9.出発
シャンクスのあの勢いから即出発するのかと思ったけど、そういう訳じゃないみたいだ。二か月くらい航海に出てたからか、少しゆっくり休む予定らしい。
久々に世経をゆっくり眺めて、日付を目にして溜め息をつく。
レッドフォース号には三ヶ月くらいお世話になってたらしく、その間にルフィの誕生日は終わってしまってたみたいなんだよな……つまり今年はお祝いできなかったってことで……。
それから船を降りて村の病院に転院すること一ヶ月程、退院してから降谷たちとアレコレ鍛錬等すること一ヶ月以上。
悪魔の実のせいで漁についていけなくなって時節なんかどうでもよくなってしまったから、感覚が曖昧になってた……いや、気を向ける余裕がなかったのかもしれない。
もう原作の十年前になってから結構経ってしまってた訳で、そりゃエレジア行きの話も出て来る訳だ……。
……けどまさか、一緒に行こうって言ってもらえるなんて思ってもみなかった。
……どうにかしてトットムジカの出現とめられないかな……。
ウタがあれを歌わなくするには?
トットムジカもウタワールドみたいに、ウタが寝たら消えるのかな……? 駄目だ記憶あやふやだ。
歌い疲れるとかして寝ちゃえばそもそも歌わないで済む……?
……持ち歌を増やしてもらう?
悶々と色々考え込みながらルフィの目を盗んでウタに声をかけた。彼、「おれも航海に行きてェ!」と常日ごろからシャンクスに言ってるからね。
「別にそんなとこ行かなくていいって言ってるんだけどねー。シャンクスはせっかくだからって……」
ウタは口ではそう言ってるものの、どこか照れ臭そうだ。微笑ましくてにまにましてしまう。
「……ちょっと、なーにー?」
「んーん。目的は音楽の勉強ってとこ?」
「あと経験とか……? 私、もう赤髪海賊団の音楽家なのに」
ぷうっと頬を膨れさせるウタも可愛いなあ。
「うん。天使の歌声……っていうかもう女神の域だしなあ」
エレジア行き自体をとめられたらまあ安全かもだけど、娘へのシャンクスの思い遣りを邪魔するのも野暮だよなあ……。
「なあウタ、曲っていつも自分で作ってるんだよな? 一緒にもう少し増やさないか? シャンクスをびっくりさせてやろうよ」
……。
……。
うっ、返事がない、そんなの御免被るかな……!? 作るの大変だもんね……。
……と思ってたら。
「……ふ、ふふ。いいねそれ」
ちょこっと目を逸しながら彼女は言った。
心なし顔が赤い。お、怒ってるかな……?
「きっとシャンクスは、私のことまだまだ子供だからって思ってるんだ。見返してやるんだから!」
ぐっと両手の拳を握りしめて息巻くウタ。仕草が可愛い。
えと、怒ってる訳じゃない……?
ま、まあ、やる気をみせてくれてるっぽいのは、ウタの内心がどうあれ命が関わってることだし利用しちゃえ。ハッハッハ。
「っていうかルリも曲作ったりするんだ」
ウタの目が輝いてる。ヒィ。
「ウタみたいに素敵なのは作れないけどね……スケールとかコード関係とかはある程度分かるから、手伝いになれたらなって」
前世までについてが相変わらずほぼほぼ思い出せないんだけど、趣味で作ってはいたような気がする……? DTM(平たく言えばPCで打ち込み等で音楽作るやつ)の知識とかもぼんやり残ってることだし……。
……今更すぎるけど、大変な作業だからって手伝えたらとかおこがましいのでは(白目)。
「それだけ分かってればいけるじゃん! 二人でならいっぱい作れそうだし、ルリの曲聞いてみたい!」
……ひェ(白目)
-----------------------------------
シャンクスをびっくりさせよう大作戦(大義名分)の準備は、隠したい相手が多すぎるため、我々はこそこそ隠れて進めていった。
今はソロ作業だから、二人で何してんのって突っ込みは防げる。……ソロ制作とかマジ恐ろしいけど……。
「……何してんだ」
「ひゃあああ!?」
いきなり背後で声がして飛び上がってしまった。
……見聞色の発露で気配に敏感になってる(多分制御がまだ甘いんだと思う)人間の後ろをさらっと取るなんて……。
「びっくりするだろーが!」
「こっちのセリフだ!」
振り返るとそこで一歩引きながら表情を引きつらせていたのはエースだった。
……思えばあれ以来だ。
ダダンの家までの道筋なんか覚えてなかったし、ここで剣舞してても彼は来なかったから。
思わずへにょりと笑う。
「久しぶりだな、エース」
「……あぁ」
彼は何だかぎこちなく視線を逸した。
「……すげえ傷跡ついてんな……? それ、消えねェのか……?」
「らしい。でも傷跡ってなんかかっこよくない? 勲章って言うだろ? 本当はまあ、負けた跡だけどさ、あは」
えへらと笑うとエースはこちらに視線を戻したけど、なんか表情が歪んでる。
「……女の顔の傷は勲章ってより可哀想に見える」
「……へ」
思わずぽかんとしたら、エースは口をへの字に曲げた。
「何だよ。おれにも人の心はあるぞ」
「い、いや、そうじゃなくて、男って言われることの方が多いからびっくりしたんだ……」
「はあ? どう見ても女だろ」
「ははは……エースにはそう見える、のか……」
何だか新鮮だ。
「何だそれ。まあ性別なんてどうでもいいけどな」
「ふふ。今さ、男か女か分からねぇ、教えろ、って言った不届き者たちに、成長して身体が分かりやすくなるまでに判断できなきゃ一生言うこと聞かせるってゲームしてるんだ。周りそんなだから言い切る奴も新鮮でさ」
「変なゲームしてんなあ……まあ、なら村の連中には黙っといてやるよ」
「あ、ありがと」
そこで話が一息付いたから、手元のメモに再び目を落とす。
「で、何してんだ?」
「……う、うーん……笑うなよ……歌を作ってる」
「……歌?」
「うん。友達にめちゃくちゃ歌かっこいい子がいてさ、いっぱい歌ってほしくて」
「ふーん。……だから玩具のピアノなんかこんな外に持って出てるのか」
彼はそう言いながら手元の譜面と小さなピアノをのぞき込んできた。
「なんか唸ってたみたいだけど、行き詰まってるのか?」
「うーん、音符で書くのがやりづらくってさ」
DAW(平たく言えば音楽編集ソフト)ではピアノロールっていう音の長さを線で表すやつで、どれが四分音符で八分音符でとか気にしないで直感的に書けたんだ。それに、再生すれば思った通りのリズムになってるか一発で分かる。多分自分はそれでしかやったことないんだと思う。
紙だとピアノロールで書くのは面倒だし分かりづらいから、五線譜に音符等々を書いてるんだけど……随分感覚が違うし、もちろん再生して確認なんてできないから頭を抱えてる訳デス。
「……よく分かんねェ。おれにできることはなさそうだな」
「…………えっと。できあがったら……聞いてほしい、かも。ボロクソに言ってくれたら修正頑張れそう」
エースは口をひん曲げた。
「……ボロクソ言ってくれたらなんて自分から言うのか……」
「いや、いきなり上手く作れるとは思ってないからさ……恥ずいけど、聞いてもらうのも上達に繋がるらしくて」
確かどんな創作物もそうらしい。人目に触れるなら、っていう見栄も原動力になるみたいな……?
「……ほんと生真面目だな」
「ェエ、だって崖っぷちでさぁ……」
「……気が向きゃ聞いてやるよ」
肩をすくめて「しょうがねェ奴」って感じがひしひしする嘆息を小さく漏らすエース。
「あは、ありがと」
にししと笑うと、エースは何だかまた口をひん曲げた。どうして。
……少しの沈黙。
「……その……傷跡すげェし……身体、動かなくなってたりするのか?」
目を逸らしてぎこちなく聞く彼にきょとりとする。
「んーん。全部元通りだよ。あと、ずっと寝てたから身体
そう。ほんとこれにはポカーンとなった。
体力は確かに落ちてたんだけど、そして最初の頃みたいに筋肉痛の日々にはなってるけど、筋力や瞬発力等々はほぼ落ちてなかった。
……ほんとこの世界すっごいなぁ……ガープさんに「退院後即鍛錬させそう」みたいなイメージ持っちゃったけど、そうおかしなことでもないのかもしれなかった。
……ていうかそもそも、鍛錬してるにしては皆(エースたちも含む)子供らしいふくふくとした細い身体のままなんだよね。いっしょにわちゃわちゃするに皆既にゴリラ並の筋力ありそうだけど、誰も筋肉だるまにはなってない。
筋肉を鍛えすぎて骨の成長を邪魔する、みたいな事態になりそうにないのは、このへんも関係してるのかもしれない。
……このパワーが筋肉でないなら一体何から発されるのかっていう謎は残るけど……。
ぼーっとそのへんを思い出してると、エースがはあーっと少し大きく溜め息をついたから視線を彼に遣った。
「……じゃ、また、一緒に走り回るか?」
「うん。お前たちがいいなら喜んで。でも、あんま森の奥に行くなって怒られてるけどな……」
思わず目を泳がせる。
「……それはおれたちも気を付ける」
「へへ……いつか、大きくなったら、この山のどこだろうと探検し尽くして、あの熊返り討ちにしてやる」
ふんすと息巻くとエースはフッと吹き出すようにして笑った。
「お前案外根に持つんだなぁ」
「エー、せめて負けず嫌いって言えよ……」
ジト目でむくれるけど、エースは楽しそうにニヤリと笑うばかりだった。
……う〜ん、返り討ちなんてぽろっと口をついたことに自分でびっくりした。そんなに血気盛んだとは思ってないんだけどなあ……。
なんかこう……多分、元気な様子、っていうか、気にしてない様子、みたいなのを、エースには伝えたかったんだと思う。
-----------------------------------
「え、衣装……?」
「そうだよ、ステージがあるんだって!」
「へ、へえ……」
ウタの目がキラキラしてるんだけど、可愛いんだけど、応えてあげたい気はするけど……いやでもTシャツはないよな、そりゃそうか……。
「ステージの袖に隠れてコッソリサポートするってのは?」
「……そーれ〜、本気で言ってる?」
半眼になるウタに、思わず目を逸らす。
「すみませんでした」
新曲作ろうとまで持ちかけた奴が隠れてコソコソ終わろうなんて甘いのである……。何より、光栄すぎることにウタも二人一緒が楽しいと思ってくれてるみたいだし……。
ふふっとウタは笑った。
「とびっきり可愛いの選ぼうよ」
「え゙」
悪意無き笑顔が怖い。
……待ってくれ、一体どんなのを着せようと思ってるんだ。
「いや、あのさ、ええと……ウタの服に合わせたのを作る、っていうのは……? 衣装似てたほうがステージとしてはまとまって良さそうじゃないか?」
自分で作るんだったらアレコレ言われなくてすむのでは作戦。
ウタは少し考え込むような様子をみせた。
「……ふーん。まあ、それも見てみたいかも……」
……。
なあウタ、着せ替え人形にして遊びたかったとかじゃないだろうな……。
斯くして、曲作りと服作りと、ルフィや降谷たちに隠すためにも鍛錬を怠らないのと、怪しまれないよういつものように村の子供たちとも遊ぶのと、エースたちともわちゃわちゃしてたいのとで……
……服はデザインだけウタと二人で考えて、あとは母さんにほぼ作ってもらうことになった。うちの聖母さまほんとにありがたや……。
-----------------------------------
エースはよく分からねェなんて言ってたけど、結構的確そう(音楽に正解なんかないし素人の自分に何か分かる訳でもないからこんな言い方になる、けど、素敵だと思った)な意見をちょこちょこ言ってくれた。
……メタいけど確かワンピって皆キャラソン出てたよね? それに作中でルフィが海賊は音楽好きなものみたいなこと言ってた気がするし、やっぱセンスあるんだろうな。添削ありがたい。
「ふふ。エースもサボもすごいな。おかげでいい感じになった」
「……やっぱよく分かんねェ」
サボはへへっと笑ってくれたんだけど、エースは難しい顔をして首を傾げてる。
……分かんねェって言いながら素敵なのって逆にすごいと思うよ。
「海賊って歌うの好きって聞くし、気が向いたら二人も歌ってよ」
「おー、それいいな!」
「……」
エースが黙ってしまって、調子に乗りましたすみませんと思った、んだけど。
── 青空を越えて 海原を駆けて
今日も 明日も 西へ東
描きたての地図で 最果ての島へ
過去を 未来を 繋げ
思わずきょとんとした。
そして。
一気に胸が熱くなる。
エースが、エースが。
途中から、サボも一緒になって。
皆で作ったものを、友達が歌ってくれるっていうのは──。
「……何て顔してんだ」
エースはむすっとした顔をしてるけど、どことなく照れ臭そうに見えた気がしたのはただの願望かもしれない。
「……あはは。ちょい恥ずかしい、けど、それより──楽しくて、嬉しい。やっぱ音楽っていいな」
……ちょっと泣きそうかもしれない。
「ああ、いいな!」
「……かもな」
サボはカラッと笑ってくれて、エースはやっぱりどこかむすっとした顔のままふいっと目を逸らしたけど、でも、暖かい。
「二人とも、本当にありがとう」
心から礼を言うと、サボは鼻の下に人差し指を当てて照れたように笑って、エースはやっぱりむすっと目を逸らしてた。
それから三人で最初から歌って、『ビンクスの酒』も歌った。
あはは、楽し。
-----------------------------------
服ができたのでウタをウチに呼んでこっそりお披露目した。……周りには秘密だからね。
「うふふ、まるできょうだいみたいね。いいわぁ」
作ってくれた母が非常に嬉しそうに笑ってる。頬の横でちょっと斜めに掌合わせてる仕草が我が母ながら可愛らしい。
「おかあさんありがと。大変だったよね?」
「これくらい朝飯前よ」
にこにこ笑う母と父。父がぽすんと頭に掌を置いてくる。
「……自分で気付いてたか? 泳げなくなってからずっと元気なかったんだぞ。歌もだが、お前にできることはたくさんあるんだから、父さんと同じことができなくてもいいんだからな?」
うっ。
……確かに、泳げなくなったことにはしばらく落ち込んでたよ。
加えて、母さんがもらってきたのが悪魔の実だったからなんて言いたくなくて、海水が傷跡にひどく染みるんだってことにしたものだから、それはそれで余計に同情を誘ってしまったみたいだった。とても申し訳ない。
けど、多分エレジアに行くことになってからは単に忙しすぎて疲れてたんじゃないかな……。泳げなくなった悲しさはおかげで少し薄れてくれたのかもしれないね。
「ほら、またそうしょんぼりする。お前は何にだってなれるんだ、世界に目を向けてみろ、広いぞ!」
にかっと笑って頭を撫でてくれる父を、眉を下げながら見上げる。
多分、エレジア行きをすんなり許可してくれたのも、そのためなのかもしれないね。
「おとうさんも、ありがと」
眉を下げたまま、へろりと笑う。
「ね、ルリ、やっぱ海賊になるのが一番じゃない? 赤髪海賊団の二人目の音楽家としてさ、世界を見に行こうよ!」
ウタがにこにこしながら言って少しぎょっとした。
恐る恐る両親を見上げると、何と二人もにこにこしてる。……うっそだろ。
「シャンクスさんとウタちゃんの所なら心配ないわね」
「お、おかあさん!? そりゃ、赤髪海賊団は無闇に略奪とかしてなさそうだけど……海賊ってだけでもう、世界政府から犯罪者にされるんだよ!?」
つ、つかぬことをお伺いしますが、へ、平和ボケしておられませんか!?
「私たちはあなたたちがそんなのじゃないこと知ってるからいいのよ」
いやあの、いざって時には法に触れることも辞さないだろうから……真実犯罪しないとは限らないと思うよ……?
「罪もない人々を虐げる訳じゃない限り、お前が何になろうが構わないさ」
父さんが頭をぽんぽんしてくれた。
赤髪海賊団への信頼が厚いッ! ……まあ彼ら村じゃほんとにただの気のいい奴らだし、外でだって悪い噂を聞かない、けど……。
「……じんぺーとかゼロとか……あいつらと、離れたくないから……将来のことは、あいつらとも、話したいんだ。……あ、あいつらには言うなよ!」
「ふふ、分かってるわよ」
両親ばかりじゃなくウタまでニヤニヤしてる。ううっ。
-----------------------------------
とある日、降谷たちとあれこれ鍛錬してるところをシャンクスに見られた。
誰も油断してはなかったんだけど、彼に気配消されたら接近に気付ける訳もない。木陰に潜んでたのに皆が気付いたのは単に彼に隠れる気がなくなったからだろう。
「……誰だ」
降谷が硬い声で言って、全員で振り返った。シャンクスはにこにこしながらあっさり姿を見せた。
「頑張ってるなあ、感心するぜ」
「……赤髪、さんか」
降谷の表情も声も硬いまま。……子供らしくないにも程がある。
「呼び捨てで構わない。……できれば名前で呼んでくれたら嬉しいんだが」
「……」
にこにこ気さくに話しかけるシャンクスだけど、皆の警戒、もしくは戸惑いが消えた様子はない。
「そうおっかない顔をするなよ。別に取って食おうって訳じゃないんだ」
「俺たちのこれが普通じゃない自覚はあります。そして貴方は海賊団の頭領……戦力はいくらあっても困らない訳でしょう?」
険悪な姿勢を崩さない降谷に冷や冷やしながら溜め息をつく。
「待てゼロ。シャンクスは見境なく人を集めたりしない。その必要がない。無駄に増やすのは彼らにとって逆にお荷物になる。だから早まるな」
「嬉しいねえ、随分買ってくれたもんだ。だが面白そうな奴らには普通に声をかけるぞ?」
シャンクスううう!
「この雰囲気でそういうこと言うなよ! ややこしくなるから!」
「おれは正直に言ってるだけだぞ?」
「だとしてもだよ! ……ああもう! 波風たたないよう考えて伝えるつもりだったのに!」
こうなったら明かしたほうがいいだろうな。
降谷たちはやっぱり訝しげにこちらを見てきたけど。
「シャンクスが皆をスカウトしたがってたのは前からだ。覇気は関係ない」
ぽかんとする皆。
「……分かってるんだからな。将来有望君とか何とか言ってたけど、本音はウタの同年代増やしたいんだろ」
だっはっは、とシャンクスが笑う。
「まあ、否定はしない。お前たち歌もよく歌ってるしなあ」
「……」
これ、見られてたの今日だけじゃなかったりしそうだな……?
「……なあ、皆。正直海賊って悪い道でもないと思う。自分的には海軍より余程勧められる」
皆がこちらを凝視する。絶句してる奴もいる。
……優秀な彼らは絶対に上層に上り詰める。断言できる。そして天竜人の横暴はきっと看過しない。……看過するしかない内の彼らを見たくないんだ。
であれば最初から、『自由』な海賊のほうが余程いい。
世界政府が完全には信用ならないこと、皆には話したことあるから、このへんは分かってくれると思う。
「……ルフィの乗船は拒否してるのにか?」
松田が目を眇めて問う。赤髪海賊団と接点のある村人はだいたいその場面を見てると思う。
「あいつは血気盛んすぎるんだ。子供を前線に出す気はねェ」
数人があぁと遠い目をする。彼がじっとしてないだろうことも、緊急となればいくら赤髪海賊団でもそれをいつもいつもは抑えておける保証がないことも、容易に理解できるから。
ひょいっと肩をすくめてみせる。
「……けどさ、今すぐ決めろって言われたって無理じゃん?」
皆の視線が集まる。
「この国では十八で成人だろ。その時までに別の道を見付けてなければ、海賊らしく六人まとめて掻っ攫う、ってさ」
今度は皆目を丸くした。シャンクスがまた、だっはっはと笑う。
「だからさ、別に警戒しなくていいだろ? そんなの疲れるからやめてくれ」
嫌だと思うなら別の道を目指せばいいだけだよな?
……本音は、好きな人たちが険悪になってほしくない、の方が強いわけだけど内緒だ……。
皆が難しい顔で考え込んでいると、シャンクスは「まあ、選択肢の一つにしといてくれ」とにかっと笑って手を振り去って行った。
皆はそんな彼の後ろ姿を無言で見つめていた。
どうなるかは分からないけど、強制もする気もないけど、皆が選べる道は多いほうがいいはずだよね、と自分に言い聞かせた。
-----------------------------------
ひいこら一曲作る間にウタは三曲以上、ってペースにさすがだなあって圧倒される。そしてシャンクスをびっくりさせたくてこうして走ってるのが愛らしくて。
耳が幸せ、っていうのを噛み締めながらうっとりと彼女の歌声に聴き入る。
「やっぱり、ウタの曲いいなあ」
まだエレジアが滅びる前だからかは分からないけど、楽しげな曲や和やかな曲の方が多くて、少しだけ切なくなったりなんたり……。
「ありがと! ルリの曲も好きだよ」
にこにこ笑うウタがこそばゆくて苦笑を返す。
「自分一人で作ったわけじゃないからこの村の子供たちの曲、が正しいよ。ほんといっぱい助けてもらってるんだ」
「そういう作り方もいいよね。ねえそれ、私も混ぜてよ」
「もちろん!」
初めそれを想定してたから一も二もなく頷いたんだけど、やっぱりちょっと気後れしないこともない。でもウタに歌って(そして疲れて寝て)もらいたくて作る物だし! なんて自分に言い聞かせるとかの不毛そうなもだもだを内心でやりつつ、更に数曲と夢中になっていたら、そろそろ行こうかとなった。
……なんかウタと二人して色々準備してたのも実は筒抜けで待ってくれてたのではと穿ってしまいつつ。
にこやかな両親と村の人たち、複雑な表情の降谷たち五人、不満そうなルフィ(ほんとごめんなルフィ……心が痛い!)に見送られ、レッドフォース号はエレジアに向けて出発した。