毎週の仕送りがどう考えても実家から来ていない件 作:カンピロバクター卍
我が大学の非公認サークル、『オカルト研究会』のメンバーが全員謎の怪死を遂げたという噂がまことしやかに囁かれているのは一体何の冗談なのか。
ある者は脳が膨張して頭蓋を突き破って死亡し、体が天井に埋まってミンチになって死に、或いは全身が自然発火し焼死したのだとか。
で、焼死したのがこの前『火を噴ける』云々と言っていた私の客であったのだから驚きだ。
このような妙な噂の真偽はともかくとして、原因そのものについては心当たりがあった。
そう、我が部屋の同居人、イプレム・コンキスターである。
奴が日頃こそこそと街に繰り出しては良からぬことをやっているだろうことは純然たる事実であり、まず間違いなくブレインチューナーの“実地試験”を行っているだろうことは容易に予想できた。
脳が爆ぜた?
そうだね、
体が天井に埋まった?
そうだね、
人体自然発火現象?
そうだね、
オカルト研究会などという格好の餌に奴が食いつかないはずがない。どうせ「力が欲しいか」ムーブでもかまして中二病どもを唆したのだろう。
哀れオカ研、ぐっばいオカ研。
でも悲しいかな、私はあの女狐めを止める術など持ち合わせてはいないのだ。え?あわよくば超能力蔓延る非日常を体験したいだけだろって?
ははは……そんなわけ、へへ。
●
黄金ジェットは秒速50万㎞(スターちゃんによる観測に基づく)で空を駆け、輝きだけを残して消えた。
「光速を超えとるのじゃ。意味が分からんのじゃ」
スターちゃんはそう言うや否や、右手首をクイっと捻る。瞬間眩い光が迸り、黄金ジェットをその右手に呼び戻していた。意味が分からんはこっちのセリフじゃ。
まず間違いなくブレインチューナーを用いた非人道的実験を行っているクソサイコロリババアことスターちゃんがその手に持つ黄金ジェットは、まごう事なき仕送りの産物であった。
黄金ジェットは南米コロンビア原産の超有名オーパーツであり、そのフォルムは黄金色の航空機に見える。事実この小さなジェット機は航空力学的に飛べるだろうとされるのだが、しかしその反面実在するのか怪しい物品でもある。確かに黄金ジェットは複数存在し、実際に展示されているわけだが……しかしサンダーソン博士が例に出した如何にもなシルエットのソレについては、現在所在不明なのである。
しかし今ここにある黄金ジェットは間違いなくサンダーソン博士のそれであり、しかも驚異的な推進機能を獲得していた。もしかしたら未来人が盗んで魔改造してたから現代にはなかったのかもね。ははっ。
それよりも気になるのはスターちゃんが頭にかぶっている妙ちくりんなヘッドギアであり、それは彼女の頭上でみょんみょんと奇怪な音を立てていた。どうにも仕送りとは無関係ながら地球上の科学力で作られたとは思えないそれの正体は一体何なのか。
「ねえ、スターちゃん。そのヘッドギアなあに?」
「秘密なのじゃ」
「どうやって黄金ジェットを呼び戻したの?」
「秘密なのじゃ」
「ヘッドギア脱いで飛ばしてみてよ」
「嫌なのじゃ」
ふーん、あっそ。
秘密主義なスターちゃんからはまともな返事が得られなかったが、それでもヘッドギアが何かしらの原理で黄金ジェットを操っていそうなことは何となく察せた。
じゃあ私が飛ばしちゃうもんね。
メモ帳を広げて何やら熱心に書き込んでいるスターちゃんの隙をついて黄金ジェットを奪取!そして飛べと念じてシューッ!
「あッ、何をするか馬鹿者!」
スターちゃんは慌てて右手を捻るがもう時は既にお寿司(激ウマギャグ)。突風と共に黄金ジェットは輝きだけを残して消えた。
「あぁああああッ!!!!まだ実験が足りとらんというのにお主と来たらッッッ!これでは呼び戻せんではないか!」
「やっぱりそのヘッドギアで操ってたんだ」
「げッ」
へぇ、スターちゃんってそういう顔も出来るんだね♡焦ってる顔、良く似合ってるよ♡
「わ、我が栄誉の威光!」
あ!ちょっとそれは反則じゃんか!
チクショー!また栄誉の威光に平伏してしまうだろうが!
咄嗟にこの前の“絶対なる褒章”を胸に付けたスターちゃんを前に、私は膝をつき頭を垂れるほかなかった。どうにも“絶対なる褒章”は装着者の身分に応じてその効果をより強力に発揮するようで、王族であるスターちゃんに使われてしまうと
「王女たるワシの大勝利じゃ!」
何がだ。
月面に巨大なクレーターが出来たと知ったのは次の日のことだった。
黄金ジェットは月の地殻を容易く貫通して遥か銀河の彼方へと旅立ったようである。
……ようである、じゃねぇ!
こ、これどないすんねん、月に穴空いてもうた!月爆発するんか!?地球の終わりじゃ!
「落ち着かんか」
お、お乳付けるワカメ!
「牛乳入りのワカメかの?意味が分からんのじゃ」
落ち着けるかって言ったんだ!
「大丈夫じゃて、見てみぃあの月を。外縁部に小さい穴を開けただけじゃ。衝突時のエネルギーで地表がちょっと抉れただけじゃから安心せい」
スターちゃんに促されるまま月を見上げると、確かに一見穴は開いていない……いや、目を凝らしても穴が開いているようには見えない。アンタどんな視力してんの?
「王族たるもの、視力はナノマシンで補強済みじゃ」
化け物め。
「というか、本当に秒速50万㎞の物体が射出されたとしたらワシらは一瞬にして蒸発しとるわい」
ああ、それもそうか。
「あの黄金ジェットはな、光速を越えつつも周囲への影響を最小限に留めるよう設計されとったんじゃ。実際ソニックブーム一つ寄越さずちょっと強めの風が吹いただけじゃったろ?」
どういう原理なんだろうな。
よく考えてみれば光速を越えるエネルギーが一瞬にして発生したことになるのだから、その熱放射で死んでいてもおかしくはないのだ。
「それを調べる前にお主が月めがけて投擲したんじゃろうが!お主のせいで我が研究は1000年遅れるのは確実!もうあの黄金ジェットは太陽系外縁どころじゃない果てまで吹っ飛んじまってもう届かん!戻ってこん!ファックのじゃ!」
ごめんて。いやマジで。