海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

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10.赤髪の親子 ‐ phase : Uta

 海の上に居る、という感覚。

 泳げなくなってからは縁遠くなってしまっていたそれが、今はすぐ側にある。

 ああ、いいなあ……。

 

 汐の香りと波の音、そして大型船故の安定感の中に混じるほんの僅かなゆらゆらが心地よくてたまらない。

 

「何かルリ、機嫌良さそうだね」

 

 今は穏やかな海風を手すりにもたれつつ楽しんでたらウタにそう言われて、ちょっと気恥ずかしさを憶えた。変な顔になってしまってる気がする。

 

「え、いや……そう言うウタこそ何か嬉しそう、じゃない?」

「自分たちの『家』に乗せた友達がいい顔してたら嬉しいに決まってるじゃんか」

 

 そう言い切ってにこにこするウタがこそばゆい。

 

「あはは……海やっぱ好きだなって思ってたのとさ……そうだよな、ここって皆の『家』なんだよな……毎日ほんと楽しくて、皆がすごく眩しい」

 

 笑いが絶えないことって、きっとすごいことだよな。

 

 あと(おか)の人間にとっては船が『家』な生活って非日常に見えて、なんだかロマンを感じる。ミーハーな自覚はある。

 

「ふふ。成人したらなんて言ってないで一緒にここで暮らそうよ。今までだって私は楽しかったけど、ルリと歌うとますます楽しくなれるんだ」

「っ、ありがと。けど心の準備とか色々あって……」

 

 へへへと苦笑いする。こんな熱心に誘ってもらえて光栄がすぎるにしろ、やっぱりあいつらと離れたくないし、彼らにもゆっくり返事を考えてほしい。

 

 そんなこんなで、歌ったり騒いだり。

 航海について様々な面を少しずつ学ばせてもらったり。

 喧嘩吹っかけてきた賊等々を皆が返り討ちにしたり。

 

 そんな退屈する暇もない賑やかな日々を経て、とある日、とうとう遠くに目的の島影を捉えた。

 

「よーし、着替えるよルリ!」

「う、うん……」

 

 何かウタ妙に楽しそうだ。ステージを楽しみにしてるのもあるだろうけど、どうも準備手伝う気満々な気がする。

 そういや、エレジアの音楽ステージって予約制か招待制かぼんやり謎に思ってたんだけど、飛び入り参加可の物があるらしくて、なら一発ぶちかましてこようぜってことだったらしい。

 

 ウタの服と合わせたのはもちろんなんだけど、簡単に落とせる系ヘアカラースプレーで赤いインナーカラーと淡いピンクのメッシュを作る。

 

 傷跡を隠すバイザーまで付けてもらったヘッドセットは、ウタのを作った同じ人のお手製らしい。ほんと至り尽くせり……。

 

「ねー、わざわざ傷跡隠さなくてもよくない? 名誉の負傷、カッコイイじゃん」

 

 ほんとは名誉じゃなくて敗けた証ナンデスけどネ。

 

 とにかく、このバイザー部分、取り外しもできるんだよね。

 

「んー、別に恥じてるとかじゃないんだけどさ、音楽のステージには似合わなそうっていうか物騒すぎるっていうか……変な同情引くのもやだしさ、歌だけ見てもらいたいじゃん?」

「ふーん……?」

 

 ウタはあんまり納得してなさそうな気がしたけど、それ以上は追求してこなかった。

 

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 赤髪海賊団の皆が沸いている中、自分の中でもワクワクが大きく膨らんでいくのを自覚した。考えてみれば別の島に行くのは今生初めてな訳で。

 

 ──だけど。

 

 ふわふわ高揚した気分を抱えて島に一歩降り立った時だった。

 

「……ぅ、あ……!」

「ルリ!?」

 

 ……イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ──!

 

 頭が、痛い──!!?!?

 

 ……ナンデ!

 ドォシテ!

 イママデイチバンノデキダッタノニ!!

 アイツヨリモヨカッタ!

 ワタシノホウガキレイダッタ!

 ゼッタイ!!

 ……オレノホウガ!!

 

 ……ダレカワタシヲミテ。

 キイテヨ。

 ガンバッタノニ。

 ヒッシニ。

 タマシイケズッテ。

 ネエジョウズニヒケタヨ。ソウデショ?

 ホメテヨ。

 オレノキョクイカスハズダロ?

 ……ナンデ。

 ドォシテ。

 コッチヲミテクレナイノ。

 ……サビシイヨ、クヤシイヨ。

 

 ……サビシイサビシイサビシイヨサビシいさびしいさびしいさびしい!!!

 

「────!」

 

 渦巻く悲哀の声に、怨嗟の叫びに、頭をぶん殴られているような──。

 

 暖かくて大きな手が目を塞いだ。

 

「落ち着けルリ。──閉じろ(・・・)

 

 シャンクスの穏やかな声がする。

 

 ──……あぁ。

 きっとこれは……未だに見聞色の覇気を御しきれないせいで、感受性豊かな音楽(芸術)家たちの、中でも強い負の念にぶち当たってしまってるんだろう。

 

 ──……閉じる。閉じる。閉じろ──感覚を。

 

 シャンクスの言葉を脳内で繰り返し、飛びそうだった意識を掴み直す。

 

 ──これって……霊的存在を視るべきでない時に視ないようコントロールする感覚に似ている、かもしれない。

 

 そう思った瞬間、脳を揺るがすざわめきがあっと言う間に退いていった。

 

「──シャンクス、ありがとう。もう大丈夫」

 

 そう訴えると少しして、躊躇うようにゆっくりとシャンクスの手が離れていった。

 

「痩せ我慢じゃないだろうな?」

「ないよ。……何だろ、『閉じろ』って言ってくれたのが利いた気がする」

 

 へろりと笑いながらシャンクスを見上げると、彼はほっとしたように苦笑いして頭の天辺をぽんとしてくれた。

 ホンゴウが心配げに抱えて行こうかなんて言ってくれたけど、慌てて断る。

 頭痛の余韻みたいなものは多少あるけど、これくらいすぐに引くと思う。

 

「しかしたった一言でこうも変わるか」

 

 てくてく普通に歩き出したからか、シャンクスがくすくすしながら言った。

 

「案外そんなもんじゃない? 何が利くのかなんて人によるでしょ。……っていうかシャンクスこそ、制御し損なってるせいだってよく分かったね」

 

 一応念のために覇気とか言うのを避ける。

 

「まあ、ここの人口はフーシャ村よりかなり多いからなぁ。万が一ってのは常に想定しておくもんだ」

「へー。さすが船長」

 

 シャンクスは何故かクッと小さく吹き出した。

 

「関係ねェよ。多分皆分かってた」

「そっか。皆もすごいな」

 

 語彙力ないのは許してくれ。ちらりと皆を見回すとへへっと笑ってる。……やっぱりなんだかこそばゆい。

 

 そこでふと思う。

 

 レッドフォース号はもちろん海賊旗を掲げてる。それでもフーシャ村上陸の時と違って人だかりができたりしていない。

 

「……なあ、そういえばこの島って海賊歓迎とかなのか?」

「んん?」

 

 シャンクスを見上げながら聞くと、皆が一斉にコテンと首を傾げた。ねえ大の大人たちが可愛いんだけど。

 

「うちの村と違って、海賊旗掲げてるようなばかデカイ船が来てても誰一人野次馬に来ないじゃん?」

 

 シャンクスは少しきょとりとした後「だっはっは!」といつもみたいに豪快に笑った。

 

「それだけですっ飛んで来るのは海軍くらいだろう。こういう出入りの多い港じゃ海賊船もそう珍しいもんじゃないだろうし。こっちから暴れ出さない限り、面倒事に自ら首突っ込む奴ぁそういねェよ」

 

 海軍支部も結構近くにあるしなあ、と彼は続けた。

 

「自分で面倒って言うんだ」

「オイオイ、おれたちは海賊だぜ?」

 

 おどけたように言うシャンクスにふっと苦笑する。

 

「シャンクスたち『賊』って感じしない」

 

 今度はシャンクスが苦笑した。

 

「海賊は海賊だ」

 

 またふっと苦笑するはめになった。

 

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 ステージはアンコールに次ぐアンコールで大盛況だった。

 そして国王のゴードンさんの目に留まり、音楽関係の色んな所を案内してもらった。夕方にはウタを歓迎する宴まで開かれることに。そこでもたくさん曲を披露する彼女……と、当然自分もコーラスで前に出る。

 今日はきっと、疲れてぐっすりだね。

 楽しそうなウタと赤髪海賊団の皆を、ちょっと暖かい気持ちで眺める。

 

「二人でこそこそしてたと思ったら、こんなに新曲増やしてたのか」

 

 シャンクスに言われてフフンと胸を張るウタが可愛い。

 

「どう? 私もルリももうしっかり一人前でしょ!」

 

 えっ自分まで含まれた。

 

「ああ。お前たちはウチの自慢の音楽家だ」

 

 ぽすりと我々の頭の天辺にシャンクスの掌が乗せられる。

 

「……まだ入るって言ってないし」

 

 おもわずぼそっと呟いたけど、にっこにこなシャンクスもウタも眩しくてなんだか頬が緩みかけて、慌てて顔を逸らす。

 

 ……しっかし。

 

 くあぁ、と抑えきれずでかい欠伸が出る。

 

 そう。

 

 ウタを疲れさせる=コーラスの自分も疲れる訳でね……。メインボーカルよりかなり消費カロリー低いと思うんだけどなあ……。

 ウタより三つも歳下な幼児の身体は、いくら普段から鍛えてるといえまだまだ未熟らしい。

『Tot Musica』の楽譜はきっと現れるだろうし、寝落ちは何がなんでも避けたい。

 

「あはは、そろそろお暇しとくか? ゴードンさんとこの音楽堂に泊めてくれるらしい」

「えっ……それってまさか……」

 

 王宮にあるんだろうかと思わずびびる。

 

「あはは安心しろ、街中にあるそうだ。来賓用の宿泊施設つきらしくてな」

「そ、そっか……けど国王様にそこまで気に入られるとか、やっぱウタすごいや」

「ルリも一緒だよ」

「えー……」

 

 ナイナイ。

 

 不満そうにしてるウタを他所にシャンクスがいつの間にかお暇の挨拶を済ませてきたみたいで、ゴードンさんを連れてきてた。国王自ら案内してくれるらしい。

 ウタに目を掛けてくれてるのもあるだろうけど、元々身分抜きで人々とフレンドリーに接する人な気がする。

 

「たくさん歌ってくれたから疲れただろう? ゆっくり休んでくれ」

 

 お風呂広くてキレイでめっちゃのんびりできたしベッドはふかふかだし……。

 

 子供部屋(大人たちはまた宴始めてた)ってことでウタと二人だったんだけど、「子供はとっとと寝る!」なんてにまにましながら言われて(お前もだろ!?)布団にぎゅうと沈められて。

 

 情けないことにすこんと眠り込んでしまっていた。

 

----------------------------------- side : the parents

 

「寝れないのか?」

 

 ウタが夜景を眺めているとシャンクスの声がして、彼女はそちらを振り向いた。

 

「シャンクスこそ」

「おれは飲み直して来たとこだ」

 

 シャンクスはゆったりとウタの隣に歩み寄り、同じく夜景を見下ろした。

 

「ほんっとお酒好きなんだから。アル中にならないでよ?」

「あはは、そんなヤワじゃねェよ」

 

 きらきら光る街には活気がそのまま現れているようで、そしてひどく穏やかで、この物騒なご時勢の中、間違いなく稀有な場所だった。

 

「随分楽しそうだったな、ここで歌っていた時」

 

 そう言ったシャンクスの声もどこか楽しげだ。

 

「んー? まあ、ルリもいたしね!」

「ああ、ますますいい音楽だった。誇らしいよ」

「ふふっ、褒めても何も出ないぞ?」

 

 歌ってくれるじゃねェかとシャンクスは笑う。ウタもえへへと笑った。

 

「だが……おれたちの前で歌うより、大勢の人たちに聞いてもらった方が楽しかったりしないのか?」

 

 ウタは夜景を見つめたまま目を丸くして息を飲んだ。

 

『素晴らしい! 君の歌声は正に世界の宝だ! ここには多くの専門家たちや、楽器、楽譜が集まっている。是非このエレジアに留まってほしい! 国を挙げて歓迎する!』

 

 興奮気味に誘ってくれたゴードン。

 広い客席を埋め尽くした観客たちの大きな歓声と割れんばかりの拍手。

 ゴードンの言った通りに整った環境と、そこで音楽に打ち込んでいた大勢のきらきらした人々。

 

 ……それでも。

 

「そんなことないって」

 

 シャンクスがウタの方に身体ごと向き直った。

 

「……なあウタ。この世界に平和や平等なんてものは存在しない」

「んー?」

 

 彼女も彼に顔を向けた。

 

「だけど、お前の歌声だけは世界中の人々を幸せにすることができる。もしそこにルリもいるなら百人力だろうなあ」

「何言ってるの……?」

 

 ウタの胸に嫌な予感がよぎる。

 

「いいんだぞ? ここに残っても」

 

 ウタと視線を合わせるようにしてシャンクスは腰を落とした。

 

「世界一の歌い手になったら迎えに来てやる」

 

 ……なんにも、分かってないんだから!

 

「……バカ! 私は赤髪海賊団の音楽家だよ! 歌の勉強と、シャンクスたちから離れるのはっ」

 

 じわりと、ウタの目に涙が滲む。

 

「離れるのは……っ!」

 

 みるみるそれは大粒になり、ぽろぽろと溢れだす。

 シャンクスの腕が彼女にふわりと差し出されて、ウタは彼の胸に身を寄せて抱きついた。

 

「……そうか、そうだよなあ! 明日にはここを発とう」

 

 シャンクスはそう言ってぎゅうっと抱きしめ返してくれて、声も終始優しかったけれど、ウタはもやもやを抱えたままで、「おやすみ」と別れた時には言いようもない淋しさに包まれていた。

 

----------------------------------- side : Xxx

 

 ── ᚷᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᚲ

   ᚷᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᛏ ᛏᚨᛏ ᛒᚱᚨᚲ...

 

 歌が、聞こえる。

 知らない言葉なのにすっと意味が頭に入ってくるような気がした。

 

 ── ᛗᛁᛖ ᚾᛖᚷ ᛟᚾ ᚷᛁᛖᚲ ᚷᛁᛖᚲ

   ᚾᚨᚺ ᛈᚺᚨᛋ ᛏᛖᛉᛉᛖ ᛚᚨᚺ...

 

 歌っているのは、誰?

 

----------------------------------- side : Ruri

 

 はっと飛び起きた時には──。

 

 部屋がメチャクチャだ。布団ごとベッドから転がり落ちてたけどそれでも寝こけてたらしいのはふわふわ具合を如実に現してる──んなこと考えてる場合じゃないだろ!

 

 慌てて周囲を見渡すと被害は泊まってた部屋に留まらず、どころか街がごうごうと燃えている──!!!

 

 そして、ウタが、いない。

 

 バカか自分はァアア!!! 知ってただろうがァアァ!! 何呑気に寝てんだよ!!!

 

 ウタは、ウタはどこだ!!?

 

 そうだ見聞色!! 閉じてた感覚を、開放する──。

 

 ──ドウシテ!

 ナンデ!

 

 ナンデ、ナンデ、ナンデ!

 

 サビシイ、サビシイ、クヤシイヨォお……!

 

 ……オレヲミテクレヨぉ!

 ワタシガンバッタデショォオ!!

 

「……ぅああ!!」

 

 くっそ!! これじゃない、聞きたいのはこれじゃない!!

 

 ウタの──よく知ってる、真っ直ぐで可愛い大切な友達の、存在を──!!

 

「──ルリ! 大丈夫かい!?」

「ゴードンさん! いや、あなたこそボロボロじゃないですか!!」

 

 寝間着がボロボロどころかあちこち怪我して血を流してるし、足取りもおぼつかない様子だ。思わず駆け寄って支えようとしたけど体格差がありすぎてあまり意味がなさそうだった。悔しい。

 

 辺りを見回す。そうだシーツがある。失礼して細く裂いて包帯代わりにゴードンさんの応急処置をする。

 

「ありがとう……! しかし他の皆は……?!」

「分かんない……すっかり寝ちゃってました……」

「そうか。いや気にしないでくれ、無理もない」

 

 唇を噛んでたらゴードンさんはぽふんと頭の天辺に掌を置いてくれた。優しいなあ……。

 ……彼を、彼の国を、ウタを……悲しませたくなかったのに……!

 

「っ、とめなきゃ……」

 

 そしてはっとする。

 ウタが『Tot Musica』を歌い続けてる場合、聴いたらウタワールドに入っちゃうかもしれない。

 慌てて荷物を探す。

 あのヘッドセットは調整すれば耳栓にもなれる優れものなんだ。

 

「……君は、もしかして何か知っているのか?」

「!」

 

 この時点ではゴードンさんは知らなかったのかな。

 知らないフリするより、話したほうがきっといい。

 

「もしかしたら、なんですけど……この国、楽譜たくさんあるんですよね? ウタウタの実にはある噂があって……」

 

 不自然じゃないような発言を心掛ける。

 

「何だって……!? ウタウタの実!?」

「はい。実はウタはその能力者なんです」

「……っ!! 話は分かった……!」

「……もしかして、あの噂は……」

「噂というのが『Tot Musica』の楽譜のことなら、この国で確かに所蔵している。こうなったからには真実だったんだろうね……!」

 

 ゴードンさんが奥歯を噛みしめる音がする。

 

「封印はしていたのだが……力不足だったようだ……私が、音楽への愛にこだわらず廃棄していれば……っ」

「いや……」

 

 それについては少し考えていたことがある。

 

「トットムジカは、淋しさとかから生まれたものだって聞いてます。だったら、楽譜はいくら消したところで復活するんじゃないかなって」

 

 ……ああ、この国ではその声が特に大きかったじゃないか。誰かに自分を見てほしいという夢は、努力だけじゃ叶わないことも多いんだから。芸術に携わる限りその不安はずっとずっと、付きまとう。

 

「……!」

 

 ゴードンさんのサングラスの奥の瞳は見えなかったけど、この果てしなく優しい王様の心が少しでも軽くなっていますように。

 

 ……早くウタを探さないと。

 

 会話するために無意識に閉じていたらしい感覚を再び研ぎ澄ます。

 っ、探してるのは淋しさの声じゃない。悲痛の叫びじゃない──。

 

「っ! 誰か、戦ってる! きっと……! 行ってきます! ゴードンさんは街の人の避難とか消火とかお願いします!」

 

 探った限り今はまだ全滅なんてことにはなってなかった。だから。

 

「しかし、君も避難した方が……!」

「ふふ。これでも日頃鍛えてるんです。並の大人には負けませんよ。信じて下さい」

 

 ほんとはそこまで豪語できるか分かんないけどね。

 反論される前に、戦ってる気配をダッシュで追い掛け始める。

 

「ル、ルリ!」

 

 やっぱ後ろからゴードンさんの慌てた声がしたけど、ごめんな、聞けないよ。

 ヘッドセットを耳栓モードにして、走る、走る、走る──。

 

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 シルクハットにギザギザ歯の、真っ黒で巨大なピエロが蠢いている。

 

 走った先ではやっぱりシャンクスたちがトットムジカを相手に戦ってた。

 肉薄する皆の得物は尽く弾かれてるように見えた。全然、効いてる様子がない。

 ……そういや、ウタワールド内外で同時攻撃しなきゃだったっけ……?

 ……ど、どうすればいいんだろう……。

 

「──ルリ! 無事だったか!」

 

 シャンクスがこっちに気付いたっぽかったから、ヘッドセットの耳栓モードは解除した。彼らが起きてるからには今は歌ってないだろうし。

 

「あいつはヤバイ! お前は逃げろ!」

「……嫌だ。あの中に、ウタがいる」

「……!」

 

 今ははっきりそれが分かった。これじゃ強引に布団で巻くとか、ホンゴウに麻酔とかでどうにかしてもらうのは無理そうだ。

 ……ウタが寝ることで消えてくれるかは覚えてないけど、試せそうなことは何でもやるべきな気がする。

 

 しゅるしゅる二本縄を出して撚って武装色で固める。黒刀みたいに真っ黒になったそれは丁度萩原たちに作ってもらった木刀と同じ長さにした。

 降谷たちとの鍛錬の成果。

 ただこれは防御用兼子供扱いするなって自己主張用だ。シャンクスに敵う力はないから、強引に引きずって避難させられかねないし、その予防策だ。それで聞いてくれるかは不明にしろ。

 

 シャンクスが目を丸くした。

 

「お前そこまで……」

「身体育ちきってないからあんま覇気ばっか鍛えるもんじゃないんだろうけど……って話してる場合じゃないだろ」

 

 どうしたら良いのかはまだ分からないにしろ、作った黒棒(仮名)を構える。

 

「シャンクス、あれが何だか知ってる?」

「……ああ。トットムジカの噂は知ってるか」

「うん。ここの本で見た」

「ハハ、そんなもんいつの間に」

 

 嘘八百ですいません。

 

「見学中に適当に手に取った本が音楽系都市伝説みたいなのでさ」

「へー……お前やっぱ何か持って(・・・)そうだなあ」

 

 嘘八百なんで心が痛いです。

 

「偶然だろ。ともかく、あれってウタワールドの内と外から同時攻撃しないとなんだろ?」

 

 シャンクスはハハっと笑ったけど、頬は少し引きつってる気がした。

 

「そうらしい。跳ね返されるばっかりだ。だがウタはどうも無意識状態か何かみたいでな、ウタワールドには入れてもらえそうにない」

「……そっか」

 

 ほんとどうすれば……!

 

 焦ってる所に赤い光線が降ってきたのを辛うじて避ける。

 シャンクスにも鉤爪を備えた鍵盤の腕が襲う。それを彼は愛剣グリフォンで受け流していた。

 

「なんか策ない!?」

「……っ、情けないが、注意を引き付けてこれ以上街が壊されないようにするくらいしかできてなくてな」

「……! それなら、もうちょっと広いとこに誘導……、っ!」

 

 鍵盤の腕を黒棒(仮名)で受け止める。──重……っ!

 雄叫びみたいなのあげながら意地で払い除ける。腕がびりびりする。

 

 けど……現状街のど真ん中だし、もう試して無理だったのかもしれないよな。

 

「無理すんなよ!」

「してないよ!」

 

 意地張ってるだけなのは自覚してる。

 

 ……出現を阻止できなかった。しかも寝てた。

 悔しいんだ。

 

 こんな幼児に何かできるとは限らない。というか思えない。

 それでも、動かないなんて嫌だ。

 

 また赤い光が放たれたのを避けると直後に鍵盤の腕も振り下ろされてきて、今度はまともに受け止めるんじゃなく側面に黒棒(仮名)を滑らせた反発で跳び離れる。

 

 ──筋書きを知ってたとかどうでもいい。

 ウタは、皆は、大切な友達なんだ!!

 この国で精一杯学んで、そして楽しそうに笑う人々を見た。

 あの暖かい眩しさが失われるなんてのもごめんだ!

 

 ……あ!

 

「なあシャンクス! トットムジカも悪魔の実の能力の内とみていいのかな……?」

「どうだろうな……ウタウタの実の能力者の手で覚醒するモノとは聞いちゃいるが……」

 

 なんか実の能力に関係ありはしても、独立した存在な可能性ありそうだよね……。

 

「……物は試し! トットムジカごとウタを海に浸からせる!」

「!! けどあのデカブツ、全然移動しねェぞ? 根が生えてるみたいに」

 

 ああ、だから街中にいるままだったのかな。

 

「……なあ、おれ(・・)だって能力者なんだ」

 

 はっとしたようにこちらを見るシャンクスを他所に黒棒(仮名)を放り出すと、覇気の影響下を外れたそれは二本の縄に戻ってへろりと地面に落ちた。……萩原の星の砂もだけど、なんか一度出したら普通の物体と同じで朽ちるとかするまで消えないみたいなんだよね。超人系(パラミシア)の何か出る系ってそういうもんなんかなあ。

 覚えてたらゴミ箱探さないと……。

 

 ともかく。

 

 一つ大きく深呼吸して気合入れて、両手をトットムジカに向けて構え、ありったけ縄を生む。何本も出すのはまだ大変なんだけど四の五の言ってられる状況じゃない。

 

「何を……」

 

 シャンクスが目を丸くしてる横でまた雄叫びみたいなの上げながら、トットムジカを縄でぐるぐる巻きにしていく。

 当然相手は暴れる、んだけど。

 

「っうぐ……ロプロプの実の能力者は、『お縄にする』のは大得意なんだっ! 大人しくしろおおお!!」

 

 喉が痛いくらいにがなる。

 

 お縄にするのが得意なんだから、能力者当人の筋力だとかは関係なく引っ捕らえるられるだろ! と信じて、あの身体能力オバケな降谷たちだって修行中ぐるぐる巻きにできたんだ。まあ覇気で破られたこともしばしばあるけどな……。

 

 鍵盤の腕も、背中の黒い翼も、まとめて全部ぐるぐる巻きにする。

 ギチリギチリと暴れたそうにしてるのが伝わってくるけどなんとか拘束は完了だ!

 

「っ、あと! 縄なら全部自在に操れるっ!! 綱引きだって最強だ!!」

 

 ぐぐぐ、と腕を持ち上げていく。なかなか持ち上がる様子がないけど諦めてたまるか。

 体力ではない気力のようななにかがごりごり削られてく自覚があるけどそんなの知らない。

 

「うぉおおおおおお!!」

 

 投擲競技の選手は皆投げる時に叫ぶ。声を出すのはきっと、力を振り絞るのにいいはずだ。

 

 少しずつ、少しずつ、上がってるような、気がする。

 歯を食いしばる。

 

 そこへ──。

 

 赤い目から光線が放たれるのが見えた。

 

(──やばっ!!)

 

 咄嗟に回避するような余力は──!

 

 ふいに、ぐいっと身体を持ち上げられて宙を跳ぶ。縄は掌に繋がってるようには見えるもののどういう仕組みなのかいまいちよく分からないので、縄だけは手放すまいと必死に拳を握りしめる。

 

「シャンクスっ!」

 

 かっさらうようにして攻撃を避けさせてくれたのはシャンクスだった。

 

「そのまましっかり握っておけ!」

 

 彼は片腕でこちらの胴をしっかりと抱え、そのまま空を切って跳んだ。

 

「ハアァア!!」

 

 必死に縄を握りしめていると、シャンクスが愛剣グリフォンを振り抜いた。既に燃え崩れていた建物のいくつかが吹き飛ぶ。

 その人間業とは思えない衝撃の反動で我々は爆発的に跳んだ。

 

 トットムジカが宙に浮いて、我々と一緒に引っ張られる。

 

 シャンクスは剣を仕舞うと両腕でしっかり抱えてくれた。

 

「っ! ほんと、すっごいなぁ、シャンクス……っ」

 

 縄を離すまいと歯を食いしばりながら言うと彼はニッと笑った。

 

 そのまま一直線に砂浜を目指して飛んでいく。

 

 あと少し、あと少し──!

 

 短いような長いようなもどかしい時間を経て──。

 

 ばしゃああん! と、我々は勢いよく海水に突っ込んだ。

 

 ──ああ、力が入んないや。

 

 多分一瞬意識がなかった。

 

「……ルリ、ルリ!」

 

 ぺちぺちと頬が叩かれてはっとする。

 

「ウタはっ!?」

 

 ハハっとシャンクスの笑う声がした。

 

「お前が抱きしめてんじゃねェか」

「……え」

 

 腰まで浸かる海水の中へたりこんでる自分の腕の中に彼女は確かにいた。くうくうと健やかな寝息を立てて。

 

 周りには解けた縄が頼りなくふよふよと浮いている。

 

「っ、トットムジカは!?」

 

 慌てて周囲を見回す。一見ヤツは見当たらない。

 

「消えたよ」

「……っ!」

 

 息を飲む。……成功、した?

 いやウタが丁度寝落ちしただけな可能性もあるけど……。

 

 そしてはっとする。

 

「街はっ!?」

「……だいぶ酷い被害は出しちまったが、あの様子ならすぐに復興するだろう」

 

 そう言って少しやり切れなそうに彼は街を見遣った。

 

 まだ火の手は見えるけど、さっきよりは収まってると思う。

 

 遠いけど、火を消すために駆けずり回ってる頼もしい人々や野次馬っぽい人々が見えた。

 

 ……っ。

 

 エレジアは、滅ばなかった。

 

 滅ばなかった!!

 

 少なからず被害は出てしまったから、手放しでは喜べない。悔しさもでかい。

 だけど。

 

 滅ばなかった、んだ。

 

 はらりと頬を何かが伝って俯く。

 

「……知ってたのに、止められなかった」

「それは、おれもだ。ただの噂だろうって油断してた。ここに例の楽譜があるかもしれないってことを予想できてなかった」

 

 ふっとシャンクスが自嘲めいた笑みを浮かべる。

 

「なーにが『万が一は常に想定しておく』だ、偉そうに言っちまったもんだな」

「……でもシャンクスがいなかったらとめられてない」

 

 彼は引き続き曖昧に笑むだけだった。

 

「……さあて。どうやら騒ぎを海軍が嗅ぎ付けたらしい」

 

 はっと沖に目をやると確かに軍艦らしきものがちらほら見えた。思わずウタの姿を隠すようにして背を向ける。

 

「……ルリ、ウタと一緒にこの島に残ってくれないか」

 

 一瞬思考が固まる。

 

「……は!?」

「こいつの歌は最高なんだ。海軍に追われるおれたちが、この才能ごと囲っちまう訳にはいかない」

 

 シャンクスは穏やかに言う。

 

 対して、こちらの腹の中ではふつふつと何かが沸き上がる。

 

「二人で最高の歌い手としてやっていくんだ。お前の両親も世界を見せてやりたいって言ってたから、きっと頷いてくれるさ」

 

 ふつふつ。ふつふつ。

 

「……それ、ウタにも言ったのか?」

 

 シャンクスは一瞬目を丸くして、記憶を探るように視線を上に彷徨わせる。

 

「あー。似たようなことは言ったなあ」

「……ウタは、何て返したんだ」

 

 シャンクスは気まずそうに少し口を曲げた。そしてこめかみのあたりをするすると人差し指でかきはじめる。

 

「…………離れたくないって、言ってたな」

「それ無視すんの?」

「……ウタのためだ」

 

 ぶち、って、何かが切れた気がした。

 

「本人の意思無視して何が『ウタのため』だよ」

「しかしなあ……」

 

 ……あんな顔してたくせに。

 

 あれは……「なんで父ちゃんのこと名前で呼ぶんだ?」と首を傾げたルフィに、「尊敬する、カッコイイ自慢のお父さんなんだから!」等々をウタが言ってた時のこと。

 

 シャンクスの口元が嬉しそうに緩められたのをしっかりと目撃した。

 

 そして、映画のシーンまでもがゆっくりとフラッシュバックしてくる。

 

 去っていく赤髪海賊団を追いかけながら、ウタは血の滲むような絶叫を上げ続けた。

 騙されていたのだと言われても彼女は健気に走って追い掛けたんだ。大粒の涙を滂沱とこぼして。

 

 ウタのあんな姿見たくない。

 同時に、シャンクスにはあの微笑みを失くしてほしくない。

 

 ……あぁ、鳩尾のあたりがむかむかする。

 

 気づいたらシャンクスの鳩尾(そこ)をぶん殴っていた。

 

「ぅごぉっ!?」

「バカヤローーー!! トットムジカって淋しさとか不安とかの集合体とかなんとか見たぞ!! 離れたくないって言ってるヤツに何言ってくれたんだよ!!!」

「っ!!」

 

 それが楽譜を引き寄せたのかなんて確かじゃない。

 だけどシャンクスは目に見えて動揺した。今は大いに衝撃を受けやがれってんだ。

 

「……あんたがいなきゃこんなとこまでウタを運んでやれなかったんだぞ!! 置いてったりしたら絶対ウタは淋しがる!! そんでまた出たらどーすんだよ!! あんなバカ強いのあんたら以外の誰が抑えんだ!! 家族だろ!! とめてやれよ!! あんたらが!! 家族だろうがッ!!」

「お、おい……」

 

 シャンクスわたわたしてるけど知るか!

 怒りのボルテージ天元突破だこんちくしょう!!

 

「あんなん街の一般市民やらおれ(・・)みたいなただのガキが抑えられるわけねーのに押し付けて逃げんなッ!! ばかか!? ばかなのか!?」

 

 フーフー言うくらいにはめちゃくちゃ息上がってるし頭の血管とかぶち切れそうな気までしてきたけど知らない。

 

「何より!! ウタ本人が!! 離れたくねーっつってんの無視すんのおかしいだろ!! 海賊が何だってんだちくしょうが!! あんたらウタに恥じるようなシゴトしてんのかよ!! 海賊ってそんなんなのかよ!!」

「!!」

「ハァッ、ハァ……ッ」

「お、おいルリ、落ち着け……!」

 

 がしって肩を掴まれた気がする。

 くそ……なんかクラクラしてきた。

 

「落ち着けるかよッ!! 鈍感バカ分からず屋!! 置いてったら絶っっっっ対許さねーかんな!!! ウタは大事な友達だッッッ!! 泣かしたらブッ殺す!!!」

 

 なんか目の前がチカチカしてシャンクスの表情がよく分からない。だけど、息を飲んだのが分かった。

 

「ばーか!! ばかやろー!! バカがっ!! ばぁああーか!!」

 

 もうなんかそれしか出てこない。

 

「ハァ、ハァ……」

 

 苦しい。頭ぐるぐるする。

 

「ルリ……」

「絶っっ対……許さねー、から……連れて、帰れよっ……ウタ、泣かすなよ……っ」

 

 思わずぎゅうと握ったのはウタのネグリジェだったのかシャンクスのシャツだったのか。

 

 分かんないや……。

 

----------------------------------- side : "Red-Haired"

 

 怒鳴り散らすなんて今まで見たこともなかったことをしでかしたルリはくてりと意識を失った。能力も覇気もこれでもかと使った後だったのだから無理もない。しかも今は不得手になった水に浸かってもいる。

 

 そんな時、後ろで聞き慣れた笑い声がした。

 

「ベック」

「いやぁ、面白いものが見れた」

「……茶化してくれるな」

「そんなつもりはないさ。面白かったのはお前だ」

 

 ニヤニヤ笑うベックマンにシャンクスは苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「……ルリはブッ殺すなんて言う奴じゃねェ。そんなセリフまで吐かせて、最高な友情見せてもらって、まさかそこまでされて置いてったりしねェよなぁ?」

 

 ニイっと笑うベックマンにシャンクスは苦笑する。

 

「……ああ、そうだな。父親がたりも形無しだよ」

「バーカ、んなこと言ってんなら父親役はいただくぜ?」

「ハァ? 絶対ダメだ。お前みたいな女誑しに父親なんか任せてたまるかよ。ウタの情操に悪すぎんだろ」

「だったら胸張っとけ」

「……そうだな」

 

 ふっとシャンクスは苦笑して、そして柔らかく笑って、すよすよ眠る二人を見つめた。

 そして丸い頭を両方とも、ゆっくりと撫でる。

 

「良かったな、ウタ……いい友達ができて」

 

 そんな三人の様子を、いつの間にかベックマン以外にも集まってきていた赤髪海賊団の面々がにこにこと見つめていた。

 そこにはゴードンの姿もあった。

 

「トットムジカを……とめてくれたんだな」

 

 ゴードンはほっとした様子を見せる。

 

「じき火も収まりそうだ。何と礼を言ったら……」

「オイオイ何言ってんだ国王様、おれたちは国を襲った海賊だぜ?」

 

 にかっと笑って言うシャンクスに、ゴードンはぽかんと小さく口を開けた。

 

「……は?」

「海軍が向かってきてるからな。そういうことにしといてくれ。『赤髪海賊団が財宝欲しさに街を襲った』……ウタに、知られたくないんだ」

「……そう、か……承知した」

 

 躊躇いを完全には消せぬままゴードンはぎこちなく頷く。

 ルリに言われたことに納得する部分はあれど、楽譜を処分しなかったことへの悔いをどうにも消せない彼にしてみれば、赤髪に責の全てを押し付けるのは気が引けた。

 しかしウタのためを思えば悪い話でもないのかもしれないと飲み込む。

 

「それでも……私だけだとしても、君たちが被害を抑えてくれた恩人であることは忘れない。ここで聞かせてもらったウタとルリの歌声が、最高だったことも」

 

 はは、とシャンクスは笑う。

 

「あんたは優しすぎるよ、ゴードン」

「……いつかまた、その子たちの歌声を聞かせてくれ」

「ああ、必ず」

 

 頷いたシャンクスは、とても嬉しそうに笑っていた。

 

----------------------------------- side : Ruri

 

 はっと起きた時には既にレッドフォース号にいた。

 

 ──ウタは!?

 

 まさか置いて来てないだろうなと戦々恐々としながら、焦るまま派手に音を立てて部屋の扉を開け放ち、ウタの部屋に突撃した。

 

「ウタ!!」

 

 ……ああ。

 

 ウタがベッドの上で、今にも起きそうにむにゃむにゃしていた。

 

「んん……ちょっとルリー!? ノックもしないでレディの部屋に……あれ? レッドフォース号……?」

 

 ヒヤリ。そういや失礼なことしでかしてるな……。

 

「よお、二人ともおはよう」

 

 音もなく背後に立つのやめてください。

 

「シャンクス、いつの間にエレジア出発したの?」

 

 ウタがこてんと小首を傾げた。

 

「お前たちがぜーんぜん起きねェから寝てるまま運んだんだ」

「えー!? 私皆に挨拶してないんだけど!」

 

 ぷうっと膨れるウタ。

 

「仕方ねェだろ、いきなり海軍が視察かなんかに来たんだよ」

「え、マジ? 何かあったのかな」

「とっととトンズラしたからな、分からん」

 

 あはは、シャンクス、誤魔化すことにしてるんだな。

 

「ふーん」

 

 ウタは特に興味なさそうで、それ以上追求しなかった。

 

 そこに誰かがてくてく近づいて来た。

 

「おーい、なんかお頭の手配書、更新されてるぜ」

 

 ベックマンが新聞を持って現れた。シャンクスがそれを受け取る。

 

「……げっ!? 10億4000万!? 大袈裟すぎんだろ!?」

「シャンクスいったい何したの?」

 

 ウタがまたこてんと小首を傾げた。

 

「さあ……? 何かの勘違いじゃねェの……」

 

 げんなりした顔をするシャンクス。

 

「しかし傑作だぞ。記事も見てみろ」

「んー?」

 

 ばさりとシャンクスは新聞のページをめくっていき、とあるページに目を落として──。

 

「だっはっは!! なるほどこりゃ傑作だ」

 

 爆笑しだしたシャンクスに、ウタと二人で顔を見合わせる。

 

「見てみろこの写真」

 

 ひいひい言いながらシャンクスはくるりとこちらにそのページを向けた。

 

「……は?」

 

 目が点になるってこのことだろ。

 

「謎の少女は赤髪の娘? エレジア、火の海に! だってさ」

「えっ!? エレジアどうしたの!? っていうかこれ、シャンクスとルリじゃない?」

 

 それは後ろ姿のぼやけた写真。一部が燃えているエレジアの街を後ろに、波の中でへたり込む子供と、少ししゃがむようにしてその背を支えるシャンクスの姿。

 

 確かに後ろ向いてる子供は自分なんだと思う。海軍の軍艦からウタを隠した時のものだろう。目論見通りウタの姿はシャンクスの陰にもなってすっかり見えない。

 しかしあの距離で撮られてたのか。多少ぼやけてはいるにしても海軍の設備優秀だな……。

 

 問題は記事の内容だ。

 

『赤髪海賊団、エレジアの街に火を放ち財宝を奪って逃亡中。日中少女の歌声で街の人々を魅了し欺いたか。炎に照らされた少女の髪は赤髪と全く同じ色をしていた。親子関係が推定されている。政府は彼女の歌声による人心の翻弄を鑑み指名手配も検討したが、今はまだ情報が足りないという』

 

「っ、はあ!? え、この写真のこと言ってるわけ? ウタと情報混ぜこぜじゃん!? てか何がシャンクスと同じ色だよ、グレースケールじゃん!! 好き勝手書いてさぁ!」

「その先もなかなか傑作だぜ?」

 

 ベックマンがにやにやしてる。

 

「『ヘッドセットに書かれた文字は"RUBY"。少女の名前か』……はぁ!?」

「だっはっは! "RURI"だっつの。遠すぎて見間違えたのか?」

「憶測ばっか書いて! 世経プライドとかないのかよ!?」

「そんなぷりぷりしてたらまた気絶するぞ?」

「はぁ? ……いや、疲れてただけだし! ……多分」

 

 皆してクスクス笑いやがってこの!!

 

「もういっそほんとにウチの"娘"になるか?」

 

 にやにやしてそう言ったシャンクスの足は、思い切り踏んづけてやった。








行きの船でルリの髪をいじってたとこです。
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