真剣で猟犬に恋しなさい!!   作:勿忘草

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今回は勝負メインです。
次は少し板垣一家の歓迎会の日常話を予定しています。


『怒髪天』

『心に触れた者ども』

 

あれから時間がたって管牧との勝負の日がやってきた。

相手の情報は仕入れてはいるが未知数というところは怖い、しかし武蔵の方が強い可能性が十分にあるという事だ。

急速に伸びていて経験値の少なさを無鉄砲さでカバーしている。

まだ基礎部分が荒かったり、つけ入るスキはある。

大方負けた先輩たちも、未経験ゆえの無茶苦茶さにペースを乱されてしまったのだろう。

それがたまたまいい方向に転がって自分のペースをつかんでの勝利、それだけでは上位のメンバーには勝てないだろう。

 

「それを今日改めて知るんだろうなあ」

 

手を振って感触を確かめる、足もそれと同じように風を切るように振る。

首を回して音を鳴らし、屈伸させて柔らかくほぐしていく。

コンディションはいつでも万全に保っておかないといけない。

自分より実力が上であれ下であれ己の管理をろくにできないならばそれは戦うものとしての礼節を欠いてしまう。

 

グラウンドでの試合という事もあって、前回よりも人は集まっている。

モロやユキ、トーマや準やキャップ、英雄、あずみさんがいる

マルギッテさんとクリスお嬢様も遠くで見ているようだ。

 

「そんなにきょろきょろしてんじゃねえ、前の相手に集中しろ」

 

そう言ってくるのはタッちゃんだ。

今回のセコンドに立ってくれている。

相手の動きなどを見て的確なアドバイスをくれるだろうし、仮に曖昧でも長い付き合いのおかげで理解できる。

 

「分かったよ、最初は様子を見るんだろ?」

「そうだ、長くなっても相手のやり方を探らないと、隠し玉があるかもわからねえ」

そう言ってセコンドは選手から離れる。

今回の立ち合いの教師は小島先生だ。

 

「双方、始め!!」

 

その言葉と同時に管牧が動き出す、緩やかながらも確かな速度で距離を詰めていく。

速度を必要としないでも勝てるものを身につけているのか?

 

「はあーっ!!」

 

その言葉と同時に一気に距離を詰めてきた、フェイントだったか!!

月を放ってくるがそれを頭を下げて回避する、その横を足が襲い掛かる。

 

「ふっ!!」

 

小さく息を吐き出して後ろへ飛んで回避をする、しかし相手は序盤でありながらも攻めてきた。

中国拳法の様々な技を繰り出してこちらに息つく暇を与えない。

速く一撃一撃に威力を込めてくる。

それに反撃に出ようとしても、面倒な事に間合いが狭すぎる。

ほぼ密着している状態ならば零勁を打てばいいが、そのための時間を与えてこない。

 

「仕方ないか」

 

そう言って俺は防御を解いて相手の攻撃を無防備に受ける。

その攻撃の勢いを活かして間合いから離れて体勢を整えていた。

これは東西交流戦で大友が俺の一撃を喰らって大筒へたどり着いた手法をまねた。

思い切り受けたから体が少し痛いが、この程度ならば必要経費というところだろう。

 

「かっ!!」

 

発勁で相手の攻撃を弾き、化勁で逸らす。

相手の攻撃は手ごたえがないのか、何度も確かめるようにして放ってくる。

初めは様子見といったが、本命の拳法は別にあるのが分かる。

色々な技を出してはいるが、どれもこれも完成されている感じがしない。

もし、今までの攻撃の中で中心に行っている拳法があれば、その一撃の完成度やそこにつなげる動きが全く違うものになるだろうからだ。

 

「いい加減、曝け出してみろよ、本当の攻撃を」

 

相手の突きを避けて、振り切られた腕をつかみながら言う。

そのまま離して距離を僅かに開ける、すると怒りをあらわにしているのが見て取れた。

あの場面で追撃がないことに腹が立ったのだろう、なめられていると感じたのだろう。

自分も同じような事をしていたんだろうが、それを棚に上げて怒るのがまだ未熟者というところだ。

 

俺は様子見をやめろとタッちゃんが言ったらお前が本命を出す前につぶしていた。

そうなった場合、俺は本気を出さなかったお前へ怒ることはない、ただ退屈な気持ちのまま帰るだけだ。

 

「しゃあっ!!」

 

構えなおして管牧が動く。

さっきとは全く違う動きを見せている、どうやら本領発揮のようだな。

俺も構えてその攻撃を受け止めてそのままの間合いを保とうとする、タッちゃんのサインはもう少しで出るだろう。

観察する時間は終わるからだ、相手の本気の動きは分かりやすいのだから、これに偽りはない。

正真正銘、こいつが出せる全力の動きと拳法だ。

 

「ふんっ!!」

 

拳ではなく手のひらを多用しながらまるで踊るような独特の動き。

なるほど、これがお前の拳法か。

知っている。

確かに中国拳法のうちの一つだ。

技と門派の多さにかけては中国拳法の中でもかなりの数を誇るもの。

 

「まさか『八卦掌』の使い手とはな」

 

その言葉を言った瞬間、知っていた事がうれしいのか微笑みながら攻撃を繰り出してくる。

おおよそ知っているのならばこの拳法の怖さも分かるだろうと言いたいのかな。

 

「勝負決めにいきやがれ、キョーヤ!!」

 

タッちゃんが相手の真剣な動きを見て、勝負を決めるように言ってくる。

相手が本気になっているから、こっちもそれに報いて必死の思いで打倒する。

 

俺は呼吸を一つ整えていつもの構えを取り、次の踏み込みのために力を込める。

次の相手の攻撃を同時に踏み込んで『』を打ち込む。

 

手のひらの攻撃が放たれた瞬間、砂を大きく巻き上げるほどの強い踏み込みをした。

その次の瞬間には体当たりをしたように半身を翻した俺とその一撃を喰らい吹っ飛ばされた管牧の姿が有った。

肩がめり込むように当たり、手ごたえがあった。

そのまま管牧の意識が戻らず試合は終わる。

結局はまたもや一撃。

これで俺の順位はまた上がっていく事が確定しただろう。

 

勝者のコールに応えて、そのままタッちゃんと一緒にグラウンドから去っていく。

次からは15位から上の相手になっていくだろう。

 

.

.

 

試合が終わってまっすぐ家に帰っていった、特に用事もない。

すると家の前に誰かいるのが分かる、少し遠い所から見ているからわかりにくいので近づいていく。

 

「なんだ、天ちゃんだったんだ」

 

小柄な体格を見てピンとくる。

と言っても『月雄荘』は基本ガタイのいい人間の集まりだから、その中で華奢な女の子となると天ちゃんしかいないのだ。

 

「どうしたんだい、俺の家の前で待ったりなんかして」

 

わざわざ俺を待っているなんて何か理由があるんだろう。

そう思いながら腕に視線をやるとゴルフクラブが映る、なんとなく読めたな。

 

「えっと、その稽古つけてくれね?」

 

ゴルフクラブを掲げながら言ってくる、やっぱりそうだったか。

一体なぜだろう?

家には辰子さん達もいるだろうに、一応聞いてみよう。

 

「竜兵とか辰子さんもいるじゃん、なんで俺?」

「リュウは拒否しやがったし、タツ姉は本気出さないからな、亜巳姉は怪我させちまったら駄目だし」

 

なるほどね。

仕事の内容にもよるけど亜巳さんが怪我をすると響くのならそれは良くない。

しかし俺は素手だけどいいのかな?

 

「とりあえずくたばる前にギブアップするからね、稽古なんだから攻撃を止めてよ」

 

俺は拳だからまだしも天ちゃんはゴルフクラブだ。

頭とか内臓に対して思い切り撃ち込まれてしまうと危ない。

これが稽古ではない真剣勝負なら、俺が倒れても打ち込んで問題ないんだけどね。

 

「じゃあやるか、おいで」

 

構えてお互いが距離をとる。

家の前で稽古とかはっきり言ってあり得ないことだ。

 

「行くぜ、オラァ!!」

 

一気に駆けて来て振り抜いてくる、なかなか速いな。

正直今日戦った管牧よりは確実に強い。

 

「大振りすぎるぞ、脇を閉めなきゃ避けられた時、懐に飛び込まれる」

 

天ちゃんが攻撃を振り抜いた瞬間に一気に接近して顎に拳を軽く当てる。

ゴルフクラブを手元に戻す間にこうも懐に飛び込めるなんて振り回しすぎだ。

これが稽古じゃなければ顎にアッパーを入れておく所だぜ。

 

「ちっ、これならどうだ!!」

 

足を掬うように地を這う動き。

速度は相変わらず悪くないし、狙いはいい。

しかしまだまだ荒っぽさがある、悪く言えば焦ってる感じだ。

 

「目線が上に行っていない時にやっても効果は薄いぜ」

 

一歩下がって足を掬われないようにする。

その時その時に応じた最適な動きがまだできていないのだろう。

今まで勝てたチンピラと同じレベルだと思ったら間違いだよ。

 

さっきの攻撃より、こっちの足を掬う動きで繰り出した方が綺麗な出方をしていた。

つまり、あのゴルフクラブは相手の攻撃を捌いたりする動きや、防御向きの動きを補助するための道具なんだろう。

 

「おおっ、やってるじゃねえか」

「凄いね~、天ちゃんが押されているよ~」

「見たから知ってたけど、天の動きを完全に見切るとはやっぱりただ物じゃないね」

 

いつの間にか辰子さん、竜兵、亜巳さんが見ていた。

 

「はぁっ!!!」

 

一気に飛び上がって回転して攻撃をしてくる。

一見してみると一子が使っていた、川神流の『大車輪』に似ている。

 

だからこの攻撃の弱点は良く知っている、回転数に威力が比例するという事。

また一度回避されると連発が難しく、また前後といった直線の動きに大きくウェイトが乗っかっているのも弱点と言える。

つまり、回転数が十分でない状態なら止められる。

そして、左右の方向までカバーができる技とは言いにくい為、左右に動くと回避は比較的可能なのだ。

 

「相手の隙も作らずに大技を出しても見た通りだ、避けられてしまって逆に自分を隙だらけにしてしまう」

 

横に避けて、そのまま接近戦に移行できる距離をとる。

次の技はいったい何を繰り出すのだろうか?

 

「くそっ、こうなりゃ稽古とか関係ねえ、こいつを使う!!」

 

そんな事を考えていると大技を避けられて、怒りが最高点に高まったのか。

なにやら天ちゃんが袋をポケットから取り出す。

その中に錠剤が入っているのを見た瞬間、俺は動いていた。

正直言うと稽古の範疇を超えた速度だ、天ちゃんも俺が袋を奪い去るまでまるで反応できていなかった。

 

「ちっ、取られてしまった!!」

 

俺から取り返す為にゴルフクラブを振り下ろすが、それよりも俺の動きの方が速く腕を動かしていた。

 

「こんなもの!!こんなもの!!!」

 

俺はゴルフクラブの一撃が頭に掠るのも構わずに錠剤の入った袋を離さずに地面に叩きつける。

それを渾身の力を込めて踏みつぶす。

念入りに何度も何度も、粉々になっていてもお構いなしに。

 

「おいおい、そんな真剣に踏みつぶさなくても……」

 

竜兵がそんな事を言っている。

真剣にしなければなんだというのだ。

こんなものを使わせるとは何をやっているんだ。

怒りがふつふつと沸いてきて、次の瞬間叫んでいた。

 

「なんで止めさせようとしない!!」

 

俺はまずは亜巳さんに向かっていき、平手打ちで頬を叩く。

なぜ、こんなものを使わせたんだという怒り。

そしてなぜそれを止めなかったのかという悲しみ。

家族であるのならば止めてあげなくてはいけないものだ。

 

「あんたもだ!!」

 

次に辰子さんの頬を叩く。

少しふらついたようだが拳ではない分あまり効いてもない。

 

「最後だ!!」

 

そして最後に竜兵に拳を叩き込む。

姉たちに比べて拳なのは性差だというのと、一番近い存在なのに止めなかったことに対するものだ。

 

「幾らなんでもやりすぎじゃね?」

 

稽古そっちのけで3人を攻撃した俺におろおろとした顔で天ちゃんは言う、生ぬるい。

本来なら腕や足の一本ぐらいはやってもいいくらいだ。

薬は健康な人間が飲むものではない。

ましてや興奮剤などそういったものは副作用で体を壊してしまう。

そうなったら次は精神面にも変調をきたしてしまうだろう、その行き着く先は悪ければ廃人だ。

そんな人間にしたくもないし、二度と見たくない。

 

「あんたらはなんで殴られたかわかるか?」

 

俺は低い声で睨み付けながら言う。

それに対して叩かれた面子は全員視線を向けてくる。

 

「わからねぇ……」

 

即答で分からないってまず考えてすらいないだろ。

こいつは論外だな、辰子さんを見る。

 

「興奮する薬を飲ませてたから~?」

 

まあ、一応当たっているな。

最後に亜巳さんを見る。

 

「そしてそれを私達が止めていなかったからだね」

 

とりあえずは分かってもらえたようだ。

考えることを放棄して即答した竜兵の分までしっかりカバーできているな。

 

「そういう事です、今すぐにでも止めさせないといずれは壊れますよ」

 

後先考えず多くの量を服用するようなことがあれば、なおさらだ。

その分一気に押し寄せて、負担も大きい。

 

「大事な家族なんだって思うなら、やるのは天ちゃんの勝手とか思わずに止めるのが普通です」

 

俺はそう言って睨み付けるのをやめた。

亜巳さんと辰子さんも考え込んでいるようだ。

 

「叩いたりしてすみませんでした、こういうものに良い思い出がないんでやらせてると思うと血が上ってしまいました」

 

頭を下げて謝罪をする。

昔の事を思い出してしまって、カッとなったのは良くなかった。

 

「いや、天の事を心配した上での事だし、私達にも非があったからね、でも……」

 

亜巳さんがそう言った瞬間、頭を棒で叩かれていた。

ジンジンと頭が痛む。

 

「これ位はさせてもらうよ、叩かれた分はこれでチャラだ、年下に叩かれて黙っていたら私の肩書きが泣くってもんさ」

 

そういう事ですか、結構きつい一撃だったな。

頭を押さえていると辰子さんが天ちゃんからゴルフクラブを預かってそのまま自分たちの部屋へと戻っていく。

自分の家の前で、流石にやりすぎたかと未だに残っている頬の傷をなでながら後悔するのだった。




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一応原作でも天ちゃんは薬がなくなると弱くなります。
しかし、弱体化によるキャラの魔改造はありませんのでどうかご了承ください。

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