海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

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20.手作り

 冬のとある日、いつもの六人で不確かな物の終着駅(グレイ・ターミナル)に向かってたら、途中で木を大量に運んでるエースたち三人に会った。

 彼ら『どくりつする』っつってたことだしどっかに家作ってるはずだよなあ。

 

「何やってんだ? なんか手伝えることある?」

 

 こっちには器用な奴らもいることだし、自分も力仕事上等だし、手伝い受け付けてくれるようなら時間短縮になれそうだし。

 三人も鍛錬の時間できるだけ欲しがってたの知ってるし。

 

「んー」

 

 しかしエースは首をこてんと傾げて何か考えてる様子だ。

 やっぱ余計なお世話だったかなあ。

 

「こいつらなら何も心配ないんじゃないか? 何せ『イイコチャン』なんだろ?」

 

 サボはにししと笑って、どっちかってと我々じゃなく、エースの口の悪さだかツンデレだかをからかってるようだった。この前の会話は彼も聞いてたしなぁ。

 

「みんなで作ったほうが楽しいだろ!」

 

 にっこにこなルフィは今日も可愛い。

 

「ま、そっか」

 

 エースはサボのイタズラ心なんて気づいてないのか気にしてないのか、ケロッとそれだけ言ってまた歩き出した。

 

「着いてこいよ、手伝ってやりたいじいさんがいるんだ」

 

 へー、何作ってんだろ?

 ちょっとわくわくしながら、スタスタ歩いてくエースの背を追った。

 

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 おっちゃんはナグリさんと言った。

 なんと作ってたのは船で、エースたちと知り合うまでは一人でコツコツやってたらしい。すげー。

 

 普段あんま素直じゃないじんぺーも感心の表情で、作りかけの船に熱い視線を向けていた。

 

「……すげえ。船とか作ったことねえし絶対いい経験になる。こっちから頼みます、ぜひやらせて下さい……!」

 

 目がキラキラしてる上に丁寧語だ。意外(酷)。

 いや結構義理堅かったりするのはちゃんと知ってる。でも「年がなんだよ同じ人間だろ」とか言いそうなイメージが勝つ(多分偏見)。

 

 ま、言うて自分もシャンクスたちやガープさんみたいに「堅苦しくすんな」って言ってくる人に既にタメ口だし、人のこととやかく言えん、多分。

 

「それだけじゃねェ、じいちゃんメチャクチャ強いんだぞ!」

 

 ルフィが腕をぐるぐるしながらにっこにこで言う。

 少し意外だ。ナグリさんはワノ国テイストな服装でほっそりしてて、戦闘なんかより書道とかしてそう。

 

「なあじいちゃん、特訓ルリたちも一緒でいいよなっ?」

「ほう」

 

 ナグリさんは顎にゆるく握った指を添えてにっと不敵に笑った。

 

 無邪気なルフィがほんとずっと可愛くて……漫画として読んでたのは十年も先の世界だし、当然あんまそういう印象なかった。なんだか薄っすらゲシュタルト崩壊みたいなものを感じる。

 

 そんなこんなで、一旦船から離れて皆で身体を動かすことに。

 なんかこれ結局邪魔しに来てない? すんません……。

 

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 当然木刀なんて持ってきてないから皆拳骨(パンチ)だよ。

 

 ……ゼロとじんぺーとは絶対組みたくないよね(震え)。いや飛び抜けた熟練者だからこそ無闇に痛めつけたりしないんだけどさ。……悪ノリ以外では。

 

「……こいつら訓練とかいらなくねェか」

 

 一旦離れてるとエースとサボもひと息つくのか近づいて来た。

 そしてエースはジト目であいつらを眺めていた。

 

 ……まあ、完全に異様な動きしてる彼らには、見た目とのギャップが激しすぎるのも相まって得体の知れない寒気を憶えなくもない。

 でも。

 

「訓練とかって永遠に終わらないものなんだろ。今に満足したら先はないってやつだ」

「……訳知り顔しやがって」

「こういうのは誰かの受け売りでしか、後悔する前に聞くことはできないじゃん」

「フン」

 

 エースは無表情に、サボはにかっと笑って、鉄パイプをきゅっと握りながらまた打ち合いに出て行った。

 本当にひと息しかつかなかった。元気だね。

 

「……お前」

「ひぁ!?」

 

 いきなり背後で声がして飛び上がる。

 全然気配ないなこのおっちゃん……。

 

「拳はあまり性に合ってないようじゃの」

 

 ……おぉう。バレてる。

 

「……うん。えと……刀の方が扱いやすい、です」

「ほう、刀か」

 

 少し迷ったけど正直に答えた。なんかこの人オーラが強い。誤魔化そうという気が起こらない。

 

「っわ」

 

 いきなりぴょいっと細い棒が飛んできた。

 ねえガープさんといい、なんでおっちゃんたちいきなり棒投げる訳?!

 

「一丁手合わせ、どうじゃのし」

 

 ナグリさんは小さく笑みを浮かべてふわっと間合いを空けるように後方へ跳び、重心を落とし、彼の柄の長いハンマーみたいな武器を構えた。

 

 ……ええ、どうしてこうなった。

 

 でもなんか、シャンクスに調子こいたことほざいた時みたいな妙な高揚感が腹ん中に小さく灯るのを感じる。

 

 すり、と足を擦って重心を落とし、鯉口──ただの細い棒だけど──を切るための溜めの姿勢をとる。

 

「──……承知」

 

 思わず口をついた諾の言葉は、中二病愛好家ゆえのキザったらしいナニカ。

 けれどナグリさんは侮りなど微塵も存在しない不敵な笑みを口元に浮かべた。

 

 そのまま少し経過する──。

 

 ……。

 

 ……。

 

 ──今ッ。

 

 一気に鯉口を切って踏み込む。迎え撃つナグリさんも跳んでいた。

 つまり避けるのでなく真正面からぶつかる気だ。

 なら──。

 パンっと小気味いい音で一撃目。流すんじゃなく弾かれた。筋力の差とかじゃなくて技術によるものだ。

 それから──この人の受けかたを見たい──そんな妙な欲にかられて、二撃、三撃、四撃、五撃───。

 横から、その逆から、斜め下から、上から、横から──そんなのを繰り返し、繰り返し、全部パンっと小気味良い音を立てて弾かれる。

 

 そう、弾かれる。

 

 いくらルフィが『じいちゃん』という程の年齢でも彼が幼児に筋力負けするとは思えない。

 だからこちらの棒は簡単に刎ね飛ばしてしまえるはずなんだ。

 それでもただ、弾く、弾く、弾く、弾く。

 

 こちらが次を全力で撃ち込める範囲でしか、弾かない。

 

 手加減とかそういうことじゃなくて、こちらが思いっきり動けるように──正真正銘『特訓』できるようにしてくれてるんだ。

 伸びるためには成功体験が大事。その時できたことが実際に通用するかはともかく、その先に進む原動力にするために。

 

 思わずニイっと口元が笑う。

 何だこれ、楽しい。

 自分はこんなに戦闘狂だっただろうか。

 

 脇目もふらずに、ただただ、ナグリさんと打ち合いたいと思うままに棒を振るう。

 

 カンカンカンカン

 

 木製の棒とハンマーの柄がかち合う乾いた音だけが耳に届いて心地いい。

 

「────……ちょおおっと待つのし!!」

 

 いきなりナグリさんがそう言って、こっちの棒がパアンと弾き飛ばされてしまった。うおっ、なんか忠告すべき点が見つかったり?

 じいっと期待をこめて見つめて彼の言葉を待つ。

 

「速いのし。感心じゃ。ちと爺が続けるにはキツいのう」

 

 ぽかんとなる。

 

「ははっ。冗談でしょう? 全然息切れしてないです」

「爺に息切れするまで続けさせる気かのし!?」

「あはは」

 

 そっか。そこまでやってもらうのは悪いかぁ……。

 

 ……ん。

 何か静かすぎないか。

 

 周りを見渡すと、なんか全員止まってた。何だ?

 

 ……。

 

 ──時間停止???

 

「……お前こそ特訓いらねェな」

「ハァ?!」

 

 エース、何言ってんだ。

 

「あはは。本当ルリの剣は綺麗だよね」

 

 ヒロ、何言ってんだ。

 

「はっや。舞いのゆったりした動きはむしろ刀捌き鍛えられるだろ、自覚しろっての」

「筋力じゃないとか言ってたのはねえ……あんま信じてないよ」

 

 じんぺー……ケンジ……。

 

 そしてゼロは無言で目を細めながら微笑んでいた。

 

 ルフィとサボはなんかすごい表情で目と口をぽかーんとさせている。

 

 ……何だよ……。

 

 思わずふいっと目を逸らす。……何か反論したいけど何言えばいいのか分からなくて、そのまま歩いて少し身体が隠れる隅っこに座った。

 

 休も。

 冬の冷たい空気が心地よくて、体温が上がるほど夢中でナグリさんと打ち合ってたことに思い至る。

 

 ……うう。

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