邪神ぽいのになったけど頑張って人間のフリするゾイ! 作:九条空
俺はレオやツェッド、ザップと友人である、と思っていたが、彼らの生活のすべてに踏み込むことはしなかった。
なんとなく、結構大変そうなことをしていそうだなという雰囲気は感じ取っていたが――そして、この俺が本当は人間ではないことを利用すれば、その詳細のすべてを
それは彼らに配慮したわけではない。俺が、人間であることを優先したからだ。
この地球に降り立とうと決めた時から、俺の指針はぶれていない。
人間らしく振る舞って、人間のように、人間と仲良くしようという、そういう自己満足からスタートして、ずっとそのままだ。
なぜこんなことになったのか、ふと思い返すと、そんな暇はないことに気がつく。
俺は人間を模すことに心血を注いでいるので、人間の知覚とそれ以外をわけている。
普段はできる限り、人には感知できない感覚については考えないようにしているのだが、やはり俺も未熟である故、完全に考えないようにするのは無理だった。
あえて人間の感覚に落とし込むのなら、それは背骨がバチバチと電気であぶられるような感覚。
これは処理してはいけない、人類の感覚に存在しないことを理解するより先に、隣にいたレオの首根っこを掴んで、Jとして想定していたはずの筋力を大幅に上回る腕力で、彼を放り投げた。
人間の知覚の中だけでの話をすると――俺は一瞬にして瓦礫にまみれていた。
この瓦礫がかつてダイアンズダイナーだったことはすぐに想像できた。
だが、その瓦礫の下に埋まってしまったかもしれない友人たちのことは想像したくない。
ただ模しているだけの心臓が早くなる。
俺は人間のフリがうまいなあと、自画自賛なのだか自虐なのだかわからない感覚を覚えながら、自分の体の上に乗っていた瓦礫をうんとこしょと除けて立ち上がる。
たぶん、脳みそが揺れすぎて使い物にならなくなっていたか、あるいは鼓膜が破けていたか、そういうことだったのだろうけれど、当時の俺は人間のフリに執心していたので、実際のところ自分の体がどうなっていたのかはわからない。
ただ、瓦礫を除けて現れた自分の体を見て、ああこのままでは死ぬんだろうなということだけは理解できた。なにしろ人間の体というのは非常に脆いのだ。
腹の皮が破れ、内臓のどれかがこぼれている。
いつの間にか目の前にいたレオが、俺に向かって、何かを必死に叫んでいるが、聞こえない。
俺があんまりぼんやりしているからか、レオが俺の腹を両手で抑え込んだ。血は止まらない。俺の体は完璧に人間を模しているから、きっとこのままでは死ぬのだろう。
一度結構平気かと思って立ち上がってしまってそのままなのだが、出血量とレオのリアクションを見るに自分は死にそうなので、今倒れておいたほうが良いんだろうか、とあまり人間らしくないことを考えていた。
それもいい。それでいい。
人のまま死ねるならそれでいい。
俺はふとそう思った。
ここを終わりにするのが良いのかもしれない。
今までの俺は、ずっと学習を続けるつもりでいた。
いかにして人間らしく、人間のようでいられるかを研究して、実践を続けることをいわゆる生きがいにしてきていた。
それを突き詰めたら最終的に、人間らしく死ぬ、というところに行きつくのはわかっていた。
いや、今わかったのだ。
もし俺が本当に人間だったのなら、その仮定に基づくのならば、俺は今ここで死ぬのだ。
俺がどうして、何によって死ぬのか、そんなことはなにもわかっていない。
だがもし俺が人間だとするのなら、そのまま、何もわからないままに死ぬのが正解だ。
なんというか、友達に死を惜しまれているのだけはわかるし、このまま死んでもいいかなあ、と俺は今度こそ人間らしくぼんやり考えていたのだ。
だが、俺はレオの背に迫る、刃を見た。
どうせ死にかけているのなら、視界もなくしてしまえばよかったのに。――いや、やはり失くしていなかったからこそよかったのか、それはもうわからない。
このままではレオの首が、間違いなくその刃によって切断されてしまうのだろうと、見てわかってしまった。
俺は手を伸ばしたが、その刃は人智を超えたスピードだった。
人類では止めることのできない必殺だった。
到底間に合わないことを悟って、そのうえで、俺はあきらめた。
つまり、人間でいることを、あきらめた。
「自らに課した約束も守れないこの俺を、どうか嫌いになってくれ」
それを言ったか言ってないかでさえ、人間か人間でないかもわからない俺にはわからなかった。