宮崎旅行2日目。
この日は昨日回れなかった高千穂の観光スポットを順に回っていた。
最終日は仕事関連の話も終わる予定らしいMEMちょとゆらも一緒に行動して宮崎全域の観光という流れになっている。
だからこの日で高千穂観光は終わらせようと意気込んでの行動だった。
流石に二日目ともなると苺プロのメンバーが高千穂で旅行しているという情報がSNSにも広がっている。
そのためか観光地に行くたびに周囲の視線がいつもより感じられた。
ただファンのマナーがいいのか、稀に応援していますなど声を掛けられるだけで、あまり大騒ぎにはなっていない。
高千穂巡りも終盤、高千穂神社での参拝が終わった一行は神社境内を見て回っていた。
有名な神社だけあって人通りもそれなりに多く、アクア達も気付かれていない訳ではないようだが、ある種の善意によって観光を楽しむことができている。
「見て見てアクア~、この杉根本から2本に分かれてる!」
「あれは夫婦杉だな。夫婦や恋人、友人と手を繋いで三周回れば良縁成就、家内安全、子孫繁栄の効果があるなんて言われてる」
アイが笑顔で杉を指差し、アクアが軽く説明をする。
「へーいいね!アクア、一緒に回ろうよ」
「アイ……話聞いてたか?俺とアイは友人でも恋人でもましてや夫婦でもないだろ」
「え~アクアのけち~!」
(皆に親子バレしてちょっと欲張りになっちゃってるなぁ……我慢しないと)
アイの言葉をすげなく断るアクア。
ただ彼女自身もそれなりに注目はされている状態でそんな事をすれば週刊誌にあることない事書かれる事くらいは想像がつく。
そのためあまり強くは追及しなかった。
「おにいちゃん、私と回ろうよ!」
そんなアイに便乗するように行動したのはルビーだ。
彼女は残り1年でアクアを完全に攻略しないといけない。
転生なんて奇跡がある以上は神様だって存在するだろうと考えている彼女には、神頼みという選択肢は現実的な物として存在していた。
「待ちなさい、ルビー。アンタはアイさんと同じで友人でも恋人でも夫婦でもないでしょうが」
そんなルビーにかなが待ったを掛ける。
アイの場合は誤解を回避するという意味も兼ねているが、ルビーなんて公式妹である。
当然このご利益には関係ないと一般的な感性を持っていれば考えるだろう。
「大丈夫だよ、かな先輩。私とおにいちゃんは運命で繋がっている存在だからね。一説には双子って前世で結ばれなかった恋人だって言われてるくらいだよ?言うなれば生まれついて戸籍も同じ魂の夫婦みたいなもの!私がおにいちゃんと夫婦杉を回るのは必然だよね」
ただルビーはだからどうしたと言いたげに自分の言葉でかなに説明をする。
先輩の方が間違っているんだよ?と言いたげな真っすぐな瞳。
ただかなは流石に誤魔化されはしなかった。
「何言ってんの!?なんか去年くらいから更にブラコン拗らせ過ぎじゃない!?」
「そうかな?私がおにいちゃん好きなのなんて産まれてからずっとだと思うんだけど」
実際には前世を知ってからだが、誰にもバレないので少しだけ盛って報告するルビー。
その言葉にかなは確かにと納得させられる。
「……よく考えたら昔は事実婚とか一代なら子供も大丈夫とか言ってたからむしろ落ち着いたのかしら?いやよく考えたらインモラル過ぎるでしょ自重しなさいよ」
それ以前からブレーキが掛かっていなかった状態だったが、今はアクセル全開のルビー。
昔のルビーの発言を思い返してみれば、当時からただのブラコンとは言い難い重度のブラコンだったことを思い出し、かなは心底呆れた視線を向ける。
それに対してみなみは衝撃を受けて思わず聞き返した。
「え?ルビーちゃんそんな事言うてたん!?それいつ頃の話?」
「確か小学1年生とかじゃなかったかしら。あの頃からルビーはキモイくらいブラコン拗らせてるのよね」
かなは昔を懐かしみながらみなみの疑問に答える。
まだみなみと知り合う前なので知らないのも無理はない。
かなとしても小学2年生の時の記憶であり、普通ならば曖昧になるところだが、言葉のインパクトが強すぎて記憶に焼き付いていた。
散々な言われようだが、自信満々にルビーは自分の意見を口にする。
「一途でしょ~初志貫徹って奴だよね。今は大人になって現実が見えてるから安心してよ」
「そうなん?なんかルビーちゃん見てると今でもおにいちゃんラブって感じに見えるんやけど」
ルビーの背徳感は何もかなだけが感じている物ではない。
みなみから見ても不安になるくらいには、アクアの事が好きなルビーにとても現実を見ているとは思えなかった。
その自信はどこから来ているのだろうかと友人として心配そうなみなみに、心配いらないよと言い聞かせるようにルビーは笑顔で返事をする。
「無知だった子供の頃と違って一世代でも兄妹間の子供は先天的病気のリスクが流石に軽視できないって分かったから、子供は無理だよねって納得してるんだ~。今の時代なら事実婚だけして養子って選択肢もあるから大丈夫だよね」
「あっ、その辺りはちゃんとして……あれ?これやと事実婚狙いは変わってないんじゃ」
「今の台詞のどこに安心できる要素があるのよこのバカ」
暴走するルビーに惑わされるかなとみなみ。
二人に困惑と呆れの表情を見てもルビーは全くブレる事はなかった。
そしてその会話には入らないものの、あかねとフリルの二人はその会話を聞きながら雑談をしている。
全く突っ込む気がないのは元からルビーはこうだと認識してるからこそだろう。
「さっきの事実婚の話は私も初耳だった」
「あー、あの時はまだフリルちゃんが苺プロに入る前のお話だからね……。ルビーちゃんはずっとあの調子だから」
「それは知ってる。美男美女双子カプのいちゃつきは本当に健康にいい」
二人ともどうせアクアはルビーに頼まれたら断れないし、その後なし崩しで一緒に杉を回ってもらおうと思っていた。
「それにしても前世かぁ……ロマンチックだよねそういうの」
「あかねはそういうの結構好きなの?」
初日にアクアへオカルト興味ある?と聞いていたのを知っているフリルは、あかね自身がそういった現象に興味があるのではないかと推測していた。
そんなフリルの問いかけに対してあかねは肯定を返す。
「うん。前世では叶えられなかった目標を来世で叶えるって凄い感動的だなぁって」
「なるほど、乱歩の時も志保役気合入っていたもんね」
「前世では道半ばで命を失ってしまった両片思いの二人が生まれ変わって再会ってドラマチックだもん。気合だって入るよ」
何気ない会話のはずなのにツクヨミの事があったからか、前世という言葉が聞こえるたびにアクアは冷や汗が流れていた。
特にあかねが話しているというのが、いつか気付かれそうというドキドキ感をアクアへと与えている。
ただ幸いこの瞬間に気が付かれるような事はなかったらしい。
「というわけで、おにいちゃんのエスコートは私がしまーす」
「勝手にも程があるだろ……分かったからその目やめろ」
「……妹と夫婦になりたいんだこのシスコン」
「そこまでは言ってないだろ。回るだけなら特に問題ないと思っただけだ」
あかねとフリルが予想した通り、ルビーにあっさり押し切られたアクアは大人しく杉の周りを3周回る。
特に変わった感じはないなと当たり前のように考えるアクアは、神秘の実在性を感じているからだろう。
そこからは怒涛の勢いだった。
「アクアくん。私もいいかな」
「は?あかねまで何を」
「ごめんね……『今ガチ』の件もあったし、ここで攻める方が幼馴染な黒川あかねのキャラだから付き合ってほしいなって」
「……分かった、アレは俺にも責任があるしな」
あかねには言葉巧みに誘導され、
「次は私だよマリン」
「フリル……お前なし崩しになるの狙ってただろ」
「あ、バレた?その方が時間が掛からないんだから大人しく回ってね」
「はいはい」
フリルは予定通りにアクアを押し切って、
「ウチもお願いしてもええ?」
「お前ら隠す気あるか?」
「あるように見える?どうせアクアさんスルーするんやしええやん」
「……強いな」
みなみが意外と強かに便乗し、
「うぅ……私だけなんでこんな」
「あー……かな、一緒に回ってくれないか」
「ぐすっ……行く!」
「……はぁ」
一人だけ自分から誘えずにマジ泣きし始めていたかなにアクアから声を掛ける。
こうして結局5人と連続して杉を計15周も回ることになったアクアだった。
「わ~ここが荒立神社か~しっかりドームライブの事お願いしないと!」
真っ先に鳥居をくぐってから振り返るようにルビーは言う。
芸能の神である天鈿女命が祀られているだけあってやはり芸能関係者が他の場所よりも多いのか、顔立ちの整った人が先程までより気持ち多い。
そんな中でもルビーは一際輝いている辺り、その圧倒的な顔の良さは世界レベルと言っても差し支えないだろう。
「ちょっとは落ち着きなさい。……にしてもさっきまでと比べたら面白いくらい注目されてるわね。明日は高千穂じゃないからまだマシでしょうけど」
「そらあんな動画をSNSで出したらそうもなるやろ……ウチも乗ったから同罪やけど」
最終目的地である荒立神社。
ここに来てからのアクア達は先程までとは比較にならない注目を集めていた。
好奇の目に晒されているという言葉がこれほど適している状況もないだろう。
「マリンなんだか疲れた顔してない?愛瑠ちゃん重いなら代わるよ?」
「にい……めるおもい?」
他のメンバーの元気さに反比例するように元気がなくなっているアクアに対して、フリルが心配そうな声色で声を掛ける。
愛瑠は起きてはいるものの、完全に歩き疲れており、途中からアクアが背負って連れていた。
フリルの言葉は傍から見ればアクアを慮った気遣いの言葉だが、付き合いの長いアクアは、その言葉に揶揄いが混じっているとすぐに見抜いており、白い目を向けながら言葉を返す。
「愛瑠は軽いし全然平気だから気にしなくていい。……というかフリル、お前らのせいだろ。俺を気遣うのはマッチポンプじゃねーか」
アクアは愛瑠を背負ったまま器用にポケットからスマホを取り出すと、Twitterのアプリを開き、『星野アクア』と入力する。
この手のSNSにはサジェスト機能があり、直近で良く検索されている内容が自動で表示されるようになっていた。
そして今のサジェストにはこのような言葉が並んでいる。
『星野アクア 五股』
『星野アクア 隠し子』
『星野アクア 正妻』
『星野アクア B小町R』
その内容はどれもアクアの視点から見るとろくでもない事が書かれているだろうことは容易く想像できるものだ。
それだけでなく、アクアは表示していないが、現在Twitterのトレンドはこのようになっている。
1.星野アクア
2.B小町R
3.魂の夫婦
4.スケコマシ
5.10秒で泣ける
6.杉回りの刑
アクア本人もトレンド1位となっている他、トレンド上位には全体的に関連しそうな怪しい内容が固まっていた。
先程の杉の周辺を回る一部始終がフリルによって撮影されており、B小町R公式Twitterへとアップされた事によって面白おかしく拡散されるいわゆる祭りと呼ばれる状態に陥っている。
そしてさりげなく映っている愛瑠が良いアクセントとなり、実はアクアの隠し子なのではないかなんて話題も出ている辺り末期感があった。
「ほらほらアクア、いつまでも拗ねてないで順番が来たよ~お祈りしよ」
「別に拗ねてなんかない」
その言葉に正面へと向き直ると確かにアイの言葉通りアクア達の順番が回ってきていた。
アクアを中心として横に広がった苺プロのメンバー。
空気を読んでいるのかアクア達以外は大人しく後ろで待っている。
多くの視線が集まっているが、祈る内容は変わらない。
((((((((ドームライブが成功しますように))))))))
天へと思いが届くように、皆がありったけの感情を込めて祈る。
出来る事はすべてやってきた。後はライブ本番、自分達の出せる全力を出すだけだ。
参拝も終わり、この日予定されていた場所はすべて回り終わった。
車に戻ってきた一行は少しリラックスをして体を休めている。
「皆どこか行っておきたい場所はあるかしら。特に行きたい場所がもうなかったら旅館に戻ろうと思うのだけど」
ミヤコが車に乗ったメンバーへ問いかけると、珍しい人物から要望が出される事になった。
「ごめんミヤコさん、旅館に行く前にちょっと寄りたい場所があるんだけど……いいかな」
「あら?アイが言うなんて意外ね。私はいいわよ?」
ミヤコからすれば提案をした人物こそ意外ではあったものの、まだ時間的にゆとりもあるので問題は特にない。
ミヤコの賛成を聞いて、念の為アイは皆の意見を確認する。
「みんなもいいかな?」
「勿論!」
ルビーの元気のいい声だけでなく、全員が頷く。
それを見てアイは笑顔になった。自分はこれほど多くの人に囲まれている。
寂しく愛を得られない女の子はもういない。
「それでどこに行くの?」
「えっとね……お墓参り。ちょっと皆にもお祈りして欲しいなって思ってさ~」
「「「え!?」」」
予想外の答えを聞いてその場にいた全員が驚きの声を上げた。
その中で真っ先にかなが復帰してアイへと質問をする。
この辺りは年齢=芸歴なだけはある対応力だと言っていいだろう。
「アイさんってこっちの出身なんですか?先祖のお墓があるとか」
あまり他に墓参りをするという理由が浮かばなかったが故の質問だが、それをアイは首を振りながら否定する。
そしてアイはその人物がどんな人かを口にした。
「違うよ。私のファンがこの地に眠ってるの。ちょっと縁がある人でね、宮崎に来たらお墓参りするようにしてるんだ〜」
「推しに墓参りされるファンって凄ない?」
「アイさんにお墓参りされるなんて余程印象に残ってるんだろうね……何者なんだろう」
(……もしかするのか?)
アイの返事を聞いて、みなみとフリルはこれから行く墓の主は一体どんな人物だったんだろうと想像を膨らませる。
アクアはアイの返事に可能性が高い人間を一人思い浮かべていた。
こうして一行は予定外の墓参りへ赴くことになる。
アイの指示に従って移動した先は何の変哲もない墓地。
アイはここに着くまでにあまり情報を出さなかったため、一部のメンバーは普通の墓地である事に驚いている様だ。
そんな中、アクアは冷静に周囲を見て納得していた。
(やっぱりここか……自分の墓参りをした事がある人間なんて世界広いと言えども珍しいだろうな)
約17年ぶりに訪れた場所を見て、アクアは懐かしさと気まずさが同居した不思議な気持ちを味わっている。
アイの誘導に従って歩いていくとすぐに目標の墓へと着いた。
墓石には『雨宮家之墓』と文字が彫られており、周りとそこまで規模も変わった様子はない。
その名を見た瞬間、ルビーは息を呑んだ。
(本来僕はここに納められる資格なんてなかったのに……誰も管理していないから許されたような物だな)
この墓地には遺体が発見された後の雨宮吾郎だけでなく、祖父母や母も眠っている。
まともな血縁関係者など残されていなかったからこそ、このような対応になったのだろう。
仮に祖父が生きていたら、吾郎はこの墓に入ることはなかったに違いないと、アクアは前世の祖父に申し訳ない気持ちになっていた。
「雨宮?アイ関連のニュースのどっかで見たことある名前なのよね……何処だったかしら」
かなは当時東京ドームでのアイ襲撃事件で当事者だったため、テレビで見た内容もかなり頭に残っていた。
だからこそ、その被害者である雨宮の名前に引っ掛かりを感じたのだろう。
「雨宮吾郎……確かアイさんの事件の犯人が殺してしまったお医者さん……でしたよね」
「あっ……」
あかねが口にした言葉によってかなは思い出す。
確かにニュースでその様な情報をやっていたなと。
何人かが気付いたのを見てアイはそれを肯定した。
「そう、ここに眠ってる人、センセはね……私がお世話になった産婦人科医の先生なんだ」
先日アイからアクアとルビーが実子であるという衝撃の真実を伝えられていたB小町Rのメンバー達。
まさか例の事件に関係する被害者が、その出産に関わっていたというのは意外な事実だった。
勘のいいフリルは、もしかするとその妊娠自体が事件の引き金になったのかなと頭で思い浮かべるも何も口にはしない。
「私も妊娠して病院にかかった時はどうなるかな〜って不安だったんだ。でもセンセは『僕が産ませる。安全に元気な子供を』って言ってくれて色々サポートしてくれたの」
「お医者さんなら普通じゃないん?」
「私が妊娠した時16歳のアイドルだよ?遠回しに中絶を勧められたっておかしくないかな」
それに……とアイは言葉を続ける。
「センセは私には隠してたけど、B小町の……というか私のファンだったみたいなんだよね。それでも私の妊娠を認めてくれて、全力を尽くしてくれたんだ」
「え?凄い人ですね……見てみなさいよアクア。アンタいつも推しに男が付くなんてありえないとか言うけどやっぱ推す人は推すのよね~ファンの鑑みたいな人よ?見習いなさい」
「そんな一部の例外持ち出すなよ、そいつがおかしいんだ」
それ俺なんだよとは間違っても言えないアクアは複雑そうな表情をして受け流す。
「だからきっと私達の後継者として頑張っている皆の事も応援してくれていると思うの。皆にお参りをお願いしたのもきっと喜んでくれると思って連れてきちゃった」
「そういう事なら是非」
そう言って全員で雨宮家の墓へと祈りを捧げる。
そしてアクアだけは自分ではなく、祖父母へずっとほったらかしにしてしまった事についての謝罪を心で告げた。
1分程度の祈りも終わって、皆帰るために車へと向かう。
ただアイが動かずにその場に立っているのを見て、アクアが声を掛けた。
「アイ、大丈夫か?」
「アクア……うん、大丈夫。ちょっと不安になっただけだよ」
「不安か……どうしたんだ?」
母の少しいつもと違う感じを見てアクアは尋ねる。
少し悩んだ様子を見せたアイだが、息子達にはあまり話すことで嘘は付きたくないと少し考えてから口を開いた。
「私はセンセに結構助けられて恩を感じてるからお墓参りに来てる。でもセンセからしたら迷惑なのかなって時々不安になるんだ」
他の皆から完全に距離が離れているからこそ、アイは小さく口にする。
アイにとってアクアは大切な息子であると同時に、妙に色々相談したくなるというか頼りたくなる存在だったために内心を説明する。
「センセが死んじゃったのは私のせいだな〜って思っててさ、実は私のせいで死んだってむしろ恨まれてるんじゃないかなって」
不安そうなその姿はもう立派な大人だというのに、あの頃から変わらない少女の様に見えてアクアは思わず口を開いた。
「それは違う」
その強い言葉にアイはぴくりと体を震わせる。
星野アクアは、雨宮吾郎は本当の星野アイが普通の女の子だともう知っているから少しでもその不安を取り除きたいと思ったのだ。
とはいえ吾郎として答えるわけにもいかないアクアはしまったと思いながら続きの言葉を考える。
「あー、あくまで多分だけど……雨宮吾郎はアイの事を恨んでなんかいない」
「アクア?……どうしてそう思うの」
雨宮吾郎は確かに恨みなどしていない。それどころか殺された事に感謝をしていたのだ。
他ならぬアクアだけは知っている。だからこそアクアだけがアイの不安を取り除いてやることができる。
「その人はアイのファンなんだろ?だったら推しの幸せを願うのがファンだ。結果的に巻き込まれて死んだのかもしれない、でも少なくとも"アイの出産を最後まで助けられなかった"事を悔いる事はあってもアイを恨むなんてありえない」
「……あれ?……本当に?」
どこかアクアへと探る様な視線を向けるアイ、少し暗くなっているからかその表情全てをはっきりと見ることができなくなっている。
「同じファンとして僕がそう思っただけだけどね」
「そっか!ありがとアクア!なんか元気出てきたよ」
なんとかアクアに元気をもらったと言ってアイは車の方へと歩き始める。
アクアは急に元気になったなと思いながらその後を追った。
「そっか〜そんな事ってあるんだ。……ずーっと私に何か隠してるなぁと思ってたけど。……ありがとねセンセ、私をいつも助けてくれて……生まれてきてくれてありがとアクア」
誰にも聞こえないくらいに小さな声でアイは小さく口にする。
その表情は先程までとは違い明るいものだった。