邪神ぽいのになったけど頑張って人間のフリするゾイ!   作:九条空

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茶飯 下

 未だにちょっとぽかんとしているレオに、俺は耳打ちした。

 

「これは、Jとして知る由もないことなので内密にお願いしたいことだが」

 

 アポロが置いていった名刺、そこに刻印されている複雑な紋章を指さす。

 

 おそらくこれだろう、世界を瞬きで滅ぼせるクラスの神位存在を呼び出す魔方陣の断片、というやつは。

 そしてアポロから俺が事前に聞いていた、解析したら出てくるちょっとしたお礼の言葉、でもあった。

 その文様はラテン語の崩し文字でgratias ago tibi(ありがとう)と読めるようになっていたのだ。

 まあ、それはいい。

 

 声を潜めて――ちょっとばかし魔術的な防音を使用して――俺はこう続けた。

 

「この魔方陣、ちゃんと完成させたら()()()()ヤツだ」

「う~わ」

 

 レオが思い切り体を引いた。

 俺は眉を下げ、やっぱり今言ったことをナシにしてしまおうかな、という誘惑と戦った。

 だからその、つまり、世界を瞬きで滅ぼせるクラスの神位存在、というのが俺なのである。

 

「本物の信者なんじゃないんすか?」

 

 俺は首を横に振るだけで、レオの問いに答えた。

 そんなことは、俺の()()()()知覚であっても認識していない。

 

 神位存在というのは、普通に存在しているだけで崇められても不思議ではない。

 だからこそ、俺は普通には存在していない。

 できる限りその身を隠し、すべての目を欺こうと、かなり上手に人間のフリをしてきた。

 

 ついこないだあった()()()()()()()()により、俺の存在はもう少しばかり有名になってしまっただろうが、それでもあの場にいたライブラ以外の()()()バレるような迂闊なことはしていない。

 

「どこまで知ってたんでしょうか、アポロは」

「さすがに偶然だと思う」

 

 そうでないのなら――アポロのあまりの優秀さ、と考えるよりは、この俺にちょっかいをかけたい他の神位存在、について考えなければならなくなる。

 嫌すぎるので、すべてを偶然で片付けてしまおう。

 俺は頭をガシガシかき回しながら、人間に言うには壮大すぎる愚痴を呟いた。

 

「初めて知ったんだけど、俺って喚ばれることあるんだなあ。すんごい困るかも。保留に出来るだろうか。大事な会議中とかだったら困るよ」

「一世一代の邪神召喚で、通話中みたいな処理されたらショックでしょうね」

「え~? じゃあ端末とか送り込んでいいのかな。眷属とか……」

「いるんすか?」

「いない。レオ、なる?」

「給料出ますか?」

「出すよ、時給として寿命1000年追加で」

「逆にデメリットじゃないすか?」

「あれ?」

 

 レオに言われてはじめて、生き過ぎることが苦痛に感じるかもしれないことを理解した。

 ()()()()()()意外とそれほどの苦痛でもないのだが、やる前にそれを判断するのは難しいだろう。

 

「じゃあ福祉で、長い人生に耐えられるだけの精神耐性を……」

「俺はやりませんし、他の人に提案もしないでくださいね。特にザップさん」

「失礼のないように代わりの誰かを送ろうとしてるんだから、ザップには頼まないよ」

 

 しかし、レオが他には言わない方が良いというのであれば、そうなのだろう。

 俺は彼がなぜそう言ったのか、理解できる日が来るまで、もう二度と同じ提案をしないことに決めた。

 

 盗聴防止に展開していた場を元に戻し、いつものJに戻った。

 テーブルにお金を置いて、立ち上がる。

 

「じゃあ、俺はクラウスのお見舞いに行くついでにこの手の治療をしてもらいに行ってくる」

「……忘れてた! 大丈夫っすか!?」

 

 ザップが己の血液で作り上げた刃を握って止めたせいで、俺の手のひらは焼けただれている。

 皮膚はつっぱり、握ったり開いたりするのは困難だ。

 

 人間って本当に器用だ。やっぱり彼ら、なんでもできるんじゃないのか?

 俺もあのくらいならやっていいってことなのか。今までが人間を見くびりすぎていた?

 まあしかし、少なくともJの人生では、血液を剣にすることも、血液を発火させることもないだろう。

 

 傷を心配するレオに、正直に告げる。

 

「うん、めちゃくちゃ痛いよ。明日のテニス大会はキャンセルだ。泣いた方が良いかな」

「痛みに泣きわめくJ、ちょっと解釈違いかも」

「参考までに、どんな解釈してるのか聞かせてくれよ。頑張って再現するから」

「大会に参加できない悔しさの方で泣くならアリだと思います」

「……」

 

 ……なんて難しい解釈なんだ。

 

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