毎週の仕送りがどう考えても実家から来ていない件   作:カンピロバクター卍

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#10 ブレインチューナー

『キク江、違法飼育されていたラブランド・フロッグを惨殺か』

 

 そんな見出しの踊る新聞の一面を見て、我が部屋の同居人は大層面白いといった顔で笑った。

 

「面白いのう、サイボーグが化け物を撫で斬りにしておるのじゃ」

 

「そんなに面白い?それ。普通にグロ画像じゃんね」

 

 そもそもその化け物はオハイオ州ラブランド原産の大型両生類で、ワシントン条約で保護されている絶滅危惧種だ。元はUMAだが、今はそうなっている。だからそれは化け物ではない。ラブランド・フロッグは臆病で、滅多に人に危害を加えることはないことも付け加えておこう。

 

 そんなラブランドの人気者、ラブランド・フロッグをキク江がレーザーブレードでぶち殺した(近隣住民撮影)ことでテレビは連日大賑わい。絶滅危惧種を安易に殺したことは倫理的にどうだとか、キク江はやはり危険なので破壊しろだとか、米軍は何をしているだとかでコメンテーターが大騒ぎしていた。

 

 ちなみにキク江は通報を受けて駆け付けた米軍を一瞬で蹴散らして逃亡した。

 

「な…何をいっているか分からねーと思うが、俺の構えたライフルが奴の放った光に触れた瞬間、砂になって俺の手から零れていったんだ!」

「気が付いたら全裸だぜ!ファック!」

「俺のお気にのグラサン……光に溶けた……」

 

 その場に居合わせた米兵曰く、キク江の背部スラスターより放たれた蝶の羽のようなエフェクトに触れた銃火器は一瞬にして砂状の粒子に分解されてしまい、まったく戦闘にならなかったのだとか。その証言を裏付けるためのボディカメラも消滅していたので、今のところは彼らの話は錯乱した兵士の与太話扱いだが。

 

 しかし我が部屋の同居人、スターちゃん(540)は事実であろうと言う。

 

「エル・カルカ暗黒時代にはそのような絶対兵器があったと聞く。お主の仕送りの異常性を鑑みれば、そういうことがあっても不思議ではないのじゃ」

 

 エル・カルカ暗黒時代。

 それはコンキスター朝以前の時代を指し、今では王族のみに伝わる御伽噺のような史実である。

 かつて存在した旧王家の君臨したその時代、ロリコンは悪習として弾圧されていたのだ。その弾圧の行き着いた先に作り出された絶対兵器こそが『ロリコロリ』。ロリコロリはロリコン雑誌を分解して消滅させるようインプットされたナノマシンであり、それを惑星中に散布することで数多のロリコン雑誌が塵となって消えた。ナノマシンは肉眼では捉えられない微粒子であり、空気に溶け込むので防御は実質不可能。ロリコロリが絶対兵器と呼ばれた所以である。

 

 ロリコロリはロリコン雑誌だけを殺す兵器であったのだ。

 

「ロリコロリによって惑星文明は崩壊手前まで衰退し、ロリを求めてロリ絵を書こうものなら特警によって嬲り殺される、そんなディストピアが1世紀近くは続いたとされるのじゃ」

 

 しかし!民衆は100年の弾圧にも負けず、ロリの素晴らしさを忘れず、我らが祖先はその熱意に答えたのじゃ!と頬を上気させてスターちゃんは熱弁する。ちょっとキモイ。

 というか、ロリコン向け雑誌を消すためだけに絶対兵器を開発するとか頭おかしいし、それで文明が崩壊一歩手前まで行くとかどんだけロリに依存した文明なんだよ。

 

 スターちゃんによれば、ロリ絵の消えた社会では人々は労働意欲を失ってしまい、結果インフラが死んで経済も死に始めたのだとか。狂ってんのか。

 

 そんな状況に異を唱えたのがスターちゃんが祖先、スロリキ・コンキスターその人であった。

 

 スロリキは軍の一兵卒でしかなかったが、ロリ漫画やロリアニメをもう一度見たい一心で仲間を集いクーデターを敢行。紆余曲折あってロリコン弾圧を推進していた旧王家を打倒した。

 

「その功績を称えられて、祖先は新たな王、コンキスター王家を起こすことを民衆より認められたのじゃ」

 

 なんでそうなるんじゃ。

 

 まぁ、いい。

 スターちゃんの与太話に付き合っていると頭がどうにかなりそうだ。気分転換に今朝届いた仕送りでも開けるとしよう。

 

「面白いのが入っていると嬉しいのう」

 

 黙れ。

 

 

 人間の脳には隠された潜在能力があり、それを解放できれば超能力だって使えるようになる。

 

 オカルト的にはありがちなその言説は、科学的には否定されている。そもそも既に人間は脳領域を100%フルで活用しているわけで、そうでなければ人間はここまで文明を発展できなかっただろう。ただでさえエネルギーを馬鹿食いする脳みそにいつもは使わない領域をあえて持っておくだなんて無駄の極みだし、そんな進化はあり得ない。

 だから人間の脳に秘められた超パワー何てないはずで、どう弄っても覚醒しようもないハズだが。

 

 しかし、それを可能に出来るという音叉が仕送りの段ボール箱から出てきたのだからもう滅茶苦茶だ。

 

 それは“ブレインチューナー”を名乗る音叉型のオブジェクトで、無機質な金属製に見えた。

 スターちゃんはそれを見て愉快そうに顔を喜色に染めると「コイツはなかなか面白い一品じゃぞ」だとか言う。

 

 曰く「コイツは生物を霊的に拡張して超能力を発現させる音叉に違いないのじゃ」とか。

 

 スターちゃんは体内に注入されたナノマシンによって脳機能を拡張しているので、大抵の物品は見るだけでそれがどういう性質を持つのか見抜けるらしい。どういう理屈だよ。

 

 確かに手紙にも『“ブレインチューナー”の発する周波数が霊的に作用して貴方のエゴを強化し超能力を得ることが出来ます』だとか書いてあるから、その推察は間違ってはいないのだろう。

 

 しかし、超能力か。

 サイコキネシスとかテレパシーとか、そういうやつに目覚めることが出来るだなんて、夢のある話じゃないか。

 

「まぁ、わざわざ霊魂を拡張するなんて危険なことをせずとも、ワシならば科学的に超能力は再現可能じゃ」

 

 訂正、夢はない。

 

「霊魂は脳量子論的に重要な要素であることはわかっとるんじゃが、霊魂を弄ると生物は発狂して死んでしまうのでな、科学全盛のエル・カルカにおいてもあまり研究が進んでおらん分野なのじゃ。そもそも超能力を得るだけならばインプラントで事足りてしまうわい」

「理論的にはその音叉で超能力に目覚めることは出来ようが……しかし危険な賭けであることは伝えておくのじゃ」

 

「でもワシ的には使ってくれると嬉しいのう。どうなるのか興味があるのじゃ」

 

 このクソマッドめが。

 

 すっかり興ざめしてしまった私は、「捨てるぐらいならワシに寄越すのじゃ」と宣うスターちゃんにそのブレイン何某をくれてやると、そのまま出支度を始める。

 

 今日は中恵とショッピングの約束があるのだ。

 

 

 後日。

 

 いつものように体育館裏でルコプコ粉末を売りさばいていると、妙な客が来た。

 

「なぁ、ルコプコ吸ってると火ィ噴けるようになるのか?」

 

 その客は私にそう尋ねてきたのだが、当然ルコプコにそんな副作用はない。仮にそんな副作用があるならば、一番長くルコプコを吸ってる私がまず真っ先に火を噴いているだろう。

 

「俺、疲れてんのかな……」

 

 客はそれだけ言い残すとトボトボ力なく立ち去って行ったわけだが……ちょっと、ルコプコ買っていきなよ!

 

 まったく、変な客!

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