とある日、いつものように我々料理クラブ三名(ゼロとヒロと自分)がワイワイと、ダダン
我々三人以外が大人含めてギャーってなってるの可愛い、面白い。
「ぶわっはっは、村におらんと思うたらお前たちまでこんな所におったか」
ガープさんが我々を見ながら言う。
「こ、こんな所!?」
「……んん?」
ガ、ガープさん顔こえーって。ダダンが縮み上がった。
「ヒイッすんません! こんな汚ェ所です!!!」
そこまで言われてないからな!?
そしてコソッと逃げ出そうとしてたエースたち三人を、ガープさんは容易く素早く捕獲した。
「は、離せよジジイ!!」
三人ともジタバタしてるけどガープさんはものともしない。
「こいつらはともかく、お前たちはきちんと鍛錬を続けてるようじゃの、感心、感心」
打って変わって我々を機嫌良さそうに眺めるガープさん。
……がぶっと腕に噛み付いたルフィに、ガープさんはサボを放り出しつつポコンと拳骨を落とした。
うん、サボはここで開放されても一人じゃ逃げなさそうだもんな……。
「エ、エースたちだってめちゃくちゃ頑張ってるよ……?」
一応言ってみる。
「そうだぞ! おれたちは強ェ海賊になるんだからな!!」
あああルフィ〜〜〜!?
ガープさんはエースとルフィも地面に下ろして三人並べると、順番にポコンポコンと拳骨を落としてった。
「でっ!」「いでぇえ!!」「ギャー!!」
あ、あぁ……憐れな……。
「まだそんなフザけたことを言うとるのか! お前たちは最強の海兵になるんじゃ!」
「嫌だ、ならねェ! おれは海賊王になるんだ!」
ル、ルフィ〜〜〜!!!
「その根性叩き直してくれる!!」
「ギャー!!」
三人をポコポコやりながらガープさんはにこっと我々に微笑みかけた。その器用さが怖い。
「ほら、前に言うたじゃろ、うちの剣術の手練れを連れてきたぞ」
「!」
そ、そう言えばそんなこと仰ってたね……。
「わしの部下のボガードじゃ。ルリの他に剣を使ってみたい者はおるか?」
ガープさんはにこにこ笑顔で問いかけてきた。ゼロとヒロはちょっと顔を見合わせた。
ボガードさんは腰にばかでかい刀を佩いてた。
ガープさんが『剣術』って言ってたから、剣と刀違うから分かんない、とかなんとかゴネて逃げられないかと思ったけど……本部中将がそんなとこぬかる訳がなかった。
「俺は、ガープさんみたいに
ゼロがぱあっとカワイラシイ(棒読み)笑顔でシュッシュッとボクシングっぽい素振り(?)をしながら言った。
おうそうかそうかとガープさんはにこにこしている。
子供っぽく装いつつヨイショするのも忘れない六歳児……怖っ……。いや、こいつがガープさんの腕を尊敬してんのは知ってる。けど、ゼロの本性考えたら普通本人に直接言ったりしない……。
あと剣を触ろうとしないのも能ある鷹だから爪を隠したいだけだろ……。
「オ、オレ、やってみたいです、剣!」
ヒロのきらきらした笑顔は多分素だな……。
でもなんでだろ、本来お前も隠そうとするクチじゃね?
「おれもやってみたい!! ルリがやってるやつだろ!」
ルフィも目がキラキラしてる。
「ほーう?」
な、なにどうしたのガープさんその悪どそうな笑顔……。
そんなこんなで立候補者及び流された自分の三名はなんとなく少し間を空けて横に並んだ。
エースとサボの武器は鉄パイプだしノッてくるんじゃないかと思ったんだけど、ゼロと一緒に外野でじっと様子を見てる。
……ガープさんのスパルタっぷりを警戒したのかな……?
「ほれ」
「っわ!?」
「ギャー!?」
そうぼんやり周りのみんなの様子を眺めてたら竹刀が飛んできた。ビクっと思いきり心臓跳ねさせてなんとか受け取る。犯人はガープさん……。
対してヒロは難なくすっと受け取ってて、ルフィは顔面にモロに食らってた。側面向けて飛んできたからまだマシなものの……いや、ルフィに対しては確信犯なのかもしれない。
「あ、危ないじゃん!?」
思わず抗議する。
「下手したら怪我じゃすみませんよ中将」
ボガードさんもどこか冷えたような声で責めてる。
ていうか彼、あの正義コート着てるし将校以上ってことだよね!?
そ、そんな人がいらっしゃるなんて恐れ多すぎなんだけど!?
「ぶわっはっは、受け取れんと思うとったら投げやせん。こいつらをただの子供と侮るなよ、ボガード」
ひえ!? は、ハードル上げんでもろて……。
「痛ェぞじいちゃん!」
涙目で訴えるルフィ。「おれゴムなのにぃ……」ってつらそうな声がする。か、可哀想……。
「お前もそれくらい受け取ってみせろ!」
ガープさんがルフィに厳しいっ! 子供モドキの我々と並べるの多分理不尽だから!! 対するルフィはガルガルしてる。
た、多分身内だからこその愛の鞭ってやつ……?
「さて、ボガード、頼むぞ!」
ガルガルしたままのルフィを気にすることなくにこっとガープさんは言った。
しかしそこはルフィ、今から特訓が始まりそうとなると真剣な、そして少しワクワクした表情になって竹刀を構えた。
ボガードさんはガープさんに小さく溜め息をつきつつ、こちらに向き直って少し近づいていらっしゃる。
「みんなの名前を教えてもらってもいいかい?」
「おれルフィ!」
「ヒロです」
「る、ルリ、です」
そうかそうか、という感じにボガードさんは頷いた。
「みんなルフィ君のように構えてみてごらん。あとはこちらで整えてあげよう」
「はいっ」
ヒロが元気に応えてすっと中段に構えた。
……え、ええ、すごくしっかり構えてる。子供らしさを装うのやめたのか、ある程度力量を明かす気なのか……。
三人を同時に見るために少し離れてるボガードさんに代わり、海兵の皆さんが数人、我々のもとに歩み寄ってくる。
「……ルリ君はどうしたんだい?」
しどろもどろしてるとボガードさんが聞いてきた。目深に中折帽被っておられるから表情があんま分かんないんだけど、優しそうなお声。
いや……ヒロの様子に少しびっくりしたのもあるんだけど……。
「え、ええと……ルフィみたいに、じゃないと、だめですか?」
「うん?」
「……えと、自分にとっては構え、って……」
正座して、竹刀を自分の右側に柄を前にして置いた。
「こう、抜く時のいくつか、で……ほかは分かんない、です……」
ヒロの様子から、自分の知ってる最良をやるべきな気がした。いやほんとにそうすべきなのかは分からない、けど……。
自分は
ほら実戦向きじゃないだろ!!
「ほお……ふむふむ」
「ボガード、ルリはわしの昔馴染の孫じゃ。ムラサキはお前と同じでのう」
「……成程」
何が成程なのォォオ、ほんとはじいちゃんのこと何も知らないよ!?
「じゃあ、抜いてみないと何も分からないな」
ひ、ひい。
ルフィが構えを直してくれようとしてる海兵さんとコントしてるのと、ヒロの構えに直す所がなくて戸惑う海兵さんとを横目に。
「やってみてごらん」
「は、はい」
ここまできたら尻込みしてられない。
すうっとひとつ深呼吸。
──。
今だ、とタイミングを捕らえた瞬間、逆手の状態で柄を前に弾き出し、流れに乗って立ち上がりながら斜め左上に斬り上げる。勢いに乗せて順手に持ち替え今度は右上から左下に一閃、前に構えて残心、そして納刀──ああ重心も振れもいつもと違う、となって据わりが悪く思わず竹刀を見つめる。
「──ハハ、大したものだ」
何だか楽しそうなボガードさんの声がしてはっとする。
そして御自らこちらに近付いていらっしゃるひええ!?
「ルフィ君は──そのまま頑張るんだ。ヒロ君は直すべきところがほとんどないな。ルリ君も完成度が高い」
ヒロに素振りを始めてみるようにとも言いつつ、ポガードさんは自分の左側まで来て足を止めた。
「しかし、抜刀時以外の構えが分からないと言っていたね」
「は、はい」
「さっきの残心を思い出せるかい?」
「え、ええと……」
促されて恐る恐る前に構えるけど、どうにもさっきと違うって感覚がする。
……てかほら、抜剣からしか振れないんじゃほんと実戦向きじゃないだろ? な?
「ああ、本当だ。君も何か違うと思ってるね?」
「は、はい……」
そんなの察知できるものなんか!?
「もう少しこう、脇を締めて……」
ボガードさん御自ら構えを直していって下さる。ヒイ。
「これでだいぶ近付いたはずだ」
う、うおぉほんとだすげえ。なんか自然な感じする。
「あとは多分『これは竹刀』という認識かな。君はいつもは竹刀を使ってなさそうだな」
「は、はい。棒とか木刀とか……もっと細くて、重さ、か何かが違って……」
竹刀は真剣と随分違う気がする。いや材質も何もかも違うから当たり前なんだけど、何ていうか、うーん……。
「危ないな」
ぼそりとボガードさんが呟いた。
し、竹刀の方が比較的安全なんだっけ。木刀は確かに下手したら凶器になる、か?
「ひ、人に向けたことはないのでっ(降谷たち身体能力お化けを除く)」
「ハハ、だろうな?」
語尾が上がってるの怖いデス。
「ともかく、竹刀は竹刀、木刀は木刀……それぞれの感覚を覚えて、何でも変わらず振るえるようになりなさい。そうすればもっと前に進める」
……ああ。そっか、そういう……。
霊さんとか、神霊さんとか……あのへんの子たちと話すとき。
その中でも、物言えぬ子と、意思疎通を図るとき。
付喪神とか、もともと人じゃない子たちと──。
そういう対話は、知ろうとする所から始まる。
竹刀……竹刀……この子は……。
探る、探る。
──捕まえようとしたら、当然一方的だから忌避される。
だから、こっちも全部さらけ出して『話し合う』。
それで、だから──。
気付いたら、一番しっくりきた感じがした。
「──!」
んえ……?
なんかボガードさんが息を飲んでる気がした。
「何で、すぐにできる……?!」
「……え?」
???
「やっぱりルリの剣筋はすごく綺麗だよね」
ヒロがすごいにこにこしてる。
「……へ?」
思わず首を傾げる。このヒロのトンチキ発言、自分が竹刀振ってた時からは遅すぎる。
しかしそのヒロもきょとんと首を傾げた。んん?
ふっとヒロがボガードさんを見、苦笑した。
「ボガードさん、多分ルリ、
……え。
……うあ、なんかそーいやこの腕の感じ……た、多分さっき色々考えてた内容実際試してたな自分……。
「あ、あはは……」
頭に手をやって引きつった笑いを浮かべる。……あーなんか猫かぶりモードなコナン君の仕草みたいだなー(現実逃避)。
「いや、だって、ボガードさんの仰ったことがすごく分かりやすくて」
へにゃりと笑う。
呼び水になってくれる人ってほんとありがたいや。
「そう特別なことは言っていないが……」
うなるように言うボガードさんに少し眉根を寄せつつ(……前にも誰かと似たような会話した気がして)こてんと首を傾げる。
「何が刺さるかなんて人それぞれです、きっと」
やっぱり中折帽で表情がよく分からない。
だけど彼はふはっと笑った。
「……まあ、そうかもしれないな」
その声にはどこか呆れというか……諦め? のような色を感じた。
「……さて、続けようか。ルリ君はきっと、基本的な構えを理解できたらぐっと伸びるぞ」
ああ……なんか不穏な雰囲気だったのが元の柔らかな雰囲気に戻った。自分確実にイランことやらかしたんじゃんすんません。なあヒロ、なんでお前拙いフリしなかったのおオオ(責任転嫁による現実逃避)。
……なんて内心で怯えと、何かも分からない後悔でいっぱいになりながら、その後もたくさん教えていただいて、その内海兵の皆さんが
ヒロの方はと言えばやっぱり周りの海兵さんたちは戸惑ってたんだけど、
「ヒロ君は全部恐ろしいくらい形になってるんだけど、力が斬るというよりこう、叩くような流れになっているから、斬る……最後まで振り切ってみてごらん」
そこにボガードさんが近づいて行って何事かアドバイスしてるみたいだ。
自分はといえば、基本の構えをしっかり教えるようにと言われた海兵さんたちに手取り足取りしてもらってる。
そして──少し遠くでエースとサボがガープさんに小突き回されてるのと、そのガープさんがゼロに拳骨を教えてるのが見えた。だ、だからその器用さが怖いデス。
しっかしゼロ生き生きしてるなあ。
そんな懇切丁寧なありがたい訓練を施していただいてたら、結構日が傾いてきてた。
ぱんっとボガードさんが手を叩く。
「今日はここまでだな。君たちは村に帰るんだろう?」
「はいっ」
ヒロが元気に返事をし、自分はコクリと頷いた。
「日が落ちるといけないからな」
という訳でルフィ、ヒロ、自分のペコリとお辞儀する。
「「ありがとうございました!!」」
向こうの方でガープさんがエースとサボとボカスカじゃれながら、礼をしたゼロの背を押してこちらに向かわせようとしてる。その器用さ(略)。
しっかしなんか、妙に色々スッキリした気分。
今まで、『舞う意味』はともかく『刀』としてはハッキリ分からないまま何となく振ってたのが、少し『剣術』に触れさせてもらえたおかげで少し理解が進んだ気がした。
「みんな将来が楽しみだ。海軍本部で会えるのを楽しみにしているよ」
やはり中折帽で顔はよく見えないけど、口元がにっと不敵に笑ってる。
「そうじゃ、全員強い海兵になるんじゃ、ぶわーっはっはっは!」
……うう、海兵になる気あんまなくて本当にごめんなさい。
後日。
「だって、ご指導のお手間いただく幅がそこまでないって思ってもらわないと、お世話になりすぎて逃げられなくなりそうだろ?」
……ふわりと笑って教えてくれたヒロはむしろ少し怖かったなあ(遠い目)。
あんなぴゅあぴゅあな目えしてて計算ずく……いや、目がキラキラしてたのはやっぱ多分素だな。余計怖いのかもしれない。
-----------------------------------
後日、エースたちが『どくりつする』と書き残して家出したのを聞いた。
何でもガープさんのしごきを受けて「ここにいたら殺される」と思ったかららしい。
さすがにそこまでないと思うよ!?