真剣で猟犬に恋しなさい!!   作:勿忘草

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今回は新キャラが三人出ます。
プロフィール等はまた今度にでも書きます。


『転校生の嵐 出会わなかった理由』

鍛錬メニューが変わって一週間もした頃。

朝早くから俺は七浜に居た。

理由は簡単。

クリスお嬢様を無事学校まで案内する為である。

 

「はじめまして、クリスお嬢様」

 

頭を下げて挨拶をする。

軍隊であれば敬礼なのだがお嬢様はそうではない。

あくまで一般人の目上に対する態度と同じ様にする。

 

「こちらこそはじめましてだ、名前を聞かせていただきたい」

「私の名前は澄漉香耶と言います」

 

名前を問われたので答える。

するとお嬢様も自分の名前を言ってくる。

 

「そうか、自分の名前はクリスティアーネ・フリードリヒ、宜しく頼む」

 

胸を張り凜とした声。

中将の娘というだけあってすばらしいものだ。

 

「それでは川神学園へ参りましょう」

「ああ、案内はそちらに任せて良いのだな?」

 

案内の為言葉をかける。

こちらに道を任せると言ってきた。

 

「はい、お嬢様は安心して着いてきてください」

 

当然それを了承する。

勝手に動かれはぐれてしまっては意味がないからだ。

 

それから数分の間、川神学園への案内の間に話す。

 

マルギッテさんの事。

中将の事。

 

そう言った事を俺は聞く。

 

二人とも元気なようでマルギッテさんはあれからも功績をあげ続けているらしい。

 

お嬢様は日本の文化について聞いてくる。

 

ずれた認識が多かったので修正をしなくてはいけなかった。

スモウの『気』についてはただの動画での編集である事や、ボクサーの『負けたら切腹』も大げさなパフォーマンスだと説明した。

一体中将やマルギッテさんはお嬢様に何を教えているのだろうか。

 

そんな事を考えていると目の前に人がいるのが分かった。

 

格好は川神学園の制服。

しかしその背丈から察するに特注品であることが分かる。

ガクトより高い背。

まるでトーテムポールが一本立っているかのようだ。

 

そんな奴が振り返ってこちらを見る。

どこかで見たことのあるような顔だ。

 

「今、何時ですか?」

 

そんな事を聞いてくる。

今は確か朝の八時前といった所だ。

 

「八時で学校にはまだ間に合う時間帯だ」

 

伝えた時に嬉しかったのか笑みをこぼす。

その時に誰に似ているか分かった。

長枝さんに似ているのだ。

目つきや背丈は違うが分かってしまう。

 

「じゃあお先に失礼します」

 

頭を下げて走っていった。

速かった。

巨体に見合わない速さであった。

 

「あの青年、かなりやるな」

 

お嬢様がふとそんな事を言う。

確かにあの男はやる奴だ。

戦いを望む人達が欲しがる要素を十分に持っている。

 

「その通りですね」

 

頷く俺は内心思っていることがあった。

『貴方が言うな』と。

ついてきている間にもそちらの実力を探っている。

体捌きからしてもなかなかの強さを持っているのが分かった。

 

そんな事を口には出さず歩いていく。

すると影で一瞬暗くなる。

何事かと思えばまるでパルクールのように建物の上から上に飛び移る女性が居た。

格好は川神学園の制服だった。

つまりあの人が最後の新入生である。

 

「とりあえず行きましょうか、遅刻してはいけませんし」

 

俺はとりあえず川神学園へと向かって行った。

しかし重要な事に気づく。

川神学園の前にさっきの二人が居るのが見える。

 

屋上に気配を感じる。

その中でも一際強い気配があった。

この気配はおそらく『あの人』だ。

俺はお嬢様にこう言った。

 

「先に入っておきます、皆さん目立ちますので」

 

そう言って俺は裏口から入る。

ネットを越えるなんて余裕だ。

要らぬ事を噂されたくもない。

俺はそのまま屋上へと向かっていった。

 

ドアを開く。

音に気づいてこちらを振り向く。

 

赤い髪の毛。

眼帯をつけている鋭い目。

修羅場をくぐってきた威圧感。

そこには『猟犬』マルギッテ・エーベルバッハが立っていた。

 

「マルギッテさん、お久しぶりです」

「ええ、お久しぶりですね、キョーヤ」

 

頭を下げて挨拶をする。

二年ぶりに見る姿はあの日より背が高く、あの日以上の威圧感を纏っていた。

 

「この場は引いていただきたい」

 

中将はこの場にはいない。

きっとお嬢様の紹介の場にいるのだろう。

 

そしてできる事ならば俺にとってはこの場は引いて欲しい。

せっかく転校生の事で騒いでいるのだ。

その空気に水を差していただきたくはない。

 

「良いでしょう、引いてあげましょう」

 

そう言うと他の人を引き下げる。

理解が早いのは助かる。

もしくはここで強引に押し通せばお嬢様の為にはならないと判断したのだろうか?

 

「ただし、条件は私を満足させる事と知りなさい」

 

しかしそう簡単ではなかった。

条件が余りにも厳しい。

どういった基準が満足に相当するかが分からない。

こちらの全力を遥かに凌駕していれば退屈に感じるだろう。

もし同格だとしても気まぐれで左右されてしまう。

 

「それが条件ならば受けてたちましょう」

「二年間怠っていなければ可能でしょう、準備はできていますね」

 

しかし受けない理屈はない。

ここで断れば臆病者だ。

二年の間の研鑽を見せずに背中だけ見せるなどその様な選択肢は無い。

 

その思いのままに前に出る。

ただ真っ直ぐに敵意を持ってマルギッテさんを見る。

その目を感じ取ったのか、不敵な笑みで構え始めた。

 

互いの間に緊迫した空気が張り詰める。

俺も構えてその空気をものともせずに先ほど以上に射殺さんばかりの力を持って睨んでいた。

 

「来なさい!!」

「では……いきます!!」

 

その言葉を言って戦いが始まる。

二年ぶりの戦い。

あの日からお互いがどれほど力をつけたのか。

その答えが現れる瞬間が迫っていた。

 

「ハアアアアアッ!!!!」

 

俺は咆哮と共に強く踏み込む。

背中を向けてぶつかるような一撃を放つ。

 

「Hasen Jagt!!」

 

マルギッテさんは足に力を込めている。

ミキミキと音を立てているようだ。

大きく振りかぶり準備は万端だった。

 

俺が放つ技に合わせてその足が伸びてきた。

 

俺の『鉄山靠』。

マルギッテさんの『トンファーキック』。

 

その二つが交錯する。

同等の衝撃だったのか、互いに後ずさる。

 

互いがにらみ合い再び構えを取った。

しかしそんな時に声が聞こえる。

 

「止めときなさい」

 

その声の正体は『武神』川神鉄心だった。

 

「ああっ!?」

 

何言ってやがるんだ。

 

まだ僅か一度打ち合っただけじゃないか。

今から楽しくなるんじゃないか。

無粋な真似をするなと睨みつける。

 

腕は矛の様に。

爪は棘の様に。

足は槍の様に。

体中を武器に変えてしまうほどの凶暴な熱が渦巻く。

 

吐き出したいほどの熱。

攻撃の衝動。

それを俺は有ろうことか『武神』川神鉄心に向けていた。

 

「コレは……少々見過ごせんな」

 

そこには『猛虎』を片手で受けている川神鉄心がいた。

 

武神の体から立ち上る『気』が人の姿に変わる。

そこから繰り出される一撃を感じたのは喰らってからだった。

腕を交差して備えたおかげで膝を着くだけですんだ。

 

そこで俺の頭は冷めた。

 

「冷静になったら教室に戻りなさい、の?」

 

そう言われて俺は自分の教室へと向かう。

マルギッテさんも流石にこのまま続ける気は無くさがっていった。

 

俺は紹介などといった事は三人に任せる事にした。

S組の教室に入っていく。

 

俺の任務は『案内』だった。

きちんと仕事はしている。

 

「随分と暴れたようですね」

 

俺の顔を見てトーマが話しかけてくる。

咎めるというわけではなく微笑んでいた。

 

流石に賢しいというだけある。

学園長がとてつもない速度で屋上へと向かったのを知って何か有るというのがわかったらしい。

学園長が出るのは基本的に戦闘による騒動。

もしくは少々破廉恥な事がからんでいる場合だ。

そしてこんな転校生がやってくる日に屋上で破廉恥な事が起こる可能性は極めて低いだろう。

その数分後に俺が戻ってきたので確信が生まれたというわけだ。

 

「まあ、流石にあれはやりすぎたと反省している……」

 

学園長に攻撃するのは良い事ではない。

いくらマルギッテさんとの戦いで熱くなっていたとはあれはなかった。

 

感想として今回の転校生は印象に残るような風貌の面子だらけだった。

 

そんな事を考えていたら何かしらF組の方で声が聞こえる。

 

どうやら一子とお嬢様が戦うみたいだ。

学園長が特例として許可をしたので川神学園名物『決闘』が始まる。

 

「一子殿の戦いか!!、こうしてはおれん、あずみ行くぞ!!」

「ハイッ、英雄様!!」

 

英雄はあずみさんを連れてすぐさま校庭へと行く。

 

「俺も行くか」

 

俺もそれに伴いついて行く。

 

「待ってください、私たちも一緒ですよ」

 

トーマに準、そしてユキも一緒についてきた。

不死川は『F組の野蛮な試合などは見ない』と言っていた。

 

着いた時には薙刀を持っている一子がいた。

少々の違和感を感じた俺は一子に近寄る。

 

「おい、一子」

 

俺の言葉に振り向く一子。

久々に見た顔だったからか驚いている。

 

「キョウちゃん、久しぶりじゃない!!、どうしたの?」

 

そう言って近づいてくる一子。

その歩き方を見て俺は確信した。

 

「重りをつけているんじゃないのか、一子?」

「えっ、分かっちゃうの?」

 

やはり着けていたか。

違和感と言っても感じたのは怪我をして引きずるといったものではなかった。

どちらかといえば何かを装着しているような重い足取りだった。

だから今の歩き方で確信を抱けたというわけだ。

 

「外せ、『本気』って言うのは『全力』を尽くすって事だ」

 

俺は真剣な面持ちで諭す。

まあ、武蔵の時に八極拳を使わなかった俺が言う台詞ではない。

ただあれでも槍の面では『全力』を尽くしていた。

『全力』を尽くさないことは『失礼』である。

だからこそ俺は一子にそう言った。

 

すると重りを外し始めた、結構な量をつけていたみたいで動きが機敏になっていた。

 

「お前なりの強みを使えば勝てるだろうよ、頑張りな」

 

最後にアドバイスをして頭を撫でてやる。

 

「子ども扱いしないでよ、でも有難う」

 

笑顔で歩き始めていくのを見届けて俺は観客席へと戻っていった。

 

「キョーヤよ、一子殿に何をした?」

 

余計な事をしたのではないかというように英雄が言う。

好意を持っていること。

意外と心配する事からか俺に怪訝な目を向ける。

 

「アドバイスだよ、あとは激励だ」

 

コレにさえ気づけばあいつは分かる。

優しいからこそ殻をいまだに破れないのかもしれない。

俺はあいつの夢に少しでも協力してやりたい。

だからこそアドバイスを与えた。

全部ではなく『自分で気づけ』と言う気持ちを込めた断片的なものでは有る。

でもあいつが自分で気づいておけばその答えは見付かるはずだ。

 

「これより決闘を行う、前へ出て名乗りをあげるがよい!」

 

学園長の大きな声が響く。

老体でよくあれだけの声量を出せるものだ、体に差し支えはないのだろうか?

 

「2年F組 川神一子!」

「今日より2年F組! クリスティアーネ・フリードリヒ!」

 

お互いが前に出て大きな声で名乗りを上げる。

お嬢様の獲物はレイピアか。

 

「決闘の取り決めとして、まず初めに武器の使用の許可、急所攻撃及び決着後の追い討ち禁止とさせてもらうぞい」

 

最低限のルールは取り決められているようだ。

それから後に決着方法などを述べていた。

テンカウント以内に立ち上がれなかった場合も敗北となる。

それ以外は俺と武蔵の時とほとんど変わらないルールだった。

 

「それでは、始め!!」

 

その言葉で決闘が始まる。

 

お互いが牽制するかのように見合う。

始まりからすでに数秒は経っている。

一瞬の間も目を逸らしていない二人。

 

「はあああっ!!」

 

先に仕掛けたのは一子。

薙刀の射程距離を読んでいるのだろう。

レイピアの範囲外から横凪に攻撃を放つ。

 

「ハッ!!」

 

お嬢様がレイピアでその一撃を受け流す。

そして攻撃のあとの硬直する一瞬を狙って突きを放つ。

 

「フッ!!」

 

完全に振り切らなかったのだろう。

一子は腕を途中で止めて一気に逆方向へ攻撃を放つ。

 

「くっ!!」

 

レイピアの突きが弾かれる。

お嬢様が後退して攻撃を避ける。

 

「シッ!!」

 

下から上へ薙ぐ。

さらに上から斜め下に振り下ろす。

 

一子がレイピアの間合いを読んだ上で怒涛の攻撃を仕掛ける。

 

「やるな、だが負けないぞ!!」

 

受け流して懐に攻めていく。

突きを放つも一子には当たらない。

重りを外しているため距離を結う結うとれるような速度になっている。

 

その様な応酬が長く続いていく。

 

今でおおよそ五分は過ぎた頃だろうか。

 

薙刀の攻撃をお嬢様が受け流して突く。

そのレイピアの突きを一子が避ける。

 

そしてお互いに距離をとる。

 

このようなやり取りが続いていた。

 

しかしここで一気に試合が動き始めるようになる。

 

お互いが距離をとっているなかでお嬢様が前の方に僅かに進む。

もし仕掛けられれば薙刀を避けられるかどうかといった間合いだ。

一子の攻撃を誘っているのがわかる。

だがこの間合いは危険である。

伸るか反るかの大博打。

仮に仕損じればその時点で敗北が決まるほどのものを仕掛けていた。

 

お嬢様が前に進んでいった瞬間に砂が舞い上がる。

前に進んだ事を好機と思ったのだろうか一子が飛び上がっていた。

 

「ああああああ!!!」

 

上から下に振り下ろす一撃。

お嬢様の顔には決意があった。

まるで進み往く兵のように悠然と距離を詰める。

 

「信じてよかった、その瞬間を待っていたぞ!!」

 

勢いをつけた全力の突きを放つ。

流石にこのタイミングでは当たるだろう。

……まあ、あくまでアドバイスを聞いていない場合だけの話である。

アドバイスの事に一子が気づいていれば避けられる。

 

「簡単には喰らわないわ!!」

 

振り下ろした勢いを殺さずに前転する。

その動きは軽やかだった。

残念な事だが突きを完全に回避することは出来なかった。

しかし距離をとり最小限の損傷に留めていたから良い方だろう。

 

俺は見えない程度にガッツポーズをしていた。

強みである武器の特性を生かした回避方法。

実に見事だった。

隣で英雄が喜んでいるのが印象的だ。

 

「あのタイミングであの突きを避けるとは……驚嘆する」

「危なかったわ……重りを外してなければ当たってた」

 

再び距離をとる二人。

お嬢様としては今の突きは当たるはずのものだったはずだ。

それを一子が避けている。

精神的な揺らぎは有ったはずだ。

 

「やあああああああ!!!」

 

一子が薙刀を槍のように投擲する。

 

その瞬間俺は微笑む。

そうだ、その選択も正解だ。

叫んでやりたくなるほどの喜びが体を駆け抜ける。

 

アドバイスは武器だけではなくいくつもの意味が有った。

それは強みである速度を活かす事。

そして武器の戦いだけでなく自分の鍛えてきた肉体を信じる事。

 

それを心がければ少しではあるが殻を破るきっかけになるかもしれない。

上手くいけば武器一辺倒だと思っている相手の虚をつける。

結果、相手の動揺を誘える。

ましてや揺らいでいた場面でこういった行動をすれば効果は更に大きいものだ。

 

「武器を捨てるだと!?」

 

それと同時に勢いをつけて一子が走り出す。

薙刀をお嬢様が避けたと同時に一子のタックルが入った。

 

「やああっ!!」

「ぐあっ!!」

 

いくら一子が軽くても勢いのついたタックルは威力が有る。

捨て身のような形で頭からめり込ませたから余計にたちが悪い。

その一撃でお嬢様がよろめく。

 

その勢いのまま跳躍して両肩に手を乗せる。

体を捻ってそしてそのまま一子はお嬢様の首に足を絡めて投げる。

背中で受身を取るように勢い良くその技は放たれる。

 

俗に言うフランケンシュタイナーを決めていた。

脳天から落ちる危険な技だ。

しかしそこに一子の弱点が入り込む。

それは『優しさ』、戦いにおいては『不純物』ともいえるものだ。

その弱点が僅かに打点を脳天からずらした。

そのせいで威力は半減して頭を揺らす程度に留められた。

 

しかしそれでもしたたかに打ちつけたため衝撃が大きかったのだろう。

お嬢様は頭が揺れているためすぐには起き上がれずダウンカウントが取られる。

結局テンカウントまでに立ち上がるがお嬢様は続行意思を示す事ができなかった。

勝者が決まる時まで膝が笑っている状態のままだった。

 

勝負の後はお互いを讃えあっていた。

俺はそれを見届けてからS組に戻った。

 

そんな事もあって放課後。

F組から騒ぎ声が聞こえる。

どうやら風間ファミリーの中で誰が誰の案内をするか決めているようだ。

こういった時は大和とかクラス委員の甘粕さんに任せるのが良いだろう。

 

そんな事を考えていたら扉が開く。

出てきたのはキャップと背の高い男の転校生だった。

 

「久しぶりじゃねえか、キョーヤ!!」

 

俺の姿を見るやいなや満面の笑みでこちらに話しかけてくるキャップ。

俺も笑顔を返して手を振った。

 

「運動会の時は話しかけてこなかったけど何か有ったのか?」

「あの場で話すことなんて無かった」

 

こちらとしては話す雰囲気でもない。

話題というものもなく意図的に避けた。

 

それから後も意識して会わない様にして来た。

これが不思議な事に会いたくないと思うと本当に会わなくなるのだ。

それにキャップに会うという事はほとんど必然的に大和と顔を合わせる。

俺は大和と顔を合わせる気にはなれなかった。

 

「そうか、回るんだけど一緒に行くか?」

「別に構わないがあと二人は誰が案内するんだ?」

 

お嬢様と女性が居たはずだ。

俺はその事について疑問を抱く。

するとキャップが笑みを浮かべたまま答えてくれた。

 

「クリスは大和、アマレットはガクトが案内する事になった」

 

なるほどね。

人選としては間違ってはいない。

 

モロでも良かったが人とのぶつかり合いをなくせる意味では大和の方が良い。

人と一緒に居る機会が多い以上、お嬢様のような人でも問題ないと思ったのだろう。

ガクトについてもめちゃくちゃな所を勧めたりはしないだろう。

 

「あの、早く行きましょう」

 

低い声が響く。

 

「悪いな、雁侍、じゃあ行くか」

「そうだな」

 

そう言って観光ついでに案内が始まった。

キャップと巡ったところはなかなかツボをついていた。

 

仲見世通り。

中華街。

 

それから少し遠出をして七浜公園や赤レンガ倉庫。

 

雁侍はそれらに終始笑顔を浮かべていた。

案内も終わり雁侍は楽しそうに家へと帰っていった。

 

それから公園へ行く。

ベンチに腰掛けた時キャップが真剣な面持ちでこちらを見る。

雰囲気がさっきとはまるで違う。

そして重々しく口を開いた。

 

「……何で俺たちの前から姿を消したんだ?」

「それを聞くか、キャップ」

 

やはり気にはなっていたのだろう。

突然遊ばなくなって探しても全くもってもぬけの殻だったのだから。

 

「一応聞くが、大和から聞いてないのか?」

「大和は転校とか言っていたけど今考えたら違うんじゃないかって思ってな」

 

なるほどね。

自分に都合の悪いところはぼかして伝えたってわけか。

 

「また皆揃っている時でも話すよ」

「そうか、お前が抜けたあとにモモ先輩と京が来たんだ」

「へえ……」

 

俺は本当の事を話してみようと思った。

そしてキャップの言葉に対して僅かに手に力が入る。

あれから二人も増やしたか。

俺が抜けたから一人分は空きが有るだろうけどちょっと釈然としないな。

 

「そして俺はクリスとあの一年生の女の子を新しく入れたいと思ってる!!」

 

あの一年生って由紀江さんのことか。

キャップの宣言に俺は口出しはしたくない。

それに俺がする権利を普通ならば無い。

 

二人ににとっては一つの転機になるはずだと思う。

だから俺は頷いておく。

 

ただ大和が了承するかは分からない。

あいつがあの日を覚えていたら入れてはいけないはずだ。

 

それを破るようであるならばこちらとしては物申す。

あの日から解決されていない問題。

あれから追加しただけでも苛立ちが募る。

もし次了承したならばこちらとしては見逃す事は出来ない。

 

「悪いがキャップ、了承してくれる奴のあてはあるのか?」

 

一応聞いてみる。

きっと一子とモロはOKを出すだろう。

ガクトも女性だから問題はない。

七人のうち三人は大丈夫だろう、そこにキャップが入れば半分を超える。

多数決になっても勝てるはずだ。

ただいやがる奴が少しでも居たら考え直すべきだろうからな。

 

「問題ない、俺の決めた事だ、文句は言わせねえ!!」

 

この言葉に俺は苦笑いを浮かべる。

俺もこのように自分のわがままを押し通せるほど強引だったなら抜けなくてすんだのかな?

答えが返ってくるわけではないけれど少し考えてしまう。

 

「まあ、また遊ぼうぜ」

 

考え事をしていたらそんな言葉が飛んでくる。

 

「抜けたとしても友人じゃなくなるわけじゃないんだからよ」

 

その笑顔が眩しかった。

そして心の中で思った。

『リーダー』に必要なのは『器』なのだと。

英雄にせよキャップにせよそういったものが備わっている。

 

「ああ、また遊ぼうな」

 

俺はその笑顔に対して満面の笑顔を返して公園から出て行く。

俺は少し後ろめたいものを感じながら家路へついた。




今回は少々時間を使った割りに短くてすいません。
会いたくないと意識したら会わないというのは意外と現実でもあります。
何かご指摘ありましたらお願いします。

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