【推しの子】ヤケクソハッピーハーレムルート   作:ただの暇神

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返事

アイに前世を特定されたアクアは、その後も二人で話をしていた。

とはいえ転生してからは殆ど同じ時間を過ごしただけあって、話す内容自体に目新しさがあったわけではないのだが、違う視点があると分かれば変わってくるものもある。

 

「転生かぁ……神様ってやっぱりいるんだろうね」

「どうだろうな……この旅行中に俺の正体を知っていそうな胡散臭い子供なら見かけたけど」

 

アクアはこの旅行で出会った怪しげな幼女を思い出す。

転生について知っていた彼女が、もしかするとアクア達を転生させた何者かという可能性もあると今更ながらに気が付いた。

アクアが知らないだけで魂をどうにかできる技術なんてものが存在するのであれば、神はいなくても現状は成立するのだから。

ただアイはやけに確信を持っているらしく、にこやかに言葉を続ける。

 

「うーん、でも神様はいると思うなぁ。アクアとルビーを生まれ変わっても巡り合わせたんだもん。アクア達の事が大好きなんじゃないかな?」

 

アイは実のところアクアにも言っていないが、神様のような何かにあった事があった。

あの事件の後、眠っているアイに夢という形で干渉してきた存在。

彼女はアクアとルビーに興味があり、アイに関わったのは二人の母だからというだけだったようにアイからは見えた。

アレがただの夢だとはアイも思っておらず、アクアとルビーに前世の記憶があるなんて話を素直に受け入れる事が出来たのもこの神様らしき何かのおかげという面もあったりする。

 

「……というか一体ルビーは何を話したんだ?まるでアイがルビーの前世も知ってるみたいな話し方だけど面識ないだろ」

 

ルビーの前世、さりなは一度もアイのライブを見る事ができなかった少女だ。当然アイと面識などあるはずがない。

だがアイの話す内容からはアクアとルビーの前世に因縁がある事を知っているのが垣間見えており、アクアは嫌な予感を感じながら確認のために問いかける。

それに対してアイは嬉しそうにしながら聞いた話の概要をアクアへと説明した。

 

「あくまでルビーは夢って言い張ってたけど、多分前世の話をさっきしてたよ?病弱な女の子の恋物語でロマンチックだったなぁ。あと前世も私のファンで元気を貰えたって言ってもらえたのは、どんなファンレターよりも嬉しかった!」

「……そうか。多分ルビーは母さんにお礼が言いたいってずっと思ってたんだろうな」

 

そんな如何にも怪しいばらし方するなよと思う反面、アクアはその言葉に心が温かくなる。

結局一度もアイに会う事が出来なかった彼女にとって、今回の話は前世の感謝を間接的にも伝える千載一遇のチャンスだったのだろう。

 

(良かったね、さりなちゃん)

 

色々と言いたい事もあるが、ルビーが幸せならそれでいい。

この辺りは前世から変わらないアクアだった。

 

「ちなみにアクアはこの先ずっと前世のことを私とルビー以外に隠して生きていくの?」

 

話は移り変わり、転生についてどう扱うかの話になり、アイは心配そうな声色でアクアに尋ねた。

逆にアクアとしては何でその質問をしたのかわからないくらいに答えは決まっていた。

 

「それはそうだろ。こんな荒唐無稽な話を信じてくれる奴なんて殆どいないだろうし、言うメリットも薄い。もし聞かれたら素直に答えると思うけどな」

 

実際これまでも前世を知られていなくても困ってこなかったのだから、今後も大丈夫だろうという考えがアクアにはあった。

ただその答えにアイは不満そうなのが、アクアから見ても分かるくらいに顔に出ていた。

 

「うーん……でもアクアがこの先B小町Rの皆と結婚した時に、前世があるってお話ができないのはちょっと悲しいよ?」

「げほっげほっ……ふぅ、別に結婚するような相手だからって前世なんて話する必要なくないか。それに、なんでアイツらとそういう関係になる前提なんだよ。しかも複数形」

 

唐突に投げ込まれた変化球にアクアは思わずむせ返る。

何とか気を落ち着かせてからアイに問い返した。

 

「だって皆アクアのことが好きだし、アクアも皆の事好きだよね?」

「……ノーコメントで」

「結局なぁなぁで過ごすのも一緒だと思うけどな〜」

 

アイの言葉に反論できなかったアクアは回答しない選択をするが、アイは中途半端な選択をするアクアにジトっとした目を向ける。

その視線は普段アクアが向けられる事のないモノで、心の中の雨宮吾郎が『アイちょ〜かわいい』と年甲斐もなく興奮してしまうが、そんな心のアラサーをアクアは信念で押し返す。

アクアのそんな内心を知らないアイは言葉を続けた。

 

「ねぇアクア、私がどうして双子が欲しかったかって覚えてる?」

「……どうしたんだよ突然話を変えて。覚えてるよ、賑やかで楽しい家族が欲しかったからだろ」

 

このアイの発言はどういう意図で投げられたものなのだろうかとアクアは頭で分析をしながらも当時の言葉を思い出して返事をする。

アイには家族がいなかったからこそ、双子だと分かって喜んでいたのをよく記憶に残していた。

あのアイの表情を見て、吾郎は彼女の願いを優先すると決めたのだから。

 

「だからアクアがお嫁さんを沢山貰ったらもっと賑やかで楽しい家族になるよね!」

 

あの夜のようににっこりと笑うアイ。

その言葉は誰かの代弁をしているかのようで、アクアは少し都合の良い考えにドキリとしてしまう。

 

「社会的に死んじゃうから勘弁して……」

「もう、アクアの意気地なし〜!皆がアクアのこと好きなの分かっていて有耶無耶にしてるし……」

「……そうだな、つい今の心地いい関係に甘えている。皆は若くて未来がある。本当は早く答えを出さないといけないのにな」

 

アイはこういう時鋭いよなと思いながらアクアは自分なりに今の状況が良くないと理解していることを告げる。

そんなアクアにしょうがないなぁという顔をしているアイは更に意見を出した。

 

「それに……ルビーも本気だよ?ちゃんと考えてくれてるよね」

「分かってる。……というか本当はアイがルビーを親としては止めるべきじゃないか?」

 

アクアは自分の子供同士が本気で恋愛感情を持っているという状況に対して、特に違和感を持っていなさそうな母にツッコミを入れる。

アイだって前世の事情を知る前はちょっとブラコン過ぎるかもと危機感を感じてはいたのだ。

ただ……全ての裏事情を知った今となっては、アイから見てもルビーがああなってしまったのも理解できてしまい、逆に応援すらしたくなっていた。

 

「温泉であんなエピソード聞かされちゃったらね~……アレは責任取らないといけないよ?」

「何聞いたか知らないが、16歳になったら結婚を真面目に考えるとしか言ってないぞ」

「……じゃあさ、センセはもし、もしルビーの前世の子が奇跡的に回復してたらどうしてたの?いくらなんでも助からないって分かってたからその返事をした訳じゃないんだよね」

 

アイが真剣な眼差しをアクアの方を向け、その心の奥底まで見通すように目を合わせながらアクアへと問いかけた。

アクアはその言葉に口が開けなくなる。

前世だけで考えた時、もし……もしさりなが回復していたら雨宮吾郎はどうしていただろうか。これは実のところアクアの中で答えは出ていた。

 

「そうだな、もし……もし僕が雨宮吾郎のままで、彼女が天童寺さりなのままであれば、僕はきっと彼女を選んでいたと思う。あの子がアイドルを引退するまでアイと合わせて推して、彼女が引退した後気持ちが変わらないなら、僕の方から彼女の実家に挨拶でもしてたんじゃないかな」

 

ルビーには言わなかったがアクアはこの仮定に関してだけは、自分なりの答えを見つけているのだ。

あくまでこれに関しては雨宮吾郎として答えるべきだと、口調を完全に吾郎にして答えるアクア。

それを聞いてアイは苦笑する。

 

「本当に大切なんだね」

「アイもそれに次ぐくらいに大切だぞ」

 

元々アイを推し始めた理由はさりなの影響が強く出ている。

だが前世、さりなを失ってどこかおかしくなってしまった雨宮吾郎を繋ぎ止めたのは間違いなくアイだった。

そこから母となった彼女もそれまでとは違う側面が見えてきて、よりアクアにとって大切になっていったのは間違いない。

 

「残念だけどママはB小町Rの皆みたいに口説かれてあげないよ?もしアクアがセンセのままだったらちょーっとだけ考えたかもだけどね〜」

「俺もアイは母さんだとしか思ってねぇよ」

 

互いにくすりと笑いあう。

アイはまだアクアに恋愛は早いと言いたいところだったのだが、そうも言っていられなさそうだなと少しだけ子供の成長を寂しく思った。

アクアの事を好きな皆の後押しを少しでもしようとアイは質問する。

 

「ちなみに皆にもし違う好きな人ができてもアクアは素直に応援できるの?」

「……あいつらの事考えてくれる奴ならこんな優柔不断な男よりはいいんじゃないか。その方が幸せになれると思う」

「ふふっ……アクアは自分が思ってるより分かりやすいよね。全然言葉と表情があってないよ?」

 

アクアは自分の顔など鏡がないと見えないため、そうは言われても自分の表情が確認できない。

ただ心の隅に僅かなモヤを感じる。

 

(ほんと一丁前に独占欲持って何様だよって感じだな)

 

自分の嫌な部分を直視してため息を吐きたい気分になるアクア。

その言葉を最後にアイと別れてから当初の予定通りに温泉へと浸かる。

昨日は疲れを抜いてくれた温泉の効能も空しく、微妙な心の引っ掛かりは残ったままとなった。

 

 

 

「あっ出てきた!おにいちゃん!」

「アクアくん、はいお水、お風呂上りは水分補給した方がいいよ?」

「……何で二人はここにいるんだ?」

 

自分の独占欲について考えていたタイミングで、自分に正式に告白している二人が来たのは作為的な物を感じるアクア。

水を受け取って飲みながら何となく返事を予想していたアクアだが、二人の言葉は彼の言葉を肯定するものだった。

 

「え?なんかママが温泉から出てきたらお話したらいいって!」

「あはは、アイさんから色々聞いたから……かな。アイさんはそれだけ言った後にまた冷めちゃったから温泉入るって行っちゃったけど」

 

やはりというべきかアイの考えと聞いてアクアはため息を吐きたい気分になる。

彼女はここで覚悟を決めろと言っているのだろうとアクアは判断した。

 

「やってくれたな母さん。……まぁ、そうだな。答えを出さないとか。……二人とも時間があるなら少し話さないか」

 

これ以上若くて未来のある若者を拘束している訳にもいかないと分かってはいるのだ。

アクアの醜い感情など置いて結論を出してしまうのが、一番いいのかもしれない。まだ他のメンバーが明確な言葉を出さない内に。

 

「アクアくんのお部屋こんな感じだったんだ」

「私達のお部屋は大部屋だもんね~」

 

アイの時の反省を生かして、アクアは自分の部屋に二人を案内する。

アクアは一人部屋となっているが、それなりの広さを誇っている洋室だ。

ルビー達はB小町Rメンバー+アイで同室となっており、抜けだす前もトランプなどで遊んで修学旅行のような気分だったりする。

 

「そりゃ男は俺だけだからな。個室になるのはしょうがないだろ」

「大部屋だから夜までお話し放題だったんだよ?おにいちゃん羨ましいでしょ~」

「別に。部屋でくらいは静かにしたいしな」

「ふふっ、アクアくんも別にそんな強がらなくていいのに」

「強がってない。一人の時間も大切なんだよ」

 

気を遣いすぎない関係の会話、だからこそアクアはこの関係性が捨てがたかった。

選んでしまえば変わらざるを得ない。これまでとは違う関係になるしかないから。

 

「二人の告白に、返事をしようと思う」

 

迷いを断ち切るようにアクアは話を切り出した。

その言葉にビクリと二人は反応する。

少しの沈黙の後、あかねが最初に口を開いた。

 

「……アイさんと話して何か心が決まったのかな?アクアくん、君の答えを教えて」

 

あかねはずっと少しずつアクアに対して皆が中途半端な関係を続けてどこかのタイミングでまとめて責任を取らせるつもりで計画を立てていた。

少し長期にはなるが、アクアは責任感が強い。長期間キープのような状態になった相手を無下には出来ないと考えての作戦だった。

ただ、何かの覚悟が決まってしまったらしい。作戦としては失敗したというのが正しいだろう。

 

(……ルビーちゃんの温泉での話、アレは本当にあった事だと思う。あんな思い出があったらちょっと勝てないかなぁ……ルビーちゃんが運命なんて言うのも納得しちゃう。……まさか生まれる前に勝負が付いてるなんてなぁ。……頑張ったけど……祝福しなきゃ)

 

この後アクアが言う言葉を予想できたあかねは、悲しさを押し殺して毅然とした表情をする。

女優として色々な演技をしてきたのだ。このくらい造作もないはずだと自分に言い聞かせた。

それに対してルビーは、あと1年猶予があると思っていた所で急に梯子を外されてしまったかのような不安に襲われていた。

 

(あっ……おにいちゃん今日結論出しちゃうんだ。そりゃああかねちゃんみたいな美人な人が公の場で告白していつも一緒にいたらグラつかない人なんていないよね。兄妹じゃなければ……ううん違う。兄妹だからこそ、せんせとまた再会できたんだから……笑顔でいないと)

 

あかねは『今ガチ』や『東京ブレイド』、それ以外にも複数の仕事でアクアと共演する事が多かった。

アクアとあかねの思い出に対して自分が入り込めない内容も増えているのを理解しており、それが決着になったと言われても納得がルビーにはできてしまう。

ルビーは今にも零れそうな涙を何とか抑えて前を向いていた。

二人ともが己の敗北をイメージする。

相手と仲が良く、認めている存在だからこそ自身の負けを疑わない。

 

「俺は……ルビーと生きるよこの先もずっと」

「……え?」

 

自分が選ばれたというのが理解できず、ルビーは小さな声を漏らす。

まだ現実が理解できておらず、敗北の予兆が付けた痛みも残ったまま心が受け入れられていない。

 

「だから……ごめん、あかね」

「ううん、ルビーちゃんになら負けても仕方がないかなぁって思っちゃってたから」

 

それに反して既に受け入れていた予想通りの結末を見たあかねは、努めて笑顔で二人を祝福する。

アクアの返事を聞いて自分の考えていたことを口にしたあかねは、続いてルビーに向き直った。

 

「おめでとうルビーちゃん!」

「……あかねちゃん」

「小さい頃からずっとアクアくんの事大好きだったもん!そんな思いが叶ったのは良い事だ……よ」

 

ただ笑顔を作れていたのは最初だけで、その大きな瞳からはスッと涙が零れ落ちる。

覚悟をしていたはずなのにとあかね自身も自分を制御しきれなくなって余計に止まらなくなっていく。

 

「ごめん……ごめんね」

 

演技が剥がれて流れる涙を必死に拭うあかねを見てアクアは胸が痛くなる。

自分が曖昧な態度を散々してきて、この日も希望を持たせるような態度をしてきたくせに、唐突に結論を出すために捻りだした答えが生んだ結果がこれだ。

最低な自分に嫌気がさす。本当にこの選択が正しかったのかと直後だと言うのに後悔していた。

 

「……さっきのお話聞いてから私じゃ絶対勝てないなって思っちゃってて……本当にごめんね……笑顔で……祝福しないといけないのに」

 

止まれ、止まれと自分に言い聞かせても止まらない涙。

もうどうしようもないと判断して、この場にこれ以上居られないとその場をあかねは立ち去ろうとする。

ただその腕を誰かに捕まれてその動きは制止させられる。

そちらに視線を向けたあかねは驚いた表情を浮かべた。

 

「……ルビーちゃん?」

「そうだよね……全然考えてなかった。皆がおにいちゃん好きだって知ってたのに、その思いの深さも知ってたのに、私は自分の事ばっかり考えてた」

 

覚悟が決まったような表情を浮かべたルビーがあかねの手を握ったまま反対の手でアクアを指差す。

 

「そもそもさ、おにいちゃんのせいだよ!おにいちゃんが思わせぶりな態度ばっかり取って、普段からのらりくらり躱してさ!せんせだった時からぜんっぜん変わってない女たらし!!!どーせ私を選んだのだって前世の約束があるからとか、これ以上皆を拘束しているのは良くないとかそんな理由なんでしょ!!!」

「……」

 

選んだ側の少女から猛烈に攻められてアクアは唖然とする。

そしてルビーが一番大切だと思ったのも本当の事だが、ルビーの言っている理由も間違いなく含まれているだけに何も言い返せないアクア。

アクアにも余裕がないせいで、ルビーが前世について思い切り口走っているのにすら反応できなかった。

ルビーはまだ言い足りないとばかりにまくし立てていく。

 

「そもそもせんせが女好きで今も皆の間でふらふらしてるなんて私にも分かってるもん!もう治らないって!」

「なんでだよ、流石にんな事ないだろ」

 

流石に一人に絞ったら余計な事はしないはずだとアクアは思っていた。

とはいえ前世で付き合っていた相手にそこまで本気の恋愛がなかったこともあって自信がある訳ではないのだが。

 

「だってぶきよーなんだもん。下手したら自分がフラフラしないように皆と極力関わらなくなるくらいしちゃうよ。それで相手も自分も傷ついちゃう」

「……ありそうだね。それはちょっとやめて欲しいかな」

 

この騒ぎで少し落ち着きを取り戻したあかねもその未来を想像してまた胸が痛くなる。

アクアもそれに対して強くは否定できないでいた。

アイドルに男は厳禁だ。今後一切その可能性がないのならばアクアが傍にいるのは良い事などない。

今は幼馴染と恋愛感情があるという公然の秘密がアクセントになってはいるが、もし関係が確立されたならばアクアは恋愛感情に対してはもう向き合えない。

必然的に距離を離すしかなくなってしまう。

 

「……あかねちゃんちょっといい?」

 

ごにょごにょとアクアから少し離れて会話する二人。

アクアは自分が今告白に返事をした状況のはずなのにどうしてこうなってるんだろうかと少し疎外感と申し訳なさを覚える。

二人はアクアに聞こえないボリュームで話し合いを始めた。

 

「おにいちゃんを今から言いくるめてあかねちゃんを泣かせた責任を取らせる。あかねちゃん手伝ってくれないかな」

「……ルビーちゃんはそれでいいの?折角アクアくんに一人を選んでもらえたんだよ?前世から望んでた事だったんじゃないの」

 

自分のアクアへの感情が負けているなんてあかねも認めたくはない。

ただ前世からの思いなんて言われると流石に勝っているなんて言える程にあかねのメンタルは強くなかった。

あかねに前世を気付かれた事に少し驚きながらもそういえば今散々自白したなとルビーは思い直して言葉を紡いでいく。

 

「勿論悩むところもあるよ?当たり前だけど独占欲だってあるもん。せんせには私だけ見て欲しいなんて思う事もこの先きっとあるし、この選択を後悔する可能性だってあると思う」

「じゃあ……どうして?」

「でも二人が仲良くなくなっちゃうのは嫌だし、B小町Rの皆とは私もずっと仲良くしたい!これがおかしいのは分かってるんだけど……兄妹って関係に比べたら今更だよね」

 

せんせが他の誰かに取られるなんて想像しただけで胸が痛い。きっと二股関係だって傷つくこともたくさんあるとルビーはちゃんと理解している。

ただ、そもそも兄妹事実婚なんて発想が非常識極まりない事を自覚しているルビーからすれば、世間的にはまだマシだよねと苦笑した。

 

「むしろあかねちゃんこそいいの?私から言っておいてなんだけど、はっきり言って異常だよこんなの」

「私は元々皆アクアくんに引き取ってもらおうと思って動いてたから勿論大丈夫だよ」

「え!?さ、最初からおにいちゃんハーレム結成目指してたの……全く予想してなくてびっくりしちゃった」

 

ルビーはあかねの涙と今後のB小町Rやアクア、それに自分の事を考えて一番いいと思ったから提案したわけで、あかねはずっとそんな考えを持っていたのかと感心を通り越して驚いている。

 

「それにね、これは私一人じゃ絶対に無理なメリットもあるんだよ?」

「え?私も思いつかないや。どんな事なの?」

 

ルビー一人の幸せとしては一人で選ばれた方がいいのではと思うあかね。

ただルビーだけではどうしても叶えられない事があった。

 

「私はおにいちゃんと子供を作れない、えっちな事も基本ダメ!だけど他の皆はおにいちゃんと子供作っても大丈夫だよね」

 

前世の自分以上の苦しみを子に与えてしまうリスクが跳ね上がる以上はまず許容できない。

だが他のメンバーが子供を作れば最愛の人の子を抱くことはできる。

そもそもルビーは自分の決断なので満足できるが、アクアはどうなのだろうかと思っていた節もあったのだ。

 

「それは……ルビーちゃん辛くなるんじゃないの?」

「うーん、どうだろ?実際になってみないと分かんないや」

 

全くルビーが気にならないかと言われたらそんな事はないだろう。

羨ましいと思う事も死ぬほどあるとルビー自身も思っていた。

でもそれ以上にアクアの子なんていたら可愛がる自信が彼女にはあった。

 

「浮気性で女好きだけど、優しくて人のために努力出来て自分が傷ついちゃう事もやり通しちゃうカッコいいおにいちゃんが幸せなら私は世界一幸せなの。残念だけどおにいちゃんは私だけより皆一緒の方が幸せだから」

 

これが一番の理由。

ルビーといる時のアクアは勿論楽しそうだし幸せを感じているとルビー自身も思っている。

何よりもルビーの事を大切にしてくれている事を知っているし、だからこそ選んでもらえたのだろうと予想もしていた。

ただ皆一緒にいる時のアクアの方がもっと幸せだとルビーは思っている。

 

「……なんだかタチの悪いホストに騙されてる子みたいだよルビーちゃん。ここだけ聞くとアクアくん女の子にだらしない駄目男みたいだし」

「言い得て妙かも。あかねちゃんも人の事言えないよね?」

 

笑顔を向け合った二人は頷き合ってアクアの方へと戻る。

アクアは待ちぼうけをくらわされたとはいえ、流石に空気感からスマホを見る事などもできずただ大人しく待っていた。

一体どんな言葉を掛けられるのだろうとアクアは少し緊張してルビーの判決を待つ。

 

「というわけで!おにいちゃんには私だけじゃなくて、誑かしたB小町R皆の分も責任取ってもらいまーす!まずはあかねちゃんと付き合おうね、おにいちゃん」

 

そして覚悟していたところにルビーから出されたとんでもない話に度肝を抜かれることになる。

 

「は?いや俺今かなり悩んで答え出……」

 

アクアは自分なりに悩んで出した答えにケチを付けられて困惑しながら問い返そうとする。

ただその言葉を遮ってルビーは話を続けていく。

 

「おにいちゃんが選んだ私の決定だよ?ね、私のお願い聞いてくれるよね『せんせ』?」

 

先程選んだことを出汁にされて更に詰められるアクア。

スムーズに腕を組まれたアクアは今何が始まってるんだ?と混乱している。

 

「そもそもなんでルビーは急にそんな事言い出したんだよ」

「え?さっきあかねちゃんにも言ったけど」

 

それからルビーはアクアに理由を説明していく。少なくとも違和感は感じない内容だった。

ルビーの言葉に少し納得しそうな自分がいることをアクアは感じている。

ただこのまま流される訳にもいかないだろうと今度はあかねの方へ向き直って口を開いた。

 

「あかねもこのルビーの提案は俺が二股以上の関係を結ぶことになる。当たり前だが一人の男といるより時間は少なくなるしただでさえ忙しい俺達の場合、すれ違う可能性の方が高い。まだ人生長いんだからここで結論を出す必要はないだろ」

「アクアくんは……私がいない方がいいのかな?」

 

ルビーと反対の腕を取られても目を潤ませながら上目遣いをするあかね。

今回は作られた表情だと分かっているのに、アクアは思わずドキッとしてしまう自分を自覚して散々言われてきた女好きが否定できない現実が嫌になる。

明確な拒絶が出せない、それどころか都合がいい現状にほっとしている自分を自覚してアクアはがっくりと項垂れながら正直に自分の考えを口にした。

 

「……そういうわけじゃない。この際だから言うが、あかねの皆に優しい所とか、観察眼で不安定になった俺にも気付いてフォローしてくれる所に惹かれていた……それは間違いない」

「ほっ本当?」

 

アクアから自分に対して恋愛的に見ていたと言う発言にあかねは嬉しくて声が少し弾む。

それを聞いて心痛く思いながらもアクアは続きを口にした。

 

「……ただ、俺はもし誰か一人を選ぶってなったらさっきと答えは変わらない、ルビーを選ぶ。そんな奴でいいのか?」

「うん……アクアくんがいいんだよ。アクアくんなら時間は5分の1でも他の人より幸せにしてくれる……それに、ルビーちゃんに負けないくらい愛そうとしてくれるって信じてるから」

 

躊躇なく答えられたあかねの返事を聞いてアクアは覚悟が決まった。

都合のいい夢を見ているようだとアクアは思いながらも、先程よりずっと心が軽く感じられる。

二人の言葉に嘘はなく、妥協ではなくこの状況が最善だと思っての言葉だと伝わったから。

 

「おにいちゃん何か言う事があるんじゃない?」

 

イタズラが成功した子供のような表情のルビーを見て、アクアは後戻りできなくなる言葉を口にしていくことを決める。

まずはルビーへと向き直る。

彼女への言葉はもうずっと前に決まっていた。

 

「ルビー、俺はどんなに辛くとも目をキラキラさせながらまっすぐ夢を追いかけてきた君の事が好きだ。あの病室で俺は君に救われていた、この先も一緒に生きてほしい」

「私の答えは前世から決まってるから……せんせだぁいすき!生まれ変わっても一緒にいようね!!」

 

続いてあかねの方へと向き直る。

自分が中途半端な態度を取ったばかりに悲しませてしまった少女。

最初から責任が取れないのならば態度をしっかりとするべきだったのだ。

 

「あかね……出会った頃から俺を肯定してくれて一緒に切磋琢磨してくれて駄目な事は駄目と言ってくれて、辛い時に寄り添ってくれる君のことが……好きだ。俺と付き合ってくれ」

「……うん、ごめんね泣き落としになっちゃって」

「優柔不断な態度をした時に周りに何と思われようと俺がこの結論を決めておかなきゃいけなかった。本当にごめん」

 

今ならミヤコやアイの言いたかった事もわかる。

散々弄んだと言われても仕方がない態度を取ってから振るくらいなら最初からそんな態度はするなと言うだけだった。

 

「こんな俺で悪いが……よろしくルビー、あかね」

 

二人に後押しされたとはいえ、不誠実な決断を自分でしたと宣言するように二人へ頭を下げる。

そんなアクアを見て二人は微笑みながら返事をした。

 

「「これからよろしくね、おにいちゃん(アクアくん)」」

(まさかツクヨミが言ってた使命ってこれか?アイやヒカルさんの遺伝子を次代に繋ぐとか?)

 

二人の綺麗な笑顔を見ながらアクアはツクヨミの言葉を思い出していた。

今度ツクヨミに出会ったら確認しても良いかもしれない。

そう思うアクアだった。

 

 

二人を部屋に帰してから、アクアは現実を受け止めるために散歩感覚で旅館の中を回っていた。

 

「あっ母さん」

「アクア、どうだった?上手く返事できたかな?」

 

そんな時、今回の騒動のきっかけとなった人物であるアイと再び遭遇する。

二度風呂に入ったと言われていたアイは湯上りらしく、その魅力を周囲に振り撒いている。

アレだけアイと話していた時に一人を選ぶような事を言っておきながら、結局相手が許可してくれるからと二股という選択をしたアクアは気まずそうに返事をする。

 

「あー母さんは息子が二股してたらどう思う」

「うーん隠してしてるならバレないように気を付けてね?って言うし二人とも知ってるならちゃんと二人とも大切にしてあげてね?って言うかな」

「否定が一切ないのは子育てで良くないぞ」

 

自分の事なのに棚に上げてアクアはアイに忠告するが、それを聞いた彼女はクスクスと笑いながら自分の思いを言葉にする。

 

「私はどんなアクアでもどんなルビーでも肯定するよ。DVDで言ったでしょ?『元気に育ってください、母の願いとしてはそれだけだよ』って」

「……どうやって親に挨拶したらいいんだろうな」

「ふふっそこはアクアが自分で考えないとね〜最低4回はあるわけだし?」

 

アイの言った言葉はアクアとルビーに対してだが、相手にも親はいるのである。

だがそんな当たり前の事実を思い出して今から胃が痛くなるアクアだった。

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