邪神ぽいのになったけど頑張って人間のフリするゾイ!   作:九条空

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リハビリ


一日之長

 死んだ後、たぶん人間じゃない何かに生まれ変わった自分は、宇宙を漂い彷徨っていた。

 いろんな銀河の創成を眺めながら幾星霜、数多の時間を過ごしても意外と発狂しねんだなワハハと呑気に構えていたが、かつて人間であった記憶がある以上耐えがたい欲求に悩まされ続けた。

 

 つまり、暇! なのである。

 退屈なのだ。ここには自分しか意識を持った生命体がおらず、会話をすることもできない。

 そこで俺は宇宙を自分の意志で漂えるように自己改造を施し、かつての故郷・地球を探す旅に出た。

 時間の感覚をとうに失っていたため、その発見にどれほどの時間がかかったのかはわからないが、俺は地球そっくりの惑星を発見した。多分本物の地球だと思う。かつての人生では家に地球儀があるタイプのご家庭ではなかったため、大陸の位置の細かいところまで覚えていないが、遠い記憶の上ではこの通りであったように思う。

 

 とにかく地球を見つけて大歓喜した俺だったが、見つけた瞬間に問題があることに気がついた。

 今の俺、全然人間じゃねえ! ということである。

 

 悠久の時を過ごし始めた序盤、そこにあるものが己の体しかなかったため、その時に観察しつくしてしまったからこそ、ここにくるまで改めて思考に登らなかった。

 かつて人間だった頃の俺が今の俺を見たら、モンスターとかクリーチャーとか、そういう類の分類をするであろう醜い姿なのである。邪神とか言われそうな風体なのだ。宇宙から来てるし、クトゥルーな感じの、見たらSAN値が1d10/1d100で失われそうな、平易に言えば視界に入れた瞬間正気を一瞬で失う可能性のある、非常にやっべえ感じの異形なのである。

 

 しかしやっぱり今の自分は人間ではないので、人間にはできないことができる。

 つまり身体改造、人間に見た目を寄せるのだ。

 人間そのものにもなれそうな万能感、それだけはあった。

 俺は相変わらず時間感覚というものを失っていたので、何秒何時間何千年かけたのかは一向に不明だが、こうして人間に擬態する能力を手に入れたというわけである。

 

 今にして思えば、地球にはかつての俺が知っている人間の形をした生命体が暮らしているのかとか、言語はどういうものなのかとか、そういったことを調べてからやったほうがよかっただろ、とは思うのだが、何せ俺は時間感覚を失っていた。

 時間感覚を失うということはつまり、効率について考える力を失うということに等しい。

 そうした方が早いじゃん、という思考はないのだ。やれるからとりあえずやっておくのだ。

 

 人間に完全に擬態した俺は、とりあえずかなり人口密度が多そうな地域にひょいと降り立った。

 もちろん人間はサイヤ人のように宇宙からきゅいーんと飛来しないことは覚えていたので、誰もいない路地裏に瞬間移動してきた。サイヤ人のように。見られなければサイヤ人であることはバレねんだ。

 

 俺は生粋の日本人であったので、そこが日本でないことはすぐに思い出せた。

 何か多分……アメリカ! アメリカっぽい! 海外といえばアメリカだからだ。

 俺は自分が本当にちゃんと人間になれているか若干不安だったが、そんな不安を持っていることがバレたら当然普通の人間には見えないので、全然普通なフリをしてその辺を練り歩いた。

 

 そうして歩くうちに、やっぱりここはアメリカ、そしてニューヨーク(めっちゃ聞いたことがあるので俺は安心した)であることを理解した。

 これは通行人が話しているのが英語であることがわかり、そのうえで英語という言語を覚えたからだ。

 前世では外国語を話せるような勤勉な人間ではなかったが、今の俺は人間じゃないので覚えが異様にいいのだ。

 人間だったら天才と言われるやつだ。人間じゃないので化け物とか言われるやつだった。

 

 人間についてよく観察し、自分の人間らしさをさらに磨こう、社会体制とか勉強しなおそう、と道行く人々の会話から学習していた最中のことである。

 俺が人間だった頃の常識にあわせて考えた場合、ありえないことが起きた。

 これはのちにNY大崩落と呼ばれる未曽有の災害であったことが判明するのだが、当時の俺はあまりピンと来ていなかった。

 人々が叫び逃げまどい、建物が崩壊しては宙を飛び交い、霧がどんどんと濃くなり続ける中、人間の真似をしておくかという浅い考えで、とりあえず真顔で走っていたくらいだ。どこに走ればよいかもわからなかったが、周囲の人間たちもわかっていなかったので、俺だけわかるわけにもいかなかった。

 

 そうして一晩が経ち、覚えたての街の様子が著しく変わり、人間ではないものがすっかりなじんで生活しているのを目の当たりにして、ようやく俺はこの状況に既視感を覚えたのである。

 なんか、漫画で読んだことあるかもォ……。タイトルは血界戦線だったかもォ……。

 

 今生きている世界が、かつての生で紙面上に描かれていようが、些末なことであった。

 本気を出せば未来予知とかもできちゃいそうな今の俺にとっては。まあそんなこともあるかという程度のことである。

 

 人間とそうでないものが入り混じる街は、俺にとってメリットとデメリットが両方あった。

 人間でないものが当然存在している街で、己が人間でないことがバレてもそこまで問題がない、というのがメリットだとすれば、デメリットは、人々が人間でないものを見慣れているせいで、己が人間でないとすぐに看破されてしまうということである。

 しかし俺は強い子であるので、デメリットもすぐにメリットに変えることができた。

 つまり、俺は学べるのである。こういうふるまいは人間でないと思われる行為だということを。

 

 というわけで俺がこのNY――今は名を変えヘルサレムズ・ロット――に降り立ってからたったの数年(一年を数えることができるようになった、この進歩を見てほしい)で、この俺はもうすっかり人間としての立ち振る舞いを完璧なものにしていた。

 

 完璧なものにしていたはずなのであった。

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