「「「誕生日おめでとう!!」」」
パンパンとクラッカーの弾ける音がリビングへと響き渡る。
前回よりB小町Rのメンバー分だけ参加者の多い誕生日会は実に賑やかだ。
去年の誕生日はある意味衝撃的な誕生日プレゼントがあったなとアクアは思い返す。
(この先DVDの中身より衝撃的なプレゼントがあることはないだろうな)
折角沢山の人に祝ってもらっているのにアクアはそんな事を考えてしまっていた。
「にぃ!ねぇ!おめっと!」
最近そこそこ歩けるようになった愛瑠が、満面の笑みをアクアとルビーに向ける。
あまりの可愛さにアクアは彼女の頭へ手を伸ばすが、それより素早く横の影が愛瑠に取り憑いた。
「きゃわ〜〜〜〜〜〜〜可愛すぎるよ愛瑠ちゃん!ミヤコさん!私愛瑠ちゃんのママになりたい」
「ダメよ、愛瑠は私のなんだから。あなたは……アイドル引退したら相手探し頑張りなさい」
愛瑠を抱きしめたルビーはミヤコへと世迷言を言うも当たり前のように却下される。
それが気に入らないのかルビーは頰をリスのようにして抗議していた。
「ねぇ?あーちゃ?」
「プヒュっ!?」
「ねぇ!戻った!」
不思議そうにルビーの頬を指でつつく愛瑠。
思わず口から空気が抜け出て元の顔に戻ったルビーにキャッキャと笑顔になった。
どうやら膨れて顔が変わるのが面白かったらしい。
ルビー本人も愛瑠の喜びようにまぁいっか!と理不尽な不満は瓦解する。
「ルビーちゃんが納得したのはいいんだけど……どうして私だと思ったんだろ?」
「あー……それはね」
後ろで聞いていたあかねだが、愛瑠の言い方にちょっと気になるポイントがあったようだ。
もしかして顔をちゃんと覚えられていないのでは?と悲しそうな表情を浮かべている。
ただミヤコはどうやら理由を知っているらしく、少し申し訳なさそうにタブレットを手渡した。
どうやら教育の一環としてタブレットを使用して愛瑠に動画などを見せて学ぶ機会としているようだ。
これに何かあるんだろ?と不思議に思いながらあかねはタブレットの画面を見る。
「な、なにこれ!?」
その声に他のB小町Rメンバーも覗き込む。
あかねがフグ顔になって戻るを繰り返すループ動画が映っていた。
ルビーの頬膨らませがこれと被った結果、あかねが現れたように感じたらしい。
再生数もかなりの回数であり、評価も高いようである。
「あの子の最近のお気に入り動画みたいね。知っている顔がコロコロ変わる物だから余計に楽しかったみたいよ」
「うう……。なんか恥ずかしい」
あかねは顔を赤くして手で顔を覆った。
いくら『幼馴染ちゃん』という役柄を自分に混ぜている時とはいえ、客観的におもちゃにされると少し恥ずかしいようだ。
「何恥ずかしがってんのよ……。あんな露骨な嫉妬ムーブなんてネタにされるに決まってるでしょ」
「でもコメント欄見たら『めちゃくちゃ可愛い!普段のしっかりした感じからのギャップ萌え』とか『普段は綺麗系なのに可愛すぎ推します』とか『アクあかしか勝たん!』って大絶賛だよ?私もマリンとのイチャイチャで視力が上がったし」
「コメントの気持ちも分かるんよね。うちもあんな美人があざと可愛い仕草したらたまらんもん」
かなは辛辣に、フリルは冷静に、みなみは興奮気味にそれぞれ今ガチでのあかねのムーブについて評価する。
こういう動きは同性にはウケが悪そうだが、むしろかな以外からは高評価らしい。
ただそんな二人の発言など聞こえていないかのようにかなは愚痴を続ける。
「はーやっぱ男って皆オスなのよね〜。美人がちょーっと可愛いムーブしたらギャップ萌えとか言い始めるわけ」
「なんでそこで俺の方を見るんだよ」
まだ初回しか放送されていないからあかね以外との絡みはほとんどない。
少なくとも今のところは、彼女達の考えた『アクアの相手を用意して緩衝材にしよう作戦』の通りであり、責められるようなことはしていないはずだと頭の中で確認する。
「かなちゃん私のことそんな風に思ってくれてたんだ。……なんだか嬉しい」
そんな中、推しの一人に美人と評されて不満はどこへやら少し嬉しそうなあかねに、かなは呆れた視線を向けた。
いつまでも終わりそうにない雑談に壱護が声掛けを行う。
「ほら、一旦大人しくしてとりあえず席ついて飯食え。折角ミヤコの作った料理が冷める」
「そうだよ~、ミヤコさんの料理おいしいからね!あっ!その前に写真だけ撮らせて!皆〜並んで〜よし!オッケー」
誕生日パーティーの写真を撮影してTwitterにアップするアイ。
アクアとルビーを中心にB小町Rが料理と共に写る写真。
一応B小町Rはアイドルなので、アイのお目付けもあるよというアピールも兼ねており、変なスキャンダルにならない配慮の意味もある。
ただこのメンバーならばきっと不要だろう。
アイ @AI_Bkomachi
今日はアクアとルビーの誕生日!
みんなで集まってお祝いだ〜〜〜!!!
この呟きのリプ欄には
『顔面偏差値高杉て視力上がる!』『女好きには天国じゃん良かったなアクア』
『アクアに生まれたい人生でした』
『全員育成成功したな。苺プロの育成力を評価したい』
『アクルビ、アクかな、アクあか、アクフリ、アクみな皆違って皆いい』
と好意的な感想が寄せられることとなる。流石は訓練されたファン達だ。
ちなみに視力が上がるについては、フリルが布教した結果、ごく普通にネットで使われるようになっている。
彼女のワードセンスが世界に認められた結果だろう。
ほんのり嬉しそうな顔をしたフリルの表情が印象的だった。
食事が始まってからはご馳走に舌鼓を打ちながらも、各々気になることを話し合う。
恋リアやライブ、ドラマ撮影のような実に芸能人らしい会話もあれば、学校生活や勉強、休日の過ごし方の相談といった一般的な物まで話す内容に事欠かない。
毎日のように一緒にいるメンバーではあるが、それでも話そうと思えば話題は尽きることなどなく楽しく過ごすことができる。
結局誕生会が終わるまで、会場は笑顔が絶えることはなかった。
誕生会も終わり、壱護が責任もって全員を送り届けている頃、星野一家はひっそりと自宅へと帰宅した。
最初は斉藤家に泊まるという話もあったのだが、明日のことを考えてこの選択になったのだ。
「ん~二人とも本当に大きくなったねぇ~ママとしても鼻が高いよ」
アイは家に帰ってお風呂などの身支度を終えた後、しばらくはニコニコしながら二人に抱き着いたりと嬉しそうにしていたものの、お風呂によってお酒が回っていたのか、こくりこくりと舟をこぎ始める。
「寝るなら自分のベッドで寝たら?」
「まだ寝ないよぉ~アクアとルビーの誕生日なんらからもっともっと」
「ママもう呂律回ってないね……もうすぐ寝ちゃうかも」
「まだまだよゆ〜だよ。心配性だなぁルビーは」
アクア達の忠告を聞きながらも気楽な返事をしていたアイ。
ただとてもそうは見えない姿を二人に晒している。
案の定というべきかこの会話をして数分もすれば、二人を抱きしめたまますぅすぅと寝息を立て始めたアイ。
そんな彼女に対してアクアは遠慮がちに声を掛ける。
「母さん、こんなところで寝たら風邪ひくぞ」
エアコンを使っているとはいえ、ソファーで寝るのはどうなのかとアクアが忠告する。
ただ声が小さいからなのか、折角気持ちよく眠っているのを邪魔したくないという心理が働いて軽い対応になっているのか原因は不明だが、アイはまるで起きる様子がない。
「……仕方ないか。母さんちょっと持ち上げるぞ」
アクアは一言そう呟いてからアイの膝下と背中に手を回してから抱きかかえる。
普段から鍛えていたのが幸いし、女性の中でも小柄で軽い部類のアイを運ぶ事などそう難しい事ではなかった。
「うわ〜おにいちゃん力持ちだね。ママ綺麗にお姫様抱っこされてる」
「むしろ軽すぎて心配になるくらいだぞ?」
ルビーにドアの開閉などを手伝ってもらいながら、アクアは寝室までアイを運んで、ベッドの上にそっと横たえてから布団を掛ける。
何かいい夢を見ているのかニコニコした寝顔の母は寝ていても顔立ちが相変わらず整っている。
「母さん、俺たちを産んでくれてありがとう。人生延長戦楽しくやれてる」
「あっ私も言わなきゃ!ママのおかげで私は今度こそ楽しい人生を送れてます!ありがとねアイちゃん」
その感想には前世の気持ちも乗っている。
彼女からすれば終わったはずの人生を続けさせてくれて、希望のない頃も照らしてくれた希望でもあるのだ。
それぞれが母へと声を掛けてから寝室を出る。
あとは時間も時間だからと互い自分の部屋へと向かうだけ。
「それじゃあルビー。また明日な」
「あっ……えっと」
「どうした?」
アクアがそう考えて別れの挨拶をしたとき、ルビーがアクアの裾を掴む。
それに気付いたアクアもその場を離れる足を止めた。
「えっとね……おにいちゃん、ちょっとだけお話しよ?」
「ん?もう遅い……分かった。少しだけな」
最初は今度でいいかと流そうとしたアクアだが、ルビーの真剣な目を見て彼女の願いを聞き届ける方向に意見を変える。
「じゃあおにいちゃんの部屋でお話しようよ」
「俺の部屋かよ……まぁいいけど」
アクアは少しだけ渋る仕草を見せたが、ルビーに甘い彼はすぐに諦めて扉を開けて彼女を迎え入れる。
「おにいちゃんの部屋ってなんというか簡素だよね。余計な物あんまり置いてないっていうか。ママのグッズや私たちのグッズどこに置いてるの?」
「その辺は普段は大事にしまってるんだよ。もし壊したりしたら最悪だろ」
アクアはそう言いながら棚やクローゼットの方へと視線を送る。
ダメージが可能な限り少なそうな保管方法で普段は管理をしていた。
その返事にルビーは嬉しくなったのか本題ではないだろう話を次々とアクアに振っていく。
アクアも彼女からパスされた会話に対して丁寧に応えていった。
「ふふっ、どうかなおにいちゃん。こんな時間に女の子を部屋に連れ込んでお話する気分は」
「はぁ……女の子って言っても妹だろ」
ニタニタと挑発的に笑うルビーにアクアはため息を吐きながら答える。
ただその返事が不味かったらしい。
先程まで楽しそうにベッドの上でゆらゆらと体を動かしていたルビーの動きがピタリと止まる。
そして母から受け継いだ整った顔でアクアの事を睨みつけた。
「へー……せんせはそういう事言うんだ……約束、覚えてない?」
「は?約束ってなんの……」
そこまで言ってアクアは自分の口を動かすのが自然と止まる。
『せんせ!好き!結婚して!』
『16歳になったら考えてやるよ』
頭の中にまだ幼い未来がなかった少女が言っていた言葉が蘇る。
そしてそこから連鎖するように、お互いの正体を知った直後にした会話をアクアは思い出す。
『えぇ〜せんせ16歳になったら結婚してくれるって言ったのに!約束反故にしちゃうの?』
『え?さりなちゃん!?いやそんなはずは』
『えー16歳になったらしてやるよ!だったよ〜確かに覚えてるんだけどなぁ』
彼女の患っていた病がもたらした影響で歪んだ約束。
この後、彼女が何を言おうとしているのかアクアは察した。
「ルビー、それは」
「今は何も言わないで……お願いせんせ」
アクアが勘違いを訂正しようと言い掛けた言葉をルビーは止める。
今生の母によく似た整った容姿が目立つが、その奥に確かに前世から持ち続けている輝く意志の強い瞳を見てアクアは二の句を告げなくなる。
そんなアクアにルビーは向き合った。
「私たちさ、前世色々あったよね?」
「……本当に色々あったな」
二人は思い出を振り返る。
精々二人が共に過ごしたのは半年程度だ。
ただ前世の他全てをプラスしてもお互いが一緒にいた時間の方が彼らにとっては重い。
「せんせはきっと12歳だったさりなが狭い世界で唯一まともに関わってくれた男の人だから懐いただけ。恋に恋しているとか思ってたんじゃないかな」
「……少なくとも僕よりいい相手はいつか見つかるとは思っていたよ」
「まぁそうだよね……だけどさりなは本気だったんだよ?」
反論を許さない断定。
アクアがのらりくらりと躱す事を読んでいるルビーはそのまま語り続ける。
「夢も希望も愛情もない。愛されることのない人生だって思ってた。でもせんせが毎日来てくれるようになって、『退院したらアイドルにでもなればいい。そしたら俺が推してやるよ』って言ってくれて……いつの間にか期待してた。でもさ、そしたら急に来なくなるんだもん」
「あの時は悪かったよ。……僕なりに考えた結果だぞ」
アクアが苦い顔をするのを見てくすくすと笑顔を溢すルビーが昔話を続けた。
「せんせが何股もして修羅場の末に海外逃亡したって聞いた時、期待なんてするんじゃなかったって涙が止まらなくて……でも本当はさりなのためにお仕事サボってまで東京行ってチケットを手に入れていたって知った時の気持ち……せんせは想像つく?しかも生まれて初めてのまともなクリスマスプレゼントだよ?」
アクアには本当の意味で彼女の心情などこれまで理解できたことはなかった。
ただ本人の思いを聞いてやっと吾郎が思っていたよりずっと、あのチケットに意味があったのだとようやく理解した。
「私を推してくれるって言ってもらった時、私は雨宮吾郎せんせに恋をした。この気持ちは絶対嘘じゃない。せんせにだって否定させない」
「ルビー」
「勿論おにいちゃんが言いたいことは分かるよ?前世は前世だって話とか、今世は兄妹だとか、もっといい奴がいるとか色々モラリストなこと考えてると思う」
この言葉を止めさせまいとアクアの考えていそうなことをルビーは先に口にする。
そしてアクアは今自分が答えようと考えていた内容をズバリ当てられ、苦笑いを浮かべることしかできない。
彼女はアクアが思っていたよりもずっとアクアの事を理解しているというのを証明した。
「最初は私だってふつーの兄妹になろうって努力してたんだよ?でも……無理だった。勿論アクアの事は兄妹としても大切だよ?ただどうしてもこの想いは消えなくて。それどころかおにいちゃんとしての一面が見えてくるたびに、もっとドキドキして」
胸に手を当てながら噛み締めるように、ゆっくりとした動作で少しずつアクアとの距離を詰めるルビー。
何となくそれに合わせて後ずさったアクアだが、壁まで追いつめられて身動きが取れなくなる。
「……天童寺さりなでもあり星野ルビーでもある他でもない『私』は、雨宮吾郎であり星野愛久愛海である『せんせ』の事が好き……大好き」
前世と今世を跨いだ恋を伝える勇気を振り絞った精一杯。
自分の持っている二つの人生を合わせて思い続けた相手への全力の告白。
その表情はこれまで見たさりなの物とも、ルビーの物とも異なっており、全てを魅せるアイに匹敵する魅力を放っていた。
アクアですらルビーに思わず見惚れ、目を見開いて呆然とする。
普段隙のないアクアが晒した僅かな隙を逃さないように、ルビーは一歩踏み込んで言葉を続ける。
「『せんせ』?『私』もう16歳になったよ?」
この思い出を共有し、約束をした相手はあなたですと念入りにアクアへ認識させた後、その勢いのままルビーはアクアの唇へ自分の唇を重ね合わせた。
「!?」
アクアは突然の飛び込んできたルビーに全く抵抗もできず、かといって怪我したりしてもいけないからと突き放すこともできず、ただ彼女を受け止めることしかできない。
柔らかな感触が余計にアクアの頭の回転を阻害する。
長い時間に思われたそれは、実際に触れ合っている時間などごくわずかで、すぐにルビーは唇を離す。
「私キスしたの生まれて初めてだから責任取ってね、おにいちゃん」
蠱惑的な表情を浮かべながらアクアの耳元でそれだけ呟いた後、ぱたぱたと部屋から出ていくルビー。
アクアはそれを呆然と見送る事しかできなかった。
部屋に戻ったルビーは、鍵を閉めた後、ベッドに飛び込む。
(ふわぁぁぁぁぁぁやっちゃったぁ!?流石に今のは暴走し過ぎたよね!?おにいちゃん引いてないかな!?)
そのまま布団にくるまって頭を抱えていた。
本当は約束を真面目に考えてよねと伝えるだけのつもりだったはずが、思いが高ぶり過ぎて抑圧された感情が爆発した結果、攻め過ぎて大暴走を生んでしまっていた。
「……私、おにいちゃんとキスしちゃった」
ルビーは自分の唇に手をやり、誰も聞こえない中ポツリと呟く。
前世からずっと大好きで、今世になってもっと好きになった最愛の相手とのキス。
だんだんと実感が沸き上がり、ルビーの顔が熱くなる。
結局その日、ルビーは中々寝付くことができなかった。