邪神ぽいのになったけど頑張って人間のフリするゾイ!   作:九条空

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二河白道

「はい、いつもの」

「ありがとう」

 

 いつもの、で通じるメニューを受け取る。

 俺はいつも来ているダイアンズダイナーというカフェで食事をとっていた。

 すっかり人間的な振る舞いを習得していた俺だが――一番最初の記憶は人間であった頃なので、人間的な振る舞いを思い出してきたと言った方が正確なのかもしれない――食事のたびに妙な感動を覚えていた。

 これほど頻繁に食事をとらなければ死んでしまう生物たちが毎日しっかり生をつないでいることへの感動とか、別に食わなくても死なないんだけどこの食事を楽しいと思えている自分に対する感動とか、そういうものである。

 

「相変わらずおいしそうに食べてますね、J(ジェイ)

 

 ハンバーガーにかぶりついていたところ、馴染の声が聞こえたので、俺はハンバーガーを持ったまま振り向いた。ちなみにJというのは今の俺のニックネームである。これが結構気に入っているのだ。

 

「うん、ふぁいふぇいふぇんえ」

「食べ終わってからにしろよ汚ぇな」

 

 俺はこのカフェの常連だが、彼らもそうと言って差し支えない。

 いつも丁寧な物腰のツェッドと、いつもチンピラのような振る舞いのザップである。

 見るたびに面白い組み合わせだなあと思うのだが、彼らの交友関係がどのようなものから始まったのかについては未だ聞いていない。

 今のJという人間としては、勤勉・素直を心掛けているため、言われたとおりにハンバーガーを咀嚼して飲み込んでからもう一度言った。

 

「うん、おいしいからね」

「オレも同じの」

「はいよ」

「今日はレオはいないのかい?」

「後から来ますよ」

 

 レオ――レオナルド・ウォッチは彼らと同じくこのカフェの常連で、彼らの友人、あるいは同僚である。

 

「借りていたゲームの感想を話そうかと思っていたんだ。それならよかった」

 

 そして俺自身の友人でもある。

 俺が今のJという人間を気に入っているのは、交友関係がうまくいっているという自負があるからでもあるのかもしれない。レオやツェッド、ザップに限らず、結構友人が多いように思う。少なくとも前回の人間のフリよりは。

 

「オタクくんどものグルーミングに俺を巻き込むんじゃねえぞ」

 

 ザップがオエーっという顔をしながらそう言ったのに対し、俺とツェッドが返事をしようとする前に、ダイアンズダイナーのドアが開いた。

 開いたというのは適切ではなかった。正しくはドカンという大きな音とともに蹴破られたのである。

 

「強盗だー!!!!」

 

 急展開、というわけでもなかった。

 カフェの中でキャー、という悲鳴を上げたのが数名、他ほとんどの客はまたか、という顔をしている。これは常連に限らず、つまりHLの住民であれば、食事時に「強盗だ!」とドアが蹴破られるような体験は何度もしてきているという証明であった。

 ツェッドは席から立ち上がろうとしたが、俺は「まあまあ」と彼を席に戻した。代わりに俺が強盗の元へ行く。

 

「なんだあんちゃん、正義の味方でも気取るつもりか?」

「いやいや、そんなつもりは毛頭なく」

 

 威嚇してくる強盗に対し、笑って手を振る。

 正義の味方をやるつもりなら、先のツェッドを止めはしないだろう。

 

「欲しいのはお金?」

「あたりまえのことを聞くのがブームなのか?」

「いや、欲しいのは命だって言われたら、大人しく悲鳴を上げて逃げるつもりだっただけだよ」

 

 そういうタイプの殺人者も結構この街には多いのだ。そうでなくてよかった。

 

「このくらいでどうだろう」

 

 俺はポケットから札束を取り出して、強盗の手にポンと乗せた。

 強盗は一瞬ひるんだが、再び口を開こうとしたのが見えたので、俺はさらに札束を一束乗せた。

 

「どうだ」

 

 ここらで客席の方からザワついた雰囲気を感じる。

 こういうのはアレだ、ちょうどオークション会場なんかで感じるような空気感である。

 強盗が再び口を開こうとしたので、俺はその前に、もう一束札束を乗せた。

 

「どう?」

 

 強盗が再び口を開こうとしたので、俺は札束をもう一つ乗せようとポケットに手を突っ込んだところで、後ろからの奇襲を受けた。

 

「アホがァ! こんなヤローに渡すならオレに寄越せよ!」

 

 ザップである。

 日本の漫才師がやるように頭部をぴしゃりと叩かれたので、俺は札束を持ったままの手で殴られた自分の頭を押さえた。

 

「いつも奢ってあげているじゃないか」

「それでハンバーガー何個買えんのか計算してんのか!?」

「ザップ、そういう計算ができないとね、これだけの札束を稼げないんだよ」

「おかしいこと言ってんのはオレか?」

 

 ザップが客席を煽る。客たちはザップの剣幕に押されたのか、皆一様に首を横に振った。

 ザップは振り返って、強盗に再び同じことを聞いた。

 

「オレはおかしいこと言ってんのかって聞いてんだよ、ア!?」

「俺ェ!?」

 

 急に絡まれた強盗は素っ頓狂な声を上げた。

 

「強盗だっつってこんなに札束が出てきたことあんのかオメー」

「いや銀行だったらあるけどよ」

「そういうこと聞いてんじゃねえだろ!」

「すんません!」

 

 強盗が恐喝されている。ちょっと可哀想だ。

 

「つーわけでJちゃんよ、オレが強盗を退けたらこの札束をオレにくれるっつー話はどうだ」

 

 俺が口を開こうとしたところで、ドアに向かって強盗が吹っ飛んでいった。

 振り向けば、俺が座らせたツェッドが、先ほどまで持っていなかったトライデントを構えて憤慨している。

 

「駄目に決まっているでしょう」

「おい邪魔すんな、あと一秒あればこいつはうんかああを言ってただろうが」

「ツェッドさんナイス!」

 

 ツェッドを褒めたのは、いつの間にかダイアンズダイナーの崩壊したドアから顔を出していたレオである。

 俺は彼に会えたのがうれしくて、札束をパタパタと振った。

 

「レオ、こんにちは」

「普通に挨拶してる場合か?」

 

 このツッコミはダイアンズダイナーの看板娘、ビビアンから飛んできたものである。

 俺は確かに、と頷いて、強盗が落としていった札束の一つをビビアンに積んだ。

 

「ドアはこれで直すと良い」

「あのさ、やっぱアンタ数を数えられないんじゃないの? ドアの値段はこんなに高くないって」

 

 しっかり者のビビアンは、札束から数枚の紙幣を抜いてから俺に返した。

 俺としても行きつけのカフェのドアがいつまでも開放されていては困るので、これに納得して札束を受け取る。

 カフェの常連客は事態の解決におざなりな拍手をして、「よっJ!」「金持ちのボンボン!」「俺にも金くれー!」と適当なヤジを飛ばした。俺はそれに応えようとして札束を手に取ったが、レオに手を叩かれて「コラァッ!」と言われた。

 

「貨幣制度が壊れるでしょうが!」

 

 凄い突っ込みだったので俺は感心して、大人しく札束を懐にしまった。

 席に戻り、食べかけのハンバーガーを持ってテーブル席に移動する。

 レオを隣に招待すると、ザップとツェッドも向かいに座った。

 

「レオ、君を待ってたんだ。こないだ借りたゲームの感想を言いたくて……」

「その前に改めて、どうしてそういう金銭感覚で生きてこれたのか聞いていいですか?」

「本当に欲しいものには値段がつかないからだよ、レオ」

 

 俺が適当なことを言ったので、レオはあきらめてビビアンに「いつもの!」と常連の注文をした。

 一足先に、俺と同じメニューが運ばれてきたザップはそれにかぶりつきながら言った。

 

「カツアゲされてもなくならねえ資金っつーのは想像もできねえけどよ、想像したら最高だよな」

「それカツアゲをする側で考えていますよね?」

「ふぁんふぁふぁふぁい」

「さっきまで口にハンバーガー入ってても流暢に喋っていたでしょう」

 

 相変わらず漫才みたいなやり取りをしているザップとツェッドに、俺は言う。

 

「実際体験しているから想像するまでもないんじゃないのかい?」

「コラッ! カツアゲされてるなら言いなさい!」

「冗談だよ、レオ」

 

 ということにしておいた。

 俺が適当に濁したのがわかったのか、レオは深いため息をついた。

 

「それだけお金があったらゲームを借りる必要もない気がするんすけど」

「まったく君は何もわかっていないな」

 

 ゲームを借りられる友達がいるという尊さとか、プレイした感想を同じ熱量で語り合えるかけがえのない時間についてとか、そういう話をしようかと思ったが、ちょっとクサすぎるかなと思い直して、俺はやっぱり適当なことを言った。

 

「好きなものにはたくさんお金を使いたいけれど、ゲームソフトを買い占めるとみんながプレイできなくなってしまうから、ソフト開発会社の株を買い占めているんだよ」

「規模が違ェー!」

 

 実際株主総会には出席しているので、そう適当なことというわけでもなかった。

 

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