新宿クラスタと渋谷クラスタ双方の主力が戦っている姿が一目で全て捉えられるセットの中で、各々が殺陣を繰り広げる。
つるぎと鞘姫の戦いもその一部だ。
「ちっ……やるじゃない!流石は姫なんて呼ばれるだけはあるわね!」
(これだけの役者が居る中で全員が平等な演出の場面なのに、間違いなく今この子が主役だ)
刀を抜かず鞘で鍔迫り合いに応じる鞘姫に、思わず憎まれ口を叩くつるぎを演じながら、かなは頭で状況を確認する。
現代最高のマルチタレントを内蔵させた演技は、鞘姫という存在を現実にいるカリスマなのに、非現実味のあるキャラクターとして昇華させる。
まさに2.5次元に相応しい演技と言っていい。
「そちらこそ……思ったよりは戦えるようですね」
(私は私が一番目立つように戦う……一緒にぶつかって来てよ)
ここから鞘姫の戦闘は刀を抜かないハンデを止め、本気で戦うようになる。
あかねは目を惹きつける自分の演技を利用して、鞘から刀を抜く動きを強調する。
他の盟刀と少し異なるこの後の展開に関わる刀。
ここでその存在感を見せつける事で、この後の展開に説得力を持たせる布石とした。
「はっ!やっとやる気になったわね」
(きっと今観客はあかねに釘付けね。ちょうどいいじゃない。……アンタと白黒つけてやるわ)
つるぎの声に合わせて、かなは演技の質を強めていく。
このあかねに負けない演技をするために。
(かなちゃんの気配が変わった……来る)
殺陣が更に激化を始めたところで、あかねははっきりとそれを感じ取っていた。
かなと言えば太陽のような自分を見ろと輝く演技が個性的で絶対な役者だ。
だが姫川大輝との練習を経て、その演技は一歩先へと進んでいる。
「そこを退きなさい鞘姫!」
その圧倒的存在感に負けない自分を見ろと言うような『巨星の演技』。
一世を風靡した太陽のような眩い演技、その発展系。
(私"達"を見なさい!)
舞台を見ている全員にこの殺陣を見過ごすなと印象付ける主張の激しい感情の暴力。
自分を見ろという演技を磨いた結果、関わる全てを注目させる演技へと変わっていった。
自分が輝くだけでなく、共に演技をする相手をも照らす本物の太陽が君臨する。
鞘姫の持つカリスマ性を更に強調させながらも、つるぎにも同等以上に視線の集まるかなの新しい演技。
(かなちゃん!かなちゃん!有馬かな!!……ってそうじゃない!私はこれに勝つんだから)
その強烈な演技にファン精神が表に出そうになったあかねだが、精神力で押さえ込んで応戦する。
二人とも高い演技力だけでなく、アイドルで磨いた体幹とワイヤーを活かして実に舞台映えするアクションで大立ち回りを披露していた。
二人の天才役者はその才能を存分に発揮していき、観客のボルテージを高めていく。
その興奮は場面の切り替えが始まっても冷める気配はなかった。
「うぅ……かなちゃん手強いなぁ」
セット変更中の舞台裏であかねは水分補給をしながら、自分のもっとも自信ある演技で押しきれなかった事に悔しさを滲ませる。
かなの新しい全てを照らす『太陽の演技』に感心はしたものの、悔しいものは悔しかった。
「派手に立ち回っているなあかね。おかげで観客も盛り上がってる」
「アクアくん……」
激しい動きを見せていたあかねに、アクアは労いも兼ねての言葉を掛ける。
そんなアクアを見てあかねは微笑みながら返した。
「アクアくんこそ、私達の演技を際立たせる静かな戦いを見せながら、それでいて空気にならない演技は流石だったよ。よく姫川さんをあそこまで抑え込めたね」
あの感情の塊というべき大輝が、あかね達がアレだけ目立っている中大人しくしていたのはアクアが何かしたと彼女は考えていた。
あかねの言葉を聞いて、演技に相当深く入り込んでいたから気が付いていないと考えていたアクアは驚きながら返事をする。
「よく見てたな、アレだけ動いてたら気付かないかと思ったが」
縦横無尽に動き回るあかねの動きに対して、アクアは大輝と共に舞台上の二番手になるよう徹していた。
ブレイドは間違いなく舞台の主役だ。
ただ場面場面においては他のキャラクターが目立つべき場面も存在する。
この後、舞台はブレイドと刀鬼の戦闘がクローズアップされる予定だ。
その後、ブレイド&つるぎVS刀鬼&鞘姫というコンビ対決へと移行する。
それならば特別クローズアップされていないつるぎと鞘姫の対決が、ここで目立って一番印象に残るようにするのが、この後の展開的にベストだとアクアは考えたわけだ。
「分かるよ、アクアくんの事だもん」
「答えになってないけどな」
見ていたわけではなく予想したのだとしたら、あかねのプロファイリング能力に関しては人間の範囲を超えているだろう。
少し呆れた表情をするアクアを見て悔しさはありつつも気を取り直せたあかねは、再び想い人へ決意を口にする。
「私ももっと頑張る……二人で姫川有馬コンビを倒そうね」
「……ああ」
あかねの様々な感情のこもった言葉にアクアは頷く。
この短い休憩が明ければ、残りは最後までの予定となっている。
「俺たちが勝つぞ」
アクアは短く気合を入れる意味も込めて思いを口にした。
一方その頃。
「あーもう!私が正しいって言わんがばかりの演技して、それでキャラの解釈が完璧なのは反則でしょうが!」
あかねとの演技対決で明確に勝ったと言い切れないかなは、不満を漏らしていた。
かなの中では二人の作品への貢献度を比較した時、ここまでやってちょうどトントンという認識であり、勝利宣言は難しい。
「演技では負けてなかったと思うけどな」
大輝は台本を読んでいたが、かなの言葉に自分の感想を伝える。
「そっ、ありがと。一応この後、アンタらと一緒に戦うシーンがあるからまだ終わってないけど……というか珍しいわね、アンタが自分が主役って演技しなかったの」
先程の舞台気持ちよく主役になったのはかなとあかねの二人だ。
それまでずっと舞台の主人公として俺が主役だと炎のように燃え上がっていた大輝。
それが急に大人しかった事をかなは不思議そうに尋ねる。
とはいえ目立ち過ぎないだけで、しっかり観客の印象に残る動きはしていたのでアプローチを変えたのか?と不思議に思う程度だった。
ただそこから思いがけない返事が大輝から返ってくる。
「アレはしなかったじゃなくてさせて貰えなかったって感じだぞ」
「は?どういうこと?」
予想外の返事にかなは動揺する。
自分のしたい演技ができないってそんなことあるの?と言いたげな返事だった。
「どうやってやってるかはよく分かんねぇけど、なんかこっちの感情を食われてるって感じで有馬達の陰に徹するよう仕向けられたって感じだな」
大輝からすれば、まるで操られたかのように、アクアが望む方へと自分の演技が誘導されたと感じていた。
大輝には、そういう物に対して心当たりがある。
(アレ、なんかヒカルさんみたいだったな?雰囲気似てるもんなアイツ……やっぱ師匠と弟子ってのは似るもんなのかね)
『嘘つきの瞳』なんて演技を直接教わっているだけあってか、ヒカルとアクアは似ている。
大輝としては悔しいが、先程の場面においてはアクアの演技が一歩上を行っていたと認めざるを得ない。
「ホント皆好き勝手演じてるのによく纏まるもんよね」
「お前が言うか?……まぁいい、有馬はそのまま全力の演技をぶつけ続けてくれ。こっちは一旦俺がなんとかする」
「そっ……まぁ姫川さんならなんとかするんでしょうね……ところで、なんでメガネ手に持ってんの?」
一通り本題が話し終わったところで、かなはB小町Rのツッコミ担当としてずっと言いたかった事をようやく口にする。
「台本読みたくてメガネかけようとしたらメイクさんに止められてな」
「当然でしょうに……それでなんで今更台本なんて読んでんのよ」
大輝ほどの役者が台本を忘れたとは思い難い。
だからかなも他に理由があるだろうと考えて尋ねる。
その考えは正解のようで大輝はやりたい事を口にした。
「黒川もノッてるし、星野の演技も不気味でこのままだとワンチャン食われるからアドリブでも入れようかと思ってな。このシーン、アドリブ入れるぞ」
あの全てを照らす演技を輝かせるならばもっと色々な組み合わせを見せる方が都合がいい。
大輝はそう思いながら台本を見せて該当箇所を指差した。
「いいじゃない、乗ってあげる」
それを見て演技に今ノッているかなは頷くのだった。
最後のセット交換も終わり、最後の戦いが始まる。
全体の戦いから一転、主人公であるブレイドと渋谷クラスタ最強の刀鬼の戦いに焦点が絞られる。
スクリーンには黒い画面の中に桜の花びらがひらりひらりと舞うシーンが表示された。
「お前が渋谷で1番強い奴か?」
ゆっくりと舞台の左右からブレイドと刀鬼が歩いてくる。
互いに一歩一歩を大切に、互いに譲れないものがあるのだと主張しながら歩を進める。
「貴様には志があるのか?……鞘姫にはある」
鞘姫が見せた複雑な思い。
それを理解している刀鬼は何処か悲しそうに客席からは見えた。
「志ねぇ……ないことはないと思うが、俺は口で説明するのは得意じゃないんだ」
その対比というべきか楽しそうな表情で刀を抜き放ちながらブレイドは刀鬼へ言葉を続けた。
「だからよぉ……語ろうぜ、俺たちの刃で!」
「いいだろう」
冷徹な刀鬼の声を聞き、ブレイドは大きく上へと飛び上がる。
大輝は細かい所作一つ一つに感情を乗せ、舞台特有の大袈裟な動きにすら、このキャラならばやると自然さを付加して正当性を持たせた。
その情報量の多さはもはや鎧とすら言える程だ。
全身から戦いを楽しみたい、もっとやり合おうとアピールをしている。
「……」
(来い、姫川大輝。あの時の俺とは違うと見せてやる)
それに対して刀鬼は冷静に対処する。
大切なものを守る強い意志を内に秘めながらも、人には決してその感情を見せない男の演技。
観客には葛藤が見えて欲しいが、目の前にいるブレイドには感情が読み取れない不気味さが必要だ。
(ほんと前より成長してんな、休止中もサボらずずっと演技を磨いてきた奴のそれだ……おもしれぇ)
大輝はそんなアクアを見て更に感情を滾らせる。
この氷のように冷たい、感情を封じるような演技を溶かしたいとまるで燃える炎のようだった。
そしてそんな感情の嵐を弾き返すアクアの演技。
その対比構造は殺陣を通して更に強調されていき、つるぎと鞘姫が行った演技のように、互いの演技をより際立たせ合う相乗効果を発揮する。
演技力は完全に互角と言って良かった。
最終決戦に相応しい大立ち回りを見せる二人に、観客は魅入られていく。
「くっ……ほんとつえぇ……」
「どうした、こんなものか」
ブレイドに対して刀鬼が少し優位を維持して戦う。
それだけ刀鬼の実力があるという事だ。
細かい所作と僅かに込められた感情が刀鬼に強さの説得力を与えている。
そんな戦いの最中、スクリーンが開かれ場面が変わった事が知らされる。幕の中から現れたのはつるぎ。
腕を押さえており、疲労と負傷が伝わってきた。
鞘姫に押されているらしい事が一目で伝わる。
「なんなんだアイツ……それにあの盟刀……他の刀とは何かが」
つるぎが口にしたのは鞘姫の盟刀についての話。
あかねが何度か特別感を演出しているおかげで、この台詞も説明台詞感が薄れて、つるぎが戦ってそう感じ取れたのだと感じさせる。
(そろそろアドリブ入れるって言ってた範囲だけど)
「避けろ!つるぎ!!」
つるぎの背後に現れた鞘姫の刃を受け止めながら、ブレイドはつるぎを攻撃から守るため押し出す。
その勢いのまま、つるぎは刀鬼の胸元へと押し出された。
長い因縁となる刀鬼とつるぎの関係、それをここで強化するのはファンサービスとして悪くない判断。
(なんだ?なんか寒気が)
(アドリブ……分かってる。分かってるけど私の中の鞘姫が嫉妬してる……なんとか押し殺さないと)
一瞬鋭い気配を感じた大輝はほんのり冷や汗をかいた。
そして押し出されたかなはと言えば。
(さて、アクアはどんなアドリブで返してくれるのかしらねぇ〜お手並み拝見ってとこかしら)
自分が丸投げされたアドリブを更にアクアへと丸投げしていた。
刀鬼とつるぎの関係性から考えれば、刀鬼の方からアクションをしてくれるだろうとアクアを信じての判断。
そしてそれは間違っていない。
「むぎゅ」
胸元に倒れ込んだつるぎを支えていた刀鬼だが、彼女の頬を掴んでクイっと互いの顔が正面で向き合う形になるよう傾ける。
それはまるで少女漫画にある顎クイのようで
(わあぁぁぁぁぁぁぁ!?あ、アンタこんな衆人環視のとこで何するつもり!?えっ嘘?)
妄想逞しい少女は一人、演技を一瞬忘れそうになりながら硬直する。
ただその演技が飛びきらない間に、アクアはアドリブ演技を開始した。
「女……遊んでる場合か?命を賭して死に合うのは男だけでいい。男に守られなければ戦場に立てないようならば、今すぐこの場を去れ」
言葉だけならば厳しいが、僅かながらに心配が乗るのが、刀鬼というキャラクターに深みを与える。
不器用な心配を表現した優しい声を聞いて、ハッとしたかなは、再びつるぎへと戻って対応する。
「わっ私は戦える」
「こんな柔らかい身体をしてか?もう少し鍛えたらどうだ」
「ちょっあんだ!乙女の魅惑ボデーに何すった!」
散々東京ブレイドで寸劇をしてきた成果もあってかキャラクターのいいそうな台詞はスラスラと出てくる。
台本に初めからあったのかと思わせるスムーズさで場面を繋いでいく。
「男は女を命を賭して守るものなのだろう……俺は絶対負けるわけにはいかないのだ」
刀鬼が劇中キャラクターへ見せた本心の言葉。
これこそが刀つるという作品の一大カップリング始まりの場面。
刀鬼の言いそうな言葉でアドリブを完全に構成し、台本へと戻ってきた。
(ホント、こいつ昔から受けも上手いのよね。器用な奴)
刀鬼が女に対してあまり戦いたがっていない描写を強化する事でこの後の展開に説得力が生まれる事になる。
本人は本気でやっているつもりだろうが、何処か迷いが見える刀鬼。
そんな彼に対して先程の扱いで吹っ切れたつるぎは、ガンガンと懐に踏み込んで攻撃を展開していく。
ブレイドさえ押されていたはずの刀鬼が、つるぎの圧に押されて、そしてついに。
「ぐっ」
「ブレイド、今よ!」
刀を弾かれて、この戦いで初めて無防備な瞬間が生まれる刀鬼。
負けるはずがないと思っていた相手に敗北し、心理的防壁が脆くなっている刀鬼はブレイドが刀を振り下ろすのを見ていることしかできない。
(ホント……あの時みたいだな)
アクアの思考は冷静だった。
斬られる覚悟をしている自分に対して振り下ろされる刃。
演出により光り輝く刀が派手ではあるものの、状況はそっくりだ。
世界がゆっくりと動いていく中、ブレイドと刀鬼の間に割り込む一つの影。
鞘姫が刀鬼を庇って斬撃を受け止める。
(ごめんね、アクアくん……)
あかねもそれを分かっているのだろう。
アクアにとって決して気持ちのいい思い出ではないそれを演技に使わせることに罪悪感を抱きながら、倒れる瞬間にアイの演技を強くする。
「……」
パタリと倒れ、鞘から光が溢れる。それは鞘姫の命の灯火が冷えようとしている事を意味していた。
それを見て刀鬼は膝をつく。
ここからがアクアの感情演技、その本番だ。
自分のせいで傷ついた鞘姫に対する罪悪感。
この気分の悪い演技に更に気分の悪い感情を重ねなければいけない。
(アイの事もそうだが……もう20年も前のことなのに今日のことのように思い出せる……何が医者だ。何が『せんせ』だ。自分の無力さに反吐が出そうだ)
アイに対しては自分の止血などが貢献できた。
だから得られない無力感を別の感情で埋め合わせる。
感情をゼロから作れなくとも二つの体験で足りない部分を埋め合わせれば、リアルな感情をより複雑化させていく事だってできる。
刀鬼の打ちひしがれた姿はその後悔と無力感、そして絶望を客席の最奥まで一目でわかるほどに届けていく。
「刀を抜け。女を斬られて黙って引き下がるのか?」
ブレイドの言葉にはお前はそんなものか?というような挑発が込められている。
ただアクアは覚えている。
見つけたと思った生き甲斐が消えた時、人がどうなるかを。
「もういい」
短い言葉。それだけで鞘姫への想いの深さが伝わる。
失って改めてその大切さを改めて感じ取った刀鬼はその一言に自分の本心を込めた。
「俺は鞘姫のために戦っていた……鞘姫を守れなかった今となっては戦う理由がない」
「それだけか?あるんじゃねぇのか?お前の中にも」
投げやりな刀鬼にブレイドは声を掛ける。
それを起点に、絶望から怒りの演技へと切り替える。
冷淡でクールな刀鬼はそこにはおらず、怒りのままに暴れる。
その自暴自棄な姿は周囲から見ても痛々しく、観客の中には悲しみの涙を流すものも現れた。
「はぁ……はぁ……」
なんとか暴れ狂う刀鬼を倒したブレイド。
ただその表情にはいつもの余裕はない。体中がボロボロだった。
「戦いは終わりだ!怪我人の治療を!」
自分もボロボロだというのに他者の治療を先に口にする辺り、
「もう遅い……出血が多過ぎる。……鞘姫は助からない」
匁の絶望した声の通り、誰が見ても鞘姫は助からないだろうという状態だ。
渋谷クラスタの鬼たちは自身のトップへ悲しみの籠った視線を向ける。
刀鬼も顔を上げるが、やはりどうにもならないかと変わらぬ絶望を見せていた。
「まだ」
ただ、そんな中一人の鬼、つるぎが彼女の方へと歩いて行った。
「これは傷移しの鞘。自分が負った傷を他人に移し替える事ができる支配者の力」
そこからつるぎはこの刀がどのような能力を持っているかを説明していく。
この状況を唯一打開できる手段があると伝えながら。
「この鞘の本来の使い方は」
「こういう事だろ!!」
ブレイドとつるぎ、この舞台最後の見せ場。
主人公コンビらしい全てをハッピーエンドに終わらせるという強い意志で鞘へと刀を納め、能力を発動する。
その力は鞘姫の致命傷を分散させて他の者たちへと配布し、癒していく。
(何度だって夢を見た。あの子の病気が治って夢に向かって邁進する姿を……閉じられた瞳が開かれる瞬間を)
そんなアクアの思考に合わせるようにゆっくりとあかねの瞳が開かれていく。
一番星の輝きと世界全てが輝いているかのような二つの瞳。これに鞘姫を合わせたあかねのアドリブによる三重演技。
あかねの演技を見て、アクアの感情は本来用意していたもの以上に高まるのを感じる。
それを今回は正しく刀鬼の感情へと変換した。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
鞘姫へと刀鬼は一直線に駆け寄り、抱きしめる。
再会したあの日と同じく失ったモノをもう二度と失わないように。
こうして舞台『東京ブレイド』の初公演は完全なハッピーエンドにて終わりを迎える事になる。