テーブルを囲んでシズコ、フィーナ、アスハ、そして私は着席していた。聞いたところ、ウミカはあるお祭りの最終準備のため現地にいるという。
「へぇ、夢の正体を知りたくて調べて回ってるんデスか?」
フィーナの言葉に私とアスハは頷く。ただ、調べ回ったといっても、今のところは陰陽部に行って資料を調べてもらっただけではあるけど。
「うーん、私には夢占いの心得はないのでよく分からないですが……」
「"……ですが?"」
シズコが何か言いかけたので私がそう尋ねると、彼女は看板娘スマイルで答える。
「お祭りに行けば、何か分かるかもしれませんよ♪」
「お祭り?」
アスハが聞き返すと、シズコは続けて説明する。
ニヤから聞いていた通り、今日から2日間百鬼夜行の
その名前は地域名からそのまま「
「"……もしかして。"」
「はい、さっきの魑魅一座はそれに反発して妨害していたんだと思います」
シズコがやや居たたまれなさそうにそう言うと、アスハが口を開いた。
「でも、さっきの見とったけど、当日になって騒ぎ出すなら元からそんなに興味なかったっちゃない?しかも祭りの名前間違えとったし」
「そうデスよ!ワタシたちはずっと前から準備してマシタし、今さら言われても困りマス!」
そう毅然と言い放つフィーナを嗜めて、シズコは新唐祭についての説明に戻った。
新唐祭、そして新唐地区は元々は違う名前だったという。しかしとある事故できょうだいが犠牲になってしまい、彼らを忘れないために集落の名前を「はらから」と改めた。
さらに単に「大祭」と呼ばれて三十年に一度開かれていたお祭りを、規模を縮小する代わりに毎年開いてきょうだいを弔う「はらから祭」とし、「はらから」が訛って「
「"数百年続く伝統的なお祭りなんだね。"」
「はい、でも賑やかなお祭りの方が、その犠牲になった子たちも楽しめると思うんです。なので、無事に祭りを終えられるよう先生に見守ってもらえたらシズコ、嬉しいなって♪」
なんだか上手く丸め込まれたような気もするけど、特に断る事情もないので頷く。しかし、アスハはふと何かを思い出したようで。
「あれ、そういえばシズコちゃんは『祭りに行けば何か分かる』って言っとったけど……」
「ふふ、お祭りと言えば老若男女様々な人が集まる場。そこで聞き込みをすれば効果的だと思わない?」
シズコのその返答にアスハは納得した様子で、それから私たちは軽食を注文して小腹を満たし、百夜堂を後にした。
◇
当初陰陽部の次に行こうと考えていた百花繚乱へ紆余曲折ありながらようやく到着したけれど……。
「あれ、先生。そっちから来るなんて珍しいね。それと、料理研究部の部長……?」
「うん、先生はアタシが呼んだっちゃん。どうしても気になることがあったけんさ」
「……ふーん」
キキョウの無言の鋭い視線がこちらに突き刺さる。何も悪いことなんてしてはずないのに背筋が冷えるような感覚がする。
「"そ、そういえば他の百花繚乱の生徒たちは、あれからどんな感じかな?"」
沈黙に耐えかねてそう切り出すけれど、キキョウの様子は変わらず。
「……百花繚乱解散が撤回になって出戻りした子もいるし、新たに入った部員もいて少なくとも人数は回復してきてるよ」
戦力的にはまだ不安があるから鍛練を積まなきゃだけど、と彼女は溢すけれど、ひとまず建て直しは順調そうで安心した。
「今何やってるか?ユカリはナグサ先輩たちと鍛練の最中、あの子は本当に吸収が早いね。私たちにはまだ敵わないかも知れないけど、着実に強くなってる」
レンゲは少し前に通報を受けて百鬼夜行の中心部へ行ったらしい。おそらく百夜堂前での騒動だろうか、結局百花繚乱が来る前に当事者の私たちで終わらせてしまったけど。
そうしてともかく、もうすぐで戻ってくるだろうと言うことで……と。
「お、先生と……アスハ部長?何か百花繚乱に用事でもあるのか?」
ちょうど本人が姿を見せた。どうやらアスハは彼女と面識があるらしく、その声を聞くなり振り返って手を振る。
「レンゲ
「うわ、ちゃん付けはやめろって!ああ、元気だよ」
体験入部……というと一時百花繚乱を抜けて青春を送れる部活を探していた時だろうか。色んな部活を見て回っていたみたいだけど、料理研究部もその内の一つだったらしい。
「……で、結局百花繚乱には何の目的で来たの?」
ため息を吐いたキキョウに促されて、私はアスハが見た夢のこと、そして夢が何を意味するのか探るために百鬼夜行の中を歩き回ったことを話した。
「それで、事件とか事故について調べるためにここへ?」
「"そうなるね。"」
彼女は少し考え込んで、そして。
「まあ、『燈籠祭』の時のこともあるし一応調べてみるけど……あんまり期待はしないでね」
そうして資料を探してもらっている間、レンゲに連れられて百花繚乱の鍛練の様子を見て、ナグサやユカリたちと話をしているとキキョウが戻ってきた。
「……火事の記録を調べたけど、戦乱時代以前のものは途切れ途切れでそれらしきものは見当たらなかった。他の資料も見たけどめぼしいものはなかった」
心なしか少し落ち込んでいるように見えるキキョウに、私がかけるべき言葉はもちろん。
「"うん、忙しい中時間を割いてくれて本当に助かるよ。ありがとうキキョウ。"」
「……はぁ、全くあんたって人は」
そう言ってフッと笑ったキキョウ、そして他の百花繚乱の部員たちに見送られ、私とアスハは少しずつ朱色の射す空の下を歩き出した。
◇
「そういえば先生、今日一日中付き合ってもらっとったけど大丈夫やった?忙しいっちゃないと?」
「"ううん、平気だよ。生徒のためならいつだってどこへだって行くつもりだからね!"」
夕焼けに染まり暗くなりつつある山道を二人で往く。新唐祭で可能であれば聞き込みをして、それでも手がかりを掴めなければまた明日調べるということになる。……と言っても、特にあてもないのだけれど。
そんな風に頭の中で予定を立てながら、ザッザッと土の道を踏みしめ、もうそろそろ新唐地区に着くというところで。
「あ、ああ……!ここ、は……!」
アスハが突然立ち止まったかと思ったら頭を抱えてうずくまり、そして立ち上がったかと思うと私の方に目もくれず山の中へと駆け出した。
「"アスハ!?"」
◇ ◇ ◇
『双子は縁起が悪し』
『双子が生まれたら引き離すべし』
いつからあるのかもわからない、この村の言い伝え。父を見たことがない、この身の上も。まだ私たちが幼いうちに母が亡くなったことも。全部私たちが双子だったから?
──全く馬鹿げてる、下らない。
例え私たちが不幸なのが双子だったからだとしても、離れる気なんて起きっこない。大切なたった一人の家族なんだから。
私たちは迷信のことなんて信じちゃいなかったけど、村の大人はそうじゃなかった。私たちが双子だってことが知られればきっと引き離されるだろう。父や母のことも「それ見たことか、双子は縁起が悪いんだ」と切り捨てるだろう。
それが嫌だったから、私たちは一人の振りをした。家の近くの荒れ地を耕して、自分が暮らせる最低限の食糧を作って、川魚を釣って、たまに村の店に物を買いに行く時は一回ごとに交代して、それでなんとか暮らしていけた。
大人になったら村を出て、もっと大きな町へ行こう。少なくとも、双子と言うだけで後ろ指を指されるような場所じゃないところへ。そう誓いあって、ずっと生きてきた。
「ねえ様、ねえ様、今度『大祭』があるそうなのです」
「大祭?」
買い物から帰ってきた妹が聞いたところによると、三十年に一度開かれるというこの村の大きな祭りらしい。何の目的があるのか、などは聞いてこなかったらしいけれど。
「そうね……なら大祭の時は
私は姉なのだから、こういう時は妹に楽しんでもらいたい。そう思って譲ろうとしたのだけれど、妹は首を横に振る。
「ねえ様、ねえ様、あたしはねえ様と一緒に行きたいのです」
「私と?駄目に決まっているでしょう、双子だと知られるわ」
村の大人に引き離されて離ればなれになるくらいなら、行くのを我慢した方がマシだ。妹も同じ気持ちだと思ったけれど、どうやら違うらしい。今までずっと、意見が違うことなどなかったのに。
「ねえ様、ねえ様、次の大祭は30年後なのですよ。生きていられるかも分かりません」
「それはそうだろうけど……そんなに私と行きたいの?」
妹は「はい!」と首を縦に振る。双子の姉である私がいることで彼女にはずっと苦難を強いてきただろうに、それでも私と行きたい……?
……今日はなんだか、変な気がする。妹と考えが合わない、妹の考えていることが分からないなんてことは記憶にある限り一度もなかった。
◇
そんなもやもやした気持ちを抱えながらも大祭に二人で行くことにし、そして当日。
「てめえら、双子だったんか!」
「儂らを騙しとったんか!?」
二人で交互にうまく立ち回りながら大祭を楽しんで、夕暮に闇に紛れて帰ろうとしたところで、見つかってしまった。
捕まれば私たちは離ればなれになる。だから、逃げた。足場の悪い山の中まで、ひたすら逃げた。
「風が強い……っ!?」
風が急に強くなり、ふと辺りを見回すと後ろから赤くちらちらと光るものが見える。あれは、火だ。
「篝火が倒れて火が着いたのかしら……こっちよ、妹」
「はい、ねえ様っ……!」
火の見えた方向から離れるように駆けていくけど、そうこうしているうちに迷い、自分たちの家はもちろんのこと、村への戻り方も分からなくなって、そして。
「前からも、火が……!?」
私たちは火に囲まれ、逃げ場がなくなる。服越しに肌にまで熱が伝わってくる中、妹が袖を引く。
「ねえ様、ねえ様、あたしたちはこれまでのようです」
「そのようね、妹……」
私が我慢して、妹を諭して、一人だけで行かせていれば。……いいや、そもそも私が生まれず妹だけ生まれてくれば。そう自責していると、妹が私に力なく体を寄せる。
「ねえ様、ねえ様、あたしは──ねえ様が好きです」
「どういう、こと……?」
私が、好き?こんな時になんでそんなことを言うのかというのもあるけれど、それ以上に妹が私のことが好きだったというのが驚きだった。
「あたしには分かるのです、ねえ様は『私なんて生まれなければ、そうすれば妹にこんなに苦労させなくて済んだのに……』そう思っていると」
「それは、双子だから?」
双子だからか、関係ないのかは確かめられないけれど、私たちは互いの想っていることがなんとなく分かる。その事を冗談めかして言うけれど、妹は優しい表情ながらも真剣な雰囲気で言葉を紡ぐ。
「もちろん、そうです。でも、ねえ様がそう思っていたとしても、あたしはねえ様がいてくれて心の底から良かったと思っているのです。こんなに素敵な姉がいてくれて」
互いの思っていることはなんとなく分かる。でもそれは一部のことでしかなかった。妹が私のことをこんな風に思っていたなんて、全く知らなかった。私も妹も違う人間で、完全に同じ存在ではない。その事に、今になって気付くなんて。
「あたしは、ねえ様からたくさんのものをもらったのです。だから……」
妹はそう言って印を結び、私の頬に口づけをしてか細い声でささやく。
「来世では、あたしの分まで幸せになって、ねえ様」
「妹……」
煙を吸ったせいだろうか、意識が遠退き始める。もう長くないようだ。
「ああ、でも……あたしのことは迎えに来てほしいのです。約束ですよ」
「分かった、わ……」
互いの体に寄りかかり、手を繋いで瞼を閉じる。そうしてまもなく、意識を手放した。
◇ ◇ ◇
「"アスハ!!"」
道もない山の中を追って、立ち止まったアスハに追いつくけど、彼女は間もなくしゃがみ込み、嗚咽を上げる。
「うあぁっ……ぐすっ……なんで……!」
さらに地べたに手を着き、ひたすら彼女は泣く。
「
(ねえ様……)
ふと、女の子がアスハに向かって呼びかける声がする気がして、上を見上げる。そこには何も見えなかったけれど、誰かがいる気がした。
「ごめん、ね……ごめん、なさい……!」
(やっと、迎えに来てくれた……ふふ、まあでもそこまで気にしてないのですよ)
その声は、アスハを抱くように穏やかに響いてくる。
(これからもずっと、あたしの分まで幸せになってください、ねえ様)
それだけ言うと消え、そこにはアスハの泣く声だけが残る。私はしばらく彼女が落ち着くまで待って、声をかける。
「"アスハ、気分はどうかな?"」
「……うん、もう大丈夫やけん。夢のこと、全部分かったよ」
そこにはいつも通り……と言っても一日しか一緒にいなかったから、本当にそうかは断言できないけれど、とにかく調子の戻ったアスハがいた。
「……ねえ、お祭りに行く前にやりたいことがあるっちゃけど、よか?」
「"私にできることなら何でも手伝うよ。"」
そうしてしばらく、すっかり暗くなったので念のため持ってきた懐中電灯で照らしながらアスハのやりたいことを手伝い、そして。
「できた……こんなのしか出来んくてごめんね、次来るときはもっと立派なの用意するけん」
そこら辺からアスハが引きずってきた細長い岩を縦にして設置し、鋭く硬い石で文字を彫って、たまたま持ってきていたらしい調理用の炭で彫った部分に炭入れして……アスハが前世で双子の妹と共に尽きた場所に墓標を造り上げた。
二人で手を合わせて、妹が救われたことを祈りながらその場を後にする。
◇
「あ、先生!お久しぶりです!」
「"やあ、ウミカ。お祭り準備頑張ってたみたいだね、お疲れ様。"」
集落の入口で受付というか、警備というか……出迎えをしていたウミカに挨拶をする。
「あの……アスハ部長もそうですが、なんだか所々土汚れが付いていますがどうしたんですか?」
「ちょっと転んじゃったとよー。ね、先生」
「"うん、ちょっと山道が険しくてうっかりね。"」
ウミカは私たちの答えに特に怪訝に思う様子もなく、それでは足元に気をつけてお祭りを楽しんでください、と私たちを見送った。
その後は屋台を巡ったり、奉納演舞を鑑賞したり、学生アイドルのステージを聴いたりと、新唐祭を
……までは良かったんだけれど。
「すみませんね、あと一部屋しかなくて……」
「"だ、大丈夫です……。"」
もう夜も遅いし集落の宿に泊まって明日出ようと思ったら、数件ある宿屋はほぼ全て埋まっていて、空いているのがこの宿の狭い一室しかなかった。
とりあえず部屋に入って、私は押入から布団を出したら中に入り、一応持ってきていた寝間着に着替えたけれど、もう一人はというと……。
「"えっと、アスハ……?"」
「恥ずかしいけん、あんま見らんでね……」
彼女が敷いた布団の上で、掛け布団とは別に用意されていたらしい毛布にくるまって顔を赤らめている。ふと視線を横にやると、壁と布団の中間辺りの位置に丁寧に畳まれたセーラー服が置かれており。
「"え、もしかして今って下……。"」
「言わんでよか!!」
そう少女が叫んで、しばらくの間沈黙が場を支配する。その数秒とも数分とも判断しかねる時間の後、再び彼女が口を開いた。
「先生も、こっちで寝るやろ……?」
「"え、それはさすがに……私は押入でも大丈夫だよ?"」
下着に毛布を纏っただけの女の子と一緒の布団で寝るのは色々と不味いと思う。いや、生徒相手だから間違いを起こす気はないのだけど、世間体的にというか……。
「アタシだって先生を押入に押しやって一人で寝るとか図々しいことできんし、それに……寂しかけん……」
「"まあ私も押入よりは布団で寝たいけど、本当に大丈夫……?"」
昼間の元気で明るい様子が嘘みたいに、彼女はしおらしい雰囲気でただ頬を染めて頷く。
「"じゃ、じゃあ……嫌だったらいつでも言っていいからね!"」
私がそう言って恐る恐る布団に入ると、アスハも背中を向き合わせて隣へ来た。
「……先生なら、嫌じゃなかよ?」
そう消え入りそうな声で呟いたのを聞いて、私は眠ろうにも眠れそうになかった。しばらくしてアスハが寝息を立て始めても一向に眠気はやってこず、しかも。
「ううん……えへへ、楽しか、よ……ありがと……すぅ……」
アスハが寝返りを打ち、その柔らかく大きなモノを押し付けられる形になったせいで、私は結局翌朝まで目が冴えたままだった。
◇
朝になり、アスハが起きてきたら私はすぐに押入に退却して着替え、彼女も制服を着たのを応答で確認したら布団を片付けて宿を出る。
祭りの二日目、昨日は遅い時間に来たので余裕がなかった分、ゆっくりと屋台を見て回ってお土産を買い、昼前には集落を後にする。そして欠伸をしながら山道を進み、百鬼夜行の中心部近くまで戻り、そして昨日降りた駅に到着した。
「色々ありがとうね、先生!先生のお陰で大事なものが見つかったけん」
「"アスハの夢のことについては、他の皆には私から話しておくね。"」
陰陽部やお祭り運営委員会、百花繚乱……今回頼った場所には、アスハからより私からの方が通じるだろうし。
「ほんと?何から何まで頼って申し訳なか……」
「"気にしないで、生徒のためだから。"」
私がそう言うと、アスハは少し悩んで、何かを思い付いたように晴れた表情で言う。
「じゃあ、また百鬼夜行に来ん?今度は料理研究部として、腕によりをかけて先生をおもてなしするけんさ」
「"アスハの料理か……楽しみだね。"」
料理研究部で部長を務めている彼女のおもてなしか……想像するだけでもワクワクする。
「アタシだけじゃなかよ、部の皆全力で出迎えるけん!じゃ、またいつかね、先生!」
「"うん、またねアスハ。"」
再会の約束をして、私は手を振るアスハに別れを告げて百鬼夜行からD.U.地区へ向かう電車に乗るために駅の中へと入っていった。
ちなみにアスハはウマノアシという福岡県の妖怪をモチーフとしています。夜、塀の内から路上まで伸びている木の枝に馬の脚がぶら下がっていて、それに気づかず下を通ろうとすると蹴飛ばされるそうです。
アスハに馬耳や馬の尻尾があったり、最初木の上で待っていたり、相手を蹴飛ばしたりといった描写はウマノアシからですね。
あと簡略化してないプロフィールは活動報告の方に追記することにしました。