【推しの子】ヤケクソハッピーハーレムルート   作:ただの暇神

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使命

旅館に到着して今は食事の時間まで2時間ほどの自由時間兼休憩時間。

各々が旅館の土産コーナーを見たり、風景を撮影したり、アイにアクルビ兄妹について尋ねたり、部屋でゆっくりしたりと各々自由に過ごしている。

 

「アクアさん見て!これ顔の形してるんやけど凄ない?」

 

アクアは目的があるため、旅館の外へ向かって歩いていると、たまたまお土産コーナーにいたみなみの目に留まったらしく声を掛けられた。

その手には菓子土産の箱が手に取られており、アクアはそれを見て適切な返事を選択する。

 

「天鈿女と手力雄の顔をモチーフにした菓子だな。見た目のインパクトが強いし、家族への土産にいいと思うぞ」

「ホンマによう調べとるね……でもアクアさんがおすすめするなら買おかな」

 

みなみはすぐに顔の正体を答えたアクアに驚かされる。

アクアとしては雨宮吾郎時代に大学の友人への土産として購入したりしていただけで、特段調べたわけではないが、わざわざ言う事でもなかった。

彼女はアクアの言葉を聞いてカゴに箱を入れる。

 

「他にもオススメのお土産あるん?」

「これと……あとは柑橘系大丈夫ならこれも食べたら崩れる感じで味もしっかりしていてうまい」

 

アクアはいくつか土産向きのお菓子を選び、みなみへと紹介する。

食べた事のある経験から来る情報もあるため、味や食感も詳しく、みなみはタメになるなと思うと同時に情報量の多さに驚かされる。

 

「なんかもう調べ過ぎて食べたことあるくらいの言い方になっとるんやけど……でも確かに良さそうやなこれ」

 

みなみの柔らかな雰囲気に当てられたのと魂のふるさと帰りが影響してか、アクアはつい自分視点で答えてしまう。

ただ幸いみなみは苦笑して流す程度で済ませてくれたため、アクアはほっと息を吐いた。

 

 

みなみが土産を購入後に部屋へ戻った後、アクアは旅館の外に出る。

少し周囲を見てみれば、背景の山などに合わせてポーズを決めた写真を撮影しようとしているかなとフリルの姿が目に入った。

フリルも移動しているアクアが目に入ったのかこちらへと近付いてくる。

 

「マリンちょうどいいところに。ちょっとでいいからカメラマンしてくれない?」

 

その言葉にアクアはスマホで時間を確認する。

アクアの目的地はそれなりに距離が離れてはいるのだが、みなみと過ごした時間もそこまで長くなかったため、目的地に行って旅館に帰る時間を考えてもまだ余裕があった。

 

「別に急ぎじゃないからいいが……って自撮り棒持ってるじゃねーか」

 

アクアはB小町RのメンバーはそれなりにSNS映え写真を撮るためのグッズを持っており、現在も彼女のスマホに取り付けられているのがアクアからでも確認できる。

それなら撮影係はいらないんじゃないかというアクアに対して、少しだけ困ったような表情を浮かべたフリルが言葉を返す。

 

「自撮り棒だと二人とも綺麗にポーズが決まらないから。重ちゃんと交互に写真を撮っていたんだけど、どうせならツーショット撮ろうって……重ちゃんが」

「へぇ、意外……でもないな」

 

かなは普段ツンツンしているが、本質的には人と仲良くしたいタイプだ。

自分から言い出したことには少し驚いたが、その辺りは素直になれるよう成長したということなのかもしれない。

 

「別にいいでしょ写真くらい!後で自分のSNSから旅行の思い出アップするのにメンバーとのツーショットはあった方がいいし」

 

焦ったように理由を話すせいでなんだか言い訳じみているなと思うアクアだが、二人の要望通りスマホを受け取り、カメラモードで構える。

二人は楽しそうに肩を寄せあって、それぞれライブなどで行う決めポーズの一つをして待機した。

映りのプロであるアイから色々と聞いているアクアは、撮影技術もかなりのものである。

二人がよく見える角度に調整してから二人へと向き直った。

 

「はいチーズ」

「……ぶふっ笑わせないでよ。その癖抜けないわねアンタも」

「仕方がないだろ。……癖みたいなもんだ」

 

何とか写真が撮り終わるまでは笑わずに済んだが、撮影終了後に思わず噴き出したかなの言葉にアクアは嫌そうに言う。

アクアからすれば誰も『はいチーズ』と言わない今の方が不思議なくらいだから複雑ではあるものの変えるつもりもない。

 

「納得いかなさそうなマリンに良い事教えてあげる。今のマリンが公の場でやったら流行して古くなくなるよ」

 

悪魔の誘惑と言うべき言葉をフリルが投げかける。

今のアクアは超がつくほどの有名人だ。そんな人物がテレビなどで『はいチーズ』なんでやろうものならネタにもされるだろうが、それなりのバズも期待できた。

 

「……ありか?」

「確かにアンタの影響力考えたら若い子中心にやばいくらい流行りそうだけどやめなさい!」

 

フリルからの提案を聞いて本気で考えるような素振りを見せるアクアを見て、影響力をそんなところで使うなと念のため深く釘を刺すかなだった。

 

 

 

それから更にいくつか写真を撮る協力をした後にフリルにスマホを返したアクアは、二人が写真を確認している間にそっと抜け出して、懐かしい道を歩いていた。

この旅館に泊まった事自体はないが、比較的家が近所だったため、道筋などは記憶にしっかりと残っている。

 

「……この辺変わってないな。もう17年近くも前なのに」

 

少し日も暮れ始めた時間帯ではあるものの、視界は良好。

見覚えのある道を歩いているのだが、そこまで大きな変化は見られない。

この地に来た時から感じている郷愁に従って行動してみたものの、アクア自身何がしたいのかよくわかっていなかった。

少しずつ目的地が近づくにつれて、妙な寂しさを覚えるアクア。

そもそも周りが町から山へと変わっていく過程自体も物寂しかったが、それだけではない。

 

(このくらいの静かさには慣れているつもりだったんだけどな……転生してからは毎日が賑やかなことが多かったからか?)

 

アクアとして生きている17年は同じ秘密を抱える妹、最推しにして愛する母、共に切磋琢磨する友人。

人間関係に恵まれているとアクアは改めて感じさせられる。

 

(この寂しさは吾郎の残滓なのかもしれないな)

 

そんな事を考えたりしているうちに、いつの間にか目的の場所へと辿り着くアクア。

木々に囲まれた山の中にある何の変哲もない一軒の木造家屋。

雨宮吾郎が大学時期を除いて過ごしていた家がそこにはあった。

 

無事に残っている家を見て一安心をしたアクアは、冷静にその外観を見るなり違和感を覚える。

 

「なんか思っていたより綺麗だな……もしかして売りに出された後に誰かが買ったのか?」

 

雨宮吾郎は育てた祖母にも嫌われていた祖父にも先立たれている。

彼らの一人娘である母は吾郎の出産と共になくなっており、遺産の相続相手がいない。

一般に誰も相続しない場合は換金されて国庫へと返納されるため、売りに出される事となっている。

恐らくこの家は誰かが売りに出された後に購入して保有しているのだろう。

最悪の場合は売り出された先で撤去されている可能性すら考えていたが、医者としてそれなり以上に忙しい吾郎が管理していた頃より綺麗ですらあった。

 

「表札も雨宮のままか、どうなってるんだ?」

 

綺麗に保持はされてあるものの、誰かが普段から住んでいるという感じではなく、使われている感じもあまりないのは不思議だった。

表札など普通売りに出された時点で外されているものだろうが、アクアの知っている当時のものがそのまま付けられている。

まるでこの状態で残すためだけにこの家を手に入れた酔狂な人物でもいるかのような状態と言えるだろう。

 

「まぁ大事にされているならいいのか……星野アクアとしては関係のない物だしな」

 

アクアから見ても色々と気になる点はあるものの、生家がどうなったかが知りたいという目的は無事達成できた。

鍵の隠し場所は確認していないが、流石に今の知名度があるアクアがそれをやるほどのメリットも見出せない。

これで前世への一つのけじめがついたと、自分を納得させ、アクアは旅館へと戻るため踵を返す。

 

「やぁお兄さん。どうしたの?珍しく一人だけど」

 

その時、澄んだ声がアクアの耳に届いた。思わず聞き入ってしまう声にアクアの足はピタリと縫い付けられたように止まる。

その声に呼応するようにバサバサと妙に多いと感じていたカラスが羽ばたき、鳴き声を響かせた。

もしかしたら声の主は今の家主かもしれないと思いながら聞こえてきたアクアは周囲を探すも人っ子一人見当たらない。

 

「……気のせいか?」

「気のせいじゃないよ、こっちこっち」

 

アクアは自分の空耳と判断して再び旅館へ向けて動かそうとした時、またもや同じ声が聞こえてくる。

今度はどちらから声が聞こえてきたかアクアは正確に把握し、そちらへと視線を向けた。

雨宮家の庭に植えられている木。

それなりに高い位置の枝で腰掛けている一人の少女。

 

「あっお兄さんやっと気付いてくれたんだね」

 

年は恐らく小学生くらいだろう。少なくともアクアと面識はない。

同じ年頃の時のB小町Rメンバーと比較しても勝るとも劣らないほどに整った容姿は一度見たら忘れられないだろう。

黒い服がよく似合う彼女はどこか神秘的で、天然だろう銀色の髪がその存在感をより強めていた。

黙ってアクアが少女を見ていればくすくすと笑顔を見せる。

 

「ふふっどうしたの?想像してもいなかったものがいたみたいな顔しちゃって」

 

随分と楽しそうな少女は、おそらく機嫌がいいのだろうとアクアは考えた。

ただアクアとしては何のためにこの少女がアクアへと声を掛けてきたか、その部分が予想もつかず困惑する。

可能性としては何かアクアに用があるか、少女がアクアのファンであり、注目されたかったかのどちらかだろうと当たりを付ける。

 

「君どうしたんだ?もしかして木に登って降りられなくなったのか」

 

まだ幼い相手なので、アクアは努めて優しい声を少女へと掛ける。

もし用があるとすれば、漫画のような状況ではあるが、木に登ったはいいものの降りられなくなったというのが可能性として高いと思い、アクアなりに考えて選択をしたつもりだ。

だが、少女はむしろニマニマとしたいたずらな笑みを消し、青筋を立てている苛立ちの表情へと変化させる。

 

「……君、不敬なことを言うね。このくらい訳ないよ」

(この子、もしかして結構短気だな?)

 

刺々しい声色で冷たく言い切った少女は姿勢を整えると、決して降りられなくなった訳ではないと言いたげに一人で木の枝から飛び降りて問題なく着地する。

その姿はまだ一桁の少女とは思えない軽やかなもので高い運動能力を垣間見た気がした。

 

「じゃあどうして俺に声を掛けたんだ?」

 

結局疑問はそこになる。

アクアから見た時、この少女はアクアに興味はありそうだが、ファンという感じでもない。

用事も特段ないのであれば、一体何を考えているのかと不思議に思うことになる。

そんなアクアの言葉に再び不敵な笑みを浮かべた少女は楽しそうにアクアへ返事をする。

 

「君が普段から沢山女の子を連れているのに、今日だけ独りぼっちで歩いていたから……つい、ね?」

 

アクアは少女の言葉に目を見開いた。

彼女はこう言っているのだ。普段のアクアをよく知っているぞと。

実際には一人で行動する事も少なくないアクアだが、イメージで語ったにしては妙に確信を持った言い方をしている。

思い返せば最初の言葉もアクアが複数人でいる事が多い事を知っているような台詞だと気が付いて警戒心を強める。

 

「何者だよ……俺のストーカーとか?」

 

アクアは自分でこれはないなと思いつつも、候補の一つを口にする。

世間的に見た時、アクアは今ブレイク中の若手俳優だ。

顔立ちも整っており、老若男女問わずに人気が高いと言われている。

ただいくらなんでも若すぎるからとアクア本人も冗談めかして言っており、すぐに否定されると思ったのだが、少女は少し悩んだ表情をしてから返事をした。

 

「うーん、当たらずとも遠からず……といったところかな」

「いや、そこは否定しろよ。俺も返事に困るだろ」

 

掴みどころのない感じはB小町Rで言えばフリルに少しだけ似ている。

そのおかげもあってか妙な緊張も少しずつほぐれてきており、アクアも作ったような話し方ではなく、砕けたような喋り方に変わりつつあった。

 

「私は……そうだね、ツクヨミとでも呼んでくれないかな」

「……その名前は少し罰当たりじゃないか?」

 

ツクヨミ。

その名前が広く知られているのは日本神話に記された神の一柱から取られた名前だろう。

月や夜、それに合わせて農業や時間を司ると呼ばれている神様として知られている。

 

「さぁ……もしかしたら本物、なんてこともあるかもしれないよ」

 

その言葉は調子に乗って子供が言っているだけのようにも、本気で言っているようにも感じられ、アクアはどう判断していいか戸惑っていた。

様子見がてらに会話を慎重に進めていく。

 

「だとしたら自称神様は俺に何の用があるんだ?」

 

結局答えられていない質問を尋ねると今度は笑顔を収めて真顔になる。

それだけで空気が締まるような感覚をアクアは感じた。

 

「君たちは生まれた意味というものを考えたことがあるかな?」

「生まれた意味……」

「何故前世の記憶なんてものを持って生まれたんだろうって」

 

妙に芝居がかっているのはわざとなのか、趣味なのか、それとも演技はしていなくともこうなるのか。

ただ少なくともアクアの前世を理解しているかのような言葉に、彼女がごく普通の一般庶民ではないと確信する。

 

「人にはね、使命ってものがあると言ったら君は信じるかな」

「使命?」

 

やたら仰々しい言葉が出てきてアクアはその言葉の意味を考える。

一般的に考えるならば生きている間にやらないといけない事が何かあるという事だろう。

 

「人によって使命は違う。どうして星野アクアが星野アイの下で生まれ、星野ルビーと兄妹になり、何故前世の記憶があるのか。それは君だけの使命が関係しているのかも……?」

 

匂わせですらない、明確にアクア達の正体を知っているという宣言に等しい言葉。

まだアイにすら言ったことのない情報を握っている相手がいるという事実。

その真実だけでアクアは冷静な思考を一瞬で奪われた。

 

「やっぱり知っているのか……そもそも僕とさりなちゃんはどうして記憶を持って転生した!何か使命とやらと関係があるのか!?」

「落ち着きなよ、使命は自分で見つけるものだ。私が教えられる物じゃない」

 

自分たちの今後の人生に何があるのかと詰め寄るアクアに対して、教えることなどないと言いたげなツクヨミ。

アクアは相手の意思が硬いのだろうと聞き出す事を諦める。

いくら超常の存在だという匂わせがあろうが、相手の容姿は幼児のそれだ。

あまり強く言い続けるのも精神的に難しい。

アクアは淡々としたツクヨミの言葉に冷静さを取り戻していく。

 

「悪かった突然詰め寄って。今の幸せが何か脅かされるかと思うとなんというか不安になった」

 

アクアは自分が冷静じゃなかった事を口にして謝罪する。

実際には冷静さを失う様な事を意図的に言ったツクヨミのマッチポンプだが彼女はそんな事噯にも出さない。

そんなアクアの謝罪の言葉に、ツクヨミは今までとは異なる慈愛に満ちた視線をアクアに向ける。

何がそんなに嬉しいのか急に上機嫌になって、アクアへアドバイスの様なものを口にした。

 

「君には君の、あの子にはあの子の使命があるものさ。君は自分の日常を振り返ってよーく考えてみるんだね。前の人生とは違うものが何か鍵になるかもしれないよ」

 

最後にそれだけ言ってツクヨミはゆっくりと雨宮家から去っていく。

アクアはそんな彼女に対して不思議と呼び止める事ができず、姿を完全に見失うまで立ち尽くして見送る事しか出来なかった。

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