邪神ぽいのになったけど頑張って人間のフリするゾイ! 作:九条空
パトロン
ある日、ダイアンズダイナーでバーガーをかじっていると、焦燥した様子のレオが入店してきた。
すわ世界の危機か、と心配になったのもつかの間、レオは俺につかみかかる勢いでこう言った。
「ちょっとJ! このゲームやりました!?」
ご丁寧にレオは『アンダーソルジャー セカンドワールド』のパッケージを俺の顔面に突き付けてくれた。
俺はそのゲームの名前とパッケージに覚えがあったものの、首を横に振った。
「実はまだなんだ、最近忙しくてね。レオはその様子だともうやったのかい?」
「そりゃ発売日から一週間休み取ったに決まってんでしょ!」
「決まってはないと思うが」
それだけの熱量があるファンというのも珍しいが、レオだけだ、と言い切るにはこのゲームの人気は確かなものだ。
アンダーソルジャーは六年前に発売され大ヒットした、アクション謎解き脱出ゲームである。
しかし一作目で非常に評価された重厚なストーリーを執筆した脚本家は覚せい剤で捕まり、同じく大変評価された美麗なグラフィックを担当したイラストレーターは違法ギャンブルで捕まったため、次作を待ち望んでいる人が大勢いてもなかなか次回作が出なかったのだ。
レオもしょっちゅうアンダーソルジャーの新作が出て欲しいという話をしていたものだ。
だからというわけではないが、俺は制作会社の株をたくさん買った。そしてゲームプロデューサーと飲みにも行った。
だからというわけではないが、続編は出た。
「出資したら、俺の顔グラフィックを使ったNPCを出してくれるって言ってたんだ。出てきた?」
「出てきましたよ、だからびっくりしてまだ1週目しかクリアしてないのに外出てきたんすから!」
「出演を許可した甲斐があったな。ちゃんと日光を浴びてご飯を食べなさい。死んじゃうぞ」
どうせゲームに熱中するあまり、栄養補助ゼリーのようなものしか摂っていなかったのだろう。心なしか頬のこけたレオを見かねて、俺はフレンチフライを一本レオの口に突っ込んだ。
「俺はどんな役だった? 詳しくは聞かなかったんだ、そっちのほうが楽しみにできるからね」
「だとしたら僕が言っていいんですか?」
「うん。ゲーム制作者はゲームでものを語ってほしいと思っただけだ。プレイヤーとしてレオがどう感じたか聞きたいな」
「えーと……主人公の恋人を敵から隠してくれたけど、そのせいで殺される役でした」
「おお。いいじゃないか」
「いいんすか? 結構凄惨な感じで死にましたけど……」
「その凄惨さの具体的なところは実際のプレイまで楽しみにしておこうかな」
出資者を作中で殺すとはなかなかの度胸である。俺は感心した。
下手に持ち上げられるよりずっといい。
あるいは英雄的な死を描くことで俺を賛美してくれているのかもしれないが、そこに媚があるのか、ロックがあるのかは、己でプレイするまではわからない。
プレイが楽しみになってきた。
「いい人と思われたまま死ねるなんていいね」
「もしかしてリクエストしました……?」
「いや。どんな悪人にしても善人にしても構わないし、セリフがあってもなくてもいいから、全部自由にしていいよと言った」
俺の顔のNPCを出したい、という話は向こうから出たものだ。
面白いねと許可を出した上で、自由にやってくれとお願いしたのだ。
レオと話し込んでいると、突如大きな音を立ててダイアンズダイナーの扉が開いた。
「おいJ、死んだってマジか!?」
「じゃあ今会話している俺は幽霊ってこと?」
スマホを片手にやってきたザップは、キスできそうなほど俺に顔を近づけると、至近距離でジロジロと眺め始めた。
「影武者の可能性は大いにあるな。金持ちだし」
「金持ちってそうなんだ。俺も影武者の求人募集をしておいたほうが良い?」
ザップに耳をつままれ、耳の裏を見られる。
影武者かどうか確かめているのかもしれないが、そこを見てなにかわかるのだろうか。
そこにほくろとかあるのかな俺、自分でも知らないぞ。
「ンだよ、じゃあSNSのデマか」
「それはゲームのスクリーンショットだね。デマではない」
ザップが見せてきた写真は、アンダーソルジャーに出てくる俺の顔をしたNPCの死体だった。
ワア。結構凄惨な感じで死んだ、の詳細なネタバレを食らってしまった。
ちゃんと結構凄惨だった。
レオは自分で頼んでいたコーラを一気飲みすると、元気に席を立った。
「じゃあ僕は二周目をプレイしてくるんで!」
「楽しんで。ちゃんと食べて寝なよ、レオ」
尚、俺の顔をしたNPCは、続編でサイボーグになって蘇ってきた。