邪神ぽいのになったけど頑張って人間のフリするゾイ!   作:九条空

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茶飯 上

 俺がダイアンズダイナーに入店すると、いつものメンツが同じ卓についていた。

 つまりレオ、ザップ、ツェッドの仲良し三人組のことである。

 

「ルートがわからないことにはなにも……」

自主規制(クソ)がよォ! いつもなら旦那が謎の情報網から答えを持ってくるってのに!」

「脊椎骨折した人にそんな無茶なこと頼めませんよ」

 

 すぐに声をかけようとしたが、彼らはなにやら深刻な顔で相談し合っている。

 これが盗み聞きに入らなければいいが、と俺は願った。

 聴力に関して、一般を越えるような設定をしていないから大丈夫だとは思う。

 

「むしろ入院中のクラウスさんに心配かけないよう、俺たちがなんとかしなきゃいけないんじゃないスか……」

 

 俯いたレオの肩を、後ろからぽんと叩いて声をかける。

 

「何かお困りごと? 俺にできるのは、ここの会計を持ってあげることくらいだが」

「いいんですよJ(ジェイ)、仕事の愚痴なんで気にしないで」

 

 レオはすぐに微笑んだが、ザップは違った。

 

「おう、当然全部払ってけよ財布くん」

「この人と同じ食卓についているのが恥ずかしい」

 

 ツェッドが姿勢よく真顔で恥じたので、俺は彼を刺激しないように、そっとビビアンに己の注文を伝えた。

 食事が来るまでは手持無沙汰だ。

 俺がしれっと彼らの卓に座ってしまったので、彼らはこれ以上機密の話がしにくいだろう。

 そもそも機密の話ならば、こんなファストフード店ではできないだろう、というのは置いておく。

 

 俺はスマホを操作して、クラウスへの見舞いの品を探しながら、彼らに言った。

 

「もう少し仕事の愚痴を話してくれないか? ああいや、仕事の、という枕詞はなくてもいい」

「あ? もっとはっきりものを言えや」

「ザップさん」

 

 レオがザップをたしなめたが、確かに彼の言う通りだった。

 見舞いの品は一旦花と果物といくつかの雑誌に決め、手配を終える。

 俺はスマホをポケットに戻し、正直に言い直しつつ、会話を続けた。

 

「話して問題のない範囲に限ってくれて構わないからね。なんのルート?」

「最近インターネット上で猛威を振るってる新型ウイルス、ノーブル・ローレル」

 

 聞き覚えのある名前だったので、俺は少し驚いた。

 それほどインターネットに詳しくないものでも、もはや耳にしたことがあるほどの流行(バズ)

 

「それってライブラ(君たち)が出張るくらいの危機なんだ?」

「解析した結果、世界を瞬きで滅ぼせるクラスの神位存在を呼び出す魔方陣の断片が読み取れたらしく、このまま放置したら大変なことになるだろうって、スティーブンさんが」

「え、そうなの? ちゃんと暗号を解読したら、お礼の言葉が出て来るって言ってたんだけどなァ……」

 

 言葉を濁した理由は、このタイミングでビビアンが俺のハンバーガーを持ってきてくれたからだ。

 テーブルに置かれたポテトをひとつ口に放り込んで、俺はコークのカップを持った。

 

「なんか知ってんすね!? 吐けェ!」

 

 襟ぐりを掴まれ、レオに頭をがっくんがっくん揺さぶられる。

 そのままやられるとコークをこぼしそうだし、吐くのは胃の内容物だ。

 まだハンバーガーにもありつけていないのに、そんなことがあってはならない。

 俺は舌を噛まないように気をつけながら、知っていることを吐いた。

 

「最近できた友達が作ったっぽい。ネット上のことにはさほど詳しくないから話半分に聞いていたが、彼から聞いたウイルスの名前と一致するし、きっと真実なんだろうなあと」

「どこで、なぜ、いつ」

「名前、住所、顔」

 

 レオとツェッドが、俺に凄みながらいくつかの単語を言った。

 

「尋問が端的すぎるだろう。そんなに追い詰められていたのかい」

「ライブラお抱えのハッカーたちが、みんな仲良くプチョヘンザ(お手上げ)するくらいには」

 

 今回の手助けは、俺の能力の範囲内だ。

 この時代を生きるJとして、知っていて問題のない範囲の情報だ。

 人の道を外れる心配がない。

 道徳的な人の道、となるとどうかはわからない。俺にはまだ難しすぎる問題だ。

 

 俺は彼らに事情を話した。

 

「俺のスケジュール表をハッキングしたらしく、彼はプライベートタイムを過ごす俺のところへしれっと会いに来た。スマホにサインしてあげて、少々雑談し、進路に困ったらウチの会社においでと言ったくらいだ。連絡先はもらっていないが……」

 

 話を区切り、ハンバーガーにかぶりつく。

 俺がダイアンズダイナーに来る目的は2つ。おいしい食事と楽しい会話。

 両方を得るには、どうしても口が1つでは足りないのだ。

 口は2つくらいあってもいいのにね。しかし、人間のそんな不便さが愛おしい。

 

「オメーのファンかよ。ロクでもねェな」

 

 ハンバーガーをもぐもぐ咀嚼してから飲み込んで、悪態をついたザップに返事をする。

 

「俺もなんで好かれているのかわからない。お金が好きなのかな」

「であれば当然、大富豪ランキング上位のJの元へ会いに来るのは道理ですね」

「金持ってるのに全然執着してないところが好きなのかも?」

「Jがサイコパスだからじゃねェの?」

 

 ツェッド、レオ、ザップが順番に意見を述べた。

 その意見を咀嚼することができなかったので、俺は代わりにハンバーガーを噛んだ。

 俺の返事を待たずして、続けてツェッドが言う。

 

「パトロンを求めて、でしょうか。技量があるなら、金のかかる大規模な計画があるのかもしれません。今回のウイルス騒ぎは注目を集めるための広告で」

「ただのJの顔ファンの可能性もありますよ。ビッグネームの興味を引くためだけにこんだけデカいことする、お茶らけ恋愛脳タイプかも。こないだ金がなくてもJと結婚したいっていう書き込み見ましたもん」

「バカが、そりゃ実際金が無くなってからも同じこと言えるか確かめてからじゃねェと意味がねえわ」

 

 ザップの回答も、一部納得できる気がした。

 俺はザップよりは長く人間を経験してきているはずだが、やはり根幹が人外(コレ)なのがいけないのだろう。

 ザップのほうがよほど人間を理解しているように思う。

 

 知りすぎるというのはデメリットなのだな、と改めて思うわけだ。世界の理とかは別に知らんでいいよなあ。

 ポテトをつまんで、俺はぽつりと言った。

 

「やめさせたらいい? しかし彼に危害を加える気なら、俺は君たちに彼を紹介することはできない」

 

 俺は今世を賑わせているインターネットウイルスノーブル・ローレルが、どれほどの脅威なのかを知らない。

 何も知らない状態で言えるのは、それを作った彼を、それでも結構好きだということだけだ。

 

 彼と話したのは、1時間程度だ。

 忙しいビジネスマンとしての俺を考えれば、破格の長時間だろう。

 

 その間に彼と話した情報量はとてつもなく多い。

 好きな小説、絵画、アニメ。嫌いな歴史、ゲーム、音楽。

 あらゆる価値観を言語に尽くして、俺は彼を面白い、と判断した。

 

 気が合うかどうかでいえば、むしろ合わないだろう。

 だがそれでいいのだ。

 同じ作品に対し、まったく違う意見を言いそうな、彼の話をもっと聞いてみたい。

 俺はそう思った。だから彼の命を守りたい、今はそう考えている。

 

「約束します。彼に危害は加えません」

「ツェッド、君が言うのなら信じよう」

 

 ツェッドは俺の目をまっすぐに見て、そう断言した。

 だから俺も、時間をかけずに返事をした。

 こういうときは、何も考えなくて良いし、考えたくもない。

 

 俺は再びポケットからスマホを取り出して、ロックを解除した。

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