ブレイドによって統一された新宿クラスタと鬼族が徒党を組んだ渋谷クラスタの対立が描かれる第二幕は、この二人の戦いから始まる。
ブレイドが増やした仲間の一人、匁。
大きな戦いもなく増えた荷物持ちをする仲間であり、舞台的には少々地味だった男。
そいつが突然キザミへと牙を向く。
「お前、裏切ったのか!?」
「僕は……初めから鞘姫率いる渋谷の鬼……」
そう、最初からスパイとして潜り込んだのが匁という男だった。
あえて地味なのはスパイとしてこれ以上ない正しい行動である。
「どうしても戦わきゃダメなんですか?親から無理やり剣を与えられ、こんな戦いに巻き込まれて」
匁を演じる鴨志田朔夜は普段ヘラヘラした女好きとしてそれなりに噂になっている人物だ。
それに対して匁は暗く、不安を抱えている狂気を持った鬼。
鞘から刀を僅かに抜き身にし、カタカタと音を立てる事で精神性を表現する。
(普段の性格と真逆のキャラなのに原作の再現が完璧……演技力も十分過ぎる。そしてこんな人ですら自分を実力不足だとする環境……俺は結局誰にも勝てないままだった、だけど)
メルトは自分が稽古でやってきたことを思い出す。
間違っても失敗しないために。
〜〜〜〜〜〜〜〜
『今日あま』から9ヶ月以上が経っていた。
その間にメルトは、アクア達から教わった演技をただ磨くだけでなく講師も付けて、いつか二人と今度は助けられるだけじゃなくて認めてもらえるような共演したいなんて考えて努力してきた。
自分でも意外と演技できるようになったなとお調子者なところが顔を出すほどには成長していると理解している。
ただ目標はまだ遥か遠かった。
『鞘姫』
脚本が新しくなった直後、アクアの演じる刀鬼の演技を見て、これが高みかとメルトは感動すらした。
たった四文字の台詞と僅かな動きだけ、表情など陰に隠れて見えなかったのに伝わってくる濃密な感情。
本物としか思えない『不安からの解放、強い喜びと希望』。
『ストップ』
だというのに演出家の金田一からアクアならもっと上の演技ができるはずと言われているのを見て、メルトは理不尽だとすら思った。
だがアクアもそれを受け止めて更に演技を高めようと調整している姿を見て、上にいる相手が自分以上に努力しているのだからこのままでは努力不足だとメルトも認識を改める。
『なぁアクア……どうやったら俺も作品の質に貢献できる?』
『は?どうしたんだ突然』
その後新しい脚本が上がったところで、メルトはアクアに尋ねた。
しっかり稽古を積んだし、最低限悪くない演技は出来ていると評されている。
ただこのまま方向性もなく努力をしていてもダメだと感じ始めていた。
『昨日の演技見て、やっぱ俺があの中で一番下手くそだって気付いたからどうしてもな』
『そりゃ演技始めて1年も経ってないのに、劇団所属の人達が抜かれる訳ないだろ』
彼らの努力をなんだと思ってるんだと言いたげなアクアは、自分の積み重ねに自信を持っているからこその考えだ。
ただアクアも『今日あま』の時からメルトはその辺りを気にし過ぎる傾向があるのを理解している。
『……トラブルがあったとはいえあと10日程度しか稽古期間はない。ならできることも限られる』
これはアクア自身にも言えることだ。彼の場合、舞台とは別の仕事もいくつか入っており時間的余裕はメルトよりも少ない。
幸いアクアは普段の刀鬼が問題ないため、自分のリソースを最後のシーンに割り振っている。
メルトはこれまでは全部のシーンが平均的に良くなるように稽古をしていたが、もう残りの時間も少ない中で、作品に貢献したと言えるほど目立つシーンを全部鍛えていては作る事はできない。
『俺はメルトの演技、十分及第点だと思っているが……お前は満足してないのか?』
『……ああ、贅沢なのは分かってる……けど』
メルトが自分のためだけでなく、作品のために言い出したことはアクアだって分かっている。
少し考えた後、アクアは実例を交えて説明をする事にした。
『俺が初めて演技をやった時の作品って見たことあるか?』
『アクアが初めて?……わりぃ、ないな』
メルトが知っているアクアは『仮面ライバークロノス』で見せた子供になった主人公が最初だ。
それ以降はかなりテレビで見る機会も増えたため、それなりに知っているが、それ以前はあまり知らない。
『いや、見たことあったら話が早いと思っただけだ。『それが始まり』って映画なんだが……』
『あーなんか確かにかなちゃんが自慢げに言ってたな』
『なにやってんだよアイツ……』
今回メルトはブレイド陣営でかなと話す機会も多い。
その中で出た話なのだろうと思いながらも、少し呆れた表情を浮かべながらアクアは言葉を続ける。
『……当時の俺は演技ど素人、コネもいいところの役者だったわけだが。それでもあの作品でアイに次ぐ評価を貰えた。つまり作品の質に貢献できたわけだ』
『は?いやアクアが自慢って珍しいな』
『ちげーよ、そういう話じゃなくてだな』
アクアが話したかったのはその理由。作品の質に貢献できる方法の話だ。
『当時の俺は純粋な演技力だとかなの足元にも及ばなかった。それでも作品の質に貢献できたのはその場にあった演技ができていたからだ』
監督から求められた100点の演技に一工夫を入れた120点の演技をしたから評価された。
今回は監督ではなく、観客に見せ場で予想を超える演技を見せればいい。
アクアは簡単そうにメルトへ無理難題を押し付ける。
『……キザミの一番の見せ場は匁との対決シーン。ここで観客に原作超えだと思わせる演技をすればいい』
〜〜〜〜〜〜〜〜
あの後、メルトは『それが始まり』を見て、これで素人って言ってたのかよと呆れたものの、言いたいことは理解できた。
そしてそれを実現するために出来る限りの努力はしてきた。
あとは本番でそれを出し切るだけだ。
「消えろよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
匁が発狂しながらキザミへ向けて切り掛かる。
メルトと殺陣を始めてすぐに鴨志田は、メルトが演じているキザミのキレの良さに驚かされる事になる。
(コイツそういえばこのシーンだけどんどん演技が良くなっていってるな)
匁もこのシーンが一番の見せ場だ。当然鴨志田はメルトと合わせて稽古をする機会も多い。
他のシーンでは変わらず平凡な役者の一人でしかないメルトだが、この戦闘シーンだけはどんどん上手くなっていくのを間近で見てきた。
「負けねえぞこらぁああぁ!!」
短い稽古期間をこの戦闘シーンにだけ費やしたメルトの本心をそのまま乗せた感情演技。
その圧に鴨志田は笑みが溢れそうになるが、キャラ解釈からズレるので気合いで抑え込む。
(やるじゃねぇか!こっちこそ……流石に演技一年もやってねぇ奴に負けられねぇよ!)
鴨志田はそれなりの歴を持つ役者としてのプライド、強い意志を持って刀を振る匁の演技にそれを上乗せする。
鴨志田とメルトの意地のぶつかり合いは、原作の二人のような関係で、演技に深みが増していく。
「お前を殺して……っ極楽天は我らが渋谷クラスタが頂く!」
鍔迫り合いの末に刀を弾かれるキザミ。
そのままトドメを刺さんとばかりに飛び込む匁の攻撃を躱しながら落ちている自分の刀へと近付き、それを蹴り上げる。
ゲネでも行われなかったそれを見た瞬間、原作を読み込んで場面を理解している鴨志田は察した。
(コイツ……本気で俺に勝つつもりじゃねぇか)
宙を舞う刀がクルクルと綺麗な回転をしながら落ちていくが、メルトは散々練習したからと焦らない。
軽く体術で殺陣をしながら、自然な動きで落下地点へ向かうキザミ。
そのまま匁を見据えながら落ちる刀に目も向けずスムーズにキャッチして構えへシームレスに移行した。
原作でキザミが見せた一場面、アニメで映像化されてハードルが上がっていたワンシーン。
それをメルトは現実として再現してみせた。
「すごいすごい!実際に出来ると思って描いてないのに!ちゃんと原作通りやってくれるなんて……原作再現凄い!」
思わず口に出してしまう原作者を責められない完成度。
彼ならもしかしたらと期待をしていた吉祥寺も本当にこのシーンを仕上げてくるとはと目を見開く。
今この瞬間はメルトが間違いなくこの舞台の主役だった。
(このシーンは初めて出会った強敵に敗北した俺が、根性だけで相手に立ち向かうシーン!ここからが俺の……一番の見せ場!)
メルトは自分が世界の中心なんじゃないかなんて思い上がっていた自分をへし折った『今日あま』の事を思い出す。
自分と同い年なのに自分にないモノを持っているアクアを見て、強いと思っていた自分が本当は弱い事に気が付いて情けなくてみっともなくて悔しいという感情。
「うおおおおおおおおおおお!!!」
(俺は普通にやったら鴨志田さんに絶対勝てねぇ……でも10年やってようが知った事じゃねぇ。この場面だけは……たとえアクアにだって負けねぇぞ!)
まだ遠い背中だと思っている憧れにすら並ばせる気はない気迫を宿したメルトは客席から見ても相当の存在感を発揮する。
観客の多くはメルトに魅入り、その一挙一動に注目する。
その期待に応えられる程に、このシーンをメルトはしっかりと仕上げていた。
いつまでも見たいと思わせるだけの演技、ただそれも終わりが訪れる。
匁に斬られ、なんとか立とうとするも力尽き、パタリと倒れ伏すキザミ。
一瞬訪れる静寂。客席から贈られる拍手がメルトの演技を讃えている。
「『よくやったわ!あとは私達に任せなさい!』」
(ほんとよくやったわね。……負けられないじゃない)
ブレイドと共につるぎが匁とキザミの間へ入り、守るように立ち塞がりながらキザミへと声を掛ける。
その言葉にはかなとして、つるぎとして両方の意味合いが込められていた。
幕が降りて次のセットに移るまでの舞台裏。
メルトは鴨志田の元へ近寄って声をかけた。
「あ、あの鴨志田さん……急にアドリブ入れてすみません」
事前に相談すべき事だったが、鴨志田の心情をも演技に使いたかったメルトは、この本番まで黙って騙し討ちのような形で演じた事を謝罪する。
ただ鴨志田はそんなメルトを見て笑顔で肩を組んだ。
「やるじゃんか、ゲネの時も良かったけど今回はマジで度肝抜かされたぜ!」
それから鴨志田はメルトの良かった動きをしばらく話した後に、笑顔を収めて真剣な顔へと変わる。
「悔しいけど今回はお前の勝ち……でも、これから何度も公演はあるんだ……負けねぇからな?」
役者歴が長い鴨志田としては、いくらアドリブがあったとはいえメルトに演技で負けた事が悔しくないはずがない。
表情からもその気持ちがよく伝わってくる。
「俺も……あのシーンだけは負けねぇっす」
「言うじゃん」
ただこのシーンだけは絶対の自信があるメルトは、強気に笑顔で返す。
それを見て鴨志田はメルトにニヤリとしながら微笑み返す。
鴨志田とメルト、お互いが認め合う良いきっかけとなる演技だった。
そんな彼らを見ながらアクアは少しだけ笑みをこぼして自分の出番に備え準備をする。
「なぁ、アクア」
「ん?」
そんなアクアにメルトが声を掛け、笑顔で言葉を続けた。
「演技って楽しいわ」
「……そうだな」
メルトの言葉にアクアも同意を返す。
結局アクアが前世の夢である医者に区切りを付けられたのは、今世演技が楽しいから。それが理由だった。
(メルトは自分の限界以上の演技を見せた。俺も新しい挑戦をしないとな)
幕が開け、舞台は新宿から渋谷へと移り変わる。
二人の鬼、刀鬼と匁が話し合っているシーンから舞台は再開された。
「新宿クラスタ、厄介な奴等みたいだな」
匁からの報告を受け、ブレイド達を脅威として認識する新たな登場人物、刀鬼。
刀鬼を演じるアクアに求められているのは底知れなさを見せる事。
脅威を判断しながらも慌てる様子すらない冷静さは、どこか不気味にすら感じる。
そんな刀鬼の言葉に匁は自分の意見を述べる。
「何も考えてないバカの集まりですよ……盟刀の契約者を全員倒せばそれで良いと思ってる。……どうします?アイツら攻めて来ますよ」
「俺は姫の懐刀だ。……持ち主の指示に従うだけ」
渋谷クラスタのナンバー2である刀鬼へ意見を求める匁。
ただそれに対して刀鬼はすげなく返す。
感情の起伏が少ないキャラクター性を強調するのが、今求められている刀鬼の演技だ。
それにこの場面で本当の見せ場があるのは刀鬼ではない。
印象には残るが、目立ち過ぎないのが求められる演技。
(ここは俺の120点の演技はいらない、100点の演技が欲しい場面だ)
焦る気持ちがないではない。
アクアだって役者だ。
メルトにアレだけ見せられたのだから見せ場を作りたい気持ちもある。
ただ……それは今ではない。
(そうだ……早熟はやっぱ要所を分かってんな)
アクアに呼ばれて観客として来ていた五反田もアクアの演技に笑みを浮かべる。
無闇やたらと目立つような事をしない実に使いやすく優れた役者に育ったと感心する。
「君に意見を求めたのが間違いでしたね……少しは人間味というものを持ったらどうですか?」
呆れたような声色の匁。ナンバー2がこれではどうなのかと言いたげな口調だ。
刀鬼からの指示を諦め、匁は背にあるスクリーンへ振り返りながら言葉を続ける。
「鞘姫様、ご決断を」
その言葉に合わせて刀鬼も振り返る。
スクリーンが開き、豪華絢爛なセットが姿を現す。
だが、観客のほとんどはそんな物に目がいかない。
セットと共に姿を現した一人の少女の座り姿に誰もが自然と目を惹かれる。
鬼の姫である鞘姫を演じるあかねは、まだ一言も喋っていないのに鞘姫が持つボスとしての威厳を漂わせていた。
「刀を抜けば血が流れる」
過去のシーンを見せる尺はなく、説得力を持たせるのが難しいと脚本家が判断し、鞘姫のキャラを変更する判断を下していただけあって、その思いは複雑怪奇。
「ですが、戦わねば守れない物もあるのでしょう」
その言葉には葛藤と新宿との対立、悩みなどの感情が込められている。
ゆっくりと立ち上がる動作、細かな動きで鞘姫の感情その全てを表現していく。
そして掛けられていた刀を手に取り構えを取る。
「……合戦です」
最後の締めは覚悟籠った短い言葉。
脚本家と原作者の想像を超える表現力。
それにより鞘姫の背景が明示されなくとも観客へと伝わった。
「新宿と渋谷……相入れることのない二つの徒党はついに決戦の時を迎える」
ララライ最強の男、みたのりお。
今回の舞台はナレーションじみた脇役だ。
しっかりと存在感を出しているのにも関わらず、まるで作品を乱した感じのない演技は、アクアも参考になると感心する。
今回は直接的に演技勝負をする機会はなかったが、別の作品では演じ合いたいと内心思っていたりする。
そんなナレーションに合わせて新しいセットが姿を現す。ここからがステージアラウンドの真骨頂。
「行くぜぇ!」
ブレイドの掛け声に合わせて新宿クラスタの代表が渋谷へと乗り込む。
普通に表現するとどうしても舞台のサイズに左右され、表現力に不安が残る。
だが、このステージアラウンドであれば、旅感を出すのにスクリーン前を歩いたのと同じように客席の回転に合わせて演者が走ることで勢いと移動を表現できる。
「ここは通行止めだ、ブレイド」
「通りたきゃその首置いてきな!」
ララライのメンバー二人が渋谷の鬼として立ち塞がる。
今回初の2.5ということでララライがメインで開催するにも関わらず勉強を兼ねて脇役の選出が多くなっている。
だが、脇役こそ真に演者の力が見えるものだ。
「おもしれぇ!」
ブレイドがその挑発に乗って刀を構えた時、後ろから鬼の少女が二人前へと躍り出た。
キザミの仲間であった二人はこの旅でブレイドの仲間として馴染んでいる。
「行きな、ブレイド!」
「ここは私たちが引き受ける!」
新宿クラスタ最強戦力であるブレイドをここで足止めされるわけにはいかない。
そう判断した二人はこの鬼達を引き受けることにした。
「キザミ!匁と決着……付けてきな!」
一人が振り返りながら声を掛ける。
そう、この後はキザミに勝利するだけの実力ある剣主、匁がいる。
ここで戦力を削られるわけにはいかなかった。
「任せろ!」
キザミは堂々と宣言する。
メルトの演技としては、あの瞬間の演技では確かに勝てていただろう。
ただ実力的には完敗しているのが分かっている。
それでも勝つつもりで演じると気合を入れながら。
殺陣が始まったのに合わせてブレイド達は再び移動を始める。
それに合わせて再び客席が回転し、また新たなステージへと移動を始めた。
「鞘姫は奥の間だ!」
「一気に突っ切る!」
躍動感ある演出に合わせて、短期決戦を狙っているのを観客へと短い言葉で伝える大輝とかな。
舞台の密度を不自然にならない範囲で上げていく。
セットが切り替わり、二人の鬼が姿を現した。
「懐かしい顔ぶれですねぇ」
「匁!」
今度は負けないと思いつつも、その感情は奥へ仕舞い込み、冷静に匁を演じる鴨志田。
「あなたがここまで辿り着けるとは思いませんでしたよ……キザミさん、僕よりも弱いあなたが!」
先程の演技に対する意味も込めて、匁は言う。
嘲るような言い回しで煽るように。
「俺は確かに弱いさ……けどな、仲間がいるからここまで来れた!」
キザミの成長を表すセリフ。
そしてこれは『今日あま』前の何でも上手く行くから適当に過ごそうなんて考えていたメルトの成長も意味していた。
アクアやかなが居てくれたからここまで頑張れたのだ。
「決着付けるぞ!匁」
普通にやったら負けると分かっている。
でも今度は正々堂々演技のぶつけ合いをしようという気持ちを込めるメルト。
「何度やっても結果は同じですよ」
「んなこたやってみなきゃ分かんねぇだろ!」
匁とキザミのマッチアップが決まったところで、隣にいたもう一人の渋谷の鬼、刀鬼が口を開く。
「雑魚どもは任せる……俺は敵の大将を潰す。この戦、最速で片付ける」
(ここからは本気だ……俺は負けない)
これまでの強者とは違う、どれほど強いのか正確に読み取れないまるで海の底にいるかのような圧を持つ鬼、刀鬼。
鞘姫が見せた光の存在感とは異なる、闇の存在感を見せる。
淡々と言うその台詞にはただ自分の方が強いという確信が含まれていた。
「お前強そうだな!その実力試してやるよ!」
(ゲネの時以上の圧……4年前からどれくらい成長したか……その実力、試させてもらうぜ)
刀を肩に掛けてブレイドと心情を合わせる大輝。
ブレイドと刀鬼の戦いが始まった。
ただ舞台としてはまだもう一つ戦いが始まる。
これから戦いが始まるのかという空気の中で再び客席は回転し、つるぎ一人がそちらへと駆けていく。
「あれ??無我夢中で走ってたら私だけ着いちゃった……」
やっちゃったと言う表情を浮かべるつるぎ。こういうところが愛嬌があって原作ファンからも大人気なポイントだろう。
「は!これは私が鞘姫を倒して、アイツ等をぎゃふん!と言わせるチャンスでは!?出てきなさい!鬼の姫!」
挑発的な声を出すつるぎに合わせてセットが姿を現す。
そして先程皆の視線を集めた鞘姫が再び姿を見せた。
それだけで再度観客の視線を釘付けにする圧倒的な存在感。
許嫁設定に合わせるように先程刀鬼が見せたものの対となるような気配だ。
「アンタが鞘姫ね!……混血!?」
ゆっくりと前へと歩いてくる鞘姫に向けて自前の刀を向け、挑発をしようとしたところで鬼の姫とまで言われている彼女が、一般的には純血に劣るとされる混血だと気がついたつるぎ。
その言葉を聞いて淡々と鞘姫は返す。
「貴方も混血は純血に劣ると思っているのですか?」
自分はそうは思っていないと言いたげな鞘姫の返事。
それを聞きながらかなはその完成度に感心していた。
(ホントその冷たい感じ、でも僅かに思うところがあるって返し方……鞘姫やってるわねぇ。原作再現ならお手の物かしら。それにあの存在感……アイさんとの二重演技ね)
アイの圧倒的存在感を鞘姫のカリスマ性の表現に使用している今のあかねは、王族と言われても一目で納得できるほどだ。
かなは今あかねがしている演技について自分は出来ないと認めている。
「刀を抜きなさい!」
(そんなに見たいなら見せてあげるわ、私の本気の演技。ちゃんと着いて来なさいよ?)
最後に同作品で演技対決をしたのはもう随分前だ。
かなは絶対に言わないが、アクアだけでなくあかねもいたから自分はここまで来れたと思っている。
そしてここで自分が上だと証明する。
その覚悟と感情をかなは全身に乗せてあかねへと向き合う。
「貴方にはこれで十分です」
(負けないよ、かなちゃん。どんな演技だとしても私は私の演技でかなちゃんに勝つ。あの日、アクアくん達に言った言葉を実現する)
あかねにとってかなはずっと憧れだった。
色々と拗らせた時期もあったが、今はその辺りも含めて好きだと胸を張って言える。
だが、幼い頃にアクアの演技を見て思ったのだ。
憧れだけじゃない。かなに並びたい、そして超えたいと。
これはそのチャンス、絶対に負けたくないと闘志を胸の奥底に秘め、演技へと転化する。
二人の少女の強い意志がぶつかり合う。
全員が主役の最終決戦が今始まろうとしていた。