういえばアクアくん、今度の土曜日夜からだと正式に空いてる事が確定したから行ってもいいよね?」

「勿論だ。俺もあかねが参加してくれるなら嬉しいからな」

「ふふっそっか。そう言ってもらえて私の崩れちゃうかも」

 

そう、もうすぐ星野……いや人を呼ぶ年なので斎藤家ではアクアとルビーの誕生会が開かれることになっている。

もうあと数年もすれば成人だと元アラサーのアクアは昔を懐かしんだ。

その日は今ガチの撮影もあるが、撮影時間的にも問題はない。

アクアはなんとなくその日が一つの転換点になる、そんな予感をヒシヒシと感じていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。