毎週の仕送りがどう考えても実家から来ていない件 作:カンピロバクター卍
新たに製造した悪魔怪人、『ムルムル』と『フルフル』の姉弟は魔界川崎の悪魔退治に大いに貢献してくれていた。
ムルムルは猛禽のような美しい翼で空を自在に駆け、巨大な獅子様の足で悪魔を切り裂く音速のインファイター。フルフルは頭頂部に生え揃った一対の鹿めいた角から繰り出す雷撃で相手を撃ち殺す、冷酷無比なスナイパーである。
彼女らのコンビは現存する悪魔怪人72体の中でも最高のキルスコアを叩き出しており、川崎北部の主であった『大地の悪魔・アーメイモ』*1を秒殺してみたり、べらぼうに強かった『踏躙の悪魔・ティフォーン』*2の眉間をヘッドショット一発で殺しきったりとその戦果は凄まじい。
特に暇さえあれば悪魔ハンティングに勤しむ勤勉さが素晴らしいと私は思っている。雑魚狩りだろうとジャイアントキリングだろうと喜んでやってくれるので、彼女らは私の最近のお気に入りになりつつあった。これからも手柄を立て続けるなら私の側近怪人として取り立ててみるのも良いかもしれない。
そんなわけで魔界川崎から悪魔が一掃されるのも時間の問題……と思いたかったが、どうもそうはいかないらしい。
どうやら魔界川崎中心、ニワトコちゃんに近づくにつれて悪魔の数と質が増大しているのは気のせいではなかったようだ。
私の抱える怪人12000体による無限リトルマーズ爆撃*3を喰らってもなお掠り傷1つ負わないレベルの悪魔がほんとうにもう、そこら中にゴキブリが如く溢れかえっているのである。しかも未だニワトコちゃんの根元からは新たな悪魔が這い出続けているため、数はますます増える一方であった。
これではもう魔界川崎の全域調査は不可能に近く、今は魔界川崎中心部から幾許か離れた場所で怪人たちを籠城させている。何故か中心部に居座る悪魔たちはニワトコちゃんから離れようとしないから、一先ずここまで下がれば安心だろう。
ムルムルとフルフルは闘争本能が高すぎるため、それでもなお単身魔界川崎中心に飛び込んでは悪魔狩りを楽しんでいるが……あそこまで高性能な怪人はそこまで簡単に作れはしないのだ。全ての怪人を彼女らの水準に引き上げることが出来れば中心部攻略も楽勝ではあろうが、それは無理な話である。
そこでこの膠着状態を何とかするかもしれない新兵器の登場である。
その名も“エリアローラー”。
今こそ川崎の悪魔どもを大地の染みにしてやるときだ。
●
“エリアローラー”は極めて巨大な……それはもう巨大な、ロードローラーに酷似した重機である。
その巨大さは重機の枠を優に超え、東京の大田区をすっぽり覆えるくらいの大きさを誇る。要は最低でも60平方キロメートルは確実に占有するスケールの構造物なわけで、これは魔界川崎総面積の40パーセント程度にあたる。
このクソでか重機がほんの少し前進するだけで、小さな村落なら根こそぎぺしゃんこになる計算だ。
全くモンスターマシンを超えたモンスターマシンって感じで、これを設計した奴は頭がおかしい。
そして頭のおかしい物品はだいたい仕送りの産物であるからして、これもまた仕送りであった。
……こんなものが玄関前に届くだなんてアパート及び周辺地域が更地になりはしないか?そう考えた君は正しい。実に聡明だ。
だが安心してほしい。
我がアパートには何の被害も出はしなかった。
送り主は私の生活環境を考慮してか、エリアローラーをコンキスタベース内に直接送り届けてくれたのだから。
コンキスタベース内上空(?)に突如として出現したエリアローラーは、ベース内のあらゆる構造物を破壊しながら落下、建造中の大型核融合炉に着弾。
結果アパート直下型地震が発生。
そのマグニチュードは驚異の10!観測史上最大!
アパートやコンキスタベースはオーバーテクノロジーな耐震強度を誇るため無傷で済んだが、その周辺地域はそうはいかなかった。
あらゆる家屋が倒壊し、至る所で火災発生。
最終的な死者行方不明者が9315人にのぼる大惨事となった。
ああ、中恵が夏休みバカンスで海外に行っていてよかった。彼女が借りていたらしいアパートもこの地震で完全に倒壊したようで、滞在していた住人は全員死亡したらしい。スターちゃんが嬉々として教えてくれたよ。
「これで素材には困らんのう」
そうやってカラカラ笑って瓦礫の中から回収した死体をコンキスタベースに収容していくスターちゃんは、やっぱりエル・カルカ星人なんだなって。
そうして未曽有の大災害を引き起こしたエリアローラーであったが、あれだけ様々な建造物と接触し最後は地面とキスしたのにも関わらず、これが全くの無傷であった。
調査の結果、ローラーの外装に施された特殊コーティングがあらゆる衝撃をはじき返していたことが判明。外部からのエネルギーを受け付けず、故に凹まない、変形しない。そしてこの巨体が自重で崩壊しないのもこの特殊コーティングで重力から受ける影響を軽減しているだとかなんとか……スターちゃんが言っていた気がする。
クレーターから回収、復元された手紙によれば、エリアローラーは未開拓惑星に入植するためのテラフォーミングマシンの一種であり、全地形を平坦に均して入植しやすくするためのものらしい。ロードではなく、エリアを均すからエリアローラーってわけだ。
うーん、規模感がおかしい。
しかしこの規模感のおかしさを活かさない手はない!
というか被った損害(大型核融合炉建設スケジュールの大幅なズレ、行きつけの本屋の消失など)の補填の為には役に立ってもらわなければ困る!
というわけで、エリアローラーを魔界川崎に投入することにした。
前述のように、魔界川崎探索の停滞した原因たる無数のクソ悪魔どもをこのローラーで轢き潰して地面の染みにしてやろうぜ!という計画だ。
単純明快でシンプル、私好みの作戦である。
作戦実行のためエリアローラーの操縦士を怪人たちの中から募集をかけてみたところ、件の悪魔姉弟、ムルムルとフルフルが「是非ともやりたい」と立候補してくれた。
目が血走っていて殺る気十分!気に入った!君たちが操縦士だ!
「まとめてミンチだなんてワクワクするね、姉さん」
「新鮮な殺しは大歓迎だよね、弟」
最高にクールだよキミたち!濡れそうだ!
「じゃあ早速作戦実行だよ!さあ乗って乗って!」
私がそう言う頃には彼女らはすでにエリアローラーに乗り込んでいて、エンジンをかけたところだった。
行動が早い!
「ニワトコちゃんは轢き潰しちゃだめだからねー!」
そう叫ぶも聞こえてるんだか聞こえてないんだか。エリアローラーは悪魔姉弟を乗せ、その巨体に似つかわしくない俊敏さで視界から去っていった。一体何馬力あるんだ、あの重機。
まあ、彼女たちは狂暴だけど忠実だし、私の言うことなら守ってくれるだろう。
私は私で彼女らが戻ってくるまでの間、魔界の日向ぼっこを満喫させてもらうとしよう。頑張ってね!
●
いつの間にやら眠っていたらしい。
眠気眼をこすって目を開けると、ムルムルが私の顔を覗き込んでいた。ぎょろりとしたその双眼からは意思が読み取れず、やや不気味だ。
「神さま起きた?」
でも声は可憐な少女そのものだし、私の趣味が反映されたのか顔立ちだけは美少女だ。こうして覗かれてもそんなに嫌って感じはない。下半身は獣だが……それはそれで乙なものだろ?
「終わったの?討伐」
「うん、終わった。とりあえず全部ミンチにした。でもまた湧くと思う」
「そっか」
エリアローラー作戦は大成功だったらしい。
あれだけ私たちを手こずらせた悪魔どもも、エリアローラーにかかれば簡単にペシャンコだ。やはり質量兵器は偉大だね!さすがは私!さすがは私の怪人!
そうやって私が悦に浸っていると、フルフルが大きな背負い袋を持って帰ってきた。
「……何その袋」
「ん、神さまにおすそ分け」
……おすそわけ。
そう言って差し出された背負い袋からは猛烈な腐敗臭と悪魔臭が立ち込めており、布製の袋にじんわりと液体が滲んでいる。
「悪魔ミンチ、おすそ分け」
いらない!