海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

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13.The Long Goodbye

 ルフィが左目の下を自分で刺して騒ぎになった。

 

 だから、そろそろ赤髪海賊団がフーシャ村以外に拠点を移す頃なんだと思う。

 つまり五十六皇殺し大将緋熊(このネタくっそ好き)も現れるはず。でもそのあたりに関わる気は起きなかった。

 

 自分や警察学校組の皆がいる時点で、ここはもう原作とは違う物語なんだろう。だから知る未来での健在を丸っきりアテにすることは危険でしかなくて、片腕どころか下手したらルフィとシャンクスが二人して近海のヌシに食べられるような最悪のシナリオも待ってるかもしれない。

 

 だけどもし、その気はなくてもルフィがゴムゴムの実を食べるのを邪魔してしまったら?

 シャンクスの(利き)腕の件も、危ないし心配ではあるけど、果たして阻止しようとすることが良い事なのか全く分からない。確か無くなったことで鷹の目が引いたんだ。二人の戦いがずっと続いてたとしたら、世界の命運もゾロの未来もどうなるか分からなすぎる。

 

 分からないまま消極的に関わったら、思わぬ最悪の事態を招きかねないと思う。

 だから、そもそも現場に立ち会わないでいたいんだ。

 

 なんてぼんやり思ってたんだけど、ことは我々がいつものようにコルボ山の隅っこで鍛錬してた間に起こってた。

 

「最初はシャンクスも海の秘宝勝手に食べたって騒いでたじゃん」

 

 村に帰ったら、ウタがジト目でルフィのほっぺをみょんみょん伸ばしながら言ってるとこだった。本人はやめろよーなんて言いながらもされるがままになっている。

 

「まあなあ。でもウタ、食っちまったもんは仕方ねェよ」

「そ、そりゃ、今更だし吐かせたって汚いだけだけど……人のモノ勝手に食べたの信じらんない」

「だっはっは! おれたちだって欲しいモンは勝手に奪うだろ、海賊なんだから」

「そーいう問題……?」

「だってフタ空いてたぞ」

 

 ルフィが悪びれもなく言うと、シャンクスはまた豪快に笑った。

 

「もうあんたは黙ってなさい」

 

 ウタはげんなりした表情をみせ、みょんみょんしてたほっぺを大きく引っ張った所で離した。ぱちんと勢い良く戻ったほっぺに、ルフィはわひゃっと一瞬目を瞑った。

 

「何事だ? なんかルフィの顔が妙に伸びてたが……」

 

 じんぺーが少し引き気味に聞く。

 

「よお、また鍛錬帰りか、ほんと元気いーなお前ら」

 

 にこにこそう言われてじんぺーは口をひん曲げた。受け答えになってないからなあ。

 

「ルフィ、もしかして悪魔の実でも食べたのか?」

 

 ケンジの問いにルフィは悲壮な顔で頷いた。

 

「そーなんだよ、泳げなくなっちまった……」

「いや、お前もともとカナヅチだろ」

 

 ずびしっとシャンクスが真顔で突っ込んでいる。

 

「絶対これから泳げるようになったんだよ、ちくしょー!」

 

 シャンクスは冷やかすように笑った。対してルフィはジト目でぷんぷんした。可愛い。

 

 そんな感じでわいわいしてその内解散したんだけど──。

 

(……あれ。ルフィが実ィ食うのとヒグマが出るのって同時期じゃなかったか? 誰もヒグマのこと言わなかったよな……?)

 

 いや、言いふらすことでもない、か?

 いやいや、山賊のボスが姿を現したって村にとっては危険なはず。隠すことないんじゃ……。

 いや、我々が幼いから怖がらせないためか? あるいは、ガキたちがヒグマに対抗しようとするのを防ぐためか。

 ……もしかしたら、ヒグマはまだ現れてない、とか。

 

 頭の中を疑問がぐるぐる回る。

 

 ……だけど。

 

(……あーもう。分からんもんは考えたって仕方ない。シャンクスなら何か考えてのことだろ)

 

 今までも山賊っぽい奴らってたまに村の近くに現れてて、ルフィがボコボコにされた事件もあったりしたんだけど(ベックマンが追い返してくれたみたい)、そういうのダダンたちじゃなかったし、ヒグマの一味だったのかもしれないね。

 ……エースとサボがたまに村で盗み(これも山賊行為といえばそうなのかもしれん)働いてたらしきことにはびっくりしたけど、なんか自分と知り合ったくらいからやめたみたいだ。まあ、知り合いの住む村となったら襲わなくなりもするだろう。

 

(命の危険まではない、って判断してるのかもしれないな)

 

 山賊たちは今までも単におらついてただけだし。

 ガープさんも度々帰ってくることだし、向こうも命が惜しいよね。

 

 ……下手に村が守りを固めたほうが、全面衝突とかの悲惨なことが起きそう、かも。

 

 そういやガープさん、またたまに帰ってくるようにはなったんだけど、不思議と赤髪海賊団と鉢合わせることはなかった。

 無闇にぶつかることを避けた、とかはありそうだよなあ。

 

 それから赤髪海賊団は二、三度短い航海に出て、そして──。

 

 また、我々が鍛錬してた間に。

 

 シャンクスの左腕が、無くなっていた。

 

 知ってた分、心臓がきゅっとなる。

 さすがに妙にガルガルしてたじんぺーやゼロも真剣に気遣わしげにしてた。

 

「そんな顔すんなってガキども。これくらいでおれは弱くなったりしねェ。舐めんな」

 

 ぽすんと頭に手を置かれた。

 ……こっちが慰められてどうする。

 

「そういう心配はしてないよ。だけど、日常が大変にはなりそうじゃん」

 

 だっはっはとシャンクスは豪快に笑った。

 

「おれが仲間に世話かけるのはいつものことだ」

「胸張って言うことじゃねェよ」

 

 突っ込んだベックマンも、他の皆も笑ってた。

 ……皆、強いなあ。

 

「いつまでメソメソしてんの、シャンクス本人がああ言ってるでしょ」

「あでっ」

 

 ウタがルフィにデコピンしてる。

 ちょっと意外だ。ウタは責めるかもしれないと思ってた。

 彼女も、強いんだ。

 

「でもよォ……」

 

 涙目のルフィ。

 彼に関しては強い弱いとかじゃない。ヘコんでたって当然だろう。

 

「お前が海に投げられたのは、おれたちを守ろうとしてくれたからだ。それを見捨てたら男じゃねェ。こうなったのはおれが弱かったからだ」

「そんなことねェ! それだけはねェよ!!」

 

 ルフィが必死に言い募る。

 

 ぺちんとまたウタがデコピンして、ルフィがあでっと身を縮める。

 

「シャンクスはカッコ悪いことしないんだから! あんたを助けたのは当たり前! 助けられないほうが良かったとか生意気なこと思ってたら、絶交だからなっ?」

「ウゥ……」

 

 ヘコみまくりのルフィ。

 ……自分が何か言えたことじゃないのかもしれない、けど。

 

「ルフィもシャンクスも……皆、生きてて良かった……っ」

 

 思わずぎゅ、とルフィの肩を掴んだ。

 

 怖かった、から。

 シャンクスがルフィの命を助けられないなんてことはないとは思ってたけど、物語が絶対だなんてもう言えないのは分かってるから……。

 

「……」

 

 ルフィが悲壮な顔で見つめ返している。

 ふっと笑い返して、シャンクスに視線を移す。

 

「おれが言えたことじゃないけど……シャンクス、ありがとう。友達が生きてて、嬉しい……っ」

 

 にしし、とシャンクスは笑った。そして彼はルフィに視線を移す。

 

「お前もしょぼくれてねェで『ありがとう』って言ってくれたほうが嬉しいぞ? まあお前が礼なんか言ったら槍が降りそうだが」

 

 ルフィがますますくしゃくしゃな表情になる。おいおいシャンクス……。

 

「何言ってんのシャンクス、いくらバカなルフィだってお礼くらい言えるよ。バカだけど」

 

 おいおいウタ。

 まあでも、これが煽ってると見せかけた鼓舞なのは自分もよくやるから、分かる。

 

「……っ! な、何だよ……っ! 皆して……ちくしょー……!」

 

 きっとそのうちルフィも元気になれるよね。

 

 帰り道。

 

「ルリちゃん『おれ』って言ってたね」

「おおん?」

 

 ケンジがじーっと見てきて、言いたいことを把握してにやりと笑う。

 

「だってルフィも赤髪海賊団の皆もおれ(・・)のこと男って言ったし? ちなみにコルボ山の友達はあたし(・・・)のことキッパリ女扱いしてくるぞ? 自分で察せないお前たちとは大違いだよなあ」

 

 ケンジは目を丸くした。

 

 周りから盛大な溜め息があがりまくる。

 

「……くっそ……つか、こいつ『前』で自分のこと何つってたっけ……」

 

 じんぺーがげんなりした顔をしてる。

 

「思い出せねえから困ってんだよ……」

 

 ワタルも似たような顔をしてる。

 

「前世思い出したって仕方ないだろ。転生したら性別変わった物語だってあったし」

「……」

 

 肩をすくめて言ったら皆してジト目を向けてきた。

 分からんとか言う失礼な奴らはせいぜい悩め。

 

「一生言うこと聞かせること何にするか考えとかないとなー」

 

 にやにやして言うときょとんとされた。え、何だ?

 

「何もかも絶対服従ってことじゃなかったのか?」

 

 ヒロの言に吹き出す。

 

「ハァ? そんなんキモすぎだろ。奴隷みたいじゃん」

 

 引き続ききょとんとしてる。ほんと失礼な奴らだなあ。

 

「そんなに下僕になりたいんだったら、三つくらいに増やすかあ」

 

 偉そうににやにやすると、皆はなんかまた盛大に溜め息をついていた。

 何だよまったく。

 

 

 

 そして赤髪海賊団の皆は拠点を移すと言ってその前日に別れの宴を設けた。

 わいわい騒いで、歌って、食べて飲んで。

 

「酒飲んで大騒ぎして送り出したかったかもしれん」

 

 楽しそうな皆を眺めて言うと、既に酒臭いシャンクスがだっはっはと笑った。

 

「お前らに酒は早すぎるぜ」

「……早く大人になりたい。そんでシャンクスにガキ扱いやめさせたい」

 

 ぷうっと膨れてみせる。

 内心では年相応の扱いしてもらえてた方が安心だけどな、とか思いつつ。

 

「お。ついに将来ウチに入るの決めてくれたか」

 

 にやっとするシャンクスにフンッと鼻を鳴らす。

 

「知ーらね。敵として会うかもな?」

 

 シャンクスはちょっと目を丸くしてから心底おかしそうに笑い出した。

 

「それはそれで面白そうだ! 言っとくが手加減なんざしねェからな。期待は裏切ってくれるなよ」

 

 そう言って最後にニィと笑ったシャンクスの顔は──威圧感があってゾクっとしたけど──。

 

 何故か──。

 

 怯えとか、そういうのは、なくて。

 

 こちらもなんだかニヤリと笑ってしまって。

 

「……待ってろよ、シャンクス」

 

 気づいたらそんな不遜なことを言っていた。

 酒も飲んでないのに雰囲気に酔っていたのかも、しれない。

 

 シャンクスは目を細めて、楽しそうに笑った。

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