毎週の仕送りがどう考えても実家から来ていない件   作:カンピロバクター卍

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#14 怪人培養ポッド(キク江を殺そう!)

 そろそろ不味いのかもしれない。

 

 何が不味いのかって、それはキク江についてである。

 具体的にはキク江を取り巻く環境が悪化の一途を辿っており、世界各国が非公式にキク江の身柄に懸賞金を掛け出したことがまず一つ。そしてその懸賞金の噂を聞きつけたチンピラやギャングどもが日本に大集結し、日本各地に外国人街が急増、ついでに治安も悪化しつつあることが二つ目。

 

 そして最後に、昨日外国人チンピラ集団がキク江の孫を拉致したとSNSで発表しやがったのだからもう最悪だ。

 

 キク江を思いがけず改造してしまったのは私だが、その私でさえもキク江のフルスペックを把握してはいないのだ。スターちゃんの推測曰くキク江はあらゆる物質を分解するナノマシンを放出出来るようだが、その対象をコントロール出来ているのかは未知数。

 もしキク江がナノマシンを制御出来ていないのだとしたら……何が起こるか想像だに出来ない。

 特に今、キク江は孫が攫われて怒り心頭なのは間違いなく、それを象徴するかのように、昨日から日本中の外国人街が謎の怪光線によって蒸発したり裏返されたりという珍事が絶えない。

 

『見てくださいこの町並み!あらゆる家屋、あらゆる生物、あらゆる道路が尽く裏返されて筆舌に…本当に筆舌に尽くしがたい状態です!』

 

 興奮した様子の記者が、丁度件の破壊された外国人街を紹介しているのがテレビに流れる。

 路端の犬が裏返されて落ちている。どういう状態なのか説明するのが難しいが、犬が裏返しになっていた。ともかくグロい死体なのは間違いがなく、惨たらしい殺され方なのも間違いなかった。家屋も人も道路も一様にそのような状態で、もしこれがキク江の仕業(十中八九そうだろうが)だというならば、奴はもう正常ではない。怒りで理性を忘れ、破壊にのみ固執しているようにすら思える。そんな奴がナノマシンを制御しきれるとは到底思えず、私は一つ決心をした。

 

 そうだ、キク江を殺そう!

 

 暴走した実験体は破壊される運命なのだ。可愛そうだが、致し方ない。まぁ原因を作ったのは私だけどな!がはは!

 

 というわけで、私は数日前に届いた仕送り“怪人培養ポッド”のコンソールを操作した。

 

 

 怪人培養ポッドは、文字通り任意で怪人を作成できる1メートルほどの培養ポッドである。

 使い方は簡単で、ポッドに適当な材料を投入して5分放置しておけば、投入された材料相当の潜在能力を持った怪人が誕生するのである。

 

 つまり最強怪人を作ってキク江にぶつけようという算段なわけだ。

 

 これが届いたときは余りのデカさに玄関につっかえて苛立ち、四畳半の我が部屋を占有するカスみたいなエル・カルカ超銀河王国史と共に空間を圧迫し、実質部屋を二畳半にされて苛立ったものだったが、これでようやくこの不燃ゴミが活躍することでその苛立ちも少しは軽減されるだろう。……今まではスターちゃんのおもちゃでしかなかったからな。

 

 スターちゃんからは「ワシの留守の間勝手に触るでないぞ」と厳命されていたが、そもそもこれは私宛に届いた物なんだから私に所有権があるわけで、勝手に使ってどうこう言われる筋合いはない。

 ポッドにはスターちゃんの作りかけの(材料不足)怪人が浮かんでいたが、そんなものは容赦なく処分する。私は培養ポッドのコンソールメニューから『怪人の破棄』項目を選択する。それと同時にガラス張りのポッド内の液体が泡立ち、スターちゃん似の怪人が溶解して消えていった。最期の数瞬、怪人が驚愕の表情を見せた気がするがそんなのは気の所為である。

 私が怪人を作るための致し方ない犠牲というやつだった。

 

 さて、怪人の強度、能力、パワーは投入した材料に由来するのは先ほども言った通りで、最強の怪人を作るには相応に強力な素材が必要なのは明白だろう。

 しかし我が家にこれと言って強力な素材がそうコロコロ転がっているわけもなく、一先ず私はその辺に置いてあるよく分からないものを全部投入してみることにした。

 

・スターちゃんの抜け毛

 スターちゃんの抜け毛である。スターちゃんは全身をナノマシンで強化した存在であり、素手だけで津波を起こすことが出来るほどのパワーを持つ。そんな彼女の抜け毛なら強力な素材となってくれるだろう。

 

・ムコムコの腸トロフィーの断片

 以前模様替えをしようとして、腸トロフィーを棚から落とした時に発生した断片。腸トロフィーは勝手に自己修復したためマジで要らない一品。捨てると何が起こるのかわからなかったので今まで放置していたが、この際使ってしまおう。

 

・完全犯罪ストラップコピー

 スターちゃんが調子に乗って量産しまくった完全犯罪ストラップコピーの一部である。段ボール3箱分くらいあるので在庫処分がてら入れてしまおう。

 

・不死の妙薬数滴

 不死身の怪物を殺すためには不死身の怪物をぶつけるしかない。

 

・ジャージーデビル缶

 親が送りつけてきたジャージーデビルの缶詰。アメリカ旅行のお土産らしい。

 

 以上のものが見つかったので、全てポッド内に投入してみることにした。これで強力無比な怪人が生まれるはずだ、多分。

 材料を投入しコンソールから実行を選択すると、怪人培養ポッドは異音を立てて稼働し始める。グチョ、だとかムキョ、といった不気味な音だ……こんな音、スターちゃんが弄ってたとき鳴ってたかなぁ。そんな一抹の不安が脳裏を過ったが、しかしここで止まるわけには行かない。

 

 はやくキク江を現世の呪縛から解放してあげなくちゃだからね!

 

 私は私自身の博愛主義的側面に酔いしれることで不安を忘れることにした。大丈夫大丈夫!作成された怪人は主人に絶対服従だから!どんなにやばくても大丈夫!

 

 そんなことを思っているうちに異音が止み、電子レンジのタイマーみたいな音がなった。いつの間にやら5分が経過していたらしい。

 

 ポッド内にはスターちゃんをさらに幼くしたような狐耳の美少女がプカプカと浮かんでいた。

 なお、背中からは悪魔めいた翼、頭に山羊のような角、おまけに腰部からタコ足がスカートのように広がっている。可愛い顔してしっかり怪人だった。

 ……翼と角は分かるが、タコ足はどこから来たのだろうか。

 

 というか、さっきから目がガン開きでずっとこっちを見つめてるんだけど、何この子怖い。

 

 私がそうして少しばかり慄いていると、デビル・スターちゃん(仮称)はポッドのガラスをタコ足スカートでアッサリと破壊し、虹色の円環を胴体に纏って空の彼方に飛び去っていった。

 

 僅か0.5秒の出来事であった。

 

 え。

 

 ポッドから飛び散ったガラス片が私の全身に突き刺さりそれはもう物凄いことになったのだが、それはどうでもいいとして。

 

「勝手にどこ行くんだコラ!部屋片付けろ馬鹿ァーーーーッ!」

 

 私はデビル・スターちゃんの飛び去っていった方角を眺めてそう叫び、灰皿を怒りのままに放り投げた。

 

 

 飛び去ったデビル・スターちゃんの行方が判明したのは、それから1時間後のことだった。

 ルコプコ葉巻を吸引することで一種の麻酔効果を得てガラス片の突き刺さった痛みを堪えていると、テレビのニュースにデビル・スターちゃんが映り込んでいたのだ。

 

 映り込んだ彼女の体からは機械パーツが生えたり引っ込んだりして蠢いていて凄いことになっていたのだが、何故周囲の人間は彼女に無関心なのか。もしかしなくとも放り込んだ完全犯罪ストラップコピーの効果なのか。というか生えたり引っ込んだりする機械パーツの正体はなんなのか。そして彼女の周囲にいる人間が「イプルム・ブブク・シタム!イプルム・ブブク・シタム!イプルム・ブブク・シタム!」と絶叫しているのは何事なのか。

 

 もしかして、私はとんでもない化け物を生み出してしまったのではなかろうか。

 

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