モブプロデューサーの『初』   作:五月車

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無数の『初』

 通算三度目となる、初星学園での入学式。

 

 きっとこれは神様が僕にくれたチャンスなんだろうと理解した。

 これは僕の手で汐入さんをプロデュースし、中間試験ひいては最終試験を突破するまで挑ませてやろうという、神様が与えてくれた祝福なのだと理解した。

 特に信仰深いわけでもない自分に、どうして神様がこうした幸運を与えてくれるのかは分からないが、貰えるものは有効に活用するべきだろう。

 

 そうと決まれば、僕は脳内で前回のプロデュースで失敗した点を振り返る。

 

 どうせ、入学式での話なんて大したことを話していないし、もう二度も聞いたことだ。今更聞いても聞かなくても、変わりはしないだろう。

 

 前回のプロデュースでは、メンタルケア自体は上手くいっていたが、全体的に小さくまとまりすぎてしまっていた。

 中間試験までと期限が決まっている以上、すべての能力をまんべんなく伸ばしていくのは至難の業だ。それなら他の部分は諦め、汐入さんの強みであるボーカルを伸ばすことに専念したほうがいい。

 それでも一周目の様に他の部分もおざなりにはしない、最低限度は習得しないといけない。

 考えるだけなら簡単だが、実行するのは難しいだろう。だが、今回はそれを可能にしてみせる。

 それさえ出来れば、中間試験を突破することが出来るだろう。

 

「お疲れさまでした、汐入さんは……今回不合格でした」

 

「『アイドル』それは私たちの永遠の憧れ。夜空に輝く星のように。大地に咲く花のように。みんなの心を熱く振るわせて、悲しさを優しく包み込んで、いつも笑顔にしてくれる、そんな素敵な人になりたくて。私は『初星学園』の門をくぐりました」

 

 前回は、メンタルケアが上手くいかなかった。だから本番で十分な実力を発揮することが出来なかっただけだ。練習の段階のパフォーマンスが出来ていれば、合格は間違いなしだったのに。

 もっとメンタルケアを効率的におこない、もっと早期に汐入さんには自信を持ってもらう為の方法が必要だ。

 今回の周では、そちらに重点を置くべきだ。時間を掛けず、さりとておざなりにならない必要がある。今回駄目だった時のために、自己啓発やメンタルケア関連の本を読んで、上手く汐入さんに使えそうなものがあれば使っていくことにしよう。

 それさえ出来れば、中間試験を突破できるだろう。

 

「お疲れさまでした、汐入さんは今回不合格でした」

 

「『アイドル』それは私たちの永遠の憧れ。夜空に輝く星のように。大地に咲く花のように」

 

 前回は、メンタルケアにおいて様々な事を試しすぎてしまった結果、失敗に終わってしまった。

 ただそのおかげもあってか、どうすれば汐入さんに自信を持ってもらえるのか分かった気がする。

 これなら今度こそ、中間試験を突破することが出来るだろう。

 

「お疲れさまでした、汐入さんは不合格でした」

 

「みんなの心を熱く振るわせて、悲しさを優しく包み込んで、いつも笑顔にしてくれる、そんな素敵な人になりたくて。私は『初星学園』の門をくぐりました」

 

 前回は、メンタルケア自体は上手くいき、一週間程で彼女に自信を持たすことに成功した。ただその反動でレッスンを詰め込みすぎてしまったのか、レッスン中に怪我をしてしまうというアクシデントが発生してしまった。

 以前までであれば、メンタルケアに時間を使っていたこともあり、その時間が休息代わりになっていたのかもしれない。

 汐入さんの体調に気を付けつつ、怪我をしない様にレッスン予定を組みなおした。

 これなら今度こそ、中間試験を突破することが出来るだろう。

 

「汐入さんは不合格でした」

 

「『アイドル』それは私たちの永遠の憧れ」

 

 前回は、休養を入れることで無事にアクシデントはなく、中間試験を迎えることが出来た。

 しかし、それはただアクシデントなく中間試験を迎えることが出来たというだけだった。

 彼女にアクシデントが起きないようにと、慎重になりすぎた計画を立ててしまったのだ。

 その結果、中間試験で純粋に実力が足りなかった結果、不合格という結果になってしまった。

 汐入さんの体調を考えながら、それでおいて彼女の強みを伸ばせるように努力する必要がある。

 それさえできれば今度こそ、中間試験を突破することが出来るはずだ。

 

「不合格でした」

 

「夜空に輝く星のように」

 

 前回は、休養とレッスンのバランスが悪かった、もう少しレッスンを入れても問題はなかったはずだ。

 この辺りの調整は難しいが、その塩梅についてはこれから知っていけばいい。

 それさえ分かってしまえば、中間試験を突破できる……と思う。

 

「不合格」

 

「大地に咲く花のように」

 

 前回は、レッスンなどの計画を詰め込みすぎてしまった結果失敗してしまった。

 怪我こそしなかったものの、汐入さんに多大なストレスを与えてしまった。その結果としてレッスンにも支障をきたしてしまった他、メイクで何とか誤魔化せていたとはおもうが肌荒れや寝不足といった症状を引き起こしていた。

 そんな状況で中間試験を突破できるはずがない。汐入さんの体だけでなく、ストレスの管理もしっかり行う必要があるだろう。

 それさえできれば中間試験も、突破……できるかもしれない

 

「みんなの心を熱く振るわせて」

 

 前回は、彼女の気分転換も考えながら、プロデュースを行った。

 上手く塩梅を取るのが難しく今回は失敗してしまったが、何となくコツが掴めたような気がする。

 これなら今度こそ中間試験を突破、できるよな?

 

「悲しさを優しく包み込んで」

 

 前回は、ボーカルレッスンを連続で行いすぎてしまったせいで彼女の喉に負担をかけすぎてしまった。

 しばらくレッスンを休まないといけなくなってしまい、中間試験までに仕上げることが出来なかった。

 あのトラブルさえなければ、中間試験を突破できていたと思いたい。

 

「いつも笑顔にしてくれる」

 

 前回は、自分が倒れてしまった。徹夜がずっと続いたのが良くなかったのだろう。

 過労だと、あさり先生は言っていた。自分の事をもっと気を使えと怒られてしまった。

 別に僕なんかのことを気に使う必要があるとは思わないが、倒れてしまえばその回は汐入さんのレッスンを直接見ることが出来なくなってしまう。

 そうならないためにも最低限は自分の体を労わらなくてはいけないみたいだ。

 自分が倒れさえしなければ、中間試験を……突破出来ていたんだろうか?

 

「そんな素敵な人になりたくて」

 

 前回は、汐入さんと気分転換に出かけた所で事故に遭ってしまった。

 こんな不運な事もあるものだなと思いつつ、突っ込んできた車から彼女を庇ったところで入院を余儀なくされ、中間試験を見ることが出来なかった。

 結果については聞いていないが、こうして今回の周に来てしまっている以上、失敗したと考えるのが自然だろう。

 あの事故さえなければ、中間試験を突破……出来なかっただろうな多分。

 

「私は『初星学園』の門をくぐりました」

 

 前回は、惜しいところまでいったと思いたい。

 ただ中間試験の最後の所で、緊張からかマイクを落としてしまうというハプニングがあった。

 あれさえなければ合格だったと思うが、運が悪かったと思うしかない。今まであんなミスはしてこなかったのに珍しいと思いつつ、次こそは中間試験を突破することができるはずだと、自分に言い聞かせる。

 心のどこかで、あのミスがなくてもどうせ不合格だったと思っていることには目を瞑りながら。

 

「アイドル」

 

 前回は、……何が駄目だったのか分からない。

 プロデュース計画は完璧だった。それに汐入さんも応えてくれた。

 中間試験では目立ったミスもなく、今の彼女が持っている力の全て……いや、それ以上の完璧なパフォーマンスをしてくれた。だがそれでも駄目だった。

 

 根本的な考えから間違っているのだろうか?

 もう一度最初からプロデュース計画を練り直す必要があるかもしれない。

 汐入さんには才能が有る。それを輝かせれないのは自分の問題だ。

 

 どうにかして、中間試験を突破させてあげないと。

 

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「なりたくて」

「私は」

「初星学園の」

「門を」

「くぐりました」

 

 もう分からない。

 どうすればいいのだろうか、どうやったって汐入さんを合格する手段が思い当たらない。

 

 彼女に才能が有るのは間違いないのだ。だけど、どう頑張っても彼女を合格させることが出来ない。

 全ては僕のせいだ。こんなにもチャンスを貰っているというのに、一度だって物にしきれていない僕のプロデュース力不足のせいだ。

 

「ア」

「イ」

「ド」

「ル」

「そ」

「れ」

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「に」

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「の」

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「を」

「や」

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「し」

「く」

「つ」

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「で」

「い」

「つ」

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「に」

「し」

「て」

「く」

「れ」

「る」

「そ」

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「な」

「ひ」

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「に」

「な」

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「た」

「く」

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「わ」

「た」

「し」

「は」

「は」

「つ」

「ぼ」

「し」

「が」

「く」

「え」

「ん」

「の」

「も」

「ん」

「を」

「く」

「ぐ」

「り」

「ま」

「し」

「た」

 

 何時になったらこの地獄は終わるんだ。

 最初に、これは祝福だと思ったのが馬鹿らしい。

 

 こんなのは祝福なんかじゃない、ただの呪いだ。

 だってそうだろう? 終わらない地獄を祝福と呼ぶ人間はいない。

 

 もし呼ぶ人間がいるとすれば、自分が置かれている状況を認識できていない愚者だけだ。

 

「a」

「i」

「d」

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「r」

「u」

「s」

「o」

「r」

「e」

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「s」

「i」

「t」

「a」

 

 もはや自分でも何がしたいのかが分からなくなってくる。

 今まで試したどんな方法も駄目だった。

 

 飛び道具としてキャラクター付けをしてみても、何かの足しになればと彼女専用の曲を作ってみても、その全てが空振りに終わった。

 審査員の買収や脅迫もやろうとしたが、初星学園ではそんな手段は通用しなかった。僕が退学するという結果に終わっただけだ。

 

 もしかしたら汐入さんには才能が無いのかもしれない。

 

 そんな馬鹿げた考えが頭によぎるほどには、僕はもうこの地獄に疲れ切っていた。

 

 そんな頃の事だった。

 

「申し訳ありません、今回はご縁が無かったということで」

 

 僕が汐入さんのスカウトを失敗してしまったのは。

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