毎週の仕送りがどう考えても実家から来ていない件 作:カンピロバクター卍
ロリババアが日本国籍を取得していた。
アイツも完全犯罪ストラップを持つ者であるのだから、今更国籍の有無など生活するうえで関係がないことなのだが、ならば何故わざわざ国籍を取得したのか。
スターちゃん曰く「正攻法もまたロマンじゃ」とのこと。
正攻法……本当に正攻法か?
法務局の人間を拉致して洗脳して書類偽造をさせて無理くり日本に帰化したのを正攻法だというのならば、まあそうなのだろうが。私はそれを正攻法だとは認めない。
それにここまで手間をかけたのが“ロマン”の為だけだとは到底思えないわけだし、また良からぬことを企んでいるに違いないのだ。まあ、いくら悪いことをしようがそれで私の見る世界が面白く彩られるのであれば許容しよう。むしろどんどんやってくれ。スターちゃんではないが、これもまたロマンかもね。
そんなこんなで国籍を取得したスターちゃんは、“絶対なる褒章”の効果で薬学博士との身分を偽造して、テレビのコメンテーターとしてのキャリアを積み上げ始めていたのだ。
全く、一体全体何を考えているのだろうか。
というか稼ぎ始めたのならば自分の部屋を借りたらどうよとも思うのだが、「面白い珍品が毎週届く部屋から何故出ていかねばならんのじゃ?」と言われてしまってはどうしようもない。私にかけられた“完全犯罪ストラップ”の効果は未だに続いているわけだし、無理に追い出すという選択肢が脳に湧くこともないわけで。
『この西洋ネギの突然変異株から抽出した成分が、今まで治療法の確立されていなかった精神疾患にも微弱ながらの効果を発揮したという話題、コンキスターさんはどうお考えですか?』
『いやー、ワケが分からんのう。何故ネギなどという農作物が、これほどまでに都合よくあらゆる疾病の治療に効果を現すのか、ワシにはさっぱり分からんのう』
『そうですか、ありがとうございました』
ほら、今でもテレビの中でスターちゃんがあまりにも雑なコメントをしているよ。
仕事舐めてんのか、と思わないでもないが、確かにネギの成分が精神疾患に効くとか意味不明だもんな、仕方ないね。私も未だに意味が分かんないし。
ただこんなことをしてスターちゃんに何の得があるのかは疑問だ。何がしたいの?金が欲しいだけ?エル・カルカ星人の考えることはよくわかんないね。
つまらなさそうに耳糞をほじっているスターちゃんを画面越しに眺めながら、私は今週分の仕送りを開封しにかかる。
スターちゃんからは「ワシが帰ってくるまで開けるでないぞ」と言われていたが、何故私宛の荷物について奴に指示されねばならんのか。そんなこと聞いてやる義理もないので、とっとと開けてしまうに限る。
出てきたのは謎のインストールメディアだった。
謎の、というのはそのインストールメディアの形態が、既存のCDやフロッピーとは異なった薄っぺらな半透明の四角い板であったからである。
何なのだこれは。
何故インストールメディアであることが分かったのかと言えば、メディア表面に印字された謎言語を例のごとく読んだ(思えば英語もいつの間にかすらすら読み書きできるようになっていた)からである。
曰く“全言語対応自動文字起こしソフト・インストール用スキュラギア”だそうな。
それが正式名称なのかよとか、スキュラギアってなんだよとか、いろいろ言いたいことはあるがそれは一旦考えないことにして手紙を読もう。
『インストール用スキュラギアの使い方
①スキュラギアの両サイドを引っ張る。
②引くことで分割されたスキュラギア外殻より自在端子が露出する。
③露出した自在端子をお好みのデバイスの入力端子に接続してインストール開始。
④インストール終了後は分割された外殻を戻して終了。
全言語対応自動文字起こしソフトとは
遍く全ての言語の文書、音声をあらゆる形式で文字起こし可能な文字起こしソフトウェアです。非対応言語は存在しません。0型文明の低級言語も徹底カバー!
操作方法はソフトウェア初回起動時に表示されるポップアップよりご確認ください』
とうとう仕送りらしい文章を放棄しやがった!
そこを失ったら最早これは仕送りではない何かだよ!何って言われたら答えに貧するけどさ。いやマジで何なんだ。
それでなんだっけ?
スキュラギアの両サイドを引っ張るんだって?
説明通りにスキュラギアの両サイドを引っ張ると、パキリと小気味好い音を立ててスキュラギアの中央に分割線が走った。そのまま引っ張っていくと、ズルリと粘性を帯びた触手が分割部より這い出てくる。
触手は蛸とも烏賊とも似つかぬ様相で、うぞうぞと蠢いていた。
「
余りの嫌悪感に思わず私はソレを取り落としてしまったが、しかし説明を思い返してみればその触手が“自在端子”であることに思い至った。
ああ、確かに自在に動き回っておられますね、独りでに。
あんまり触れていたくないからと床に置いてみれば、その触手を用いて自立歩行をしますしね。
……スキュラってそういう?
ヨタヨタと触手を器用に動かして地を這うスキュラギアを眺めていると、触手が私のノートパソコンに向かっていることに気が付いた。
あのままでは、せっかく量販店からパクってきた8コア16スレッドのツヨツヨノート君が粘液まみれになってしまう!とノートパソコンをスキュラギアの進路上からずらしてみれば、なんとノーパソの方にスキュラギアが向き直るではないか!
もしかしてだけど、このノートパソコンを狙っている?
そんな考えが過った次の瞬間であった。
スキュラギアはゴキブリもかくやという加速力でノートパソコンに急接近し、その触手をノートのUSBポートにねじ込んだのだった。
触手をねじ込まれたノートパソコンは8コア16スレッドに相応しくないガリガリとした異音を放ち、その液晶に管理者権限がどうたらという警告を完全に無視して強制的に進むプログレスバーをデカデカと表示している。おいおいおいおい、おい!おい!やめろ!!!!
USBポートに触手を突き刺したスキュラギアといえば、ビクビクと血管めいたものを表面で脈打たせながら痙攣していた。
キモイ。
ああ、定価18万のツヨツヨノートパソコンがぬらぬらとした粘液に包まれていく……。
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粘液まみれになったノートパソコンを泣きながら分解清掃した後、私は一つウェブサイトを作ってみることにした。
その名も『タヅマの試練』。
今まで届いた数々の仕送りに同梱されていた手紙を、勝手にノーパソにインスコされた“全言語対応自動文字起こしソフト”を用いてPDFに起こして掲載しただけのサイトである。
がしかし、それだけと侮るなかれ。掲載された文書に記された言語は全て地球上では未知のものであるし、実際にこことは異なる地で使われてきた実用言語でもあるのだ。ということは解読できるハズなわけで、そういうのが大好きな言語学者や暗号解読者のプロアマ大歓喜なサイトになるはずだ!
これで私はアフィリエイト収益を得て億万長者になってやる!目指すは悠々自適な作家生活!
そんな計画を嬉々としてスターちゃんに語って聞かせたところ、どこから取り出したのか『~エル・カルカ超銀河王国史~全816巻』を私に押し付けてきた。どうやらこれを全文そのままサイトに載せてみてはどうだとのことらしい。
あの、私の部屋が4畳半だって分かっててやってる?
何?喧嘩売ってんの?