毎週の仕送りがどう考えても実家から来ていない件   作:カンピロバクター卍

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#6 尽きぬ餃杯

 聖杯。

 それはキリスト教においては最後の晩餐に用いられた杯のこと。或いは聖杯伝説におけるキーアイテムである……とされている。

 

 実際のところは、四十世紀末のスヴェロイカ偶蹄伯(?)が偶然浜辺で見つけた酒杯である。その酒杯は常に酒を湛えており、飲んでも飲んでも再び酒が湧き出てくる神聖さから聖杯と名付けられた。しかしスヴェロイカ偶蹄伯は聖杯の酒の味に飽きてしまったので、ある時家臣に命じて聖杯を餃杯(ぎょうはい)に改造させた。

 

 餃杯。

 餃子の湧く杯である。

 

 何をトンチキなことを言っているのかと思われるかもしれないが、実際にこうして餃杯は私の眼前にあるのだから仕方ない。

 

 そう、いつもの仕送りだ。

 

 ちなみに先の餃杯の来歴は同梱されていた手紙に書いてあったことであって、私の意見ではないことをあらかじめ断っておく。四十世紀とかアホなの。

 

 餃杯の見た目は一見、単にゴテゴテと豪奢な装飾のなされた普通の黄金の酒杯に見えるが、しかしよく見なくともその内側には餃子がみっちり詰まっているのがわかる。

 

 杯に湧いた餃子の手触りは粉っぽく、割ってみればピンクのひき肉らしきものが見えた。

 

 これ生じゃん。

 

 焼いてあるならまだしも、生。それがミチミチに詰まっており、外気にさらされている。よく考えなくても不衛生極まりない。しかも餃子は一つ取ったそばから瞬時に補填されて杯を満たすので、餃杯を洗うということが物理的に不可能であるのも不衛生ポイントを増加させている。

 

 ちょっと、これを食べるのは嫌だな……。

 

 2日ほどリビングに餃杯を放置していたら、案の定というか蝿と雑菌の温床となっていた。

 餃杯の内側では蛆が這いずり、蝿が餃子をムシャムシャしている。あと餃子の表面にはカビが生え始めていた。

 

 汚い!キモい!最悪だ!

 

 今すぐ餃杯を捨てたい気持ちにかられるものの、蛆の湧いた杯とか普通に触りたくない。助けて誰か!私を助けて!

 

 ルコプコ顧客リストから選定した、一番根暗そうで逆らわなさそうな奴に餃杯を捨ててもらうことにした。ルコプコ100グラム無料!とでも言っておけばやってくれるだろう、多分。

 それじゃ早速お電話かけないとね。

 

『なんの用ですか……?』

「あ、中恵ちゃん?今すぐうちに来られる?来たらルコプコあげるよ」

 

 電話後15分と経たずに屋久中恵は201号室にやってきた。電話一本でルコプコの為に駆けつけてくるとは、彼女のルコプコジャンキー度はかなりの物になっているらしい。

 

「へへ、これ捨ててきたらホントにルコプコくれるんですかぁ?」

「あげるあげる、だからとっとと捨ててきてね」

「やった!」

 

 喜色満面に餃杯を掴むと(良く触れるなと思う)、中恵は走り去っていった。

 

 うん、従順でよろしいなと感心した私は、ご褒美にルコプコの粉末を1キロくれてやることにした。頑張ってくれたお礼だし、何より収納を圧迫する余剰在庫を捌きたかったというのもある。

 そうこうしていると中恵が汗まみれで「捨ててきました!」と叫びながら帰ってきた。何でそんなに汗かいてるの?え、全速力で走ってきた?そう……。

 

「んじゃコレ、お礼」

 

 シャツから透けたスポーツブラが艶めかしいなと思いつつ、ルコプコの詰まった袋を渡す。すると彼女はもう待ち切れないという鬼気迫った顔で袋の封を解き、その中に顔を埋めると「見える!」と言い残して失神した。コイツ頭おかしいな。

 そのあまりにも凄まじい瞬間的トリップに唖然としていると、なんだか足元に生温かなものを感じる。視線を向ければ何か液体が床一面に広がって……

 

……は?

 

 

 

 ルコプコの過剰摂取によって我が201号室でぶっ倒れた中恵を介抱し、床に広がる中恵のアレを掃除していたら朝になっていた。

 

 解せない。

 というか、割に合わない。

 

 こんなことなら自分で捨てればよかったかもしれない。まぁ、迷惑料代わりに生乳とお腹揉みしだいたし良かったとするか。

 

 朝日が眩しい。

 

 ルコプコカーテンから射す光をその身に受けながら、安楽椅子に座してルコプコを煙管でふかす。ルコプコは手巻きより煙管の方が合っている気がする。まぁ、カッコつけに買っただけなんだけど。

 

 二、三時間ほどそうして金煙(ルコプコの煙は葉と同じく黄金に輝く)をくゆらせていると、外が妙に騒がしくなってきたのに気づく。ベランダに出てルコプコをかき分けて下を見てみると、救急車がアパート前に止まっているのが見えた。ぼんやりと煙管を咥えながらそれを眺めていると、慌ただし気な救急隊員と共に外人のオッサンが担架で運ばれてくる。

 あれ、あの外人、うちの下に住んでるやつじゃん。確か、4、5人で共同生活をしていたはずだが。

 そう思っていると、運ばれている外人の後ろから続々と現れる外人。皆一様に担架に乗せられて「オナカ、イタイ!」「ギョーザダメ!」と呻いている。

 

 お腹痛い?餃子?

 

 はは、まさかね。

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