毎週の仕送りがどう考えても実家から来ていない件   作:カンピロバクター卍

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実家からの仕送り③

 ブレインチューナーによる超能力発現実験はなかなか思うように進んでおらん。

 どうにも魂と肉との結びつきが強い知的生物相手にブレインチューナーを用いると、自我が崩壊して狂ってしまうようじゃった。自我の喪失には多少のタイムラグがあるものの、だいたい超能力の発現から1,2週間程度で自我に変調をきたし、最後は超能力を暴走させて狂死する。まったく難儀な事じゃった。

 翻って植物や菌類などの、そこまで魂と肉との繋がりが深くない生物相手に超能力を安定して開花させることは容易じゃった。超能力を発現させても特に異状なく生育したのじゃ。崩壊する自我がないのだから当然と言えば当然の結果じゃが、しかしこれでは超能力の意味がまるでない。自我がないということは超能力を自発的に使うことがないということでもあるのだからの。

 

 故にワシは超能力発現済み植物を、いたいけな女子小学生の脳に埋め込んでみたのじゃ。

 

 エル・カルカ随一の頭脳を持つワシにかかれば、植物を人間の脳に拒否反応なく埋め込み共棲させることなど容易いことなのじゃ。拉致も麻酔も必要ないぞ。こう、吹き矢的なものでピュッと脳天に埋め込んでやって施術は終了じゃ。しかも無痛でとっても人道的じゃぞ。ヒヒヒッ。

 

 そうすればどうじゃ、か弱いながらも女児はサイコキネシスを扱うようになったではないか。植物の魂から女児の脳を経由する関係上、前のオカ研(モルモット)と比べるとどうしても出力が弱まってしまったが、間違いなく床に落とした消しゴムを無意識に引き寄せておったし、ドッジボールの玉に投げた力以上の指向性を付与させておった。

 

 しかし、うむ。

 これは失敗じゃな。

 なんかこう、スマートではない力ワザ感が気に食わんのじゃ。

 

 ともあれ有意義な実験ではあったから、実験結果のフィードバックとして『サイコ・ヘッドギアくん1号』を作ってみたのじゃ。これは一見単なるヘッドギアにしか見えんが、中に超能力発現済み植物を組み込んでおり、被ると植物の魂と装着者の脳を電気的に繋げることが出来る優れモノじゃ。これを被れば誰でもお手軽安全に超能力を扱えるようになるというわけじゃな。

 

 いやまぁ、この程度の超能力、ここまで遠回りをせずとも科学的なインプラントで再現可能なのじゃが。

 

 ―――偉大なるスターちゃん絵日記第一巻より抜粋―――

 

 

 梅雨も終わり、じわじわと夏めいてきた昨今。

 エアコンもない4畳半である我が201号室はムワムワとした湿気と熱気で充満し、中々に居心地が悪い空間と化していた。特にスターちゃんが汗をかくと獣臭さが半端ないので、それとなく注意してみたところ泣かれてしまった。非人道的実験も厭わないサイコ狐も体臭を指摘されるのは酷く傷ついたようで、後日空気清浄機を自作して部屋に設置していた。

 

「これを置けば湿気も臭いもさよならばいばいのじゃ!」

 

 確かにその空気清浄機の実力はブラフではないようで、起動した瞬間にあらゆる匂いが一瞬にして掻き消えた。そう、昨日焼肉パーティーをしてなかなか臭いがすさまじかった部屋から、全ての匂いがだ!

 

「ふははッ!もう二度とワシを臭いとは言わせんぞ!そもそも地球人の鼻は敏感すぎるのじゃ。この程度、エル・カルカ人からしてみればごく普通じゃというのに……ワシとて乙女なのじゃぞ」

 

 あー、のじゃロリババアの乙女アピールとかキショ過ぎて吐くわ。

 

「んぎぃいいいいいいいッ!許さん!」

 

 怒ったスターちゃんは玄関の方に走っていった。どうも家出をするらしい。ここで暴力に訴えないあたりに少しばかりの可愛さを感じないでもない。そして勢いよく玄関ドアを開けて、何かに躓いたのか「のじゃッ」と悲鳴を上げて顔面を床に強かと打ち付けた。痛そう。

 涙目になりながら「なんで日曜でもないのに段ボールが置いてあるんじゃ!」と憤るババアを見るに、どうやら実家からの仕送りに躓いたようであった。

 

「はぁ?お主の実家ぁ?まさかお主のような外道にも親というものがあったとはな」

 

 お前にだけは言われたくないワードナンバーワンだよソレ。私は人を殺してない。お前は沢山殺してる。どっちが外道だよ。

 

「五十歩百歩じゃろそんなもん」

 

 へへ、そうだね。私達犯罪者!

 ちなみに勘違いされそうなので言っておくが、私は生来よりこのような外道なのではない。全ては“ムコムコの腸トロフィー”のせいだ。私は悪くない。

 

 まあそれは置いておいて、実家からの仕送りだ。

 

 我が実家は東北の山奥にあるので、仕送りの中身もそれなりに田舎臭さが漂っている。この前来たシャツ類なんかは地方特有のし〇むら的ショップから選ばれて送られてきたわけだが、まあダサい。かっぺが着るような服を年頃の大学生に着せようとしないでください。

 とまあ何が来ても微妙にがっかりしそうな気配がむんむんと漂ってくるわけで、ルコプコで財を成してからはぶっちゃけ無用の産物でしかないわけだ。

 

 そのような事をつい口に出してしまっていたのだろう。スターちゃんが「いらんのならワシにくれ」と言い出した。

 まぁ?いつもの仕送りと違って実家からのは無害だし?スターちゃんにくれてやってもいいかと思った私は、「じゃあ、あげるよ」と言ってしまった。

 

 後悔することになるとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

「お主、12歳までおねしょしておったらしいのう」

 

 は?

 

「しかもおねしょして汚れたパンツを押し入れにしまってしこたま怒られたとか」

 

 ちょっと。

 

「フヒヒッ、ふへっ、よ、妖精さんがやったこととか言い訳までしてッ、ぶふッ」

 

 なにそれ。

 

 憎きロリババアがその手に掴んでいたのは、間違いなく母からの手紙。

 ……そうか、仕送り。

 

 そっか、そっか、そっか。へえ、ふうん。

 

「……お前を殺す」

 

 

 

 

 

 

 

 ひらりひらりと拳を避けられ、私の怒りがスターちゃんに届くことはなかった。

 

「ナノマシンで強化された肉体に敵うわけがなかろう!のじゃのじゃ!」

 

 ふざけた語尾まで使いやがって!何がのじゃだ!バカにしやがって!

 

「いやいやお主、こりゃ馬鹿にするほかなかろうて。12歳でおねしょとか笑うにきまっとろうが」

 

 正論だ。

 とはいえ不愉快だ。

 

「なぁに、ワシからのささやかな復讐というやつじゃ」

 

 まだ臭いと言われたことを根に持っているらしかった。ねちっこい奴め。

 

「それお主が言う?」

 

 その後、スターちゃんは仕送りに入っていた“タトル・ボトムズ・モンスターの味噌煮缶”なる妙な缶詰を貪り食い、「地球の保存食も中々イケるではないか」とご満悦だ。

 

 うん、まあ、それを地球の食べ物と認めるのは癪だけど……今は地球の生物なのだから致し方あるまい。

 

 タトル・ボトムズ・モンスター……イリノイ州原産のアリクイ型類人猿UMAのことである。平穏な性格で人を怖がらないため、UMAが現実化した現在は食用に養殖されている。革製品としても有名で、タトル・ボトムズ・レザーといえばそこそこの高級品である。

 スターちゃんがお主も食ってみぃ、とフォークを突き出してきたので仕方なく口に含むと、そこそこ美味い。上質な脂の乗った豚肉のような味わいだ。何故美味いんだ。

 

「ところでお主、もう風説証明機は使わんのか?動いているところを一目見てみたいもんじゃが」

 

 と、アリクイモドキの肉を味わっていると、スターちゃんがそのような事を言う。

 風説証明機なぁ。

 確かに望みどおりに世界を改変できるのは楽しいが、どうも適用した風説の取り消しは出来ないっぽいのと、風説を世界に適用する都合上、バタフライエフェクトが起こりやすいのが玉に瑕なんだよな。例えば『寒天は赤外線を阻害する』と言えば『寒天が赤外線を阻害する各種原理を科学的に説明する過程で生まれた新技術』もまた世界に適用されてしまうわけで……結果今の世界では寒天成分配合の日焼け止めとかが大真面目に売られている。

 そんな風が吹けば桶屋が儲かるみたいな事象が多発しては困ってしまうので、もう使わないようにと思っているのだが。

 

「残念じゃなぁ」

 

 私がそう伝えると、スターちゃんは残念そうな顔をして容易く身を引いたではないか。あのスターちゃんにしては珍しく。

 

「ワシとてコントロールしきれんことは扱わんというだけじゃ」

 

「科学の産物ではなさそうじゃしなぁ、それ」

 

 マジかよ。

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