稽古三日目。
ある程度グループも構成され始めた中で一人の少女が演技に苦戦をしていた。
「新宿の連中を……全員……皆殺しにしてやりなさい……」
「黒川、そこの演技はもっと強めでいい。周りの演技に合わせて」
(……鞘姫の感情に対して相当前のめりになっちゃうよね?私の持っている鞘姫の解釈だと無理……ならあんまりやりたくないけど……やるしかないかな)
あかねは一度自分の思う原作の鞘姫を外し、この舞台脚本のみで構成された舞台版鞘姫という別のキャラクターを呼び起こす。
あくまで舞台の鞘姫は好戦的で戦いに前のめりなキャラクターだと自分に言い聞かせて演技を始めた。
「新宿の連中を全員、皆殺しにしてやりなさい!」
「よし、いいぞ」
こうする事で解釈違いを引き起こさず演じることができる。
脚本の要求通りだろう鞘姫というキャラクターを今後演じる上では問題ないだろう。
とはいえ、それであかねの感情が納得するかは別問題だ。
あまりにもキャラクターの細部が見えてこない台本に、あかねは焦りを募らせている。
正しく演じられることと、完璧に演じることは違うとあかねは考えている。
そしてこれは求められる演技ではあっても、鞘姫ではないというのがあかねの意志だった。
「アクアくん、どうしたらいいかな」
「……難しい問題だよな。勝負をすると言った手前今のままでいいとはお世辞にも言えない」
アクアも脚本を読んでいるからあかねが解釈違いを引き起こして演技の質が上がらない理由も分かっている。
本来の鞘姫は内気で人を殺めるのは嫌だというキャラクター性をしている。
ただ今回脚本ではかなり前のめりだ。
「このままじゃ姫川さんとかなちゃんのコンビに勝つのは難しいよね?」
「かなの演技はこれまで自分を見ろと輝かせる演技、姫川も自分の感情をぶち撒ける荒々しい演技が特徴だった。ただ今回、アイツらは殻を破ろうとしている。かなは自分を含めた全体を輝かせるような演技、姫川は相手の感情も引き出す演技って具合に」
「うん、二人とも凄いよね……ごめんねアクアくん」
あかねは二人の演技の凄さは勿論認めている。
その上で超えたいと思っていても中身が付いてきていなかった。
「あかねだけの責任じゃない。俺も自分のできる演技の域を超えてない。……このままじゃ負けるな、大差で」
アクアは事実を噛み締めるように言う。
二人の演技がシナジーしている事で、普段の演技より高め合っているのが今の大輝とかなだ。
それに対して普段より調子の悪いあかねと普段通りのアクアでは全く歯が立たない。
ただあかねの演技は憑依の演技。
キャラ解釈がズレたままでは、そのポテンシャルを100%以上引き出す事はできない。
「元々鞘姫の出番は原作でもそこまで多くないから仕方がないのかもしれないけど……。でもこの解釈は私と違いすぎて。不憫だよ、鞘姫。原作でも不遇な扱いなのに舞台でも……なんて」
自分が演じるだけあって感情移入をしているのだろう。
とても悲しそうに告げたあかねの言葉にアクアも返す。
「最近は原作でも許嫁設定とは思えない扱いではあるよな。刀鬼とつるぎのカップリング人気が高いからそっちに舵を……」
そこまで言ってアクアは少し引っ掛かりを感じた。
その方向に進め始めたのは確か原作で言うと12巻あたりの話であり、何処かでそれについての不満を聞いたなと。
ただ少し引っ掛かる部分を感じながらもその場で解決になるような話ではなかったため、言葉を止めてしまう。
そんなアクアに少し不思議そうにしながらも、あかねは自分の考えを口にした。
「とりあえず脚本の解釈通りの鞘姫でなんとかしてみるね」
「無理するなよ」
「最悪……こう言う方法もあるのよ」
ガラリとあかねの雰囲気が変わる。彼女の得意な憑依の演技を始めた証。
挑発的な表情の中に憂いを潜ませたキャラクターが顔を覗かせた。
今回彼女がしたのはよくアイの演技を混ぜるのに使用する二重演技。
それを原作の鞘姫と脚本の鞘姫で行う。
かなりの荒技だが、解釈違いというほどの差を引き起こさない唯一の方法でもあった。
「新宿の連中を全員、皆殺しにしてやりなさい!」
「……悪くはないな。さっきやってた演技と尺も変わらず、鞘姫らしさが出せていると思う。ただ……流石に原作通りとはいかないな」
「うん、それに少し違和感が出ちゃうよねどうしてもキャラの性質が違い過ぎるから」
ただ解釈が異なるキャラクター同士を混ぜ込む関係上、普段のあかねよりブレが大きい。
あかねの指摘はアクアも感じていた。
あかね本人が誰よりもその細かいギャップを埋められていない苦しみを味わっている。
「最悪刀鬼のキャラクターをそれに合わせれば違和感を減らせるかもしれない。少しやってみるか」
「ごめんねアクアくん」
この頃の刀鬼と鞘姫はしっかり男女カップルコンビといった印象だ。
アクアが補うことで全体の違和感を軽減は不可能ではない。
あかねはキャラ解釈の天才だ。ただ事前に組み上がっている原作のキャラクターが今回はノイズとなってしまっている。
これが完全オリジナルキャラクターであれば、あかねは無理なく演技をすることができただろうとアクアは思っている。
この問題はそう簡単には根本的解決をしそうもなかった。
それから更に時間が経ち、稽古5日目。
この日はついに原作者が稽古の様子を観に来る日となっている。
「脚本のGOAさん来てるな……とりあえずこの解釈の理由を聞いておかないか?」
「え!?確かに直接聞けたら解釈は進むと思う。……でも演技の指導は演出家から受けないと……」
あかねは舞台の常識として少し否定的な意見を返す。
ただアクアとしても、このままのあかねを放置しておくと役作りに支障をきたしてしまうと分かっている。
幸い金田一とGOAが並んで座っている今ならば、そこまで問題にならないだろうとアクアは判断した。
「すみません、ちょっと黒川が脚本について質問があるようなのですが、演出の金田一さんの意見も踏まえてお伺いできたら」
「ちょっとアクアくん!?」
あかねは慌てた様子でアクアを止めるが、二人は既に言葉を耳にして反応を示した。
「ん?なになに?」
「言ってみろ黒川」
聞く姿勢を示されたことで、あかねも後に引けないとこの機会を無駄にしないため積極的に確認をする。
「鞘姫のキャラクターがその……原作よりかなり好戦的になっているのはどういう意図なのか教えて欲しいと思って」
「ああ、やっぱりそこ気になっちゃうよね」
あかねの言葉に対してGOAも苦笑しながら答える。
元々は様々なリテイクの末に出した脚本。
満足できるラインまで仕上げたと思っていたのだが、初日から見せられた役者の演技を見てしまえば、原作ファンとしてはやはり引っ掛かりを感じてしまっていた。
勿論舞台脚本としてしっかりできているとは今も思っているが、キャラ解釈の話をされると弱い。
「原作だともっと葛藤があって優しい性格だなって私は解釈していて……そのどうしても上手く折り合いがつかないと言いますか」
「……なるほどね。僕もそこはかなり悩んだよ。ただその葛藤を演劇というメディアに変換した時、やや尺を取りすぎてしまう」
そこからGOAは自分なりにどうして鞘姫にキャラ変更をする必要があったのかを言葉にしていく。
カメラ演技とは違う着眼点に横で聞いていたアクアも勉強になるなと思いながら話を聞いていた。
あかねが少し考え込んだ様子を見せたため、アクアが話を繋げる。
「すみません、横からで申し訳ないのですが、今回の舞台では鞘姫というキャラクターを魅せるより、対立構造の明確化を取ったという事ですか?」
「そういうことだね。二時間の舞台に対して群像劇の見せ場をしっかり出そうと思えば、どうしても取捨選択が必要になってしまうんだ。僕も原作のファンだからさ……あんまり変えたくないんだけどね」
舞台特有の説明台詞や遠くの観客に見えるようにする工夫がネックになっているのは分かった。
そしてそうなると出番が比較的少なく、敵役のボスとなる鞘姫にキャラ変更の白羽の矢が立つのはアクアも理解できる。
悲しそうな表情をして原作の最新刊を持っているGOAを見れば、その選択が不本意なのは伝わって来た。
まだ発売されたばかりのそれは読み込み跡が付いており、原作のファンという言葉が嘘ではないのを証明している。
「GOAさん、原作のファンですか」
「そうそう、僕本誌の一話から読んでるくらい好きなんだよ『東京ブレイド』。今回も他の仕事ずらしてまで受けたくらいなんだよ」
「それはかなりのモノですね」
アクアもその熱意に関心を示す。
もっと話を聞いて仲良くなりたいとアクアは更に会話を引き出そうと言葉を考える。
ただそう上手くいくものではないらしい。
「GOA、今はその話はそのくらいにしておけ」
金田一からGOAの言葉にストップが入る。
アクアとしてはこの流れのまま仲良くなって何処かで脚本の話を聞きたかったのだがと少し残念に思った。
金田一はそのまま言葉を続ける。
「俺も今回の舞台化範囲は読んだが、鞘姫の心情を入れればノイズになる。彼女を活発なキャラにすることで対立構造がシンプルになり、分かりやすくなる。今回の舞台においては、あくまで舞台装置としての役割を設定した方が話として綺麗になる」
「……舞台装置」
キャラクターという柱ではなく、物語を進めるための駒。
そう言われてあかねはやはり悲しく思う。
ただ、この脚本で原作者のOKが出ているからこそ、今稽古がスタートしているのだとあかねは自分にいい聞かせる。
「ありがとうございました」
「ううん、こっちこそ納得しづらい脚本にしちゃってごめんね」
GOAはあかねに申し訳なさそうにする。
彼はあかねと仕事をするのは初めてではない。
彼女の良さを引き出す事ができない脚本を書いてしまった事を申し訳なく思った。
アクアとあかねが去っていくのを見ていた金田一にGOAは不思議そうに尋ねる。
「どうしたんですか金田一さん。二人に凄く注目していますね」
「……アイツら二人は眼で人を騙すからな」
「眼ですか?」
GOAは金田一の言葉に不思議そうに尋ねる。
それに対して金田一は軽く説明をした。
「人を騙す眼、嘘を真実だと思わせる役者として最高の資質。……昔ララライにもいたんだよ、ああいう眼をした奴が」
だからこそ金田一は彼らに期待している。
既に独自の手法となっているそれが、かつてのヒカルのようにどのような進化を遂げるのかを。
二人から脚本についての話を聞いた後、あかねとアクアは軽く話をする。
実際に脚本家の話を聞いてあかねの考えは少し変わっていた。
アクアとしてはこの回答であかねの解釈が進歩したとは思えず確認を取る。
「良かったのか?あの回答で」
「……今後もいつも私の解釈と役が一致するとは限らない。その度に脚本家さんに変えてもらうなんてできないよ」
「今回は原作があるからこその齟齬で、オリジナルならあかねは解釈違いを起こさないとは思うけどな」
アクアから見てもあかねの考察はもはや異能の域じゃないかと疑うレベルである。
それは彼女がアクアたちの両親を当てた時もそうだが、何よりアクアとルビーに何かしら秘密があると考えてそうなところからも分かる。
「私はここで壁を破りたい。役者としてもう一歩先に進みたい……協力してアクアくん」
ただあかねはまだ満足していないようだった。
あかねの強い意志にアクアは魅せられ、言葉を返す。
「分かった。俺も全力でフォローする。俺なりに演技の幅も広がると思うしな。……俺は鞘姫の懐刀であり、許嫁。この身全ては貴方のためにある」
最後はあえて刀鬼としての振る舞いをあかねへと見せる。
アクアなりに解釈した刀鬼のキャラクターであり、この舞台では見せられるかわからないからこそ、今盤外で演じてみせた。
それを見てくすりとあかねは笑い、自身も実際の舞台では使えないからと別れの意味を込めて自分の解釈した原作の鞘姫を憑依させる。
「そう……ありがとう。……ところで刀鬼、最近新宿クラスタのつるぎと仲が良いそうね」
「っ……あの女の事か。まぁ……確かに一緒に行動する機会は多いが」
「ふふっ……気にしないで良いのですよ。あの明るさ、私にはないものです。貴方の惹かれる気持ちも分かるというもの」
少しだけ憂いを含んだ表情に刀鬼は目を奪われる。
鞘姫の吸い寄せられるような瞳を見て、刀鬼はその頬へと手を伸ばし
「アンタらはこんなとこで何やってんのよ!」
それを見たかなはぱこんと台本を丸めて刀鬼の頭へ叩きつけた。
突然始まったラブコメ展開に皆注目して視線を集めていた。
ただ頭を叩かれた本人はかなの方へと視線を向けると冷静に口を開く。
「……つるぎ、ここは渋谷だぞ?どうしてここに」
「……」
何やったら練習でここまでなるんだとかなは呆れた表情を浮かべそうになるのを何とか我慢する。
かなはあかねに演技で負けたと思ったことはない。
ただキャラ解釈に関しては勝てたと思ったことの方が少ないし、自分にはできない演技をすると思っている。
アクアも器用なタイプだ。憑依の演技はできないと言ってはいるものの、場合によってはかなり深い演じ方ができる。
今回はあかねの解釈した鞘姫の供養ということで二人ともかなり演技が乗っていた。
「と、とにかく離れろ!許嫁かなんだか知らねっけど、おらと一緒に行動するんだから他の女とイチャイチャしてっじゃねぇ!」
かなは一度つるぎの演技をして、二人を引き剥がす。
こういう時は二人とも満足するまで寸劇させた方がいい事を長年の経験で理解していた。
そのまま三人でキャラの解釈を乗せたまま会話を続けていく。
場は完全に見せ物と化していた。
そんな三人を見ていつの間にやらスマホを構えていたGOAに気が付いた金田一が横から口を開く。
「何やってるんだGOA」
「うーん僕としても舞台の尺だから仕方がないって割り切ってはいるんだけど……こういう三人の関係も個人的にはアリだなと思ってね。映像資料ってとこかな」
今後、もし舞台版『東京ブレイド』の続編をGOAが脚本としてやる事になった時、どこかに挟んでも面白いかもしれないなんて思うくらいには、キャラが完成されていてそこに生きているかのようだった。
原作ファンとしては解釈一致なキャラによるやり取りに思わず笑顔になった。
「はーいおつかれー!……何この空気?まぁいいか!」
ちょうど寸劇が終わって皆がパチパチといいものを見せてもらったと言いたげな反応をしていた中現れた雷田は困惑するが、すぐに気を取り直した。
「今日はスペシャルゲストがお越しです!」
「あ……えっと……こんにちは」
雷田がばっと手を広げて黒髪の女性へ紹介ポーズを取るが、彼女はすすっと同行していたメガネの女性の後ろに隠れるように姿を隠れる。
そんな彼女を見て諦めたようにメガネをかけた女性が紹介をした。
「この子は『東京ブレイド』作者のアビ子先生!……と付き添いの吉祥寺と申します」
吉祥寺が来たのは、元々アビ子が『今日あま』のアシスタントをしていた縁からあまりコミュニケーションの得意ではない彼女の手助けを依頼されたためである。
そんな吉祥寺を見てアクア達『今日あま』関係者の顔が変わる。
真っ先に行動したのはかなだ。
全体の紹介が終わった直後、吉祥寺の元へとすぐさま移動する。
「吉祥寺先生お久しぶりです!」
「かなさん『今日あま』の打ち上げ以来ですね」
二人は近づいて手と手を合わせて嬉しそうにニコニコとする。
その様子は実に楽しそうだった。
「アクアさんもまたお会いできて光栄です!『今日あま』では急な参加ありがとうございました」
「どうも。俺もあの時はいい勉強になりましたのでお互い様です」
続いてアクアに挨拶をする吉祥寺。
アクアもあの時はいい芝居ができたと満足できていたので、感謝をしたいくらいだった。
「先生、おひさっす」
「メルトさん。今回も頑張ってくださいね」
「ホントですよね。皆すげー役者ばっかりなのさっき痛感したんで」
アクア達苺プロメンバーの寸劇を見たメルトは軽く絶望した。
少しでも彼らに近づいたと思っていたのだが、自分の成長速度より彼らの方が伸びている気すらしてしまったくらいである。
だが、メルトの成長をあの時に期待して見捨てないでくれた相手に応援されたならば、メルトは諦めることなどできない。
「うぅ……イケメンと美少女は目を合わせただけでテンパるけど……『今日あま』組。ホンモノだぁ。……その、最終回本当に面白かったです」
「あっ!うっ嬉しいっす!」
メルトはその言葉に少しうるっとしながら答えた。
吉祥寺の後ろに隠れてはいるものの悪い印象ではないらしいとアクアもホッとする。
「序盤は控えめに言ってもゴミで一回切りましたけど……最終回後に先生に言われて我慢して最後まで見ました。序盤耐えた甲斐がある最高の最終回でした。あの最後くらいの奴を期待してます」
「うぐっ……期待に添えるように頑張ります」
それと同時に喋り始めると勢いに乗って多弁になり、結構口が鋭いタイプだなとも思わされた。
アクアはこのタイプに慣れているのでそこまで気にしないが、メルトはダメージを受けているようである。
「先生、初めまして」
あかねはここがチャンスだと思ってアビ子に声を掛ける。
アビ子はあかねを間近に見てビックリしながらも答える。
「えと……初めまして。……『今ガチ』でアクあかがどうなるのかドキドキしながら見てました。星野さんと黒川さんを参考にキャラ作り……してもいいですか」
「えぇ!?わ、私なんかでよければ……」
「俺もか……まぁあかねがいいから大丈夫ですが」
『今日あま』のアシスタントをやっていただけあってラブコメが好きらしいアビ子の琴線にアクあかの『今ガチ』は刺さったらしい。
こういう普段恋愛リアリティーショーなんて見なさそうな人が見ているのは、大バズした結果なのだろう。
「ありがとうございます!最後の告白なんかキュンキュンし過ぎて吉祥寺先生と朝まで語り合ったくらいですよ」
「ホントだけど恥ずかしいから他所で言わないでね!?」
アビ子の突然のパスに吉祥寺は驚く。
師弟関係なだけあって感性が近いのだろうなとアクアは思うのだった。
一通り紹介が終わったところで、アビ子も見守る中脚本に沿った稽古が始まる。
あかねとアクアは先に決めた通り、キャラの解釈を舞台用として割り切り、舞台装置をキャラクターとして魅せる方向にシフトした。
暫く黙々と稽古を眺めていたアビ子は満足そうに口を開く。
「皆演技上手……良い舞台に出来ると思う」
「そりゃララライは一流の役者しか居ませんし外部も一流を集めましたから!」
雷田はここぞとばかりにメンバーの良さをアピールする。
実際去年の最優秀男優賞受賞者に今話題の星野アクア、もうすぐドームライブまである大人気アイドルの有馬かなに黒川あかね。
外部キャストだけ考えても普通ならコスト的にもスケジュール的にも難しい。
アクアもよく押さえたものだと思っているくらいだ。
「だからこそあれですよね……私が言わなきゃですよね……」
この段階で雷田は嫌な予感をバシバシと感じる。
何とかこれが大事でない事であってくれと祈るが、その願いは届かない。
「脚本って今からでも直して貰えますか?」
「……勿論ですが……どの辺りを」
「どの辺って言うかその……全部」
その言葉が聞こえた全員が固まった。
そこからアビ子は積もりに積もった不満を表に出す。
どんどんと機嫌が悪くなるアビ子に、このままではマズイと考えたGOAが動いた。
「先生!ご希望に沿わない脚本を上げてしまったことをまず謝罪させてください。ただ事前にやり取りした限りの範囲は修正をしてきたつもりです。ここからどう直したら」
GOAなりにリテイク地獄にも耐えて、原作の魅力を伝えられる脚本に仕上げた筈だった。
これ以上どこを直すべきなのかやり取りの中で見えてきていなかったのも事実としてある。
そんなGOAにアビ子は冷たい視線を送った。
「貴方がこの脚本を書いた人ですか……本当に『東京ブレイド読んでくれてます?』」
「勿論読ませていただいてます!その上で原作の魅力を最大限引き出す為の脚本を……」
アクア達も既に稽古を止めてやり取りを見守っている。
このGOAの言葉が嘘でないことは本の読み込みやキャラ改変をせざるを得なかった無念さから伝わっていた。
ただ原作者にそこが理解されなければ意味がない。
「貴方が上げてくる脚本……このキャラはこんな事言わないしこんな事しないってのばっかり……」
一度息を吸って一番言いたいことをアビ子は強調した。
「別に展開を変えるのは良いんです。でもキャラを変えるのは無礼だと思いませんか?うちの子達はこんな馬鹿じゃないんですけど!」
キャラ変更、その言葉はGOAに深く突き刺さる。
つい先程キャストからも指摘があり、自分の仕事の中で何とか舞台として形にしようと自分でも納得できていないのに曲げた部分。
そこを指摘され、言葉が続けられない。そこからもアビ子の口は止まらず結局吉祥寺に止められて別室に移動するまで彼女の暴走は続くことになった。