邪神ぽいのになったけど頑張って人間のフリするゾイ!   作:九条空

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六道輪廻

 人間でいることをやめた俺は、この街でなにが起きているかを正確に把握することにした。

 はいはい、ああそう、それは俺がかつてこの街について、そういえば漫画で読んでいたなあということを思い出す手助けにもなった。

 

 ブラッドブリードという種族がここには存在するのだった。

 あんまり詳しく理解したところで、今の俺には関係がない。

 だから大雑把に言えば、人間を大きく上回る力を持った種族だ。

 それを殺す手段を今の人類は知らず、ただ名を知ることができれば、封印することができるかもしれない、そのくらいの対処法しか存在しない、人類が対処するには理知外に強すぎる種族。

 

 なんつーか、そういうのが普段行ってるカフェに攻めてくる確率ってどんくらいなわけよ。

 札束の数は数えられても、そういう確率を数えるのはかったりいんですけど。

 だがどちらにせよ、現実に起きてしまっているのだから、今更数えたところで何も変わらない。

 

 この地球に来てから、戦おうと思ったことなど一度もなかった。

 人間の中に戦うタイプの人間がいることは知っていたけれど、そういうタイプに擬態しようと思ったことがなかった。ありていに言ってしまうと、怖かったからだ。

 例えばどのくらいの力の強さで殴れば人を殺さずに済むのかとか、殺されそうになった時に人がどの程度怖がるのかとか、そういうことを真剣に考えること自体が恐ろしかった。

 

 だが、正直言って今の俺は結構、ヤケになっていたので、もうあんまり考えなくていいかなと、あきらめた。

 

 先に感じたのは、いわゆる殺気とか、そういう類の感覚だったのだろう。

 ダイアンズダイナーが崩壊する直前、俺はレオを安全な場所に移動させなければと、大丈夫そうな場所に放り投げた。

 だが、レオの首が今まさに刈られようとしていたのを見たその時に、いやこれレオを放り投げるんじゃなくて、レオを殺そうとしているやつを放り投げたほうがよくね? とようやく気づいたのである。

 人外生活が長いとあんまり常識がわからなくなるから嫌よね。人間のフリをし続けて長いはずだが、人外であった時間の方が圧倒的に長いのだ。

 

 レオの首を刈ろうとしている生き物を分析した結果ブラッドブリードだとわかったので、首根っこ掴んで引きはがした後、自分の体を変形させて俺の手から抜け出そうとしたのもすぐに納得できた。

 なにしろ自己改造というのは俺にとっても十八番である。

 自分を好きな形にできるというのは上位存在にとっては当たり前のことだ。

 だから俺も自分の腕を好きな形に変形させて、ブラッドブリードの動きを封じようとした。

 あ~も~これ全然人間じゃねえ、というあきらめにより俺の顔がどんどん真顔になっていく。

 

 このHLという街はとてつもなく愉快なので、俺が腕の形を網のように変形させても、まあそういう人間もいるか……で納得してくれる人々も多いのかもしれない。

 だが、人間とは一線を画し、より高位なことを知覚できる彼らブラッドブリードにとっては、そういうのもいるか、では済まなかったようだ。

 

「お前、何だ」

 

 人以外についての研究は遅々として進んでいないため、彼がその言葉に込めた感情は理解できなかった。その質問に誠心誠意答えてあげようという親切心も沸いてはこなかった。

 俺はただぼやくように、いつものように適当なことを言った。

 

「俺は人間が好きなんだ。こんなに本気で人間のフリをして、人間のフリしたまま、人間みたいに死のうって思う程度には大好きなんだ」

 

 ようやく取り戻してきたはずの時間感覚において、数億万年の時間を過ごしたこの生を、この場で手放してしまおうと思う程度には、この一瞬を愛していた。

 

「俺みたいな人間の偽物より、やっぱり本物の人間の方が好きなんだ。だからこうして、とてつもなく嫌なのに、こんな姿を晒している」

 

 自分で言っているけれど、適当を言っている感覚はあるので、自分でも納得できなかった。

 だからとか言ったけど、今俺が恥を晒している理由についてうまく説明できないというか。

 

「なあ、レオナルドは俺の友達さ。そこの瓦礫につぶされかかっているクリスティアーノも、お前がさっき風圧で飛ばしたケイコも、ディーンも、みんな俺の友達だ」

 

 もやもやとしていた自分の思考が、徐々に形になっていくのを感じる。

 

「死ぬのを黙って見ていられないよ。自分の意志薄弱さに反吐が出る。なんとかできるからって、なんとかしちゃわないようにしようって思っていたんだけれどな」

 

 それは俺が人間のフリを始めた最初の頃に、自分自身に約束したことだ。

 己が人間でない以上、人間より多くのことができるけれど、それをしては人間ではなくなるから。

 だからやめようと、そう決めていたはずなのに。

 

「俺が人間みたいにあっさり死ぬのは受け入れたくせに。人間が人間みたいにあっさり死ぬのを、どうしてか許せない。ただ、俺の友達だからって理由だけでさ」

 

 言葉にしてようやく、ああそうだったのかと納得できた。

 理由と言うのはそれだけなのかもしれない。理論が通っているかは関係がない。

 そう、人間というのは、理論が一番大事ではないと俺は学んでいるから。

 

「上位存在ってのはみんなイカレてるが、お前はとびきりだ」

 

 手のひらの中でブラッドブリードが俺に言う。

 

「ありがとう。お前はずっと正気だね。だからその程度のままなのかい」

 

 それが彼にとっての堪忍袋の緒だったらしい。

 額の付近にビキビキと血管が浮き出るのが見える。

 わかりやすい怒りのサイン、まるで人間のようだ。――羨ましい。

 

「殺す」

「やれるならやってくれよ。死んでやってもいい気分だったんだし」

 

 彼がレオを殺そうとしなければ、そうなっていたかもしれない未来だ。

 だがそうはならなかった。

 俺は死ねず、レオは死なず、俺は恥を晒し続けている。

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