ヤーさんは立ち往生した様子の小さな船を見かけた。
「お前たち、何者だ?」
不信感と親切心を両方抱きながら、甲板で立ち尽くしている様子の人物に声を掛ける。
えらく長身なその人物は、フードを目深に被っていて、いかにも怪しい。体格から恐らく男性と思われた。
「……ああ、あの島に行く術を知らないか? 行きたい場所があるんだ」
「行きたい場所?」
ヤーさんにとって『あの島』は家族の住む場所だ。易々と不審者に教えたくはない。
「あの島はマザー・カルメルが過ごした島だと聞いた。何と説明したらいいのかは分からないが……ただ、訪れてみたいんだ」
「そうか。ただ……お前さんは何で顔を隠してるんだ? そんなんじゃ怪しすぎて教えたくなくなるぞ」
ヤーさんの言に男はふっと笑って、あっさり顔を晒した。
ヤーさんは息を飲んだ。
「こんな見た目だ。隠したくなるのも分かるだろう」
長く伸びた黒髪の隙間から、大きな大きな縫い目が覗く。
「妹も似たようなものだ」
言われて気づけば男の腕には小さな──いや、男が長身すぎるだけだ──ローブですっぽり姿を隠した人物がいた。
「……いいよ、わたしも、フード、取って。それに……多分兄貴より、マシだから」
掠れた弱々しい声に男は小さく溜め息をついた。
その言葉に従い男がそっとフードをどけると、対象的に真っ白な癖っ毛が覗いた。
片目に入れ墨。そちらの瞳には色が無かった。
男はその少女(?)の入れ墨に小さく指を添える。
「こいつはマシだと言うが、このタトゥーは傷跡を隠すためのものだ」
「……」
よく見れば少女の袖の中には腕がある様子がない。ヤーさんはただただ言葉を失う。
「あとは、航海術と料理の腕で雇ったジジイだ」
ひょこりと、小さな老人が顔を出した。
男はそそくさと自分たちのフードを被り被せ直した。
「……マザー・カルメルは争いを止めた聖母……もう百年も前の話だ、本人は生きちゃいないかもしれないが、願掛けというんだろうか……過ごした場所を、見てみたい」
「そう、か……」
絆されたヤーさんは彼らの上陸を許し、住人たちに経緯を話す。
古株のヤルルが案内をかって出て、彼らは「羊の家」跡地などを訪れ、感慨深げにじっと見学していた。
「彼女は六十年程ここで過ごしたんじゃ。しかし晩年は、この島を出て行ってしまった」
「そうなのですか……では「羊の家」は、そこで終わってしまったのですか?」
「……いや……」
ヤルルは目を泳がせて口篭った。
「?」
男と少女の怪訝な様子が、フード越しでも見て取れた。
そんな時、ヤルルにぼそぼそと話しかける戦士がいた。
「行き先を案内したところで、痕跡すらありません。万一何か掴んだとして、悪評を抱いてくれるでしょう」
「う、うむ……行き先は此奴が知っておる。案内できるか?」
「ええ。その島なら彼らも帰る時に困らないでしょうから」
にこにこする戦士に、固まっていた男と少女の雰囲気が和らいだ。
「ありがとう」
そしてその島が見えた所で、案内をかって出た戦士はそそくさと帰ってしまった。
男はぽかんとその様を眺めていた。
「わざわざ船を別にしたのは、あの島に行きたくなかったからだと思う……」
妹のほうが、相変わらず弱々しい声で言った。
「……お前、既に何か掴んだのか?」
ふっと少女は笑った。
「あんなに色んな所、案内してもらったしな……知らない方が、いいと思うぞ」
男の眉間にしわが寄る。
「訪れただけのことで何が分かる。おれはまだ信じてない」
「実績は、色々あるじゃないか……」
少女はふふっと笑おうとして、うまくいかなかったようだった。
男はただむすっとしていた。
「なあ……お前は、何があっても……耐えられるって、言えるか? わたしは別に、癇癪で殺されようと、構わないが……真実とかいうのは、埋めといたほうが、いいことだって、あるだろ……」
「お前がおれたちに気を遣う意味があるか?」
わざと隠すほうか当てつけになりはしないか。
「わたしが、誤魔化す意味だって、ないだろ……」
逆に、
「まあ、知ったこっちゃない、ってほうが、自然なのか……? はは、頭、回らないや」
「……坊、そろそろ限界かもしれん」
二頭身の小さな『ジジイ』が釘を刺す。
彼らは『妹』『兄貴』『ジジイ』『坊』『嬢ちゃん』と呼ぶことで本名を明かさなかった。
偽装まみれの三人は、マザー・カルメルの足跡を追って、最後の「羊の家」を目指す。
そこで『妹』が拾った情報は──。
agd15の人物絵で姿だけ置いとこうかと思ったんですが、間に合うか分からないのでそのへんの裏で起こってる出来事をぺたり。
そのうち消すかもしれません。