真剣で猟犬に恋しなさい!!   作:勿忘草

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今回は幕間のようなもので香耶の上の名前が付く回です。


『俺とおっさん 外国へ行く』

俺はあれから大和とキャップの三人で風間城の改造を頑張って二日が過ぎた。

今日はクリスマス・イブ。

普通に『白い家』でも楽しい一日だった。

それなのに、おっさんはその日の夜になっていきなりこんな事を言い出した。

 

「仕事だから空港に行くぞ、着替えるんだ」

「えっ!?」

 

俺は寝起きというのも有って大きな声を出して驚いた。

おっさんがどんな仕事しているのかは知らなかった。

でもいきなり空港って事はどこか遠くに行くって事だ。

 

「イタリアで会議なんだよ、全く…… こんな日にやる事じゃあないだろうに」

「まさかこんな時間に外国に行くのか!?」

 

俺は夜だというのに大声を出していた、先ほどとは違って意識の方もはっきりしている中での大声だったため少し響く。

 

「だから悪いけど急いでくれ、俺は妻を起こしてくるから」

「分かったから急()かさないでくれよ、おっさん」

 

おっさんと俺はそう言って着替える。

 

おっさんは持ち物を整理してパスポートOKとか言ってた。

 

……あれ?

そこで俺はおかしな事がわかった。

荷物の整理で気づいたけど、一緒に行くとしても俺のパスポートはどうしたんだろう?

 

「ホラ、君のパスポートだ、持っておきなさい」

 

そう言ってパスポートを投げ渡してくる。

 

「これってなんて読むんだ?」

 

なんかパスポートの名前欄には『澄漉』って書いていた。

流石にこれは読み方が分からない。

 

「『すみろく』って読むのさ、珍しいだろ?」

 

「まあ、そう言われたらかなり珍しいな…」

 

おっさんがいうとおりこれは珍しい名前だった。

しかしこれでようやく上の名前が分かった。

俺の上の名前は『澄漉』となったから、これから俺は『澄漉(すみろく)香耶(きょうや)』という訳だ。

 

「さて…行くか」

 

そう言って俺とおっさん達は家から出た。

 

「川神駅で電車に乗って、羽田空港でイタリアまで行く」

「ちゃんと行き方は知ってるんだな」

 

そう言って川神駅へと向かう。

 

「さて、駅に着いたな」

「今度からは地図を用意してくれ……若干遠回りしていたぞ」

 

俺はとりあえずおっさんが切符を買っているのを見ていた。

って言うか外国まで行くのに、キャップや大和には一言も言ってなかったな、俺。

 

「よし、これで東京まで行くぞ」

 

そうおっさんが言って空港行きの電車に乗る。

 

「うつらうつら……」

 

とてつもなく眠い。

幾らなんでも、夜からこれというのは余りにも面倒すぎる。

しかも東京方面に行くわけだから、コレから少しの間長く揺られているわけだし。

 

「さて、降りようか」

「んっ……俺、寝てたのか?」

「そうだ、ぐっすりと眠っていたな、空港に行くよ、それとついでにジャケット返してくれ」

 

数時間後、俺は起こされて被らされていた真っ白のジャケットを返す。

おっさんなりの気遣いのようだ。

 

「で……イタリア行きの飛行機はこれだな」

「貴方、飛行機の横に『九鬼財閥』って書いてあるわ」

「やっぱりここも九鬼財閥か、流石に愛社心で使っているわけではないけどね」

「九鬼財閥?」

 

俺は首をかしげていた、何故ならば『財閥』などという言葉を聞いたのはコレが初めてだったからだ。

 

「ああ、『世界の九鬼』とまで呼ばれる財閥…まあ、君の年でいえば会社だ」

「なるほど、そういうと分かりやすい」

 

そう言って俺は頷いた、説明がわかりやすくて助かる、この年に合った言葉で言ってくれると楽に頭に入るからな。

 

「川神の電車の広告にもよく有るけど、ここでも名前を見るとは本当に手広いと実感するね」

「へえ…そうなのか、凄いな」

「まあ、凄いな。 とりあえずこれ乗ってイタリアに行くよ」

 

そう言って、俺とおっさん達は航空券を購入してイタリア行きの飛行機へと乗る。

 

「でも機内食は日本食じゃあないんだよな……、不味くも無いが美味しくも無い」

「流石に食事まではどうしようもないのか?」

「いや、まだ九鬼の食事衛生の部門が全てにいきわたってないんだろうな」

 

おっさんが言うとおり、ご飯は不味くもないがそこまで美味しいものでもなかった。

 

そして空の旅をする事、およそ十二時間。

時間が惜しいという事でノンストップ便で行っていた。

 

 

「相変わらず変わらない空気だな、二ヶ月ぶりだ」

 

おっさんはそんな事を言うが一体何者なんだろう?

 

「気になるって顔をしているな、一応こう見えても九鬼財閥の総合貿易部門の統括だよ」

「えっ?」

「この若い年で任せられてもね……収入は増えるが妻と過ごす時間が減って仕方ない」

「おっさんっていくつなんだ?」

「二十三だけど……そんなにふけて見えるかな?」

 

そういうおっさんの顔はなんだか悲しそうだった。

 

「妻を連れてきているが、これが終われば家族サービスしないとな」

 

そう言って気合を入れなおしてある所に入っていく。

 

「ここは九鬼のイタリア支社だよ、そんなにきょろきょろしなくても良い」

「どうしていたら良い?」

「そこに妻と一緒にいたら良い、すぐに終わるさ」

 

おっさんはそのまま偉い人と会って話をしている。

イタリアだからイタリア語で話しているんだろうけど何を言っているのか分からない。

まるで宇宙人の言葉のようだ。

交渉が終わったのか笑顔でこちらへ戻ってくる。

 

「OKだったよ、これ以上ない条件で決定させた、これから後に残っている作業の事は私ではなくその品を担当する部門の担当だ」

 

それだけいっておっさんは妻……つまり俺の母さんの横に座った。

 

「お疲れ様、貴方」

「すまないな……俺の都合で連れまわして」

「良いんです、少しでも長く居れて幸せ……」

 

そんな言葉を聞いていたら俺はなんだかむず痒くなってくる。

俺はほんの少しだけ距離を取ろうとした。

すると、おっさんが腕を掴んでこんなことを言ってくる。

 

「遠慮せずにもっと近くに来なさい、君は俺と叶(かなえ)の『家族』なんだから」

 

そう言って引っ張ってくる。

 

俺はどこかで『家族』じゃないと思っていたのかもしれない。

そう考えるとなんだか恥ずかしくなる。

 

俺はただ『家族』としての実感を土産に、イタリアでのクリスマスを終えて家に帰っていくのだった。




今回は短くなりました。
次回も少し幕間に近いものです。
何かご指摘がありましたらお願いします。

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