【推しの子】ヤケクソハッピーハーレムルート   作:ただの暇神

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宮崎

時間が経つのは早いもので宮崎旅行の日がやって来る。

朝早くから星野家では出立準備を行なっていた。

そんな二人をアイは楽しそうに見守っている。

 

「じゃあママ!お土産買って帰るからね」

 

一通り準備も終わり、荷物も持ったルビーがアイへ一時的な別れの言葉を掛ける。

それに対してアイは笑顔で返事をしていた。

 

「うん!思い出たくさん作ってきてね〜」

(母さんが三日も俺たちから離れるのに妙に落ち着いてるな……中学の修学旅行でも騒いでたのに)

 

そんなアイの態度にアクアは少し引っ掛かりを感じて彼女の表情を見る。

ただ相変わらず嘘のプロである彼女が本気で隠している場合は、アクアでも見抜くことは難しい。

ただ普段一緒に生活しているアクアから見ていつもより少しだけテンションが高く見えた。

 

「どうしたのアクア?」

「いや、母さんが楽しそうだなと思ってな」

「そう?気のせいじゃないかな〜」

 

アクアは自覚していなかったが、更に伸びた演技力や観察眼によって以前よりアイの事を分析できるようになっていた。

そのため以前なら気付かなかったような隠し事にも気づけるようになっている。

 

「おにいちゃーんママが可愛いのはわかるけどそろそろ行かないと」

 

ただ先に玄関のノブに手を掛けていたルビーがいつまでもアイを見つめている兄へ声を掛ける。

それを言われて視線を時計に移せば、確かにそんなに余裕があるわけではなかった。

 

「分かってるっての。……じゃあ行ってきます、母さん」

「行ってきまーすママ!」

「はーい二人とも楽しんでおいで〜!」

 

アクアは結局アイが何を考えているのか見抜く前に、笑顔の彼女に見送られながらルビーと共に家を出た。

 

それから公共交通機関を乗り継いでアクアとルビーは空港へと到着する。

幸いというべきかまだ朝早いからか人は少なく、アクア達が大きな変装をしていないというのに騒ぎにはなっていない。

待ち合わせ場所まで二人が辿り着けば、最初に来ていたらしいミヤコが二人を見付けるなり手を振って来たので、アクア達も手を振り返した。

その動作を見て星野兄妹を見つけたらしい小さな影がとてとてと元気よく走ってくる。

 

「にい!ねえ!おはよ!」

 

ぺこりと可愛らしく挨拶をするのは斎藤愛瑠。

アクア達にとって妹のような存在であり、溺愛対象だ。

そんな彼女の可愛さを見てルビーがずっと彼女の方へ手を伸ばす。

 

「愛瑠ちゃんは挨拶出来て賢いなぁ、ねえが抱きしめてあげる!」

「むにゅっ」

「ルビー力加減間違ってるぞ」

 

ちょっと苦しそうな愛瑠を見て、アクアはルビーの腕から愛瑠を回収して優しく抱きかかえた。

一安心したような表情をした愛瑠は不満そうな表情、あかねの真似と言って習得した膨れ顔をしてからルビーにお小言を口にする。

 

「ねえ……くうしかった」

「きゃわ……ってご、ごめんね愛瑠ちゃん……可愛過ぎてつい……」

 

まだ事務所での活動が多いルビーは、比較的愛瑠と会う機会が多いはずなのだが、やはり下の子という存在が可愛くて仕方がないのだろう。

いつまでも愛が衰える気配のない姿は、前世にあまり愛を得られなかったが故に、愛を与えたいという思いの強さに変換された結果だろう。

 

「にいはやさしい」

「むぅおにいちゃんが幼女にすら好かれてる……流石に2歳はロリコンだよ」

「それは冗談抜きで危ないからやめろ。めっちゃピュアな気持ちで接してるわ」

「にいとねえ仲良し!」

 

アクアとルビーのじゃれ合いを見て、愛瑠はキャッキャと楽しそうに笑顔を浮かべる。

それを見て兄妹揃って釣られるように笑顔になった。

そんな中パシャリとシャッターを切る音が響く。

身内ならどうせフリルだろうと振り返ると意外な人物がそこにいた。

 

「やほ~アクたんルビーちゃんお久~」

「アクア君ルビーちゃん、今日から三日よろしくね」

 

MEMちょとゆらの二人が、芸能人の好きそうなカジュアルスタイルの服を見事に着こなしてそこにいた。

アクアは今回来ると特に聞いていなかった二人がいる姿を見て驚きの表情を浮かべる。

ただルビーは純粋に一緒に旅行をする仲間が増えて嬉しいようで、手を上げて喜んでいた。

 

「MEMちょとゆらちゃんも一緒なの!?賑やかで楽しい旅行になるね!」

「私達は宮崎でアネモネと会う約束しててさ~C式部関連のお話もしたいからどうせなら直接行こうって思ったんだよね〜。泊まり先はまとめて予約した方がお得だったりするし便乗ってわけさ」

「……アネモネって確かC式部のMV作ってる人だっけ」

 

MEMちょの言葉に出てきた名前を聞いて、アクアは頭の中を探して一人該当者を探す。

直接の面識はなかったが今度B小町RのMVもお願いするかもと話が出ている相手だ。

自分のスタジオを持っている敏腕映像クリエイターであり、実力は折り紙付きである。

 

「そそっ。だからアクたん達とずっと一緒って訳じゃないから安心していいよ~ちょっと観光とかは参加するかもだけど」

「別にずっといてもいいのに……あれ?ゆらちゃんは?」

 

ルビーは既にC式部から脱退したゆらがいるのが不思議になって尋ねる。

他のメンバーが見当たらない辺りにも何か訳があるのだろうかと疑問を解消するべく口にした形だ。

そんなルビーの質問にゆらは軽く答える。

 

「私はC式部からもう引退しちゃってるけど、アネモネとは仲良くさせてもらってたからね。別件でちょっと相談したいことがあるからMEMの付き添いかな」

「なるほどね〜!今日からよろしくねMEMちょにゆらちゃん!」

 

そしてこんな会話をしている間も甘え上手な愛瑠はアクアの腕の中でご満悦そうな顔をしていた。

そして二人の姿を見るなり不思議そうな顔をする。

 

「りょこー、めーちゃとゆーちゃも一緒?」

「そうだよ~愛瑠ちゃんはかわいいなぁ……」

 

そろそろ子供ができてもおかしくない年齢に差し掛かっているMEMちょ。

最近はアクア達のラブコメ模様も含め、見ているともしかすると自分だけ行き遅れるのではないかと不安に襲われていたりする。

アクアの腕から愛瑠をしれっと受け取ったのはその母性が爆発したからだろう。

 

「相変わらずアクア君はいいお兄ちゃんしてるね。最近忙しくてあんまり事務所でも会えていなかったから嬉しくなっちゃった」

「ゆらは今年大忙しだもんな……こないだの紅白も司会で出てたし」

「あはは、アレはアイさんが今回は出ないと宣言してたのが大きいんじゃないかなぁ」

 

アイは何年か連続で紅白の司会に抜擢されていたが、今年は出ていなかった。

これの理由はそろそろ年末を子供たちとのんびり過ごしたかっただけだったりするが、若い子にチャンスを上げないとというのが一応の名目らしい。

本人はアクア達と一緒にテレビを見ながらゆらを応援しており、満足そうだった。

 

「おはよーアクア!」

 

ちょうどゆらとの会話が終わった直後、アクアの後ろから柔らかな感覚が襲ってくる。

何者かに抱きしめられている事がアクアにはすぐ分かった。

そして声で誰が後ろにいるかすぐにアクアは理解する……ただ何故この場にいるのか分からず混乱を極めていたため返事を返す事ができない。

何とか頭の中で整理をつけて、その相手に話しかける。

 

「か……アイ、どうしてここに」

 

朝自分達を見送ったはずのいくつになっても色褪せない美しさを持つ母が、肩の上からのぞき込むように顔を出している。

あまりにも至近距離でアイの美貌への耐性がなければ、更にフリーズしてしまっていたことだろう。

アイのファンでもあるMEMちょはそんな二人の整った顔が並んでいる姿にテンションを上げながら写真を撮り始めた。

 

「どうしてってそりゃ~私も一緒に行くからに決まってるよね~!」

「は?そんな事今朝まで一言も」

「やっぱたまにはアクア達にサプライズしないとね~どう?びっくりしたかな?」

 

今朝感じた違和感はこれだったのかとアクアは合点する。

恐らくアクア達が家を出てすぐに彼女も家を出たのだろう。

ニコニコとしている彼女へアクアは諦めながら言葉を返す。

 

「驚きすぎて言葉が出ないくらいにな。ルビー見てみろよ、完全に固まってるぞ」

 

アクアがそちらに視線を向けると、ようやく状況が飲み込めたらしいルビーは、何とかフリーズ状態から復帰して、アイへと話しかける。

 

「マ……お姉ちゃんどうして?よくお休み取れたね」

「私ほど売れちゃうとお休みを多少取ったくらい大丈夫なんだよね~どう!見直したかな」

「見直したも何もずっと尊敬してるよ!ファンだもん!」

 

結局のところ、彼女が朝そこまでアクア達が長期不在という点に不満を漏らしていなかったのは、自分も実は旅行に行くからというだけであった。

子離れという成長をしたわけではなかったらしい母へ呆れた視線を向けるアクア。

ただアイのてへっと舌を出すポーズを見て、仕方がないと諦めるあたり、推しの奴隷らしい結末といえよう。

それを見てルビーはママ似の私があのポーズしても効くかな~と自分の未来を見据えた事を考えていた。

 

「アンタら早いわね~たまには……ってアイさん!?」

「わぁ!アイさんその服とっても似合ってます!」

「本当?あかねちゃんありがと!あかねちゃんもそのコート背負ってる感じカッコいいね、大人っぽいよ〜」

 

そんなアクア達の許に続いてやってきたのはかなとあかね。

どうやら同じ電車やバスを乗り継いでの移動だったらしい。

相変わらず仲がいいなとアクアは二人を優しい視線で見つめる。

あかねの褒めたアイの服は全身が赤く目立つ格好だが、それを完璧に着こなすあたりが最強のマルチタレントである証だろう。

 

「あかねはなに普通に順応してるのよ……アイさんがいるのは聞いてなかったでしょうに」

 

あかねはサプライズアイに対してただ普通に喜び、その服装を褒めるのはファンとしては正しい事だ。

ただすぐ反応できる順応性の高さにかなは驚かされていた。

 

「うーん、でもアイさんなら来るかもな〜ってちょっと思ってたから。MEMちゃんやゆらさんもいるし私だって驚いてはいるんだよ?」

 

あかねのその言葉にようやく二人の存在に気付いたかな。

アイの衝撃が強すぎて他が視界に入っていない状態となっていたらしい。

彼女達がひらひらと手を振るのを見てぺこりと一礼してからあかねの言葉に返事をする。

 

「もはやあかねのそれはプロファイリングどころか超能力の類いじゃない?……このメンバーで旅行ってゴシップ記者とかに見つかったら面白おかしく書かれそうよね。あーやだやだ嫌な想像しちゃったわ」

「先輩怖い事言わないでよ……。折角の楽しい旅行なのに周り気にしすぎて楽しめなくなったらどうするの」

「仕方がないでしょ!?私達も国民的アイドルの仲間入りをしようって時だし、アイさんやゆらさん、MEMちょはそれ以上。誰が見てもこんなの餌でしょうが」

 

わーわーと騒ぐかなとルビーを見てアクアはそっとため息を吐いた。

 

「あはは、ごめんねかなちゃんが何だかネガティブで」

「アイツなんか嫌な事でもあったのか?」

「ううん、多分絶対失敗できないライブって思って色々疑心暗鬼になっちゃってるだけだと思う。実際に観光始まったら落ち着くんじゃないかな?」

 

あかねはかなと何度も旅行に行っており、彼女がこういうイベント事が好きなのを知っている。

だから一旦楽しくなってしまえば気にしなくなるだろうと考えていた。

 

「おはよ〜、ウチらが最後やったんや……ってアイさん!?」

「その下りかな達がやったぞ」

「別にお笑いのつもりやないよ!?」

 

あかねと話していたアクアの会話がキリよくなったところで、最後の同行者達が現れる。

自分の驚きを揶揄われたみなみは、思わず勢いのあるツッコミをしてしまっていた。

 

「ネタ潰しはダメだよマリン。天丼だって立派なネタなんだから」

「それもそうだな……悪いみなみ」

「ウチの素の反応ネタ扱いは酷ない!?アクアさんも謝らんでええって」

 

一緒に来たはずのフリルもしれっとアクアと共に揶揄う側へと加担しているのは、彼女の性質的に仕方がない事だろう。

楽しそうな事は盛り上げる、天性のコメディエンヌな性質が遺憾なく発揮されている。

 

「ふぅ楽しかった。ありがとうみなみ」

「なんか複雑やけど……でも喜んでもらえたなら良かった事にしとくな?」

 

みなみはフリルにジト目を向けながらも笑顔で言葉を返した。この辺りは彼女の優しい性質が垣間見える。

 

 

それなりに話が盛り上がっているところで、ミヤコが合図を出す。

全員がそちらに注目しているのを確認してから彼女は口を開いた。

 

「席順を決めましょう?」

 

ミヤコのその言葉を聞いた途端に、B小町Rの間にバチバチと火花が散る。

誰がアクアの隣に座るかといった視線のぶつかり合いだ。

けん制し合う彼女達によって少しの沈黙が生まれる。

ちなみにMEMちょとゆらは早めに二人隣り合った席を確保していた。

 

「勿論アクアの隣はわた」

「はいはい、あなたは自重しなさい。無理言って付いてきたのだし、愛瑠の面倒見るの手伝ってくれるわよね」

 

アイが当然のようにアクアの隣を陣取ろうとするのを見て、ミヤコがストップを掛ける。

ミヤコは高校生らしい青春をしている息子のような相手を見て、流石にフォローしようと考えた結果だった。

彼女の制止に対してアイは不満そうにむくれるも、このメンバーならば仕方がないと思いつつ隣の席を譲ることを決める。

どうせ飛行機から降りたら話し放題なのだと気を取り直した。

 

「むぅ、仕方がないかぁ。愛瑠ちゃん私と一緒にいようね~」

「ねえねえ!わたしと一緒に遊ぶ?」

 

そんな可愛らしい愛瑠の言葉にアイは不満など消し飛んだかのような笑顔を浮かべて彼女を抱きしめる。

 

「きゃわだなぁ、本当もっとアクア達が小さい頃を堪能すべきだったなぁ」

「あの頃は色々大変だったしねぇ……貴方も大人になったものよね」

「ママだからね~」

 

ミヤコ以外に聞こえないようにそんな事を口にする。

とはいえ、彼女の中でこの旅行は一つのきっかけにすることを決めていた。

 

「ミヤコさん、私この旅行でB小町Rの皆に言うよ。あの子達にアクア達との関係をね」

「……いいの?スキャンダルは大体身内からバレるものだけど」

 

ミヤコはその言葉に思わず驚いてアイの方を振り返る。

これまでそれほど広い範囲にこの秘密を口にしたことなどない。

 

「あの子達が言うわけないよ。アクアのこともルビーのことも大好きだもん」

「それは……まぁそうね」

 

これだけ長い時を一緒に過ごして紡いだ絆があるのだ。

昔のB小町とは色々事情が異なるのである。

ミヤコの納得も得られたところでアイは言葉を続けた。

 

「元々ね、アクア達に仲間へ隠し事させてるの悪いな~って思ってたし、いい機会だと思うんだよね!折角バランスがいい仲良しグループなのにあかねちゃん一人が知ってるっていうのもあんまり良くない気もするんだ〜」

「あの子は独力で辿り着いたというから驚きよね。でもアイの言う事は一理あるわ」

 

グループ内で秘密を知るものと知らないものがいる。

それはあまり健全とは言えない。そうアイは考えていた。

 

「あとは、アクア達からは私の事とか言い出し辛いだろうし、キッカケもないだろうからね。私から言っちゃえば二人もしょうがないねで済ませてくれると思うんだ〜」

「……あなた、本当に母親になったわね」

 

自分はバレているからとニノに洗いざらい話しているし、ドームライブの頃にはきゅんぱんにも話している。

それなのに自分の子供たちには自制をさせているというのもおかしな話だとアイは思うのだ。

そんなアイにミヤコは優しい視線を向ける。この成長を感じる親としての感覚だった。

 

「それに……あと1年もしないうちに皆知ることだからね」

「そうねぇ……あぁ、今から胃が痛いわ」

 

ミヤコは遠い目をしながらも、自分の胃痛であの子達の幸せが買えるなら安いものよねと考えていた。

あの神の遣いから警告を受けた日からミヤコは本当に自分を磨いてきている。

これも芸能の神からあの子達に課せられた試練なのかもしれない、そうミヤコは思っていた。

 

 

そんな真剣な会話の最中。

B小町Rのメンバーは既にじゃんけんの構えをして準備していた。

 

「『今ガチ』の時のようにはいかないわよ……」

 

かなは今でも夢に見るじゃんけんの敗北。

アレのせいで自分が堂々とアクアといちゃつける免罪符を得る事を失敗したかなは、思いを自覚した後も亀のような進みで恋愛していた。

吉祥寺宅ではフリルやみなみもアクアに好意を持っている事も発覚し、焦りがピークに達しようとしている。

 

「重ちゃんはああいう後押しがないと告白できないからね」

「うっさいわね!そもそもアンタ達だって別に告白してないでしょ」

「うっ……かなさん結構痛いとこ指摘するなぁ」

 

フリルの言葉に対するかなの鋭いツッコミに流れ弾を喰らったみなみは少し落ち込む。

クラスが同じアドバンテージがあるとはいえ、このメンバーで一番付き合いの浅い自分はもっと行動しないといけないよなぁと思ってはいるのだ。

ただ勇気が出ないだけで。

 

「私はもういつ告白するか決めてるから心配しないでいいよ…」

「心配はして……え?いつ」

「えぇ!?フリルちゃんほっ本当に??」

 

二人ほどフリルの蒔いた種へと喰らい付き、こちらから意識をそちらへと誘導される。

 

「内緒、じゃんけん」

「あっちょっずる」

「待ちなさ」

 

その後、飛行機の中で

 

「もう……どうじでごんな~」

「……おにいちゃんの隣は私のはずなのに……宮崎旅行だよ?私とせんせは運命で結ばれた関係なのに……?」

 

このような事を言う二人の姿があったとかなんとか。

 

 

 

「……着いたな」

 

飛行機が宮崎へと到着してから移動し、高千穂の地に足を付けた瞬間、ほんの少しだけ郷愁を感じる。

とはいえ、それも僅かな時間の話だ。

あくまで雨宮吾郎として過ごした時間が、それをアクアに感じさせただけに過ぎない。

宮崎初上陸のメンバーが多く、皆ようこそ高千穂へと書かれた看板を見て喜んだり、周囲の景色を写真に収めたりと楽しそうだった。

そんな中、落ち着いた様子を見せる大人組。とりわけアイは余裕を感じられる表情を浮かべている。

 

「アイは慣れてそうだな」

「私は年に1回はここに来てるからね~」

 

アクアは予想外の言葉に少し困惑して頭の中を整理する。

 

(年に1回もここに来てるのか。そういえば宮崎に行ったら雨宮吾郎の墓参りしていると言っていたことがあったけど……それのためにわざわざ?)

 

アクアの認識ではたまたま宮崎に行った時に墓参りをしているくらいの感覚だったのだが、思いのほか雨宮吾郎は推しから気に掛けてもらえているらしい。

ただ当の本人はセカンドライフを満喫中であり、少しだけ申し訳ない気分になった。

今のアクアは直接何かを言う事もできない立場であり、アイが何を考えているか尋ねる事も難しい。

 

「あっ!アクアは私一人で旅行に来ていたのが羨ましいの?今度ルビーも合わせて三人で旅行行こっか」

 

いつものように真実を隠す笑みを浮かべるアイ。

アクアは自分に何かできる事はないかと頭を悩ませることになる。

こうして気になるところもある中でアクア達の宮崎旅行はスタートした。

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