けたたましい目覚ましの音が私の意識の覚醒を促す。
枕に顔をうずめたまま、慣れた手つきで目覚ましを止める。
「ん~~!」
起き上がって、グッと背伸び。
これをすると何となく目が覚める感じがする。
ベットから起き上がってハンガーに掛かっている制服に着替えた。
横にある鏡に、新しい制服に身を包んだ自分が映る。
新しい自分の姿を確認すると、何となく身が引き締まった。
リビングに降りた私はいつも通りに仏壇に手を合わせる。
仏壇には笑顔の両親と姉が写っていた。
「お父さん、お母さん、お姉ちゃん。行ってくるね」
私が住んでいる
一つは
もう一つは
今の時代、そんな者がいたら一瞬でSNSで拡散されてそんな存在はすぐ明るみになる。現実味がない。
あくまでネットの中での創作話程度に受け止めるのが良いだろう。
そんなことを支度をしながら考える。
「佐奈~もう家でないと間に合わないんじゃないかい~?」
私の思考を断ち切るようにおばあちゃんが声をかけてきた。
おばあちゃんの声で壁に掛かった時計を見ると、もう家を出ないといけない時間になっていた。
慌てて荷物をまとめて家を出る。
家を出てしばらく歩いた所にハザードマークが描かれた看板が目についた。
看板には『この先デイブレイクタウン! 関係者以外立ち入り禁止!』と書かれていた。その先には人の気配が全く感じない住宅街があった。更に目線を凝らしてみてみると、住宅街の中心と思われる場所には不自然な緑化が進んでおり周辺の住宅を蝕んでいた。
『デイブレイク』
それは世界各地で起こった謎の爆発。
世界は一丸となって原因を調査しているが、未だに原因がわからないどころか何の情報も掴めていない。
デイブレイクで人々は多くの物を失った。
大切な人、住む場所、資産、そして私も―――
「そこに入るのはやめておけ」
後方からの声に私の意識は現実へと戻った。
声の方へ振り返ると、ブレザーを着た男が立っていた。顔はブレザーの下に来ていたパーカーのフードを深く被っており全く見えなかった。
男は私の横を通り過ぎるとバリケードテープを押しのけて、デイブレイクタウンへと入っていこうとする。
「ちょっと待って!」
私はほぼ反射で男の左手を掴んで止めていた。
何でそうしたのかはわからない。だけど、何となく見覚えがあったからだ。彼の背中が。
男は掴んだ私の手を振り払い、一瞥すると背を向けデイブレイクタウンに入っていく。
一瞬だけ見えた彼の左手には十字の傷が刻まれていた。
胸のわだかまりが残りながらも私は通っている高校へと向かった。
教室に入った瞬間にチャイムが鳴り、全速力で走っていなければ遅刻していたことが分かる。
安堵の息を吐きながら席に着いた瞬間に担任が入ってきた。
やる気の無さそうな声で朝礼が始まる。
覇気のない言葉で連なるいつもと変わらない定期連絡。思わず眠たくなってしまう。
迫りくる眠気から解放してくれたのは後方の席からの刺激だった。
「ほーら起きろー」
ツンツンと指先で突っつかれる。
別に寝ていないけど、ウトウトと舟をこいでいたから寝ていると思われたのだろう。
寝ていないことを伝えるために後ろへと振り向く。
振り向いた先には茶色の髪をボブに切り揃えた女の子が立っていた。
「美香、起きてるよ」
「でも随分と眠そうだったじゃない?何かあったの?」
「んーん。ちょっと退屈だっただけで……何かあったわけじゃないよ」
「そ、でも気を付けなさい。どこで誰が見てるかわからないんだから」
無防備に寝ている姿なんて見せたら何されるかわからないわよ。なんて脅かすような口ぶりでそんなことを言う美香。
少しだけムッときた私は言い返そうと口を開いたその時―――
「佐奈さんおはよう!今日は大変だったね!」
明るく無邪気な子供のような声が私の耳を刺激した。
そちらに振り向くと少年のようなあどけない顔を子犬のような人懐っこい笑顔を浮かべた男子生徒が立っていた。
「西谷君おはよう。そんなに大変そうに見えた?」
「うん!だってすっごく息を切らしてたもん」
「あはは、少し遅刻しそうだったから、心配してくれてありがとうね」
「ううん!じゃまたね」
そう言うと西谷君は大袈裟に手を振って教室を出ていった。
私達の会話が終わるのを待っていたかのように美香が話しかけてきた。
「ねぇ佐奈?やっぱり西谷君と話すのやめなよ」
「前も言ったけどそんなことはしないよ」
「でも、彼なんか怪しいよ。佐奈を見る目とか怪しいし……」
「そんなこと言われても、まだ何かされたってわけじゃなし……それに全部美香の主観じゃん。そう言うの良くないよ」
「……わかった、悪かったわね。でも何かあったらすぐ連絡するのよ」
「私もごめん……美香は心配してくれているのに」
「ならお互い悪いってことでこの話はおしまい。それでいい?」
「うん……ありがとう美香」
「何よもう、そんなしおらしくしちゃって……じゃ、今日の帰りに何か奢ってもらおうかしら」
おどけたようにそう言う美香に私は少しだけ口角が上がる。
美香はいつもそうだ。
私のことをいつも心配してくれる。
入学式の日だって道に迷った私を教室まで案内してくれたのは美香だし。
美香は私の親友だ。きっと一生の。
ふと視線を感じて窓の方へと視線を移すと、朝に出会ったフードの男がこちらを見つめていた。いや目線が見えないから本当に見ているのかわからないけれど、頭が上を向いているからきっとそうだ。
言いようのない恐怖を感じた私はその場で固まってしまった。
「佐奈?どうしたの?」
「あれ……」
私の様子がおかしいことを心配してくれた美香が私に声をかける。それに対して私は窓の方を指差す。
それに従って美香は窓を覗き込む。
美香が窓を覗き込む頃にはフードの男はその場を立ち去ろうと校舎の方へ向かって歩き出していっている所だった。
「あのフードの人……」
「ああ、あの人?あれはね、
「え?うちの高校の人なんだ」
「うん。でも一年の頃とは全然雰囲気違うらしいよ」
「そうなの?」
「一年の頃同じクラスだった先輩が言うにはね、もっと明るくてクラスの人気者だったらしいのよ」
「そんな人が何で……」
「デイブレイクよ。デイブレイク。噂ではデイブレイク当日、親友が巻き込まれて死んじゃったんだって。それからあんな風になったって……」
「そう、なんだ……」
美香の話を聞いて少しだけ彼に共感と同情を抱いた。
私の興味は一日が終わるまで続くのだった。
帰り道、私の頭の中には速水先輩のことばかりを考えていた。
別に恋煩いというわけではない。ただ彼に何かできることは無いか考えているのだ。
デイブレイクに遺恨がある者同士、傷を舐め合うというわけではないけれど共感できる部分もあるはずだ。きっと速水先輩は今、つらい思いをしているはずだ。それを私が話を聞くことで少しでも楽になってくれればいい。
今度速水先輩に会ってみよう。
うん、そうだな。明日にしよう。善は急げと言うしね。
そう思いながら住宅街を歩く。
この時間帯はいつも人通りが少なく、私の足音が意識しなくても聞こえてくる。
ふともう一つの足音が私の後に続いていることに気が付いた。
私が歩くと遅れて距離を詰める音が聞こえる。
私が走ると遅れて足音も続いて走ってきた。
尾行されている?何で?いや今はそんなことどうでもいいか。
私は歩く速度をゆっくりと上げる。
後ろにいる人に悟られないように、徐々に徐々に。
そして私は走り出した。慌てたように後ろの足音も続いてくるが大丈夫だ。このままいけば入り組んでいる路地に入れる。そこで私を尾行した犯人を見てやる!
少々非日常に巻き込まれたような高揚感が私の中にはあった。
だから路地に入り、更に奥の路地に入ったのだろう。運が良ければ犯人の姿が見れると思って。
さっきまで聞こえていた足音が消えた。
私は頭だけ路地から顔を出して様子をうかがう。
私がさっきまでいた道には誰にもいなかった。代わりにテンポのいい足音が聞こえてくる。
隠れる間もなくその足音の主が姿を現した。
その姿はフードを被っていて、左手に十字の傷がある男。速水先輩だった。
速水先輩は何かを探すように辺りを見回しながら、その内何かを見つけたのかどこかに走っていった。
台風のように去っていった先輩に困惑しながら思考をまとめた。
先輩は何かを追っていた。
恐らく私の後ろを走っていたはず。そして私が路地に入ってすぐにこちらに来た。だったら私を追っていた犯人も見ているのではないか。
「よし!速水先輩―――!」
早速速水先輩に話を聞こうと路地から出て声をかけると、そこには誰もいなかった。まるで最初から誰もいなかったように振る舞う住宅街の道路はまるでよそ者を扱う辺鄙な田舎の村みたいでとても居心地が悪かった。
「ねぇ美香! 速水先輩どこにいるか知ってる⁉」
「いきなりどうしたのよ……?」
「いいから教えてよっ!」
翌日、私は美香に速水先輩の居場所に心当たりがないか聞いた。
美香は突然そんなことを聞いてきた私にたいそう驚いているようだが、私からしたらそんなことで質問をやめる気にはなれなかった。
この時の私は自分では体験することができない非日常とそれに巻き込まれた興奮でどうかしていたんだろう。だから、これが分岐点だ。
このまま速水先輩に関わらなければ私は一生安全に暮らせただろう。
「いや私にも分かんないけど……」
「そっかぁ……」
「あ、でも一つだけ心当たりがある」
「ほんと⁉どこ?教えて!」
「そこはね―――」
「ここかな……」
私の前に立つのは『お悩み解決相談課』と可愛く書かれ飾りつけされた表札が付けられた重苦しい鉄の扉だった。
まるで魔王が住む場所みたいに入ろうとするものすべてを拒否するようなそんな重圧がこの鉄扉にはある。でも勇気を出さない限り始まらない。
「怖くても進まなきゃ、だよねお姉ちゃんっ!」
昔お姉ちゃんが自分を勇気づけるために行ってくれた言葉を胸に部屋をノックしようと手を伸ばした。
その時―――
「何してんだ?」
びくりと跳ねる体。
悪いことをしていないのにまるで悪いことをしたように感じるのは彼の声のせいだろうか。
恐る恐る振り返ってみるとそこには目当ての人物がいた。
折角目当ての人物に会えたのに全然嬉しくないこの現状。
私がどう声をかけるべき迷っていると速水先輩が口を開いた。
「うちの部に何か用か?」
それはまさに鶴の一声というべきだろう。
部というよりあなたですと言いたい気持ちを抑えながら、先輩の言葉を必死に首を縦に振った。
「そうか。……でも今授業中だろ。大丈夫か?」
速水先輩の言葉に痛いところを突かれた。
そうだ速水先輩の言う通り、今は授業中だ。授業は美香が何とかしてもらって今この部屋の前に来ている。
でも、速水先輩もそれは変わらないのではないか?
「別に俺は良いんだよ。成績も問題ないし」
「なら!わ、私も問題ないです」
「ふーん。まあいいや。とりあえず用があるなら入れ」
速水先輩は私を押しのけて部屋の鍵らしきものを取り出すとそれで扉を解錠する。
「ほら入れ」
「失礼しまーす……」
速水先輩の言葉の通りに部屋の中へ入ろうとするとそれに待ったをかける声が一つ、廊下に響いた。
振り返ってみるとそれは西谷君だった。
「西谷君?」
「佐奈さん。その人とは関わらない方が良い。だってこの人は君をストーカーしていた人だから」
「は?何言ってんだお前。俺が見張っていたのは―――」
「いいから行くよ佐奈さん」
そう言って私の手を握って強引に連れていく西谷君。
私を握る手は思ってたより強くて、言いようのない恐怖を感じてしまった。
思わず速水先輩の方を見るが、先輩は私達を見て一言。
「厄介なもんに目をつけられたな」
私に聞かせる気もない一言だったのだろう。
速水先輩は私達に背を向けると足早に部屋へと入っていった。
カツカツと四つの足音が廊下へと響く。
廊下には男女がいた。
男は無機質な音を響かせ、女はどこか疲れたような左右の足がずれた音を響かせていた。やがて男女は一つの教室の前で止まった。
「入って」
「え?」
「入って」
無機質な声で男は女に教室に入るように指示をした。
それは自動音声のような何の感情も見えない声だった。いや感情を隠しているからこんな声になっているのか。
女の中で一つの疑念が生まれた。それでも誤解があったとはいえこちらを助けてくれた彼にそれをぶつけるのはどうか。
女の中では良心と懐疑心の板挟み。今の彼女はそんな状態だった。
とりあえず事態を進めようと女は教室へと入った。
今は使われていない空き教室。
体に纏わりつくような湿気と、肌を震わすような寒気が充満していた。
カチャと何かを締める音が聞こえた。
音をした方を振り返ると男が教室の鍵を閉めていた。
「西谷君?何してるの?」
女は目の前の男の行動が理解できなく、男に行動の真意を問いただす。
対する男は俯いて次第にその肩が震え出した。
「西谷君?」
女は様子がおかしい男を心配して駆け寄る。
そんな女の両肩を男は突如として掴んだ。そのまま床へと押し倒す。
女はそこで初めて男の顔を見た。
男の顔はまるで正気ではない。
目は焦点が合ってなく、どこか上の空。なのにこちらを見ていると感じられる。
口からは飢えた獣のように涎を垂らし、まるで餌を目の前に置かれ檻の中で放置されている獣のようだ。
男は女に馬乗りになるとその細い首に手を当てた。
男は口角を上げ、締め付ける力を強める。
「うぐ……っ!」
女は恐怖よりも困惑が勝った。
何でこんなことを。男がこんな凶行に及ぶような人間なわけではない。
肺が酸素を取り込むのが難しくなり、段々視界が狭まってくる。
もう少し生きたかったなと思いながら女の意識が途切れる。その瞬間、機械の認識音声のようなものが耳に届いた。
『ナベリウス』
その声と共に鴉の鳴き声が聞こえ、次の瞬間男に黒い影が突進した。
黒い影に衝突された男は扉まで吹き飛ばされ、苦悶の声を上げる。
黒い影はそのまま女の上でグルグル飛ぶと額のあたりに着地した。
ツンツンと意識の確認のようなことをされる。女は咳き込みながら大丈夫の返事の代わりに頭を撫でた。
助けてくれたのは鴉のようだ。
「すげーもん見ちまったなぁ……」
その声に女はゆっくりと声の方へ視線を向ける。
そこにいたのはフード付きに改造した制服を着ている一人の男だった。そう、
鴉は勇嗣の元へ戻り、その肩へと止まった。
勇嗣は鴉の頭を一撫ですると鴉から釘のような物が生えた小さい本を取り出す。すると鴉はあっという間に変形し、モバイルバッテリーが接続されたスマートフォンへと戻った。
それをキャッチしポケットに入れると、勇嗣は女の方へと向き直った。
「一応聞いておくけど特殊なプレイをしていたわけじゃないんだよな?」
まだまともに発声できない代わりに必死に首を縦に振る。
その様子を見て苦笑いを浮かべ、女の前に立つ。そして未だに脱力してる男に向かって一言。
「寝たふりやめてとっと起きろこのヘタレ野郎」
「あーあバレてしまいますか。ハハッ流石ですね。僕の尾行にも気が付いていたみたいですし」
「ああ、まあ逃げ足だけは速かったから俺がこの子に疑われてないか心配だったが、そんなことは無かったしな」
「本当に誤算でした。佐奈さんがこんなに純真だったとは。まあそれでこそ僕が食べるのにふさわしい」
男は何かを取り出した。それは注射器のような物。中心には禍々しい眼に瞳孔に当たる部分に何かの模様が描かれていた。
「愛ってのは恐ろしいねぇ。人を簡単に悪魔に変えちまう。あ、この場合は天使か?どっちでもいいか」
勇嗣も懐から二つの物を取り出した。
一つは手が右に伸びるように描かれ、左側にレバーのような持ち手がある箱のような物。そしてもう一つは鴉から取り出したのと同じ、小さな釘が付いた本だった。
勇嗣は箱を腰に当てる。すると箱から帯が展開し、勇嗣の腰に巻きついた。
箱は今ベルトになった。
『魔典・ゴエティア』
ベルトは地獄の底から這い出てたような声でそう言う。
その声は目の前の男に恐怖を思い出させるのに十分だった。
「へ、へへ……どんな小細工を使おうと僕には勝てない」
男は注射器を自分の首に刺した。
注射器を押し込むと、中央の目玉がぎょろりと光ると段々瞼を閉じていく。まるで目玉の力が注入されて行っているようだ。そして男の姿は変貌する。一人の人間から一匹の怪物へと。
一瞬男は苦悶に満ちる顔をしたが、それも徐々に力が手に入る万能感に溺れていった。
それは赤い鎧を纏った騎士だった。だが鎧は溶け融解し、肌と一体化している。
ボロボロになったマントを着けている姿はさながら亡国の騎士と言ったところか。
勇嗣は左手にさっきの本を構えた。釘の部分を左に押し当て右手で釘を押し込んだ。
十字の傷の中心を貫くように釘が貫通する。だけど勇嗣が痛みに苦悩することはない。
もう何十回いや何百回受けてきた痛みだ。いちいち取り乱すことはない。
左手から血が噴き出る。それに伴い十字の傷が開き太陽のような模様へと変化した。
『■■■』
言語にもならない言葉を本が出した。すると現れた太陽の模様を起点に黒い炎のようなものが勇嗣の左半身を埋め尽くす。
それを確認すると勇嗣はベルトの右側に本を差し込み、床に垂れた血を飛ばす。
床に芸術的な血飛沫を作られた。
『Read?Read?』
勇嗣は迷うことなくベルトの内側にあった本の背を外側へと回転させ、左手でレバーを引いた。
『Read■■■ Loading』
「すぐ終わらせる。だから安心して眠れ佐奈―――変身」
床に作られた血飛沫はそのまま壁のように盛り上がり、波のように男を襲った。
どうして私の名前を……?
その疑問は言葉に出されずに女の意識は徐々に失っていく。
命の危機から解放されたことによる安堵で張りつめていた緊張の糸が途切れたのだろう。
薄れゆく意識の中で佐奈が見たのは、純白のマフラーを巻いた仮面の戦士だった。
次に目が覚めたのは保健室のベットの上だった。
外は明るくまだ太陽は沈んでいなかった。
あれは何?夢?
西谷君が私の首を絞めて、それで速水先輩が助けてくれてそれで……
「痛ッ!」
痛みがした方を見ると手首が手形の痕を作っていた。
西谷君に握られたところだ。もしかして……
慌てて姿見で全身を見てみると、首に手形が残っていた。
「じゃああれは現実?」
ふと思い出されるのは御都の都市伝説。
ヒーローと化け物。まるでおとぎ話のようなだと思っていた話が本物だった。目の前で見たんだ。
高揚感に支配されそうになるがそこで理性が待ったをかける。
「でも、そういえば……」
速水先輩、左半身が刺青入れた人みたいになってたよね。
思い出されるのは両親を失った12年前の火事。
断片的な記憶だがはっきりと覚えていることがある。
それは左半身が刺青のようなものがあった男がいたということ。
速水先輩、あの男がもしあの火事の現場にいるのだとしたら……
「問い詰めなきゃ」
少女は決意を新たにし、保健室を出た。
それを物陰から見ている人影がいた。
「チッ……」
その人影は速水が持っていたような小さい釘が付いた本を持っていた。
暗い部屋で一人ノートパソコンで何かを見ている者がいた。
画面が忙しなく動いていることから動画ということが分かる。
動画に映っているのは二人。
黒髪のボブで10人の内9人は美人というであろう女の子と茶髪で制服を改造してパーカーを着ているこれまた容姿が整っている男の子。
二人は楽しそうな顔をしながら部屋を飾りつけしている。
『おーい勇嗣。動画なんて撮ってないでお前も手伝えっての』
『アハハごめんごめん』
そこで動画の再生が終わる。
動画を見ていた者は深い息をつくと椅子にもたれかかった。
「優奈。お前の大事な妹は守れたよ。これで佐奈は関わることはない」
「あいつをそそのかした犯人は佐奈に手を出す前に必ず俺が止める。だから安心してくれ」
机の上にはノートパソコンの他に皿に盛られたカルボナーラがあった。
それをフォークで巻き取り一口。
「マズいな……やっぱりお前が作ったのじゃなきゃ全部マズい」
そう言いながらカルボナーラを完食。
ノートパソコンを閉じて速水は部屋を出ていった。