14.祖父
頑として「おれは海兵にはならねェ、海賊になる!」と言うルフィにとうとうガープさんの堪忍袋がブチ切れて、修行に連れていく、みたいなことを言ってる。
多分ダダンのとこだよな?
……そしてジトリとガープさんが我々に向き直る。ヒィ。
「お前たちまで海賊になるとか言わんじゃろな?」
我々は頬を引きつらせたりしながら苦笑いした。
「うーん……まだ将来とかよく分からないです。でも(赤髪さんのところ以外の)海賊はちょっと」
と言うのはヒロ。
見聞色の覇気だか長年の付き合いだか知らないけど、言外の本音が透けて見える気がする。
……ガープさんの覇気についてはよく分からない(or覚えてない)けど、察されたら怖いよ?
「自分もまだ分かんない、ってか……人相手に戦える自信あんまない。そういう半端な覚悟じゃ海兵なんて早々に死にそうだし、海賊とか尚更じゃない?」
正直なところを言う。
容赦なく人を制圧できる精神を持てというのはなかなか重い。シャンクスやルフィみたいな、悪者と思えないのが相手となると尚更だ。
先日シャンクスに敵としてかもなとか言いはしたけど、あれは多分若気の至りか大言壮語か何かだハハハ。
今は……エースとサボがたまに連れてってくれるグレイ・ターミナルで
まあ……村を出る道を選ぶなら、こういう世界だしそのうち感覚が改まりそうな気はする。いつかは向き合わないといけないことだ。
もっと正直言えば天竜人に近づきたくないから、だけど。
下っ端海兵でも全肯定bot強制ではあるだろう。それに出自とか提出してなきゃだろうし、下手こきゃ家族にも塁が及ぶ。
ただ普通子供は天竜人の存在自体知らないものっぽいから、ここでは言わないでおこう。
……エースが天竜人知ってたっぽいのは、ロジャーの諸々を知ってるくらいには新聞等で世界に目を向けてるからなのかもしれない。あるいは何かでガープさんから「ゴミクズ」って聞いたとあるとかかな?
「ガープさんと一緒に拳で生きてみたいって思わなくもねえけど……機械弄りが好きなんで、まずはそっちかな。いきなり工兵にはならねえ。ただまあ、弱い者いじめやるような海賊には興味ないっすね(シャンクスんとこはしねえだろうが)」
じんぺーはそうだろうなあ。
今も親御さんに見つからないようにちょっとした家電とかコッソリ分解して組み直したりしてんだよ。この分解魔が。
「俺も機械触りたーい。(シャンクスのとこ以外の)海賊は考えてないかなあ」
ケンジがハイハイーって感じで手をあげてる。
こいつに関しては機械ってより車大好きなイメージがある。前世で、実家が昔車の整備工場やってたって聞いてた。……車もそのうち自分で作れるようになるかもな(遠い目)。
でもこいつの運転する車に乗ったら緊急時は怖い思いするんだ……スピードとかいう問題じゃなくドラテクが異次元なんだよ……。
最近じゃホシホシの実の力で鎧うことにその器用さを発揮して、自身やじんぺーの拳に、なんか本格的っぽい篭手みたいなのつけ始めた。
二人は機械弄り……というか爆弾解体のために手を大事にしてた過去がある。今だって変わらず機械大好きそうだから、そうやって手を守ってるんだろうな。
ただケンジにはあんま拳で戦うようなイメージなくて、ちょっと意外。でも器用だからなあ……何でもやれるんだろう。
「(前の世界での『賊』って定義の)海賊はないですね。略奪とかもってのほかです(まあ、赤髪海賊団は無辜の民相手にはやらねえだろうが)」
ワタルが言う。
「俺も一般人を苦しめるような残虐な海賊は考えられないですね(赤髪はそんなことしないが)」
とはゼロ。
皆して海賊は考えてないふうを装ってるけど、赤髪海賊団という一例を目の当たりにして、海賊イコール絶対悪ではないのを知ったから完全否定もできない、って様子に見える。
多分シャンクスたちも将来のルフィたちと同じで、(邪魔者ぶっ飛ばしつつ)冒険してるだけな感じする。この五人は新聞や本人たちの人柄からそうだって判断してるんだろう。
「何だよお前ら! 揃いも揃って海賊を悪く言いやがって!」
ルフィがガープさんに頭をわしっと掴まれた状態でぷんぷんしてる。ガープさんの拳の力が強くなったのか「あででで! やめろよじゃいちゃん!」とジタバタした。
すまん、ルフィはつらいんだろうけど可愛いって思ってしまうハハハ。
「何を言っとる! 海賊は悪じゃ!」
ガープさんもプンスコしてる。そんな二人の様子がどことなく似てる気がして、血の繋がりを感じた。微笑ましくなったけど表情緩める場面じゃない。我々は何か思うところあったとしてわざわざ『英雄ガープ』に難癖つける気は起きないから、二人を相変わらず顔を引きつらせた苦笑で見つめるばかり。
ルフィの頭を掴んだままガープさんは再び我々の方を見た。
「お前たちは分かっとるようじゃのう」
機嫌良さげにそう言われて一先ずは内心でほっとする。
「お前は根性叩き直してやるわい!」
言ってガープさんはルフィを
我々は顔を引きつらせたまま逃げるように村の柵を出て行く。ガープさんに捕まりませんように。
今日は野原で鍛錬してついでに草採って帰る予定。
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明くる日の早朝、いつものように海の向こうに剣舞を捧げていると、近付いてくる気配があった。敵意がまるでないから、気付かないふりをする。
「朝から精が出るのう」
ひっ。ガープさんの声だった。思わず少し飛び上がりつつ振り返る。
「ガープさん……びっくりした」
彼はガハハと柔らかく笑った。
まだ誰の気配かとかは読みきれないんだ。この場所が彼にバレたのは少しヤダ。
ガープさんとたくさん話すのは苦手だ。ガープさんの方が積極的とはいえ、海兵になる気ないのに鍛錬見てもらってる後ろめたさは、ずっとついて回ってる。
「お前は剣術が好みか。随分堂に入っておるな。誰に習った?」
う。だから彼の前で木刀振りたくなかったんだ。
「……えっと……」
返答に困ってごにょごにょする。
……なんか、転生物語で、こういう時に前世を夢ってことにした転生者がいた気がする。
「……わ、笑わないでくれよ?」
気まずいのと少し恥ずかしいのとで目を逸らす。お陰でガープさんの様子は見えない。
「……夢で、教えてくれる人がいるんだ。でも起きたら姿忘れてるみたいで、誰か分かんない」
ちらりと見遣るとガープさんはきょとりとし、すぐにふむと思案げな顔になった。
「……ムラサキかのう」
目を細めて柔らかく笑うガープさんにきょとんとする。何の話?
「何じゃ、デリックかアオイから聞いておらんのか? お前のじいちゃんはわしの同僚じゃ。剣術が得意なんじゃ」
ぽかんとする。
そういやじいちゃんばあちゃんの話は聞いたことない。まさかの海兵?
……会ったことも聞いたこともないってことは、もういないのかもしれないけど。じゃなくても何か帰れない理由があるんだろう。
「……おっと。わしが言うことじゃなかったかのう」
手で口を覆ったガープさんに思わずクスリと笑う。
「もう遅いよ。でも、家族のこと知れるのは嬉しいから」
くすくすと笑ってると、ガープさんがふはっと笑った声がしたから彼と目線を合わせた。
「あとお前、悪魔の実でも食べたのか? 泳ぎに行かなくなったじゃろう」
うっ。さすがに分かるかぁ。
「……うん、事故でね。泳げなくなったのマジ最悪」
「……じゃろうのう」
げんなりと口をひん曲げるとガープさんは苦笑した。
「ルフィがビヨンビヨンになっとるのもソレじゃ。お前のはどんなふうじゃ?」
「あはは……こんなん」
苦笑いしながらヘロヘロと手から縄を出してみせる。
「ロプロプの実っていうんだって」
「ほう。磨けば光りそうじゃのう」
ガープさんは顎を緩く握るようにしてニヤリと笑った。
うっ、スパルタ訓練が待ってそう。
「荷造りくらいには使えそうだよね。でもその程度じゃ泳げなくなった代わりにはなんないよ」
知らばっくれてむくれる。
ガープさんはガハハと笑った。
「悪魔の実の力は想像力で化けるんじゃ。泳げない代わりになるか、いや、それ以上になるかは、自分次第じゃぞ」
「……ふうん」
ご機嫌斜めを装ったまま口を尖らせる。
「まあまずは剣術で身体を鍛えることじゃな! わしの部下にもなかなかな奴はおる。そいつらにつかせよう」
ひえェ。やっぱりスパルタは免れないらしい。
ただこのご時世なんだ、めちゃめちゃ有り難い。
とはいえ。
「よ、よろしくお願いします……」
びびって引きつりながら言うと、ガープさんはまたガハハと笑った。
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(……トットムジカを召喚したのは……ウタウタの実の能力者は、赤髪の娘の方じゃったか)
ステージを始め写真に大きく写っていたのはルリだった。だから心配でしょうがなかった。
政府が目の色を変える程の脅威を抱えるのがあの子ではなかったことに安堵する。情報操作は無駄ではなかった。
(しかし……ムラサキよ、何故今更孫の夢に出る)
鍛錬に連れ出してはいるが、残されたアオイやデリックの気持ちを思えばおいそれと海兵になれと誘えない気がした。
夢に出たなどとは完全な濡れ衣だが。
そんな不思議なこともあるんじゃのう、とガープは素直に信じていた。
ふっと、顔見知りの山賊の所に放り込んできた自身の孫のことを思う。
(……すまんのう、わしはお前のそばには居てやれんのじゃ)
だからこそ孫が赤髪に懐いてしまったのが悔しくて、ついキツく当たってしまう。
彼は多分、家族に接することに関して非常に不器用だった。
(山におればこれ以上海賊には会わんじゃろう……あの様子では山賊に心変わりすることもあるまい)
常に側にいてはやれないが、ゆっくりとでいい、ウザがられても構わない、孫も、そして義理の孫も、大きくなるまでには口酸っぱく言い続けてでも海兵になると思わせたい。
真意は、話せなくとも。
(なあ、ドラゴン……ロジャー)
その後ろでロジャーとルージュが切なそうに背中を見送っているなんて、彼は知る由もなかった。