『私……もう『今ガチ』辞めたい』
『『『『ええっ!?』』』』
ゆきの爆弾発言にミミを除く四人が声を上げる。
ミミも目を丸くして驚いているのが画面越しにもよく伝わってくる。
視聴者はここからのゆきの言動を見逃さないように注目した。
『こんな途中で!?』
『何でそんなこと言うんだよ!』
メンバーからはそんな声も上がる中、ゆきはどうして辞めたいと思ったか心情を語っていく。
その瞳には涙がうっすらと見えていた。
今ガチも回数を重ねて以前より仲良くなった皆が、そんなゆきの心情を聞いてから各々ゆきに辞めて欲しくない気持ちを語っていく。
『ほ、本当に辞めちゃうの?折角……折角仲良くなってきたのに』
『あかね……』
あかねの寂しそうな心配そうな声が小さいのによく響いた。
新たな友人と別れたくない思いが見て取れる。
そんな友人の言葉にゆきも動揺した様子を見せる。
『俺がいつでも話聞くからさ!そんな事言わないで続けようぜ!』
『……私は』
ゆきとノブユキの仲の良さは番組内でも強調されている。
単純なカップリング人気ではアクあかに次ぐとされる程だ。
そんな彼の言葉にゆきはどんな決断をするのかとBGMも合わせて見ている人の気分は盛り上がっていく。
そしてここで次回予告の表示がされることになった。
『ゆきは本当に番組を降板してしまうのか。そして衝撃の展開があの二人に』
彼女の涙と気持ちは話題を呼び、アクあか以外の話題で初めてネットニュースとなった。
「見て見て!記事になってる!私ちょっとは視聴者アップに貢献できたかな」
「上手いことやったんじゃないか?」
「凄いよ!私、途中まで本気で辞めちゃうかと思っちゃったし」
前回の撮影分が記事にされているのを見て、現場でゆきが皆へ見せる。
そんな彼女の立ち回りを素直に褒めるアクアとあかね。
「本当に魅せ方上手いと思うよ。誇張の手法はあまり私は使っていない引き出しだったから見習おうって思ったなぁ」
「ありがと〜あかね。あの黒川あかねにそう言って貰えるなんて私も捨てたもんじゃないよね〜」
幼い頃から演技で一線級の活躍をしてきたあかねに自分の手腕を褒められて、ゆきも気分が良かった。
そんなやり取りを聞いて不思議そうにミミが尋ねる。
「え?ゆき辞めないの」
「あっミミ!今の辞めて欲しいみたいに聞こえるから他所で言っちゃダメだよ!炎上しちゃうかもしれないし。それに辞められないでしょ。契約残ってるんだから」
「あぅ……そうだった。有名になるって大変」
ミミは少しずつ皆との会話量を増やしており、当初よりはスムーズな話し合いができるようになっている。
とはいえまだまだ口には十分に注意が必要なようだ。
「ところでゆきの言葉は何処からが誇張だったの?」
「辞めたいって思ったのも本当だけど〜それは朝眠いからみたいな感じだし?」
あかねの疑問にゆきが眠そうにあくびをする仕草を見せた。
普段上から下までモデルらしく決めているゆきのそんな姿に親近感が湧いたのかミミが同意を示す。
「確かに。……私も起きられないから毎回にーちゃんに起こしてもらってる」
「ミミちゃんのとこ仲良い兄妹だよね。うちはお姉ちゃんがいるんだけど、今度ネイル教えて貰うんだ〜、覚えたら二人にもやってあげるね!」
「いいなぁ……私のところはもう巣立っちゃったから」
あかねは今はもう独り立ちというか実家に戻ったかなとの共同生活を懐かしんだ。
一人っ子だったあかねにとって、あの生活はよほど母性が刺激されたらしい。
「え?何そのエピソード。気になるかも」
「……あっ……あかねの家に家庭の事情でしばらくピーマン子役が住んでた話……じゃない……かな」
「あれ?ミミちゃん詳しいね。配信でも数回しか言ってないのに」
かなの母が田舎で介護する必要があり、落ち着くまであかねの家に居候していたという設定になっている。
事実介護も必要だったので嘘ではない。
配信でも数回話している内容だったが、あかねは不思議に思っていた。
「元々……そのちょっとコスプレとか……みたいなの見せる配信だけやってて……そこから今みたいな路線に……切り替えるきっかけになったの……B小町R……みたいな?」
「えー!凄いじゃん!じゃああかね達に憧れみたいなのあるの?」
「……ちょっとだけ」
ゆきからの質問にミミが視線をちょっと逸らしながら答えた。
中学にも行かなくなり、際どいコスプレ配信を始めた彼女にとって、同年代でキラキラと活躍する彼女達は憧れのような形になっていた。
もっとも最初は目の敵で批判するつもりで見たという事は、黙っておこうとミミは内心思っている。
女子組が楽しく話しているその裏で、男子組もアクアへ彼の妹の話題を振る。
「兄妹といえばアっくんのとこのルビーちゃん前よりもっと勢いあるよな」
「確かに。前から才能あるアイドルだなって思ってたけど、最近は特に覚醒したって言っていいと思う。黒川さんも含めて他の四人もそれで突き放されず、それに合わせて急成長してるのが凄いよね」
元からルビーにはスターになる素質があった。
それが16歳の誕生日を機に、思いを告げた事がきっかけとなって開花し、以前にも増してパフォーマンスが向上している。
他のメンバーもそれを間近で理解して負けないように練習を増やした結果、B小町R全体がこの一か月程度で大きくレベルアップを果たしていた。
「もし良かったらケンゴもB小町Rに一曲書いてくれないか?」
「それ本気?……というかアクアがそんな話して大丈夫なのか」
「マジな話だぞ。普段とは違う曲調の持ち歌が欲しいと思ってたところだったからケンゴさえ良ければ細かい話をしたい。もう彼女達のマネージャーと社長からは許可取ってるし」
「何でもやるなアクアって。もし担当させてもらえるなら喜んで書くけど、連絡は一応事務所経由で頼むな」
そのまま話を進め、アクアはサラッと新曲を書いてもらう約束を取り付ける。
この辺りは相変わらず抜け目がない男だが、マネージャーだった時の癖が抜けていない。
ミヤコは事前に話は聞いていたものの、後で話を取り付けたと聞いてアクアが二人欲しいと嘆くことになる。
今ガチの番組も回数を重ねるごとに、メンバー間のコミュニケーションはどんどん円滑になっており、絆のようなものも生まれ始めていた。
「というかアっくん!上がったら今度こそメシいこーぜ」
先月は誕生会とバッティングして行けなかったアクアは頭で予定を確認する。
アイの帰りも遅いし、ルビーはB小町Rのメンバーと『今ガチ』実況動画の撮影となっている。
アクア一人家に帰ってもしょうがないかと考えて返事をした。
「……今日は土曜だからいいけど」
「よっしゃ!前回も前回で盛り上がったけどやっぱ皆で話したいじゃん?」
番組内だけでも積極的な意見交換をして仲良くなったが、オフで食事を囲みながら話すとまた一歩仲の良さが変わるというのはアクアとしても経験がある。
一応アクアは家族に遅くなって不安にさせないため、アイとルビーに連絡を入れる。
アクア:今日メシ食って帰る
アクア:帰りは少しだけ遅いかも
ア イ:えぇ!?今日早帰りできることになったからビックリさせようと思ったのに
ルビー:ママ早く帰れるの!?ヤター!!おにいちゃん何やってるのさ~
「やっぱ今度でいいか」
「うぉい!さっき良いって言ったじゃん!?」
「冗談だ」
(アクアくん冗談って言ってたけど9割以上本気だったね。多分だけどアイさんが早く帰れるとかメッセージ送ったんだろうなぁ)
アクアは確認する前に安請け合いするんじゃなかったと後悔しながら、再度メッセージでアイに謝罪文を送る。
今度代わりに一日時間を作る事と言われて了承のメッセージを送っておいた。
「あたしも行きたい!あかねとミミも行ける?」
「私は大丈夫だよ。お母さんに連絡だけ入れておくね」
「うー……ミミは19時から配信予定入れてて」
ミミも近い年齢の友人ができて嬉しいのだが、配信者として事前予告している配信を可能な限り飛ばしたくないと考えている。
申し訳ないような少し自分だけ行けないのを寂しがるような仕草を見せていた。
「それなら俺たちのメシの光景でも配信したらいいんじゃないか?こないだスタッフさんに聞いたけど、自分の活動で名前とか出してくれるのは宣伝になるから大歓迎らしいし」
「そ……それなら皆が良かったら……参加したい……かも」
「俺らは全然いいよ。なっ」
ケンゴがそんな事をいうとミミは少し嬉しそうにしながら答える。
それに対してノブユキが皆に問いかければ全員が頷いた。
結果として今ガチオフ会配信が始まる事となった。
「えっとスマホの位置これでいいん?というか今更だけど配信とかってお店でして大丈夫なん?」
「ええっできなかったらミミ困るんだけど!?」
ノブユキの言葉に店まで来てそれかと慌てた様子を見せるミミ。
それに対してあかねがすぐに答えた。
「ここ個室だし、撮影許可も取ったから大丈夫だよ」
「すぐ予約してくれたあかねには感謝だね~。意外と当日予約でもいい店あるんだ。どこでこんな知識ゲットしたの?」
「うん。時々演劇のお仕事とか入るんだけど、劇団とかに所属している人は打ち上げ好き多いから予約するようになったの」
この辺りはあかねの誰かに尽くすのが好きな人柄だろうなとアクアは思いながら席に着いた。
席順は基本的に今ガチ関係の打ち上げだと事前に告知しているため、アクアあかね、ゆきノブユキ、ケンゴミミがそれぞれ正面に座るような形となっている。
前回アクア達が不在の中焼肉に行ったようだが、今回もまた焼肉となっている。
4人はそれでいいのかと聞いたが、1か月前だしむしろそろそろ行きたかったとの事らしい。
「じゃ……じゃあ配信付けるよ?」
「オッケー」
ある程度注文した段階で、ミミが配信をスタートする。
今ガチの人気上昇に合わせて小動物的な人気が出始めているミミは、登録者数も番組前よりかなり増えている。
そして事前にTwitterで『今ガチ』仲間が緊急ゲストと書いていたため、同時視聴者数はかなりのものだ。
「こんミミ。……今日はいつもの部屋とは違うとこから配信。……ちゃんと見えてる?」
・あの引きこもりが本当に外にいる
・今ガチに出てるのは双子の姉とかだとずっと思ってたわ
・マジで今ガチメンバー全員いるじゃん
・アクアとあかねを呼べるとかミミ出世したな俺嬉しいよ
何人か古参の視聴者がミミの成長を喜んだコメントをしている。
ただいつもと異なり、B小町Rファンやアクアファン、今ガチの視聴者といった層が多いため、少しコメントの気色が違うようだった。
軽く自己紹介を済ませてから自由な配信が始まる。
「特上盛り合わせ追加しとくな」
「おーアっくんサンキュー!」
・しれっと頼んでるアクア解釈一致
・正面のあかねがせっせとアクアに肉焼いて貢いでいる方が気になる
・あかねの尽くし属性が際立つな
アクアがタブレットを使い、追加の肉を注文している横であかねがせっせとアクアのところに焼けた肉を並べている。
「はい、アクアくんカイノミ焼けたよ」
「ありがとうあかね。でも自分の分も食えよ?」
「ふふっ心配してくれてありがとう。でもペース見て食べてるから大丈夫。あーんしてあげよっか」
「流石に自分のペースで食うからいい」
・アクあかてぇてぇ
・なんで番組でもないのにイチャついてんの!?by重曹
・かなちゃん確かに言いそうで草
・《B小町Rちゃんねる》視力が上がったから今度お礼するね
・公式いるけど、かなちゃんじゃなくてフリルちゃんで草
リアル幼馴染の会話に視力が上がる視聴者も数多い。
アレはやっぱ演技じゃないんだなとひっそりとその信憑性を上げる効果を発揮していた。
序でのようにコメント欄にフリルの書き込みがあったが、サラリと流されている辺りコメントがかなり速く流れているのが分かる。
「このお肉美味しい……トロトロ溶けるみたい」
「前回行ったお店もおいしかったけど、今回はまた一味違うよね~。食べ過ぎて体形に影響でないようにしなきゃ」
「ゆきはモデルだもんね。私もアイドルだし油断しないようにしないと」
・二人ともスタイルいいよね
・一体どれほどの労力を掛けてあのプロポーションを維持してるんだろうか
・ミミくらいだらしなくてもいいのに
「このコメント書いたのミミのメンバーじゃん!?ミミもだらしなくはないでしょ!?」
配信されているからかいつもより饒舌なミミはコメントに反論する。
メンバーというのは有料のファンクラブのようなものであり、ミミを普段から見ている事が分かるメンバーだ。
そのため、気楽に反論する。
新しい一面を見られて他メンバーはニコニコとこの成長を見守る親のような心境なっていた。
段々と話題はメンバーがメンバーなので今ガチの話に移っていく。
「えと……ゆきがこれで最後だからお別れ会だったりするんですか……だって」
「そこはごめん、言えないんだぁ。ネタバレになっちゃうとよくないし」
・それはそう
・雰囲気だけ儚さそうなミミと違って繊細そうだもんね
・ミミちゃんはこの配信でいい意味で印象変わった
次回以降の配信の内容についてははぐらかしつつ、視聴者の質問などに答えていくメンバー達。
中にはアクアに関する質問もあった。
「アクアさんの現場での印象とかどうですか?……だって」
「本当いつもアクアの立ち回りには助けられてるよね」
「み……ミミも全く役に立てなかった時から話しかけてくれて……助かりました」
「別に俺は何もしてないだろ。ゆきは自分のできることをやってるだけだし、ミミもそう遠くないうちに勇気を出していたと思う」
少し気恥ずかしくなって目を逸らすアクアの事を可愛いなぁと思いながら見守るあかね。
その様子が『余裕がある方の幼馴染』という単語でトレンド入りすることになった。
まるで『余裕がない方の幼馴染』がいるかのようなトレンドにB小町Rメンバーのとある一人が憤慨するのだが、それは後日の話である。
親睦を深めた焼肉会も終わり、アクアは家に帰るとルビーに出迎えられた。
先月も見た仁王立ちに今度はどんな用だ?とアクアは警戒する。
「はー……焼肉とは豪勢ですね。可愛い子達を眺めながら食う肉はさぞ美味しかったんでしょうねぇ」
「いや、ただの付き合いだし」
「嘘だ!さっき配信で見てたもん!あかねちゃんにお肉貢がれて、ミミちゃんやゆきちゃんにも褒められて嬉しそうにしてたし!おにいちゃんの女好き!女たらし!」
なんだか浮気を問い詰められている男のような気分になってきたアクア。
自分は、何も悪い事はしていないはずだとアクアは頭の中で再確認を行う。
「明日は家族の食事があるんだしいいだろ」
「むぅ……でも明日も朝からいないじゃん!だから……今のうちにちょっと充電!」
そう言ってアクアにベッタリと張り付くルビー。
最近あかねとのスキンシップが増えているアクアに、自分も忘れないでという意味も込めた対応だったりする。
「ふーいいお湯だった〜。ってアクア帰ってたんだ、おかえり〜」
「ただいま母さん」
風呂上がりでルビーとお揃いのパジャマを着たアイもリビングへとやってくる。
彼女はルビーに捕まっているアクアの姿を見てニコニコとしていた。
「ずっと仲良しさんで私も嬉しいよ。調べたら高校生とかの兄妹って結構疎遠になっちゃうらしいし」
「例外もあるから。例えば今俺が出てる『今ガチ』って番組があるけど、アレに出てるミミも兄妹仲良いらしいし」
「あの子もお兄ちゃんいるんだ。ちょっと親近感かも。声可愛いよねミミちゃん」
聞いている限りだとズボラで危なっかしい妹を仕事をしながら世話している苦労人といった印象をアクアは受けている。
もし彼が困っていたら力になってやりたいなと顔も名前も知らないのに思っているくらいだ。
「アクアもちょっと気に掛けてるよね。あんまり沢山チョッカイ掛けたらダメだよ?アクアはかっこいいし優しいから女の子なんてすぐ惚れさせちゃうんだから気を付けないと。まだアクアに恋愛は早いとママ思うな〜」
ここだけ切り取るとアイの言葉はただの親バカな発言だが、あながち間違いではない。
実のところあかねがいなかったら本気になってたかもしれないとゆきもミミも思っていた。
だが幼馴染で共演も多く露骨にアクアのことを好きそうな美人とあまりにも強すぎるライバルがいるが故に自然と自制が入っている。
あかね達の考案したアクアの恋愛相手を事前に用意するという手段はしっかりと効果を果たしていた。
結局この後も『今ガチ』や恋愛について根掘り葉掘り聞かれ、アクアは母親のいる世の男子高校生って大変なんだなと思うのだった。