海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

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8.罪作り

----------------------------------- side : Red Force

 

「あいつ多分悪魔の実食ったんだと思う」

「……んん?」

 

 ホンゴウの言にシャンクスはきょとりとする。

 

「一口六十回以上味わう子がろくに噛まずに『梨』を一個、一人で完食した。よほど不味かったんだろうよ」

 

 苦笑しながら肩をすくめるホンゴウの言葉に、そう言えばとシャンクスは思い出す。

 ルリの一口を面白がってわざわざ数えたのはシャンクスだ。

 

「……あー……成程なあ……」

「母親が善意で貰ってきた物みたいだったから、頑張ったんじゃねェかな」

「想像がつく」

 

 二人して苦笑する。

 

「ただキレイに皮剥いて切って持ってきてくれててな、何の実か調べようもねェ」

「ハハ。……どんな能力を得たろうな? 将来有望くん」

 

 今は傍にいないルリに話しかけるかのように村の方向に視線をやり、シャンクスはぽつりと言う。

 

「しっかし、そうかー……やられたな。悪魔の実なんて、そうゴロゴロしてる物じゃねェだろうに……」

「やられた?」

 

 ホンゴウは首を傾げる。

 

「あいつに食べさせてみたい実はあったんだ。だがまあ、今はどこにあるかも分からねェ。縁がなかったか」

「へー。……珍しく入れこんでるな?」

「っハハッ、そう見えるか? ……だって五歳で覇気だぞ?」

「確かになぁ……」

 

 あんな幼い子が極限状態に陥った事実に胸が痛まないこともないが、早い段階での才能の開花というのはやはり目を惹く。

 

「『最弱の海』ねえ……誰が言ったんだか…………さて、次の航海はあと二、三日したら、ってところか」

 

----------------------------------- in Mt.Corvo

 

「……ルリ、村の病院に移ったってさ」

 

 サボはエースの様子を伺いつつ切り出した。不機嫌にならないだろうか、と。

 

「……んなことドコで聞いたんだよ」

「適当に歩いてたら村人たちが話してるのが聞こえた」

「…………適当に、ねえ……」

 

 サボにわざわざあの村に出掛ける用事なんてありそうもない。エースはジト目を向けた。

 

 ……ハァ、と、エースは溜め息をつく。

 

「何であいつ、逃げなかったんだ」

「お前が逃げなかったからだろ」

「……は」

 

 言い返したサボは酷く真剣な顔をしていて、エースは一瞬気圧される。

 

「あいつは友達置いて逃げられる奴じゃねェ」

「年と身体考えろってんだよ……!」

 

 ははっ、とサボは眉尻を下げて苦笑した。

 

「第一……あの熊相手じゃ、おれもお前もそう(・・)だった。だから任せてもらえなかった。エースも分かってるんだろ?」

「っ」

 

 エースは目を逸らした。

 

 フラッシュバックが起きる。

 

 熊との間に割って入ったルリと、二人して木の幹へと叩きつけられた。思考停止要素が大量にありすぎて何もかもが止まって見えた。

 

 弾け飛んだ木刀と赤色と、変なふうに曲がってしまった小さな友人。

 その軽さが何よりも心を抉った。

 そして、そんな小さな身体でルリが、成体の熊の一撃に対し、エースに意識を失わせない程の防御を成してみせたという、物理的に有り得ないはずの事実。

 

 ──クラクラする。

 

 熊は遠くに沈めた二人よりも近くにいたサボを狙い始め、エースは死角からルリの木刀の折れ口を使って片目を潰すことに成功。その後二人で鉄パイプを構えるも少しの応酬を経て熊は逃げ去った。

 

 後は二人で赤に塗れたルリを必死に連れ帰った。

 

 果たしてルリが言う事を聞いて逃げていたとして。

 ──あの一撃でエースが叩き潰されていたら。

 その後サボが一人だけで敵うはずもなく。

 ルリも追いつかれて──。

 

 瞼の裏にチカチカする光景を振り払うように、エースはぶるぶると首を振る。

 

「だからきっと……仲間に逃げろって言いたかったら、自分はその場を任せられるくらい強くならなきゃいけないんだって……そう思った」

「……」

 

 エースは黙り込む。

 己より四つも年下な守るべきはずの者に、逆に、命を捨てるようにして守られた。それはエースにかなりの衝撃を与えていた。

 

「……強くなろうぜ、お互いに」

「…………当たり前だ」

 

 エースはぐっと拳を握り締めた。

 

----------------------------------- side : the Wild police

 

 取り繕うためもあってその後六人は本当に一緒に昼寝した。そろそろおやつの時間になるよと先生や看護師に揺すられ、むにゃむにゃと起き上がる。

 

「……せんせー、もー包帯邪魔だし面倒くさいー……取っていーでしょー……」

「こらー、だめだよ、だめ。バイキン入るから」

「えぇー……」

 

 頭に巻かれ顔の左側を覆い隠す包帯を、寝ぼけた様子で引っペがそうとしていたルリの手が医師によって阻止される。不満そうにむうと唸り包帯からしぶしぶ指を離すのを、周りは複雑な表情で眺めた。

 

「……ルリの顔、どーなってんすか」

 

 松田は内心忌々しいものすら抱えながらむすっと医師に聞いた。医師はとばっちりだが。

 

「あ、ああ……瞼と頬に傷があってね。ホンゴウ先生がなんとか塞いでくれたそうなんだが、まだ再生中……治ってく途中だから、色んなことから守るために、薬塗ったガーゼで覆ってるんだ」

「……そっすか」

 

 松田(ジンペー)がルリをじー、と見つめると、ぱちぱちと瞬きを繰り返してきょとんとされる。

 

「しっかり痕残りそうっすね」

「……だろうねえ。顔だけじゃなくて、他の包帯ぐるぐるの腕と肋のあたりもだよ」

「ちょっ、せんせー! ぺらぺら喋らないでよ!」

 

 松田(ジンペー)もルリも多少子供らしさを演じているのをきちんと理解している他四人は、浮かべた苦笑を少し引きつらせていた。

 

「だって君たち仲良さそうじゃないか。包帯要らなくなったらどうせバレるよ?」

「それは、そうだけどさあ……」

 

 口をへの字に曲げるルリ。

 内心ではしみじみと、プライバシー等々よりも人情が基準になっていそうな世間なのかなと思う転生者六人。場合によっては温かいし助かる。

 

「……全くもー、俺らの知らないとこでそんな怪我してきてさぁー」

 

 萩原(ケンジ)が膨れている。

 

「……何だよ」

 

 ルリはたじたじとなった。

 

「……でも相手が熊じゃ、何で俺らを連れてかない、って責められないんだよ、ずりーだろ、ルリちゃん」

 

 珍しく責め寄る萩原(ケンジ)に目を丸くしたのは言われたルリだけではなかった。

 萩原(ケンジ)のこれは松田(ジンペー)降谷(ゼロ)がずっと不機嫌だった理由でもある。それを険悪になることなく口に出したのは、松田(ジンペー)降谷(ゼロ)がなかなか言い出せずにいたことへの配慮でもあったのかもしれなかった。

 

「っあー! 早く大人になりてー!」

 

 うがー! と伸びをしながら萩原(ケンジ)は言う。

 

「……本当はもう山なんか行くなって言いたい」

 

 降谷(ゼロ)がぽつりと言う。

 

「……けど君の交友関係に妙な口を出すのはきっと違うんだろうな」

 

 むすっとしたまま、恨みがましそうなジト目で降谷(ゼロ)はルリを見る。言外に完全には納得できないと訴えられていると、そしてそれは心配してくれているからだと、大事に思ってくれているからこそだと、分かるからこそ、ルリは苦く笑う。

 

「だからせめて、危ないことにはできるだけ近づくなよ……でないと俺たちは……山の君の友達に殴り込みに行きそうだ」

 

 ルリは降谷(ゼロ)が子供らしさを装うのを放棄してまで切々と訴えるのに頭を抱えた。医師に驚かれることよりも忠告(?)する機会に重きを置いたのだろう。

 

(もの分かりが良いのか悪いのか……!)

「……ゼロが言うこといっつも難しーんだよ……よく分かんないけど、ちゃんともう森の奥までは行かないようにするからさー……」

 

 ルリは猫かぶりを捨てないよう努めながら訴える。

 

 医師がくすくすと笑い始める。

 

「最近の子は大人びてるねえ。でも、ルリはまだまだ怪我人なんだ、そろそろ許してあげなさい」

「……ちゃんと言っとかないとまた大怪我してきそうだもん……」

 

 諸伏(ヒロ)がぼそりとこぼす。

 

「あはは、ルリ、信用がないな。……こんなに友達を心配させて……本当に気をつけるんだよ」

「……はあい」

 

 ルリもきちんと悪いとは思っているのだった。

 

「さあ、今日はもう休もうね。皆もお帰り」

 

 医師にそう言われては退場するしかなく、五人は渋々帰路につく。

 

「…………酷だとは思うんだが……『前世』? のこと知ったら……何か変わってくれねえかな、とか……まあ変わらねえかあ……」

「だろうなあ……それに……オレたちの考えすぎって言えないことも、ないし……?」

 

 伊達(ワタル)の言葉に諸伏(ヒロ)はそう返す。皆やりきれない顔をした。

 

夜白(やしろ)流理(るり)』は、『前世』において、この場にいる彼らを危機から救っていった反面、その危機と同じ類の不運(・・)が重なって命を落としてしまった。

 

 ガス漏れによる爆発によって隣り合う三軒が吹き飛んだ現場を偶然通りすがり巻き込まれ、その上吹き飛ばされた先で車に撥ねられた。

 ただし直接の死因は爆発で生じた瓦礫が直撃したことによる心臓破裂で、即死だったという。苦しまなかったであろうことだけは救いだった。

 

 ルリの葬式の後、『いつもの』居酒屋にて全員で青い顔をつき合わせることになった。

 それぞれ立場があって『いつもの』ではなくなっていた。久々の集合がそんな理由だなんてやめてほしかった。

 

 この事故の内容は、彼らの自意識過剰だとか考えすぎだとか言うには不穏すぎた。

 彼らの中には『流理』の干渉によって爆死を免れた者が三名、匿われ命を守られた者が一名、車に轢かれるのを免れた者が一名居る。つまり五人全員だ。

 どうしても、このうち四つが『流理』に一気に降りかかったように見えてしまう。

 

 今回の怪我は友人を庇ってのことだという。

 少なくともそれに関しては因果関係がしっかりしている訳で、こう、他人を助けるほどにルリ本人が命の危機に瀕していてはあまりに報われない。

 

「……将来自分が身代わりみたいになるのを知ってて俺たちを助けたわけじゃないだろうしな。未来は視えないと言ってたし。……偶然だと笑い飛ばすだろう」

 

 降谷(ゼロ)は苦く笑う。

 

「目の前で誰かが困ってたら手を差し伸べるのがもう、性分なんだろうなあ……」

 

 萩原(ケンジ)も苦笑する。

 

「……今度こそあんな目には遭わせねえ……今後山行くようなら尾行してやる……」

「うわあストーカーだぞじんぺーちゃん」

「自らすすんで命の危機に飛び込んでいくあいつが悪い」

「……気持ちは分からなくもない」

 

『前世』においていかにも警察官らしい警察官だった伊達(ワタル)松田(じんぺー)のストーカー紛いの行為に同意の姿勢をみせたことに一同は内心で驚くも、無理もないとも思ってしまった。

 それだけ彼らの中で『命の恩人』である上で不穏な最期を迎えたルリの存在は重い。

 

「まあまずは……俺たちの方が熊なんかに負けないよう鍛えないとな」

 

 正義感の塊だった降谷(ゼロ)までストーカーする気満々で皆苦笑する。

 

「けどそういえば、あいつどうやって熊の攻撃に耐えたんだろうな?」

 

 伊達(ワタル)が小首を傾げる。

 

「……やっぱ『前』の世界の常識に囚われてちゃ駄目ってことなんだろうなぁ……ルリちゃん、身体能力は『想像次第』って言ってたし」

 

 大人でも耐えられるか怪しいものを、木刀一本と大怪我という代償と、たまたま医療設備の充実した赤髪海賊団の滞在中だったという幸運こそあれど、からくも生還してみせた。

 

「幼児の身体じゃ、いくら筋肉つけてようが熊相手に耐えるとか物理的に無理なはずだろ? それを生き延びたってことは、何かファンタジー並の要素があると思うんだよなあ。……人間が質量保存の法則等々ガン無視で星の砂出せる世界だし……」

「それはお前だけらしいだろ……まあ、おかげで何でもアリな世界に見えるが」

 

 萩原(ケンジ)伊達(ワタル)の会話に、松田(じんぺー)も混じる。

 

「……俺の星の砂も何か役に立てられればいいんだけど」

 

 萩原(ケンジ)は困り顔で笑った。

 

「それこそ想像次第なのかもしれないな」

 

 諸伏(ヒロ)がクスりと笑う。

 

「例えば砂大量に出して壁作るとか?」

「……そんなに出せるのかな……?」

 

 降谷(ゼロ)の提案に萩原(ケンジ)は困惑を見せる。

 

「やってみないことには、って感じするよな?」

 

 にこりと笑う諸伏(ヒロ)

 

「……何か実験体にされてる気がする……」

「だってこの中ではお前しか食ったやついねぇし。……村の外行こーぜ」

 

 多少怯えた様子を見せる萩原(ケンジ)だが松田(じんぺー)は容赦なく引き摺って歩き出した。

 

 斯くして、五人はいつかの野原に向かった。

 

「なぁなぁ……俺だけなんか頑張るんじゃなくて、お前らも気合で固くなるだの弾くだの試行錯誤してみろよー……」

 

 仁王立ちするようにして囲まれた萩原(ケンジ)は顔を引きつらせながら訴える。

 

「君以外は特殊能力がある訳でも無し、一朝一夕で分かるとも思えないが」

「だって怪我した時はまだルリちゃん不思議な実とかなんも食ってなかった訳だろ?」

「……まあそうだが、あいつ何か隠してそうな気がするんだよなあ……」

 

 降谷(ゼロ)は訝しげな表情を浮かべつつもしぶしぶといった様子で引き下がった。

 

「けど、固くなるか弾く、か。まあ、耐えるとなるとそういうことだよなあ」

 

 ふうむ、と伊達(ワタル)は考え込む。

 

ワタル(班長)、スパーリング頼む」

「おう。どっちが攻撃側だ?」

「先に君にお願いしたい」

「オーケー」

 

 と、降谷(ゼロ)伊達(ワタル)が少し離れてとても五歳とは思えぬ(前世基準)動きをし始める。

 

 その様子を横目に。

 

「……えい」

 

 掌から出て来る星の砂を萩原(ケンジ)松田(じんぺー)に向けて放ち始める。

 ぺちちちと降ってくる砂に松田(じんぺー)は顔をしかめた。

 

「……オイ。服に入るだろ」

「弾いてみせてよー。じんぺーちゃんと殴り合いはちょっと怖いしさあ」

「お前は一人で砂を操れる(・・・)ようになれ。俺はヒロの旦那とやる」

「えっ?! オレまだ死にたくないよ」

「……ヒロ……?」

 

 一歩引いた諸伏(ヒロ)松田(じんぺー)は青筋を浮かべる。

 

「……けど、操る(・・)かあ……ふーむ……」

 

 萩原(ケンジ)は掌を眺めつつ、指を開いたり閉じたりしながらぶつぶつと呟く。

 

「星の砂ってプランクトンの殻なんだっけ? ……殻かあ……」

 

 サンゴや貝と同じようなものでできている、はずだ。

 

『想像次第』

 

 イメージを膨らませる。

 

 サラサラと溢れる砂は今までと違い只こぼれるだけにはならなかった。

 みるみる彼の利き手を覆っていく。

 

「……おー。これでぶん殴って壊れなきゃ儲けものだけど」

 

 ふんっと彼はそれを宙に振り抜いてみる。バラバラに解けてしまったりせず、不思議と重さも感じなかった。

 

「……木、は可哀想だし……地面に……」

 

 草が途切れ土がむき出しになっている場所へと歩いて行く萩原(ケンジ)を他所に、諸伏(ヒロ)が悲鳴を上げた。

 

「わっ、ちょっ! じんぺー! やめろって怖いから!」

「うるせー、全部余裕で避けてる癖に……それじゃ意味ねえだろ、受け止めろ」

 

 不敵に笑いながら松田(じんぺー)は次々と拳を繰り出す。さすがに本気の喧嘩を吹っ掛けるようなことはしていないが、それでも諸伏(ヒロ)は慌てた様子とは裏腹に本当にひょいひょいと避けている。

 

「無茶言うな! プロボクサー仕込みの拳は怖すぎる!」

「痛くねえ拳なんて耐えようって工夫する気にならねえだろ。……そもそもまだガキの力と身体だ。死にゃしねえ」

「オレもその子供なんだけど?!」

 

 そんな喧騒を他所に。

 

 ドン!! 

 

 鈍い音がした。足元に小さく振動が伝わって来て、四人はピタリと動きを止めその原因が在るであろう方向に視線を飛ばす。

 萩原(ケンジ)がこちらに背を向けて膝をついていた。

 

「どうした!?」

 

 他の四人は思わず駆け寄る……が。

 

 地面が抉れていた。その中心にあるのは白っぽい物で覆われた萩原(ケンジ)の腕。……状況的に星の砂なのだろうが。

 その直径五十センチ程のクレーターを作ったらしき当人がぽかんとしていた。

 

「何だそれ星の砂充分チートじゃねえか……」

 

 どことなくファンシーなイメージが拭えなかったが、どう考えても普通は幼児が成せる業ではない。

 

「いや……違うよ、最初は普通だったんだ。こんな穴なんかあかなくて……。ただ、痛くならなくて、でもそれだけじゃ意味ねえだろって悲しくて、もっと厚くしたらどうだろって思ったんだけどそれも上手くいかなくて……ヤケクソで殴ったらこうなった。違いが分からねえ……」

 

 やった本人が呆然としている。

 

「……もう一度、やってみてくれないか……『ヤケクソ』で」

「ああ……おう」

 

 降谷(ゼロ)がぽつりと呟くように頼むと、萩原(ケンジ)は頷いた。

 

 ゴスっ、っと、普通に殴っただけに見えた。穴は広がっていない。

 

 一同黙り込んで頭を悩ませる。

 

「くそ、単なる偶然か……?」

 

 悔しそうに眉根を寄せて萩原(ケンジ)は己の腕を見つめた。

 

「けどこれで、普通じゃない何かがあるのは分かった。お手柄だ、ケンジ」

 

 降谷(ゼロ)のフォローに萩原(ケンジ)は苦笑する。

 

「ゼロちゃんやっさしー……」

「『もっと厚くしたらどうだろう』か……」

 

 横でぶつぶつと松田(じんぺー)が独りごち、てくてくと数歩離れて行った。四人はそんな彼を無意識に目で追う。

 

 ……そして。

 

 ドォン!!!

 

 大きな音と振動、そして少しの砂煙。

 

「……っは?」

 

 一同ポカンとした。

 松田(じんぺー)はたったこれだけのやり取りから何かを汲み取ったのだろうか?

 

「……へへ。ケンジが星の砂の殻を被ったのは正解だったな。おかげで『何かで覆う』って考えると妙な……力の流れみてえなのを感じる」

「へえ……」

 

 ニヤリと笑う一同。

 

 それからあっという間に理屈と、更には勘を掴んだ彼らによって、辺りの地面がボコボコになるのだった。律儀な彼らはある程度気が済むときちんと穴を埋め戻した。

 体を『何か』で覆うというイメージから入った彼らは防御に転用するのも早かった。ついでに、その場合攻撃側もそれ(・・)で覆っていないと痛いのも確かめる。

 

「何コレ楽しいけど怖い。こんなの日常生活には過剰だよ」

 

 萩原(ケンジ)が頬を引きつらせる。

 

「手から星の砂出す奴が何言ってる」

「今更だよなあ」

 

 伊達(ワタル)諸伏(ヒロ)がくすくす笑っている。

 

「だから普段使ってなかっただろー!?」

「まあこれで、尾行できる可能性は高まった」

 

 しれっと冷静に松田(じんぺー)は笑う。

 

「……なんかすげぇこと覚えた原因がそれってなかなかヤバイよなあ……」

 

 苦笑する萩原(ケンジ)の頬が引きつっている。

 

「あいつが無茶するのが悪い」

「確かに」

 

 降谷(ゼロ)が腕を組んで仁王立ちして息巻き、諸伏(ヒロ)がそれにコクコク頷く。

 

「あとは、鍛えるだけだな」

 

 ニイッと伊達(ワタル)が不敵に笑う。と、萩原(ケンジ)は苦笑しつつ「そうだね」と頷き、他の三人は「オゥ」としっかり頷いた。

 

 それから一ヶ月ほどして退院したルリは、萩原(ケンジ)と同じく引き摺って野原に連行されることとなる。

 久しぶりだものねと微笑んで見送る両親にルリは目で訴えようとするも、五人にわらわらと囲まれすぐに視界を塞がれた。つまり両親からもルリの顔は見えなくなった。

 

「おいっ、まだ病み上がりっ……何なんだよー!」

 

 ぶーぶー言いながらも大人しく松田(じんぺー)に手を引かれるルリ。

 

「退院したらどんな能力か調べるっつっただろ?」

「それかよ、急かしすぎ……」

 

 野原に着くなり松田(じんぺー)にそう言われてルリはげっそりした。

 

「俺の星の砂みたいに何か出るようになるのかな?」

「とは限らないだろうけど……まあ……何か出るかな……?」

 

 言いながらルリは利き手を前にかざした。

 

「……は?」

 

 しゅるしゅると何かが生えた。

 

「…………縄、だな」

「そうだな……?」

「悪魔の実って皆こう愉快なのか……?」

「でもそれ俺より色々使えそう……」

 

 ぽかんとする降谷(ゼロ)松田(じんぺー)伊達(ワタル)、少し羨ましそうに目をキラキラさせる萩原(ケンジ)、「わぁあー」なんて言いながらルリの出した縄を興味深そうに持ちあげる諸伏(ヒロ)

 

「確かに、なかなか使い勝手が良さそうな気もするな」

 

 降谷(ゼロ)がしみじみと見つめる。

 

「使い方次第、かあ。ケンジみたいに強化したら、橋くらいは作れるかもなあ」

 

 伊達(ワタル)もしみじみと言った。

 

「……強化?」

 

 ルリがきょとりと首を傾げた。

 

「お前、それで熊にぶん殴られても耐えたんじゃねえのか?」

「……え」

 

 ルリの普段眠そうな目が真ん丸になる。

 

「……え。……え? まさか、お前たち……覇気を感覚で使いだしてないだろうな……!?」

「……はき?」

「……ほら、やっぱなんか隠してた」

 

 きょとりと小首を傾げた諸伏(ヒロ)と、少しむくれる降谷(ゼロ)。諸伏がその辺の枝を拾いカリカリと地面に『覇気』と書く。

 

「これ?」

「そうだね……」

 

 ルリは遠い目をした。

 

「気合が具象化する、みたいな……?」

「はは、言い得て妙だな。知ってて使ったのか?」

「いや、あとになってシャンクスに教えてもらったんだ。未だに自分がそんなもん使ったなんて信じられないし……」

 

 ルリはたじたじとしている。

 それなら責めるのも違うかと降谷(ゼロ)は態度を和らげた。

 ……しかし本当はルリは覇気の存在は知っていたのではあるが。

 

「けど……ええ……そういうの新聞とかに載ってたわけじゃないだろ……? ほんとお前たち……」

「お前が熊の一撃に耐えたのには何かあるって話になってなあ」

 

 伊達(ワタル)が朗らかに笑う。

 

「ケンジがMVPなんだよ。星の砂出してただろ? 貝殻のイメージで鎧みたいに身体を覆って……それだけじゃパワーまで出なくて、って試行錯誤してた様子をな、じんぺーがな?」

 

 松田(じんぺー)を眩しそうに見ながら言う諸伏(ヒロ)

 

「……ケンジが言った通りだっただけだろ」

「照れんなよじんぺー」

「あ゛?」

 

 揶揄うように肘でちょんちょんした伊達(ワタル)はギロりと睨まれ「おお怖」と首をすくめた。

 

 ルリは何故か片手で目を覆って天を仰いでいた。

 

「どーした」

「……身体能力もお化けだし、洞察力もお化けだし……ちゃんと正解引き当てるんだもんなあ……ほんっと普通じゃないよ、お前たち……」

「むしろお前は試行錯誤とかしねえ内に無意識に使ったってことだろ? 言われたくねーな」

 

 淡々と松田(じんぺー)に詰られて、ルリはぐっと言葉に詰まった。そこに関しては本人が一番不可解に思っているのかもしれない。

 

 はあー、とルリは溜め息をつき、ドカリと柔らかな草の中に腰を下ろした。胡座をかいてぺちぺちと膝を叩く。

 

「座学だ。シャンクスに教えてもらった覇気についてを共有する」

 

 皆似たように座り込み、素直に聞く態勢に入る。

 ルリはシャンクスが教えてくれたことに多少付け加えて皆に話した。どうせなら覚えている限りを伝えたかったが、下手をすれば「シャンクスが五歳児にそんな教え方をしたのか?」となってしまう。

 

「ほほー、随分便利なんだな。武装色と見聞色は鍛えられるのか」

 

 降谷(ゼロ)が興味深そうに言う。

 

「らしい。覇王色は鍛錬では伸ばせないみたいだけど……まああれはあるだけでチートだからなあ……あと、お前たち全員持ってそうな気がする」

 

 ルリが口を曲げてジト目で言うものだから皆は吹き出したりきょとんとしたり不敵に笑ったり。

 

「随分評価してくれるねえ……数百万人に一人の素質なんだろ?」

「……単なる確率なんだし。どっかに固まってても別におかしかないだろ」

 

 萩原(ケンジ)はにししと少し嬉しそうに笑うがルリの表情はげんなり気味だ。

 

「ま、あったらそのうちテキトーに発動するだろ。ひとまず育てられるもんから育てる」

「随分やる気だな?」

「……不確かな物の終着駅(グレイ・ターミナル)はゴロツキだらけっつったのはお前だろ」

「まあそうだけどさあ……」

 

 覇気なんて使い出したんなら行けそうになるの少し早まるかもな、なんてルリはぼんやり思う。

 しかし今は彼らの中で『ルリを尾行する』という目的の方が大きい、なんてことは知る由もない。

 

「……まあ、悪魔の実の力使いこなせるようにはなりたい気は、するけどさ……泳げない代わりなんだし……」

 

 心なししょげているルリが哀れになるが、下手な慰めを必要とする人間ではないのを皆知っているため安易な言葉をかけることはしない。

 

「でもさあ、勘弁しろよお前たち、退院直後の人間しごくなんてガープさんでも……いややらんとは断定できないか……」

 

 ルリが途中で目を泳がせ、皆乾いた笑いを浮かべた。

 

「とにかく! 今日はもう帰る! せめて二、三日くれ!」

「いいぜ」

 

 ニヤリと松田(じんぺー)は笑った。

 

 何だかんだ言って付き合ってくれるんだよなあ、と皆内心でにこっとした。

 

----------------------------------- side : Ruri

 

 赤髪海賊団はしばらくしてまた村に帰ってきた。

 シャンクスの姿を見つけるやいなや、挨拶もそこそこに変な能力が芽生えたんだけど何か知らないかと泣きついてみる。

 彼は「だっはっは」と笑って船から一冊の本を持って来た。

 

 悪魔の実図鑑、だった。

 

「ロプロプの実?」

「ああ。ロープ出せるし、ロープ状の物なら操れるし、何でもお縄にできるらしい」

「へ、へー……これかあ。どおりで母さんも八百屋さんも『梨』だって信じた訳だよ……」

 

 (ロープ)と梨に何の関係があるのか不明すぎるが、皮の色は黄土色みのある薄緑だし少しつぶつぶしてるし、形は洋梨に似てないこともないしで、妙なぐるぐる模様は『珍しい』『怪我に効く』なんて言われたら『そういうもんか〜』で流してしまってもおかしくない。

 ……匂いといい、巧妙に擬態しやがってこんちくしょう……。

 

 思わずへろへろと手の先から縄を垂れ流す。

 

「けど、縄出せるだけじゃないんだな。『お縄にする』かあ」

「なかなか面白そうじゃないか」

「そうかなあ……でもありがとう、鍛錬の方向性が迷子にならずにすみそう」

「鍛錬かあ。真面目だなあ」

「……泳げなくなった分利用しなきゃ気がすまないじゃん……(うち)漁師なのにさあ……」

「ああー……そりゃ、ご愁傷さまだなあ……」

 

 シャンクスは苦笑する。

 ルフィ相手だったら何か弄ってたかもしれないね。あの子とじゃれ合うの好きだもん。

 

「……そうだ、友達もなんかこういうの食ったんだと思う。泳げなくなったし、手から星の砂が出るって……」

「おいおい、悪魔の実って激レアなんだぞ? 一個一億は軽く超えるような代物だ。それをお前とお前の友達が食った? どうなってんだ、この村」

「い、一億……!?」

 

 知らないふり知らないふり……。ははは。

 

「とまあ、星の砂ねえ……ああ、これだな。ホシホシの実。星の砂を出せる、操れる。固めれば防御力に優れる。へー」

 

 その名の通り皮の模様は星にぐるぐるだった。

 

「どっちも工夫次第で面白くなりそうだなあ。期待してるぜ? 将来有望くん」

「……もう、何なんだよそれ……」

「ところでルリ」

「ん?」

「エレジアって島に行かないか? 音楽の国なんだ。ウタに見せてやりてェ。お前も来てくれたら、きっと喜ぶ」

 

 話が急転換しすぎだし一瞬頭が真っ白になった。

 

 数秒、固まって。

 

「……そのまま拉致したりしないなら」

 

 そのことを考えて固まったと思ってほしい。何せ十二年後掻っ攫う宣言をされてるんだ。

 

 だっはっは、とシャンクスは笑う。

 

「そんな卑怯な真似しねェよ。よし、決まりだ! お前の父ちゃんと母ちゃんに話つけてくるわ」

「ちょっ、シャンクス行動はやっ……!」

 

 ああもう、台風の目だよねこの人……。







✦未来を変える
 前世のオリ主の死因を不審視している彼らは恐々としています。
 ただし、前世は『歴史改変』ができてはたまったものではない『推理物』でした。
 しかしここは、見聞色で視えた未来を変えられる世界です。
 そのため彼らの心配は杞憂です。ひどい。
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