読んでない方はそちらを先に確認することをおすすめします。
あの映画『それが始まり』が公開されてもっとも跳ねたのはアイだ。
今回の彼女は整形して絶世の美少女になった設定、つまり自重など一切必要ない。
自分の可愛さを余すところなく画面に、その先にいる視聴者に見せつけるだけでいい。
まさにハマり役だった。
そのおかげもあってかアイはこれまでの比ではないくらいに仕事が増加をし始めている。
それこそ飛ぶ鳥落とす勢いという言葉が綺麗に当てはまるくらいに。
そして星野アクアは。
「はーやだやだ。なーんで私がアクアと同じ回のゲストなの」
「そりゃ同じ番組の宣伝なんだから当たり前だろ」
天才子役と並んでバラエティ番組に出演する準備をしていた。
そんな当たり前の回答を聞いても嫌そうな態度を取るかなは理由を告げた。
「一緒の現場だとあんたの知識量多すぎて、私がバカに見えちゃうから嫌なのよね〜。演技得意でしょ、バカの演技しなさいよ」
「理不尽すぎる。それにこれでも抑えてるぞ」
「アレで抑えてるの?ほんと一個下とは思えないわね。ムカつく」
アクアはあの映画で2番目に飛躍した役者と言えるだろう。
大人のような子供というキャラクター性が評価されたのか二人並んでいた絵面が良かったのか、別事務所とはいえちょっとしたセット売りのような売り方もされるようになっていた。アクアとしては想定外の効果である。
一部のネットではアクかなコンビなんて呼ばれ、ちょっとしたブームのようになっていた。
正直に言えば有馬かなというビッグネームに乗っかれてラッキーという気持ちがアクアとしては強い。
かなとしては私の名前を利用して成りあがるなんてやるじゃないという気持ちと私でもここまで順調じゃなかったという対抗意識が両立している。
「それにしても子役でもこういうバラエティ呼ばれるんだな」
「流石に子役だけで呼ばれることはないわ。でも据え物として子供は優秀だから。まぁ私みたいに子役の中でも飛び抜けた実力と可愛さがあるからこそだけど」
「相変わらず自信家だな」
もうベテランの空気感を纏うかなにアクアは感心していた。
有馬かなは一世を風靡していると言われるだけあって、あらゆるテレビ番組に引っ張りだこ。
経験値は下手な大人を上回っている。
今回アクアとかなが出演するドラマ『カリブのおきて』においてアクアはかなと兄妹設定だ。
最初それを知った時のルビーの反応は凄かった。
『嫌だ!その仕事断って!』
『いや、もう受けたから無理だ』
そう言っても駄々っ子のようにひっくり返ってバタバタと手足を振りながら抵抗をする。
アクアも味わった身体に精神が引っ張られた影響だ。
決してルビーが素でやっているわけではない。ただ少し直情的になってしまっているだけだ。
『おにいちゃんの妹は私だけなの!』
『帰ったらいつもより甘やかすから許してくれないか?』
『うっうん。我慢するね』
目を合わせられ、頭を撫でられながら優しい言葉をかけられたら一瞬でメスになって大人しくなった辺りは所詮前世からの初恋を拗らせた女の子である。
その光景を見たミヤコは、将来アクアがとんでもない女たらしになるのではと今から将来が不安になっているとか。気持ちはもう一人のママなだけはある。
「そもそもなんで私が妹役なのよ。私の方が芸歴長い先輩で年上なんだけど」
「その辺はイメージ的に俺の方が大人びているって判断じゃないか?どっちも子供だし誤差だろ」
既にドラマの撮影も9話まで撮影が終わっており、放送前に完パケできるんじゃないかと話も出ている程度には順調だった。
そこに新しい顔がひょこりと顔を出す。
「二人とも本当に仲良いね〜。私も嫉妬しちゃうかも」
「今回の場合、私たちはオマケでメインはアイってわけ。……なんか苺プロに囲まれてる私だけやっぱ浮いてない?ルビーの方が似合うでしょこのポジション」
「あいつは役者志望じゃないし、そもそもまだ芸能人じゃないからな」
そう、今の現場はアクアとかなだけではなくアイもいる。
前回映画でいたメンバーがまとめて起用されている現場だった。
映画の反響を受けてから動き出したにしては妙に早い展開速度だが、キー局のドラマに出られるのはいいことだとアクアもやる気である。
名前を売るにはやはり全国への放送が一番だ。
「ルビーは今アイドルになるため猛特訓中だからね〜!いつか有馬ちゃんともテレビで共演できるんじゃないかな」
「嫌よ、あいつ口悪いもの。共演なんてとんでも事故になるじゃない」
「お前それ鏡見て言えるのか?」
普段のかなは本番で猫を被れているからいいものの、素の毒舌はルビーのそれより酷い。それ故のアクアの返しだった。
とはいえ本番中にその性格の悪さを外に出すことがないのが、天才子役らしさなのだろう。
アイが珍しく名前を覚えているのもかなの才能、その証明でもあった。
「そもそもルビー本当にアイドルなんてなれるの?」
「なれるだろ。最強に可愛いんだから」
「このシスコンめ。そうじゃなくてこないだ歌のレッスンやってるところ見せてもらったけど、あの子……やばいくらい音痴じゃない」
連絡をそこそこ取り合っていたのとCMなどにセット起用されたり、複数の要素が合わさって話す機会が増えたのもあり、現状のかなにとってアクアとルビーは数少ない友人となっていた。
苺プロの事務所、そのレッスンルームを利用して直接演技の練習をするようにもなっており、アクアと二人切磋琢磨している。
世間では子役の双星なんて呼び方があると知った時のルビーなんて早くアイドル活動をするため特訓を開始したほどだ。
かなが見たのはこのボイストレーニング風景である。
ルビーの歌を聴いたみんなの反応は中々の物でこの通り。
Aさん『えっと……あー頑張ってねルビー。ママ応援してるから』
Mさん『……これは先が長いわね。本当に矯正できるかしら』
I社長『なぁルビー、今からでも女優方面に変更しないか?アクションとかセンスあるぞ』
Kちゃん『いや私も別に上手くはないけどこれはないでしょ』
A君『相変わらず音程めちゃくちゃだな』
まだ子供だから軽めに少しずつ直す方向で依頼をされてはいるものの道は長そうだ。
前世から歌の下手さを引き継いでしまっている。
この時期からボイトレは早いと思われがちだが、悪癖は少しでも早く修正したほうがいい。
大人になってから直すのは子供の頃に矯正するより苦労する。
夢のため今のうちに苦労しとけと皆に勧められるハメになった。
「いいんだよ、ルビーが今、全力で夢に向かって頑張ってるんだから。それが大変な道でも不可能じゃないだけマシだ」
「そうそう、ルビーは頑張り屋さんだからね。そのうち私も抜かれちゃうかも」
「はぁ……この姉兄バカ共」
アイのことを対外的には姉のように慕っているという事で、ルビーは姉呼びすることが多い。
それに養っているのは壱護なのは変わりなく、その視点から見たら実際に姉妹と言っても違和感は少なかった。
「すみません準備できました。そろそろ撮影を始めます」
準備ができたらしい番組サイドから声がかかる。それに合わせてアクアたちは緩み切っていた空気を締め直す。
そのまま番組は特に問題もなくスタートした。
「さて始まりました!『煌きトークショー!』本日は今話題のアイドルB小町のアイさん、子役の星野アクアさん、有馬かなさんにお越しいただきました!」
今日の番組、『煌めきトークショー』はシンプルな番組構成だ。
出演者の紹介、エピソードトーク、おやつ、番宣で初心者にも優しい。
放送時間も30分と名司会と名高い大御所がやっている割には短いモノだ。
「どもども〜⭐︎」
「よろしくお願いします」
「よろしく」
アイはパチンと綺麗なウインクを決め、アクアは礼儀正しくペコリと頭を下げ、かなは妙に大御所感ある対応をする。
自分たちのキャラに合った対応というのが大切であり、三人ともそれは上手くできていた。
バラエティはアクアにとって初挑戦となる。ここで大人っぽい子供というイメージを崩さないようにして今後の仕事に繋げたいと考えていた。
だがそんな期待は開幕の質問で脆くも崩れ去ることになる。
「さて!まずはアイさんに質問なんだけど〜最近楽しかったこととか何かある?」
「最近ですか?そうですねーヲタ芸赤ちゃん知ってますか?」
アクアはギョッとして思わずアイの方へ思い切り視線を運んでしまう。
突然何をいうんだとアクアの頭はパニック状態だった。
別に隠してはいないものの、まだ確定情報としてネットには広がっていない話。
アクアの今あるキャラ付けからは想像できないエピソード故に確信されていない話だ。
「ええ!苺プロの動画で拝見させてもらいましたよ。本当キレッキレで可愛いですよね。僕も元気もらいたい時見に行っちゃってますよ」
「そうそうあの時思わず私もきゃわー!ってなっちゃったんですけど。その子達と事務所で会うことが多くて!二人とも姉として慕ってくれて本当可愛いって感じで」
(羞恥心で死にそうだ。というかアイは俺のキャラを殺す気なのか?多分クール系ってイメージを持たれているはずなんだが)
下手に隠そうとすると逆にボロが出そうなので本当のエピソードをちょっと弄って話すアイ。
その顔は嘘など使わずとも周囲を魅了するもので司会も思わず顔を少し赤くして見惚れていた。
これ本番だぞと思いつつも、このエピソードに関わる当事者のアクアはそれどころではない。
監督一人にアイやルビーを宣伝するためにバレるのと全国レベルでバラされるのは衝撃が違う。
「あれ?姉のように慕う子供?……そういやあの動画の赤ん坊って金髪……。あんたもしかして」
妙に勘のいい女、有馬かなは気付いてしまったらしい。
アクアの顔をじーっと見て、堂々とスマホを取り出しヲタ芸をしている赤ん坊の顔と見比べ確信する。
「ぶふー!あんた普段クールぶってんのにB小町のライブで赤ん坊の頃からヲタ芸してんの!?」
「……俺とは限らないだろ」
テンションが上がりすぎて本番だというのに吹き出すかなに苦し紛れの言い返しを行う。
そんなアクアの悪足掻きだったが、二人の会話を聞いていた司会は悪ノリを始めた。
「え!?もしかしてあの動画ってアクア君なの!?うんスタッフ準備できる?はい、できるそうなので実際にあの動画を比べてみましょう!それではVTRどうぞ!」
「ちょっ」
アクアが止めようとするもアイが横から口を塞ぐように抱きしめてしまい、声が出せなくされた。
必死に抜け出そうと顔を赤くしながらモゴモゴしている間にディスプレイで例の映像が流される。
アクアとしてはアイの飛躍と今後ルビーがデビューした時に話題になるかと思っていた程度だったが、まさかアクア自身に降りかかるとは予想もしていなかったのだ。
当時は全く芸能界に入るつもりじゃなかったから油断していたのもある。
『ばぶ!ばぶ!ばぶ!ばぶ!』
キレッキレのヲタ芸。そして嬉しそうなドヤ顔をする赤ん坊。髪の色と瞳の色から事前情報を知って見てしまえば、アクアにしか見えない。
社長の息子という情報も公開情報なので何故今まで気付かなかったのかと不思議なくらいだ。
「あははははは!アンタこんなことしといて普段のクールキャラなの!?本当に!?」
「この野郎……」
テレビということも忘れて大爆笑するかな、それをジロリと睨みつつも顔が真っ赤なアクア。
カメラマンもこの構図は使えると顔をズームして強調する。
「きゃわ〜〜〜〜〜きゃわ〜〜〜〜〜!そうだ!アクアこれ今やってよ。私も今からライブみたいにやるからそれに合わせてさ」
更にはあの時の気持ちを再燃させて可愛さにやられて暴走するアイ。
このままいけば取れ高はあるが、もう当初のプログラムとは大きく異なる進行だろう。
そう考えて救いを求めるように司会の芸能人へと視線を向けるアクア。
(進行、戻したいですよね?)
それを見て歴戦の司会はにやりと笑みを浮かべながら頷いた。
「おっ?いいね〜。事務所の稼ぎ頭からの依頼だよ?いけるかなアクア君」
「……やります」
アイからのお願いを拒否するなんて選択肢はアクアに存在しない。油断していたがこれはバラエティ。面白くなりそうな絵面を使わないわけがなかった。
台本がかっちり決まっている演技とは違うということをアクアは身をもって知ることになる。
アイとしても自分の息子とのバラエティ初共演でテンションが上がっているのも大きいのか全く自重の気配を見せない。
結局本当に始まったアイの単独ミニライブ。
どうせならと全力で渡されたサイリウムを振り回して渾身のヲタ芸を披露するアクア。
普段からのクールキャラという印象と今のオタク丸出しな好きなものを全力で応援するギャップを生み出すことになる。
番組としての司会進行を完全に崩壊させた状態で、最後まで戻ることはなかったが、面白い絵面ということでそのまま採用されることになる。
アクアはその事実を聞かされた時、ガクッと項垂れることになるのだった。
ちなみにこれらのシーンでかなは大部分を楽しそうに笑っており、作り物じゃない年相応な有馬かなというキャラクターが面白いと少し評価を上げることになる。
「はいカット。あとは編集だけしたらいけると思います、お疲れ様でした」
「はー楽しかった〜。バラエティでアクアとこんなに早く共演できるなんて思わなかったよ〜」
「ホント笑ったわ〜。アンタ何よアレ。キレッキレじゃない本当に2歳児?魂に染み付いてるでしょ」
「ぐっ……、アイの生ライブを見れた分プラスと考えるべきか?だがしかし」
イメージ戦略の破壊は今後の役者人生に影響があるのではと少し苦悩しながらも楽しそうなアイを見てしまえばファンとしては拒否できないのが奴隷の辛いところだ。
「ねー今度またヲタ芸やってよ。ぷくく今度は笑わないからさ」
まだニヤニヤとしているかなに対して残念ながら今のアクアは反撃の術を持たない。
いつか絶対仕返ししてやると心に誓いながらも煽りを存分に受け入れた。
アイとしてはアクアがルビー以外の同世代と仲良くしているのが嬉しいと親心で目を輝かせている。
はっきり言って放送事故に片足突っ込んでいたのにそのまま採用になったのはどうなんだとアクアは思ったりしていたが、この回はアイの即興ライブも合わさって視聴率は歴代でも屈指の神回となることになった。
後日、星野家でこの日の番組放送日。
どうしても見たいと騒ぐルビーにアクアが根負けして家族で見ることになった。
アクアもどうせ初バラエティの反省も兼ねて見るつもりだったと自分に言い訳をする。
ワイワイ楽しく見終わった後、ルビーは一言兄へ労りの言葉をかけた。
「お兄ちゃんドンマイ」
「いや、お前も将来デビューしたらこのヲタ芸している赤ん坊バレやるんだぞ」
先程兄が悶えていた場面が自分になったのを想像する。
最初はなんともないじゃんと思っていたが、だんだんと恥ずかしさが表に出たのかルビーの顔が赤くなっていった。
「いやあああああああああああああああああ。……ってあれ?冷静になるとちょっと恥ずかしいくらいかな」
「ちょっとかよ。メンタル化け物だな」
「一瞬めちゃくちゃ恥ずかしかったけど……まっアイドルにはお茶目ポイントも必要だよねって思い直したの」
「うちの子ポジティブ可愛いなぁ」
家だからと思う存分羞恥でのたうち回ったり冷静になるルビーを見ながらアイはニコニコと笑う。
星野家は今日も平和である。
ちなみに後日、遊びに来たかなにルビーも死ぬほど煽られて子供の喧嘩に発展した。