生きて欲しかった…
冷えた石の前、女性は胡座をかき、ため息と共に、
白い煙が夜空へ溶けていく。
夜風が桜を散らし、肩にそっと花びらが落ちる。
その花弁を払うこともせず、静かに煙を吐き出す。
桜が落ちる度、胸の奥にぽっかりと穴が空く。
煙が揺れる度、遠い日の声が聞こえた気がする。
落ちた桜の花びらを指先でなぞりながら、
誰にも届かぬ言葉を紡ぐ。
「なぁ」
「私」
「これで…」
「良かったのかな?」
言葉を零しながら、空を仰ぐ。
「あなたに…」
「孤独を感じさせた。」
独り言の様な言葉が夜風にさらわれていく。
「後悔してからじゃ遅いのに…」
まるで届くはずのない返事を待つように、静かに独り言を紡ぐ。
「ダメだ私…口を開けば自分を卑下する言葉しか出ない…」
ふっと笑おうとして、唇の先が微かに震えた。
「あの時…」
「いや、止めよう。」
月明かりの下、影が一つだけ寂しげに揺れていた。
「そうだ…」
「誕生日だったな…」
と言うと、横にあった細長い木箱を持ち上げ、開封した。
「この誕生日で、成人だったな…」
酒瓶の蓋を開け、コップに並々と注いだ。
そしてそのコップを、名前が刻印された面に向けて、置いた。
「乾杯…」
1口、お酒を口に含み、飲んだ。
「不味…」
共感を求めるように、静かに言葉を発したが、
それに応えてくれる人など居ない。
「お酒は苦手なんだよなぁ…」
酒によって潤った口から、
小さく乾いた笑いを零し、グラスを月に透かすように軽く掲げた。
その時、グラスの中に桜の花びらが入った。
小さい波紋がお酒に広がった。
揺れる酒がまるで自分の過去を映し出すようだった。
「酒は忘れさせる…」
「忘れたい事も忘れたくない事も…」
掲げたグラスを置くと、
持っているタバコを軽く吸い、吐き出す。
揺れる月光の下、煙と夜の香りが静かに混ざり合う。
「タバコは…」
「辞めたはずだったんだけどな…」
また吸い込み、吐き出す。
この単調な作業を続けてゆくと、
タバコの長さが短くなってゆく。
そしてそのタバコをポケット灰皿に入れるのだった。
「もう少しだけ…」
「ここに居ていい?」
と、囁く声は、風に流され消えてゆく。
そして、返事の無い沈黙の中、墓石にそっと背中を預ける。
寄りかかった墓石の冷たさに、今更ながら現実を突きつけられ、
心の奥に残った物が静かに崩れて行く気がした。
「怒った?」
と、笑って見せたが、その声は何処か震えていた。
「寂しい…」
風が吹いたが、それは返事では無い。
返事のない沈黙が、余計に孤独を際立たせる。
麗花…